美しい三河湾の景色を一望できる愛知県の旅館「吉慶(きっけい)」。2022年8月にリニューアルした新客室「WAN」は、海の存在感が際立つ設計となっています。
設計を担当したitoto architectsの伊藤隆一さんと伊藤彩香さんに、建物のコンセプトや特徴などについてうかがいました。
■背景
愛知県蒲郡市の西浦半島に建つ旅館「吉慶」。約50年前に建てられたこの部屋はもともと2部屋でしたが、今回の改修工事にあたり、間の壁を取り払うことに。100m2の広々とした空間となり、新客室「WAN」として生まれ変わりました。
窓の向こうに望むのは雄大な三河湾。この絶景に溶け込むようなシンプルで美しい空間設計がなされています。
■コンセプト
客室内は海の気配を感じつつ、思い思いに耽ることのできる静寂な空間が随所に散りばめられています。部屋から見える海の様子は毎日変化し、波の音や匂い、空気も微妙に異なるものです。同じように客室の中も移ろい、日々の変化を楽しませてくれるような色彩で内装がととのえられています。
シンプルで色味の静寂な素材は景色の移ろいに染まり、晴れの日や曇りの日、その時々によって風合いが異なり、宿泊客の感じ方も異なります。そのため、宿泊客のさまざまな思いに寄り添うような空間を意識してつくられました。
畳の和室を中心に、ゆったりとした洋間、ワーケーション用防音室、半露天風呂、広々としたベランダを配置。最上階である6階から目前に広がる三河湾の絶景を眺めれば、日々の喧騒を忘れさせてくれます。
■特徴
大切にしたのは、旅館らしさを残しながら「新たな客室の形」を模索すること。あえてシンプルに仕上げることで、「海の存在を強く感じる部屋」が完成しました。
無駄のない引き算のデザインは、窓から見える美しい三河湾を強調。部屋に設置されたソファーに腰かければ、波音や潮の匂いが全身で感じられ、海の魅力に浸る極上のひとときを過ごせます。「海を身近に感じながら、さまざまな思いを巡らす場となってほしい」。客室WANにはこんな思いが込められています。
所在地 | 愛知県蒲郡市西浦町塩柄3 |
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設計 | itoto architects |
施工 | 丸中建設株式会社 |
延床面積 | 98.50m2 |
竣工日 | 2022年8月1日 |
撮影 | 植村崇史 |