クリエイターの「わ」第5回:浜田晶則

クリエイターの「わ」第5回:浜田晶則

クリエイターからクリエイターへと、インタビューのバトンをつないでいく新連載「クリエイターの『わ』」。編集部がお話をうかがったクリエイターに次のインタビューイを紹介してもらうことで、クリエイター同士のつながりや、ひとつのクリエイションが別のクリエイションへと連鎖していくこと=「わ」の結びつきを辿っていくインタビューシリーズです。

前回の吉田真也さんからバトンを受け、今回お話をうかがったのは、AHA 浜田晶則建築設計事務所代表の浜田晶則さんです。コンピュテーショナルデザインを用いた設計手法で、建築とデジタルアートの設計を行っている浜田さん。人と自然が持続的に共生する社会構築を目指しているという浜田さんに、最近の作品や仕事場のこだわり、アイデアが浮かぶためにしていることなどをお聞きしました。

作品紹介

「Torinosu」

「Torinosu(とりのす)」は、渋谷のMIYASHITA PARKにある「パンとエスプレッソと まちあわせ」の店舗前に設置されたオブジェです。傾斜地などで曲がって成長し、家具や建材などへの使い道が少なく、燃料としてチップにされている曲がり木を、今までにない制作プロセスでつくった作品です。

Torinosu

Torinosu(Photo:Gottingham)

曲がり木はかつては住宅の梁などにアーチ状に使われたりしていましたが、現在はそのような複雑な形の木材を扱う職人さんも減っているそうです。曲がり木が持つ自然な形状を活かしつつ、3DスキャンやARを使用して加工・施工するプロジェクトとして制作したのが、この作品です。

家具のための木を飛騨の森に探しに行った際に、傾斜地に生えた曲がり木が印象に残り、何かに使えないかなと思ったことがこのプロジェクトのきっかけだったのですが、複雑な形状や自然物がもつ形状をデジタルテクノロジーを用いることで扱いやすくするということが目的のひとつにありました。

まず曲がり木の形状を3Dスキャンしてデータ化し、そのデータを用いて全体形状をモデリングしていったのですが、どのようにそれを加工し、その位置を伝えるかが最も悩ましいところでした。そこで、HololensというARグラスを職人さんに付けていただき、職人さんがもつ高い技術をデジタルテクノロジーでさらにアップデートできないかと考えました。Hololensを付けると「墨出し(施工に必要な線や形、寸法を物に描くこと)」の際に難しい、3次曲面や奥まったところなども可視化できます。職人さんにはHololensで示されたラインに沿って切ってもらいました。

Hololensを着けることで、切るべきラインが見えるようになっている

また、「Torinosu」はレシプロカル構造という支えあうことで成り立つ構造でできています。たとえば4人が隣に座っている人の膝の上に頭をのせて円環状につながると、椅子を抜いてもそのまま浮いて座っていられる「人間空気椅子」みたいなものがありますが、あれと原理は同じです。

このようなとてもワイルドな状態の自然物を水平垂直で構成される都市の中に配置することで、生態系や環境について考えられるようなオブジェになったらいいなと思っています。実際に店舗に来た子どもたちは、「Torinosu」を見るとテンションが上がって登りたくなったり、楽しそうに遊んでくれるようでして、野生なものに対する本能がくすぐられるのかもしれませんね。

「綾瀬の基板工場」

個人的にコンピューテーショナルデザインやニューメディアといわれているものは、インタラクティブであり容易に変更可能なことが大きな特徴だと思うんです。それは、建築の設計や利用していくフェーズにおいてもあるべきだと僕は思っていて、それが現代性なんじゃないかなと。そういうことを考えながら設計したのがこの綾瀬の基板工場です。

綾瀬の基板工場

綾瀬の基板工場(Photo:Kenta Hasegawa)

綾瀬の基板工場は、厚木基地近くにある、基板工場の増築棟のプロジェクトで、一階部分は作業場として計画していましたが、ショールームや地域のマルチスペースへと変更希望があったため、多用途に使える柔軟性と開放性が求められました。また、工場の建て替えも将来的に検討していたため、増築する際に汎用性が高く、空間やプログラムが使い手の能動的な関わりによって可変する建築を設計しようと考えました。

