「ものづくりのまち」鯖江市河和田の新たな潮流、「気づき」をつくる体験型マーケット「RENEW」

「ものづくりのまち」鯖江市河和田の新たな潮流、「気づき」をつくる体験型マーケット「RENEW」

「RENEW」のいちばんの面白さ、それは職人との対話

河和田はそう広くないエリアとはいえ、それぞれの工房で職人の話をうかがっているうちに時間が過ぎてしまい、すべてを見て回るのはなかなか難しい。今回の取材で訪れた工房・ショップの一部を紹介したい。

■漆林堂
創業200年を越す「漆林堂」では、8代にわたって脈々と受け継がれきた漆塗りの工程、乾燥ではなく湿気で固まる漆の特性、ろくろや刷毛などの道具に至るまで、とても丁寧に説明していただいた。漆林堂は主に丸物(お椀)を得意としてしていて、贈り物や飲食店などのOEM、そして日々の暮らしで長く使えるものをつくり続けている。漆器の修理や金継ぎの依頼も多いらしく、作業中のものも見せていただいたが、新品と見紛う仕上がりに感嘆した。

福井県内最年少の伝統工芸士でもある、漆林堂8代目の内田徹さん

福井県内最年少の伝統工芸士でもある、漆林堂8代目の内田徹さん

脈々と受け継がれきた漆塗りの工程、乾燥ではなく湿気で固まる漆の特性など、とても丁寧に説明していただいた

脈々と受け継がれきた漆塗りの工程、乾燥ではなく湿気で固まる漆の特性など、とても丁寧に説明していただいた

また、近年では「aisomo cosomo」「お椀やうちだ」の2つの自社ブランドも立ち上げている。中川政七商店などで扱われているので、目にしたことがある方も多いかも知れない。確かな塗りの技術はそのままに、ある種の親しみやすを備えた洗練された雰囲気が特徴だろう。

■TSUGI
「支える・作る・売る」をキーワードに、地域や地場産業のブランディングを行うクリエイティブカンパニー「TSUGI」は、デザイナー・職人などで構成される6人はいわゆる移住組で、「RENEW」の実行委員会の中心メンバーでもある。眼鏡のフレーム枠をくりぬいた後の端材を活用した、肌になじむような繊細な透明感とミニマルなデザインが印象的な「Sur(サー)」というアクセサリーブランドも展開している。

ディングを行うクリエイティブカンパニー「TSUGI」の寺田千夏さんと新山直広さん

地域や地場産業のブランディングを行うクリエイティブカンパニー「TSUGI」の寺田千夏さんと新山直広さん

こういう言い方が適当かは分からないが、一見いまどきの若者風ではあるが、鯖江の未来を真剣に考えるとても気骨のある人たちだと感じた。

【関連記事】眼鏡の端材に新たな息吹、毎日身につけたくなるアクセサリーブランド
https://www.japandesign.ne.jp/products/2015/06/4791/

■ヤマト工芸
受注から発送まですべての工程を社内で行うヤマト工芸では、木地作り、組み立て、木地磨き、塗装といった一連の作業を見学させていただいた。手仕事の技術だけでなく、レーザー加工やNCルーターなどのデジタル工作機器も導入している。

ヤマト工芸のオリジナルブランド、「yamato japan」の人気商品ティッシュケース

ヤマト工芸のオリジナルブランド、「yamato japan」の人気商品ティッシュケース

ヤマト工芸の工場の様子、黙々と丁寧に作業する社員の方たちの姿が印象的

ヤマト工芸の工場の様子、黙々と丁寧に作業する社員の方たちの姿が印象的

長年培った漆器の木地作りの技術やノウハウを生かした、オリジナルブランド「yamato japan」の製品がつくられる様子を見られるのは素直に楽しい。黙々と丁寧に作業する社員の方たちの姿はまさに「ものづくり」の現場だ。

■下村漆器
漆器の多様性を感じさせてくれたのが、病院用食器や割烹漆器、高級木製漆器などを製作する「下村漆器」だ。フランス大統領へ寄贈されるほどの高級漆器だけでなく、耐熱樹脂を使用した病院・福祉施設用の加熱カート式食器も製作している。フードカート製作会社と共同企画で、再加熱(IH方式・EH方式)に対応したお椀、鉢、皿、トレーの開発によって、出来たてのようなアツアツの状態で給仕できるようになった。

福井県科学学術大賞で特別賞を受賞した、下村漆器の加熱カート式食器

福井県科学学術大賞で特別賞を受賞した、下村漆器の加熱カート式食器

■ろくろ舎
かつては河和田に木地師が100人ほどいただが、後継者不足で全盛期の20分の1程度にまで激減してしまったそうだ。「ろくろ舎」を主催する酒井義夫さんもまた移住組で、若手の木地師として期待される存在だ。

丸物木地を製作する傍ら、杉の間伐材を丸太の状態から削り出した植木鉢「TIMBERPOT」など、「価値の再定義」をテーマに木製プロダクトを製作している。「土」に還るがコンセプト「TIMBER POT」は、枝打ちがされていない、市場では価値がないとされている部位をあえて使用。「モノ」をつくってはいるが、「つくりすぎない」を「つくっている」ともいえる。この河和田で「モノ」をつくること以上に、「コト」や「場」をつくることを力を注いでいると感じた。

