綾瀬の基板工場

人びとが集まる場として地域に受け入れられる、「開かれた木造の工場」を実現した空間

デザインコンセプト
担当:浜田晶則、斎藤遼/浜田晶則建築設計事務所

厚木基地近くにある基板工場の増築棟。1階部分は当初作業場として計画していたが、ショールームや地域へのマルチスペースへと変更になったため、多用途に使える柔軟性と開放性が求められた。また、現在使用している工場の建て替えも将来的に検討していたため、増築する際の汎用性が高く、空間やプログラムが使い手の能動的な関わりによって可変する建築を設計しようと考えた。

この建築は、さまざまな条件に適応させるためにモデル化した構造軸組と、可変性を高めて細かな制御を可能にする建具などのエレメントからなる。これら各要素の独自性を担保しながら並置される構成によって、空間は特徴づけられている。

当該敷地は工場と住宅が並存している準工業地域である。工場は街に対して閉鎖的な建物であり、その多くが鉄骨造で、外壁は工業的なマテリアルで覆われている。住宅もプライバシーを守るために閉鎖的になりやすい建物であるため、ポジティブな意味で2つの建物が交わることは少なかった。敷地の隣家では洗濯物を干したり犬の散歩をしたりと、日常的な住生活がある。そんな日常のある場に建つ工場がどうあるべきかを施主と一緒に考えた。そこで出てきたのが、工場と住宅の間をとりもつ、「開かれた木造の工場」というイメージだった。このような場が人びとの能動的な介入によって日々変化しながら、人びとが集まる場としてこの地域に受け入れられていくことを期待している。

「開かれた木造の工場」というイメージが現れてから、環境や快適性を犠牲にせず、かつ構造・施工の面でも現実的に実現していくことが検討課題となった。そこでさまざまな決定すべき要素を、状況に合わせてアダプティブに変化可能なプログラムを組み、それを「アダプティブモデル」とした。

道路面に対する視線の制御と東面の横からの日射に対する遮蔽のために、屋外建具は東面の朝日に対して開口率を約30%に設定し、縦格子を幅42mmで角度60°、幅80mmで角度70°、幅120mmで角度80°の3つの部材配置の組み合わせで3種類設計した。東面と北面に対してそれぞれ縦格子の向きが変わり、敷地状況に合わせた視線制御と環境条件に合わせた日射制御にそれぞれ対応している。庇上部の欄間部分のアルミサッシは一部開放可能になっている。

この建築は建具によって空間の大きさを変えることができるが、立体トラスの欄間部分がすべてつながる一室空間である。天井が高く気積が大きいため、一般的な天井吹出の空調計画では空調機のスペックが高くなってしまう。そこで空調計画も居住層と環境層に分け、1つのグリッド内で循環するように床面に吹出口と吸込口を設置し、居住層のみを空調する計画とした。それにより、イニシャルコスト・ランニングコストを抑えた空調計画となり、費用対効果の高い快適性を獲得することができた。

所在地 神奈川県綾瀬市
敷地面積 278.25m2
建築面積 182.4m2
延床面積 290.88 m2
設計 浜田晶則、斎藤遼/浜田晶則建築設計事務所
構造 小西泰孝、円酒昂/小西泰孝建築構造設計
照明 戸恒浩人、遠矢亜美/SIRIUS LIGHTING OFFICE
ランドスケープ 大野暁彦/SfG Landscape Architects
建築環境 DE.lab
撮影 長谷川健太