炭酸ハウス

テキスタイルに表現された「生活風景」を復元し、空間に落とし込む

「炭酸ハウス」に暮らすのは、テキスタイルデザインスタジオ「炭酸デザイン室」を営むデザイナー夫婦とその家族です。住宅兼アトリエでもある炭酸ハウスは、日々の暮らしの鮮やかな記憶を表現しているという夫婦のテキスタイル作品と、実際の生活とが一体となるよう設計されました。自然光を受けてキラキラと光る、楽しい空間が印象的です。

テキスタイルとして抽象化された「生活風景」をどのように住宅空間に落とし込んでいるのか、設計を担当したAATISMOの桝永絵理子さんにコメントをいただきました。

■背景

滋賀県大津市にある鉄骨造のビルを、0〜5歳の小さな子ども3人を抱えるテキスタイルデザイナー夫婦の住宅兼アトリエに改修する計画としてスタートしました。陶芸家である私の父と、お寺の住職をしているクライアントのお父様が先に知己を得ており、家族ぐるみの交流があった縁で今回この改修の話をいただきました。

はじめて現地を見に行った際、昭和59年に建てられ、もともと撮影スタジオとして使われていたビルは、すでに内装が解体されてスケルトンの状態でした。

床はコンクリートスラブのまま、天井はデッキスラブが露出した「現し」の状態、外壁側は断熱なしの建材「ALC」の裏側が剥き出しになっており、中に入っても外と変わらない寒さでした。一方で、2階に登ると開口部が大きく取られ、すぐ近くを瀬田川が流れることから、空が広く見え、たくさんの光が入って来ていました。

そこで、この光を活かしながら既存の状態を一つの外部環境と捉えて、この家族ならではの空間をつくろうと試みました。

■コンセプト

私たちAATISMOは、何百年、何千年と受け継がれてきた古代の建築に関心があります。そうした古代建築を復元考察する際は、遺構を分析すると同時に、壁画など当時の絵画資料を手がかりとしてその姿を思い描いていきます。

今回の計画ではクライアント夫婦がデザインしたテキスタイルを絵画資料と見立て、その世界観やそこでおこなわれる生活を読み解いて立体化するというある意味復元的な手法を用いて、作品と生活が一体となるような空間を設計しました。

炭酸ハウス 内観写真

彼らが生み出すテキスタイルでは、日々の生活の風景が抽象化されつつ、さまざまなテクスチャーを持った要素に分解・再構成され、重なり合うことで全体として一つの風景へと統合しています。その構成からインスピレーションを受けてアイコニックな形状を反復し、街並みのような風景をつくることで、テキスタイルがその抽象的な空間を埋めるテクスチャーとなるような構成としました。

風景からテキスタイルが生まれ、そこから空間ができる。その中で生活をしながらまた新たなテキスタイルが生まれていくといった、お互いの作品を通じた呼応がこれからも続いていくことを期待しています。

■手法・特徴

今回の主役はクライアントのつくるエネルギッシュで特徴的なテキスタイルであり、それと同じくらい元気にあふれた子どもたちです。

1階はスタジオ利用がメインのため、背景となる内装を白で統一することで創作に集中でき、テキスタイルが映える空間としました。

炭酸ハウス 内観写真

道路側は床レベルを一段上げ、外とスタジオとの間をカーテンで仕切れるようにしています。カーテンを開ければショーウィンドウのように作品を展示でき、制作中はカーテンを閉じることで子どもの遊び場や舞台となるよう計画しました。

炭酸ハウス 内観写真

2階はテキスタイルや子どもたちの持ち物が、建築と一体となって生活の中に馴染むようにしています。

テキスタイルからインスピレーションを受けた形状のロフトボックスを2つ設置し、それぞれその下を寝室と脱衣洗面所に、ボックスの中を収納や子ども部屋に充てました。その内外を走り回り、遊び場にしてしまう子どもたちにとっては、まるでおもちゃ箱がそのまま建築となったような空間です。

炭酸ハウス 内観写真

また、ロフトボックスのアイコニックな形をキッチンの台にも反復させることで、全体として街並みのような風景をつくりました。その街の中を、たとえば寒くなったらボックスの中にこもったり、暑い時はその下で休んだりするなど、自由に移動しながら生活の中で使い方を変化させていくことができます。たくさんのテキスタイルが集まるベッドは遊牧民のテントのような空間をイメージしています。

■照明デザイン

外から入る光を最大限活かすため、また、シンプルな空間であるからこそ光が重要だと考え、照明デザインをDAISUKI LIGHTの大好真人さんにお願いしました。

1階はスタジオでの作業のために色温度を高めに設定し、天井のデッキ面を照らす間接光と、ダクトレールからのスポットライトの直接光を組み合わせています。

2階は窓から入る光を受けるサンキャッチャーやミラーボールを置き、炭酸水の泡のようにきらきらした光をつくりました。

炭酸ハウス 内観写真

1階と同じく天井面からの間接光は低めの色温度に設定。ロフトボックスの間を架け渡したケーブルライトによって、外部空間の屋台のような賑わいと高揚感をもたらしています。

所在地 滋賀県大津市
設計 AATISMO
施工 目片工務店+自主施工
構造 鉄骨造
延床面積 198.94m2
テキスタイル 炭酸デザイン室
構造設計 鈴木一希
照明デザイン DAISUKI LIGHT(大好真人)
撮影 Yosuke Ohtake