地域の暮らしをデザインする「ローカルデザイン」にできること

地域の暮らしをデザインする「ローカルデザイン」にできること

地方創生や地域活性化への関心、取り組みがますます盛り上がりを見せている昨今。なかでも注目されているワードに「ローカルデザイン」がある。地域の課題をデザインの力で解決し、街を元気に、より豊かに暮らせるよう設計するローカルデザインには、プロダクトやポスターなど従来のデザイン領域にとどまらず、プロジェクトの仕組みやコンセプトなど形のないものをデザインする、デザイン的思考が貢献している。

今回お話をうかがうのは、奈良県東吉野村でデザインファーム「合同会社オフィスキャンプ」の代表を務める坂本大祐さん。ローカルデザイナーとして幅広く活躍される坂本さんが考える、地域で求められるデザイナーの力とは?

また、三菱地所と中川政七商店による共同プロジェクトで、『新しい発見と懐かしさを届け、もうひとつの日本をつくる』をビジョンに掲げ、学生が本気で経営を学び実践する47都道府県地域産品セレクトショップ「アナザー・ジャパン」のクリエイティブを手がけた坂本さん。その取り組みを通して見えてきた、これからのローカルデザインのあり方についてうかがった。

都市から地域へ。デザインを軸に広がる活動領域

坂本大祐さんポートレート

坂本大祐 奈良県東吉野村に2006年移住。2015年 国、県、村との事業、シェアとコワーキングの施設「オフィスキャンプ東吉野」を企画・デザインをおこない、運営も受託。開業後、同施設で出会った仲間と山村のデザインファーム「合同会社オフィスキャンプ」を設立。2018年、ローカルエリアのコワーキング運営者と共に「一般社団法人ローカルコワークアソシエーション」を設立、全国のコワーキング施設の開業をサポートしている。著書に、新山直広との共著「おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる」(学芸出版)がある。奈良県生駒市で手がけた「まほうのだがしやチロル堂」がグッドデザイン賞2022の大賞を受賞。2023年4月30日 デザインと地域のこれからを学ぶ場「LIVE DESIGN School」を仲間たちと開校

――坂本さんが東吉野村に移住した経緯を教えてください。

坂本大祐さん(以下、坂本):もともと建築を学んでいて、学校を卒業後、大阪の設計事務所に入社しました。退社後は独学でデザインを学んで、フリーランスのデザイナーとして活動していましたが、ご縁があって東吉野村に移住したのが2006年。過労が原因で体調を崩したことがきっかけでした。

いまでこそ、地方へ移住したり、二拠点生活をしたりすることがキラキラしたものとして語られているけど、当時田舎に移り住むことは一線から外れる、戦線離脱したという気持ちや印象の方が強かった。当初は不安な気持ちもありました。ところが数年経つと地域でもデザインの需要があることがわかってきて、そのうち大阪へ戻る意味を感じなくなりました。

奥大和ビール

奈良県の奥大和エリアにあるブルワリー「奥大和ビール」は、オフィスキャンプがロゴやリーフレット、Webサイト、店舗内装などのクリエイティブ全般に関わった

――現在はデザイナーの枠にとどまらず、幅広く活動されていますね。プロジェクトにもデザイナーとしてだけではなく、上流から関わることが多いとか。

坂本:そうですね。まだプロジェクトの方向性がぼんやりした状態からお声がけいただくことが多いです。最近は特に、クライアントの見たいもの、達成したいこと、辿り着きたいところを一緒に考えることが一番大きな仕事になっています。

――そういったスタイルは移住してからですか?

坂本:デザインは独学だったので、もともとデザインの領域をわからずにやってきたんです。どのプロジェクトも、まずクライアントと対峙するところからはじまるし、地域ではクライアントがデザイナーってどういうものかわからずに頼んでいる部分もある。とにかく求められることに応えていくと、ある意味それもデザインになっていくというか。クライアントにできないこと、かつ自分が得意なことであれば、肩代わりしてやっていくぞという気持ちでやってきました。

東吉野に移り住んでからは予算が十分に確保できない案件も多かったので、なるべく自分でやるぞと思ってやっていたら、結果的にどんどんと幅が広がってきた感じですね。

――コンサルティングに近い活動も多い印象ですが、やはりそこにもデザイン的な思考や視点が必要ですか?

坂本:そうですね。そこは重要です。デザイナーとして商品のパッケージを考えるだけでなく、その商品がどういう背景を持って生まれたか、それが世の中の人にどうやって役に立つのか、喜ばれるのかを紐解いていくことが大事だと思っています。アウトプットしながらも、ミクロとマクロの考え方を行き来することで、本質が見える。それが、コンサルティング力だけではなくデザイン力が必要とされる理由です。

まほうのだがしやチロル堂外観

坂本さんがプロデュースからデザインまで関わった「まほうのだがしやチロル堂」。貧困や孤独などの悩みを抱える子どもたちを地域の大人たちが支える仕組みをデザイン。2022年グッドデザイン大賞受賞

スニーカー「TOUN(トウン)」商品画像

スニーカーブランドの「TOUN(トウン)」は、履物の製造がさかんな奈良県西エリアの企業から依頼を受け、ブランディングを担当。プロダクトデザインは東京のデザイナー・山野英之さんを起用した

――地域においてデザイナーに求められる力、必要とされる力とは、どのようなことだと考えていますか?