この建築は、さまざまな条件に適応させるためにモデル化した構造軸組と、更新可能性と可変性を高めて細かな制御を可能にする建具などのエレメントからつくられています。クライアントからの要望はプロジェクトが進む中で変わっていくことが多いんですが、最初にシステムをつくっておけば、設計中の変更も痛くもかゆくもありません。それは、使い始めてから用途が変わるときにも対応できるということだと思います。最初は工場として設計していましたが、その工場のようなおおらかな構成だったことによって、街にひらく場所になり、昼間はごはんを食べたりパン教室や英会話教室が行われたり、いろんな展開ができる場所に無理なく変化できました。

綾瀬の基盤工場1階。仕切り方によってさまざまな用途に使用できるフレキシブルさがある(Photo:Kenta Hasegawa)

綾瀬の基盤工場2階。1階同様にさまざまな用途に対応できるようになっている(Photo:Kenta Hasegawa)

また、今回は施工に入る前に一度すべてを3Dモデルで立ち上げました。バーチャル上で上棟式をやるという感覚です。そうしておくとあらかじめ建設するということに近く、なるべく後戻りがなく、意思決定を容易にでき、「ここ暑いね」とか「ちょっとまぶしいかも」という目に見えてこない環境のシミュレーションも事前に検討することができます。

このプロジェクトもそうですが、あるシステムをつくって、その中で多くの自由が与えられるというものをいつもつくりたいなと思っています。綾瀬のプロジェクトは準工業地域という、工場と住宅が隣接している場所にありますが、異なるものや対立するものをどう共生した状態で存在できるかということも重要だと考えています。

「Torinosu」も自然と人工の新しい共生関係を作品として提示できないかと思って進めていました。木を製材するということは、結局は自然を征服するようなものだと思うんですね。人間の扱いやすいように角材にして流通させて、その寸法体系で建物をつくっていく――。「Torinosu」は、比較的そのままの自然物をなるべく少ない加工数で、その自然が持つダイナミックなかたちというものを生かしながら、人間が使うことができる機能も備わっているというものなんです。ある種、自然を征服しきらずに、その形を読み取りながら共生するような作品になったのではないかと思っています。

お仕事クエスチョン

Q.なくてはならない仕事道具はありますか?

3年前くらいに購入した、ドイツのメーカー「MYKITA(マイキータ)」のネジがない眼鏡です。ほかの眼鏡を使っていた時はねじがどんどん緩んできたりしましたが、これはそもそもネジがなく、ステンレスシートをバネのように曲げてつくられています。

特に最近は、土日は眼鏡を外すというライフスタイルを実践しています(笑)。仕事と休日のモードを切り替えてくれるようなところがあって、オフの日に眼鏡をオフにすると気持ちが開放されるんですよね。

Q.あなたの仕事場とそのこだわりについて教えてください。

いまの事務所が小石川植物園の目の前にあるビルに入っているんです。室内から植物園の森が見えるというのはすごく良くて、メンバーの何人かは植物園の年間パスポートを持っていて、お弁当をそこで食べることもあります。

浜田さんの事務所から見える景色

植物園は変わった植物がたくさんあり、情報の刺激を受ける場所になっていますね。もともと山本周五郎の小説「赤ひげ診療譚」の舞台として描かれている小石川養生所が開設された場所で、そこで薬草などを育てていたそうです。東大の博物館の分館もあり、名建築の模型が置いてあります。

Q.アイデアが浮かぶためにしていること

自分にどのように刺激を与えるかだと思っていて、自然が豊かな場所に行ったり、本を読んだり、いまの自分にない刺激や情報をいかに入れるかが大事だと思っています。特に僕は閉じこもっているとアイデアが浮かばない性格なので、動き回ったりとにかくインプットすることを大事にしています。

