「ものづくりのまち」鯖江市河和田の新たな潮流、「気づき」をつくる体験型マーケット「RENEW」

「ものづくりのまち」鯖江市河和田の新たな潮流、「気づき」をつくる体験型マーケット「RENEW」

「気づき」をつくる、「ものづくりのまち」の新たな潮流

1500年の歴史を持つ越前漆器や、眼鏡づくりの産地として知られる、福井県鯖江市東部の河和田(かわだ)地区。三方を山に囲まれ、約4,400人が住む小さな集落ながら、古くから技術を継承してしてきた「ものづくりのまち」だ。

福井県鯖江市の東部に位置する河和田(かわだ)地区

福井県鯖江市の東部に位置する河和田(かわだ)地区

かつて、河和田の漆かき職人は全国の半数を占めたといわれ、東北や関東まで漆の樹液を求めて全国を行脚していた。職人たちは、訪れた場所の文化やの情報を持ち帰り、それを取り入れて変化を重ねてきたことで、暮らしに合わせた「ものづくり」を生み出す文化的土壌がつくられてきた。

最近では漆器の技術を応用した木製雑貨ブランド、県外からの移住者の受け入れ、全国漆器展での団体最高賞となる「桂宮賞」を5年連続受賞するなど、多様なものづくりの文化を継承しながらも変化を続けてきた。そして、社会構造が急激に変わりつつある今、「未来」に向けて持続可能な産地を目指す動きが生まれている。それが「ものづくりのまち」の新たな潮流のひとつ「RENEW」だ。

「RENEW」の総合案内所、「うるしの里会館」には出展者の情報がダイジェスト的に展示

「RENEW」の総合案内所、「うるしの里会館」には出展者の情報がダイジェスト的に展示

10月31日から11月1日に初開催された「RENEW」は、河和田で活動するメーカーやクリエイターといった作り手が一同に工房を開放し、作り手の思いや背景に触れながら商品を購入できる「体験型マーケット」で、ユーザーと作り手のコミュニケーションを通して、河和田の魅力をユーザーに伝えるともに、地域に新たな「気づき」をつくることが目的だ。

持続可能な「これから」の産地を目指して

河和田地区一円で開催された「RENEW」に参加したのは22社。漆器、眼鏡、木工、アクセサリー、箸、丸物木地、角物木地、蒔絵工房など、直径2kmのエリアに多様なものづくりが高密度に集積している。そのすべてに訪れることはできなかったのだが、それぞれの場所で「ものづくり」にかける熱い思いや誇り、鯖江の風土や製品の魅力を丁寧に教えてくれた。それと同時に「新しい自活する方法をつくらなくては」というような危機感にも似た気持ちも率直に伝えてくれた。

「漆林堂」の工房の様子。伝統的工芸品として指定を受けている、1500年の歴史を持つ越前漆器。産地全体で分業体制が確立していて、素地づくり、塗り、加飾など工程が高度に専門化している

「漆林堂」の工房の様子。伝統的工芸品として指定を受けている、1500年の歴史を持つ越前漆器。産地全体で分業体制が確立していて、素地づくり、塗り、加飾など工程が高度に専門化している

鯖江のものづくりの多くは、BtoB(企業間取引)やOEM(他社ブランドの製品を製造)によって支えられてきた側面がある。つまり景気や流行に左右されて、事業自体がシュリンクしてしまう可能性を常にはらんでいる。そうした状況で「いま何ができるのか?」というと問いに対して、「RENEW」はひとつのヒントになるのではないかと思う。

ここまで、どうにも硬いトーンになってしまったが、地域が抱える現状を鑑みたうえでお伝えしたいのは、「RENEW」のような取り組みが生まれる河和田のおもしろさというか、可能性のようなものを感じさせるということだ。後継者不足が深刻な地域が多いなかで、これほど移住者が多い地域も全国的に見ても稀だろう。最初に述べたような、変化と問い直しをしてきた風土によるものなのか、長きにわたって継承されてきた技術が人をひきつけるのか、土地そのものが持つ魅力なのかは、あるいはそのすべてなのかはわからない。

各工房やショップに設置されているノベルティを8つ集めた先着50名に、特製オリジナルフレームがプレゼントされた

各工房やショップに設置されているノベルティを8つ集めた先着50名に、特製オリジナルフレームがプレゼントされた

もともと河和田で暮らす人たちと、新しく河和田に移り住んだ人たち、一丸となって地域を「面」で見せる取り組みが動き出したと感じた。

出展者の半数近くが今回のためにワークショップを実施。職人の技を実際に体験するものから、眼鏡の余り素材や木材などを使って、アクセサリーや雑貨などをつくるものまで、ここでも河和田のものづくりの多様性を一端を知ることができる。ふだんはワークショップを行っていないところがほとんどなので、実際にものづくりの現場を体感できる機会だったといえる。

「Hacoa」で行われた、ウォールナット・メープル・パープルハートなどの銘木を使った鉛筆づくりのワークショップ。「Hacoa」の製品ラインナップに鉛筆はなく、このイベント限りの特別アイテム

「Hacoa」で行われた、ウォールナット・メープル・パープルハートなどの銘木を使った鉛筆づくりのワークショップ。「Hacoa」の製品ラインナップに鉛筆はなく、このイベント限りの特別アイテム

会期中の11月1日には、同エリアの片山八幡神社「河和田 秋の実りの音楽会 平成27年度 まちかど歴史浪漫コンサート」が開催された。中山うりさんと王舟さん、二組のシンガーソングライターの歌声が、秋の晴れた河和田に優しく溶けていくようだった。

「河和田 秋の実りの音楽会 平成27年度 まちかど歴史浪漫コンサート」での、王舟さんのライブパフォーマンス

「河和田 秋の実りの音楽会 平成27年度 まちかど歴史浪漫コンサート」での、王舟さんのライブパフォーマンス

会場の片山八幡神社の境内には漆器神社があり、漆器工芸がすべて手作業で行われていた当時の諸道具が全工程にわたって保存、福井県の文化財に指定されている貴重なものだ。

次ページ:「RENEW」の醍醐味は職人との対話、持続可能なまちづくりを目指す心意気