「価値の再定義」をテーマに木製プロダクトを製作している、ろくろ舎の酒井義夫さん。インテリアライフスタイルでは、ヤングデザイナーアワードを受賞

「価値の再定義」をテーマに木製プロダクトを製作している、ろくろ舎の酒井義夫さん。インテリアライフスタイルでは、ヤングデザイナーアワードを受賞

ろくろ舎の目指す、「ものづくり」のあり方が黒板に描かれている。「SUSTAINABLE」のスペルミスはご愛嬌

ろくろ舎の目指す、「ものづくり」のあり方が黒板に描かれている。「SUSTAINABLE」のスペルミスはご愛嬌

ろくろ舎の目の前にある「五十嵐木材」。この間伐材から「TIMBER POT」がつくられる

ろくろ舎の目の前にある「五十嵐木材」。この間伐材から「TIMBER POT」がつくられる

【関連記事】「土に還る」がコンセプトの植木鉢
https://www.japandesign.ne.jp/products/2015/10/10472/

■谷口眼鏡
「TSUGI」のメンバーも在籍する「谷口眼鏡」は、1957年創業のセル枠一筋の眼鏡工場。社名をもじったハウスブランド「TURNING」は、色柄と美しい艶、温かみのある質感、そして扁平顔の多い日本人に合うフィット性を追求している。特にノースパッドの高いフィット性は、職人たちの手でヤスリをかけるからこそ出来る形状だ。

「TSUGI」のメンバーでもある「谷口眼鏡」の今川心平さん。眼鏡職人だけあって眼鏡がよくお似合い

「TSUGI」のメンバーでもある「谷口眼鏡」の今川心平さん。眼鏡職人だけあって眼鏡がよくお似合い

フレームの艶感を生み出す、バレル研磨という手法について研磨チップを手に取り教えていただいた

フレームの艶感を生み出す、バレル研磨という手法について研磨石を手に取り教えていただいた

フレーム素材のセルロースアセテートの美しい艶感は、バレル研磨という手法で生み出されていることも教えていただいた。専用の研磨機に研磨チップ、コンパウンドを混ぜ合わせ、セルロースアセテートと研磨チップの摩擦で磨きツヤツヤになるのだ。研磨チップ自体もツヤツヤの滑らかな形状で、なんだか妙に新鮮な美しさを感じた。

まちづくりとものづくりの関係性を自ら問い直す

イベントの締めくくりは、うるしの里会館で行われたトークイベント「”未来のつくる”をつくる」。第1部は河和田のトップランナー、市橋人士さん(Hacoa代表)と内田徹(漆林堂8代目)さんがそれぞれ「ものづくりをつなぐ」をテーマに講演。第2部では、クリエイティブディレクター服部滋樹さん(graf代表)と鞍田崇さん(哲学者/明治大学准教授)による、「”つくる”厚みとその社会」というテーマでトークセションが開かれた。

「Hacoa」代表の市橋人士さん、トークのテーマは「魅力づくりが変えるもの」。自身の仕事は「空気感づくり」とし、後継者育成と協力者の必要性などについて講演

「Hacoa」代表の市橋人士さん、トークのテーマは「魅力づくりが変えるもの」。自身の仕事は「空気感づくり」とし、後継者育成と協力者の必要性などについて講演

人口減少していくなかで「じぶんごと」として、どう持続可能な社会を築いていくか?という日本全体が抱えている問題についてヒントとなる様々なキーワードが出たように思う。服部・鞍田両氏は、自活していく技術を身につけたい若いよそ者にとって、鯖江は「職住一体」の魅力がある地域だとし、「ものづくり」を通してコミュニティを再構築すること、暮らしのなかに生業を有機的に絡み合わせることが、これから進むべき未来のひとつだと語った。

graf代表の服部滋樹さん(左)と哲学者/明治大学准教授の鞍田崇さん(右)。同い年のふたりによるトークセッションのテーマは、「”つくる”厚みとその社会」

graf代表の服部滋樹さん(左)と哲学者/明治大学准教授の鞍田崇さん(右)。同い年のふたりによるトークセッションのテーマは、「”つくる”厚みとその社会」

また、”良い感じ”の「生活の提案」をする力が求められ、展示会や見本市などの既存の仕組みに乗っからず、自活するシステムをつくることが重要だと語られた。太平洋側が中心となった大量生産は20世紀の価値観だとするなら、日本海側で堆積してきた「ものづくり」の背景の”厚み”、それこそがこれから求められる価値観という意見で締めくくられた。

まだ「RENEW」というイベント自体は試行錯誤の段階だが、これからの可能性と拡がりを感じさせるものだった。鯖江の未来をつくる取り組みははじまったばかりだ。

RENEW
http://kawada-t.jp/renew/index.html
会期:2015年10月31日~11月1日
会場:河和田地区一円
出展者:河和田デジタル工房、漆琳堂、Hacoa、土直漆器、ろくろ舎、谷口眼鏡、opt duo、広晴、ハヤカワメガネ、久太郎、atakaya、蒔絵工房 駒、越前漆器株式会社、ヤマト工芸、末広漆器製作所、木工房 徳さん、松屋漆器店、漆器さじべえ、山田定右エ門漆器店