本の読み方も速読とまではいきませんが、バーッと読んで、そこを起点としてまったく別のことを考え出すことがあります。本に書いてある筆者の意図を正確に把握するということは目的にしていなくて、自分で勝手に解釈を与えることが多いですね。自分のアイデアを生み出すための情報として扱っています。書き手にとっては嬉しくない読み方だと思うんですけど……(苦笑)。

あなたのクリエイターの「わ」

◯影響を受けたデザイナーやクリエイター

影響を受けた方はたくさんいますが、特にというとジャン・プルーヴェですかね。家具が有名ですが、「どうつくるのか」ということや、仕組みや機構から考えるということを実践していて、エンジニアリングとデザインの密接な関係を重要視していたと思います。そういう思想の影響を受けてコンピュテーショナルデザインに可能性を感じているのだと思います。

ちなみに僕の祖父は造船所をやっていたんですが、プルーヴェは自分でプレファブリケーションの工場をつくっていたりもしていて、そのようなつくる場所から考えることへの憧れには、祖父の影響があるかもしれません。プルーヴェがその当時の時代性を反映したものをつくっているのも素晴らしいなと思いますが、当時の最先端の技術で何をつくることができるかということを実践していたんですよね。

あとは現代の方ですと、トーマス・ヘザウィックです。建築以外にもロンドンのバスや橋、家具までデザインしています。最先端のテクノロジーと職人技術によって、新しい価値をどうつくるかという彼の観点からの影響を強く受けていると思います。

◯前回の吉田さんからの質問:浜田さんは複雑な条件設計を要するデザインを、どのように実践されているのでしょうか?特に、チームラボの「Microcosmoses」という三次元空間の中で設計されたレールを光の玉が走る作品など、とにかく情報量の多い設計をどのようにこなしているのか教えてください。

吉田さんがおっしゃっている光の作品のように、複雑な形や複雑な動きをつくりだす形は、そのものを手作業で線を引くのはとても時間のかかる作業です。しかし、この作品のレールも上から見ると三角グリッドの軸線があり、高さ方向もある一定のピッチで軸線が引かれています。とてもシンプルなルールを設定してあげることで、その制約条件のなかで制御された線を引くことができます。コンピュータを用いたパラメトリックな手法と思考は対のものだと考えています。パラメトリックな思考によってその手法や形としての表れが特徴づけられると考えています。

◯ご紹介したいクリエイター

浜田さんにご紹介いただくクリエイターは、クマタイチさんです。

◯クマタイチさんへのメッセージと質問

大学院時代からの友人で、学生時代からコンピュテーショナルデザインの研究会をつくり設計とものづくりを共にしてきました。卒業後も、未来の都市のあり方を考える研究会「scene」を立ち上げてトークイベントを共に主催しています。しばしば一緒にサウナに行って心身をととのえています(笑)。

クマタイチさんが博士論文の研究などで取り組んできた、やわらかい素材や軽い素材を用いた建築を社会に実装していく可能性をどのように感じていますか?また、シェアハウスの運営や店舗の企画もされていますが、建築設計だけではなく、運営や運用に建築家が関わることの可能性や都市に与える影響をどのように考えていますか?今後取り組んでいきたいこともお聞かせください。

次回のクリエイターの「わ」は、クマタイチさんにお話をお聞きします。

タイトル画像:金田遼平 聞き手:石田織座(JDN)

浜田晶則

浜田晶則

1984年富山県生まれ。2012年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。2012年Alex Knezoとstudio_01設立。同年teamLabにアーキテクトとして参加。2014年AHA 浜田晶則建築設計事務所設立。同年よりteamLab Architectsパートナー。2014年-2016年日本大学非常勤講師。2020年-日本女子大学非常勤講師、明治大学兼任講師。コンピュテーショナルデザインを用いた設計手法で建築とデジタルアートの設計を行い、人と自然が持続的に共生する社会構築を目指している。

おもな作品に「綾瀬の基板工場(2017)」、「パンとエスプレッソと自由形(2018)」、「魚津埋没林博物館KININAL(2018)」など。グッドデザイン賞2019、Iconic Award 2019, Best of Best、the 2A Continental Architectural Awards 2017, Second Placeなど国内外で受賞。

http://aki-hamada.com/