ある作家の自邸 | A Japanese Artist’s House

日常にフィクショナルなストーリー性が介入する空間

室内がスキップフロアで構成されているこの空間は、ある作家の住宅。設計は、Tan Yamanouchi & AWGLの山之内淡さんが担当しました。

「日常から数cm浮いているような建築」をコンセプトとした空間の特徴や、作家を職とする施主から求められたことなどについてうかがいました。

■背景・コンセプト

施主である新進気鋭の作家にゆかりの深い土地に建つ、木造戸建住宅。求められたのは、作家の仕事がこの家の中で完結できること、外に向かって開きすぎないコンパクトな住まいであること、何より創作へのインスピレーションを与えてくれる空間であることだった。

具体的な日常生活と接続しつつも、どこかフィクショナルな物語性が介在する住まいのあり方を目指し、「日常から数cm浮いているような建築」をコンセプトとした。フィクショナルな映像的イメージを大切にしつつ、現代における作家のライフスタイルに対して具体的に住空間を落とし込んでいく設計方針とした。

■手法・特徴

全体の構成は、奥に細長い敷地形状を最大限に活かす目的で、東側の敷地奥手を三層・西側の前面道路側を二層のスキップフロア(床面の一部に高さを変えた部分を持たせた構成)とし、スキップする床レベルを一部入れ替え、かつ極端な高低差を与えた。

敷地北側には光庭を、ボリュームをくり抜くかたちで挿入。その他の開口部は可能な限り減らし、家中をアメーバ状に拡がるボイド(部分的に抜けている空間)に対して明暗のコントラストを与えた。そこに階段を一直線に通すことで高低・明暗のコントラストの利いたボイドの中を一直線に突っ切っていく身体的ストーリーのある立体構成とした。高低・明暗のコントラストの利いたボイドは、現代作家の仕事の仕方に対応した“溜まり”をつくっている。

ある作家の自邸 | A Japanese Artist’s House

現代作家のライフスタイルも、コロナ禍を経て変化した。現代における作家の仕事は、「1:創作(閉じる)」「2:打合せ(部分的に開く)」「3:取材の受け入れ(開く)」に分けられ、それぞれにあったプライベート/パブリックの濃淡が求められている。高低・明暗のコントラストを与えたボイドは、コンパクトな住まいの中で、繊細な場所の使い分けを可能にする“溜まり”を住まい手に提供することができる。

ある作家の自邸 | A Japanese Artist’s House

「日常から数cm浮いているような建築」は、具体的な日常にフィクショナルな物語性がある空間が介在する建築のあり方を目指した。空間的な合理性、経済的な合理性、多方向から合理性を突き詰めて考えつつも、大らかな物語性を内包する建築をつくりたいと思い、設計した。

所在地 東京都
設計 Tan Yamanouchi & AWGL
施工 泰進建設
構造 木造
撮影 田中克昌