坂本:活動領域をあまり狭めないことは重要だと考えています。デザインでどこまでやれるか、その試行錯誤をおもしろがれるデザイナーは地域での活動に向いていると思いますね。

逆に、都市ではいわゆる狭義のデザインを求められることが多いので、自分の向き不向きで決めたらいい。デザイナーとしてグラフィックだけを極めていくという世界もあると思うので。あくまでも、地域では前者のようなデザイナーが重宝されていると感じます。ただこれは地域によって大きく違うので、一概には言えませんが。

そして今後は、地域でも都市と同じようなデザイナーのポジションも求められていく気がしています。いまはまだ、我々のようななんでも屋みたいな人たちが重宝されているけど、ある程度マーケットができていくと、都市で起きているようにそれぞれが専門化していく可能性もあると思っています。

多様な地域の形。まずは地域と人を知ることから

――仕事の能力や意識以外に、地域に関わるという意味ではコミュニケーションや関係性づくりも重要ですか?

坂本:地域とひとことで言ってもさまざま。関わり方に気をつけた方が良いところももちろんありますが、保守的なスタンスで臨んでも大丈夫な地域もあります。その辺りのグラデーションは幅広いので、「地域」でひとくくりにするのは難しいですね。逆に都市は似通っているのでわかりやすいかもしれません。

都市では1つの答えを求めてしまうけれど、地域は違う。その地域に応じたやり方、フィットする関わり方があると思います。ただし、無理に合わせにいくのはどの地域でも良くない。なるべく何度か足を運んで行き来するのもいいし、いろいろな関わり方があるから、まずはそこに身を置く時間を長くしてみて判断するのがいいと思います。

――東吉野村だけでなく、各地から仕事を受けている坂本さんですが、地域と関わる時に心がけていることはありますか?

坂本:簡単な話だけど、なるべく一緒にご飯を食べる機会を増やすとか、場合によっては、男性なら一緒にお風呂に入るとか(笑)。それができるくらいの相手かどうかも重要。少なくとも、食事を共にする回数は増やしたほうがいいと思います。

言い方は悪いけど、仕事だけの関係にならないこと。地域ではまだまだ信頼で経済が回っていて、この人は信頼できるのかどうかを見られているような気がします。信頼というのは時間とニアリーイコール。そこにいた時間、その人たちと一緒に過ごした時間が大切です。何を言ったかより、誰が言ったかの方が大事なんですよ、やっぱり。

合同会社オフィスキャンプ

オフィスキャンプが位置する東吉野村には深い山と美しい川があり、穏やかな時間が流れる

――信頼関係が大切なのですね。

坂本:地域ではすごく重要ですね。いきなりやって来た人が、このエリアはこうしたらよくなるからこれやりましょうと言っても、ハレーションが起きるだけ。そこが都市型と地域型の大きな違いだと思います。「誰から」が大事で、誰と一緒にやるかが大事。地域に根付いている人たちと一緒に作業したり、そのコミュニティのキーマンと言われる人たちと一緒に動いたりするとスムーズです。

アナザー・ジャパンの取り組みを通して見えたこと

「アナザー・ジャパン」店舗外観

東京・大手町にあるショップ「アナザー・ジャパン」。学生が経営を担い、47都道府県の地域産品をセレクト・販売している(Photo : Kiyoshi Nishioka)

――地方創生プロジェクトであるアナザー・ジャパンの取り組みについて、どう見ていますか?

坂本:スタート時から伴走しているので、思い入れが強いプロジェクトです。プロジェクトの強みは、何よりも“リアリティを持った場所”があること。学生たちが各地へ足を運び、自分の目で見て持ち帰った商品を販売する。地域で物を見たり仕入れをしたりするというのは、ある意味シビアな目線になるし、解像度が上がらざるを得ないと思います。

大変なことを彼らは頑張ってやっているし、それをできると信じて委ね、支えている大人たちがいるすごいプロジェクトだなと思って見ています。

――ローカルデザインや地域創生に熱意のある学生が多いですか?

坂本:すでに自分でプロジェクトをやっている子もいましたし、いまの世代の子たちってそういう意識が強いですよね。都市で活躍しながらも、最終的には地元に貢献したいというような。どういうことで役に立てるかを、本気で探そうとしている。そういう人たちにとっても、有益な場所になっていると思います。

「アナザー・ジャパン」活動の様子

アナザー・ジャパンの活動の様子。学生たちは研修のなかで経営を学び、実践していく

――若い世代にどんなことを期待していますか?

坂本:アナザー・ジャパンでは、任せたことに対してしっかり応えてくれる学生がたくさんいて驚きました。彼らは新しいことだけでなく、我々が古いと思っていたことを新しいと思っておもしろがっている。そして我々よりも、もっとウェットに世の中や地域と付き合っているなという印象です。SNSやデジタルはネイティブな子たちが多いので、そこにはものすごい可能性を秘めていますよね。

――最後に、地方創生や活動に関心がある若者に向けてメッセージをお願いします。

坂本:メディアが煽っているほど、地域はパラダイスではないし、みんなから噂されるような、すごく閉鎖的で後進的な場所かというとそうでもない。どちらも正しくて、どちらも間違っています。それは都市でも同じ。パラダイスではないし、すごく競争の激しい場所かというとそこまででもない。

そのグラデーションが地域によってさまざまなので、実際に足を運んでその場の空気を感じ取って、自分で判断する。それ以上に正しいことはないと思います。そうして解像度の高い情報を増やして、地域の形に合わせてそれぞれのやり方で活動を広げていってもらいたいですね。

文:高野瞳 取材・編集:萩原あとり(JDN)