建築出身のデザイナー3人と考える、「プロセスとデザイン」とは? 太刀川英輔×山崎亮×西澤明洋:第3回「みんなでクリエイティブナイト」

建築出身のデザイナー3人と考える、「プロセスとデザイン」とは? 太刀川英輔×山崎亮×西澤明洋:第3回「みんなでクリエイティブナイト」

質問1.「地方都市の公園」のプロセスとデザイン

西澤:ではここからは、会場からお題をいただきながら3人で今日のテーマである「プロセスとデザイン」について考えていきたいなと思います。

<strong>西澤明洋</strong><br /> 1976年滋賀県生まれ。ブランディングデザイナー。株式会社エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。「フォーカスRPCD®」という独自のデザイン開発手法により、リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がける。おもな仕事にクラフトビール「COEDO」、スペシャルティコーヒー「堀口珈琲」、抹茶カフェ「nana’s green tea」、ヤマサ醤油「まる生ぽん酢」、サンゲツ「WARDROBE sangetsu」、ITベンチャー「オズビジョン」、賀茂鶴酒造「広島錦」、芸術文化施設「アーツ前橋」、料理道具屋「釜浅商店」、手織じゅうたん「山形緞通」、農業機械メーカー「OREC」、博多「警固神社」、ブランド買取「なんぼや」、ドラッグストア「サツドラ」など。

西澤明洋
1976年滋賀県生まれ。ブランディングデザイナー。株式会社エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。「フォーカスRPCD®」という独自のデザイン開発手法により、リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がける。おもな仕事にクラフトビール「COEDO」、スペシャルティコーヒー「堀口珈琲」、抹茶カフェ「nana’s green tea」、ヤマサ醤油「まる生ぽん酢」、サンゲツ「WARDROBE sangetsu」、ITベンチャー「オズビジョン」、賀茂鶴酒造「広島錦」、芸術文化施設「アーツ前橋」、料理道具屋「釜浅商店」、手織じゅうたん「山形緞通」、農業機械メーカー「OREC」、博多「警固神社」、ブランド買取「なんぼや」、ドラッグストア「サツドラ」など。

質問者:現在ランドスケープデザインを学んでいる学生です。いま大学で地方都市の公園を対象にしたプロジェクトを行っているのですが、これから地方都市の公園をコミュニティの場として再生させるには、どうすればいいと思いますか?

太刀川:山崎さん、そういうプロジェクトめっちゃやってますよね。

山崎:僕にとってこれは何万回と答えてる質問だけど、今日はそれを使っちゃいけないので難問ですよ(笑)。

西澤:じゃあ予定調和を崩すために僕からいきますわ。僕はこういうの答えたことないからね。僕がブランディングデザインでやってみたい仕事のひとつに、病院のブランディングがあるんですよ。できればちょっと大きめの、地方の総合病院。なぜなら、病院が楽しい公園みたいになるんじゃないかなと思ってるんですね。

たとえば、僕らの仕事でオファーがすごく多いのが、病院ではないんですが未病に対する取り組みなんです。薬だけじゃなくて、サプリや健康食品、ほかにも運動をサービスにしたいっていう方もいて。広場に遊具があるような場所は子どもにとっての公園で、老人のための公園は病院だと思うんですよね、公園みたいな病院。

僕らの仕事はブランディングデザインなので、たとえば地方でのブランディングとは何かと聞かれると、他の地域と差異化して、その地域が選ばれる、つまりそこに住みたくなるために活性化させたいっていう思いがあるわけです。地域ブランディングで、安易に特産品の商品ブランドをつくりゃいいってもんじゃなくて、結局は「住む」っていうプロセスのために何をすればいいかの方が重要なんですよね。そのために、病院のブランディングをやってみたいって思ってるんです。

山崎:いいですね、すごくおもしろい。太刀川さんどうですか?って何で俺司会しとんのやろ(笑)。

太刀川:ありがとうございます(笑)。そうですね、どんなデザインをする上でも必ず考えるんですが、今回の場合はまず、公園は何のためにあるのかですよね。ほら、僕ゲシュタルト崩壊得意なんで(笑)、公園とは一体なんなのかを考えるわけです。

たとえばそれが公園じゃなかったとしても、公園の目的が果たせればいいんですよね。公園は何のためにできたんだっけ?と考えたときに、「拠り所」というか、みんながそこでなんとなく顔を合わせたり、そのコミュニティのハブになっていて、家やストリートではなかなかできないことでも、そこだったらやっていいよみたいな、自然な触れ合いが生まれる囲われた場所だと思うんです。

そこで、この「何のために?」という自分なりの答えと、現在の公園の差分を探します。家でやっちゃいけないことが許される場所として公園があるはずなのに、いまは禁止サインがいっぱいありますよね。ボール遊びもできなければフリスビーも飛ばせないし、自転車も乗っちゃいけない、みたいな。それじゃあもう公園じゃないよね、ってその時点では思うんですが、それは公園を変えるきっかけが見つかったってことかもしれない。たとえば、禁止されない場所をつくることが公園かもしれない。

公園をつくるっていうタスクではなくて、公園に大事なことをつくるっていう感覚でいると、本来あるべきことを間違えないんじゃないかなって思うんです。公園をつくることが先に前提としてあるのではなくて、どんな「Why」に答えるのか。その「Why」を浮き彫りにすること……それがデザインなんだぜ!

西澤:おーー(笑)。

山崎:最後力業だった気も(笑)。

太刀川:そろそろ終わらせようって(笑)。

太刀川さん、山崎さん

山崎:でもすごくいいと思う。じゃあ次は僕ですね……。

僕も質問者さんと同じく、もともとランドスケープデザインをやってたんです。その後コミュニティデザイナーになったわけですから、こういった質問はいっぱい受けていて、たとえばランドスケープデザインを最初にはじめたアメリカのフレデリック・ロー・オルムステッドであったり、日本だったら明治の太政官布達とか、その話もしたくなっちゃったんだけど、それもう何回も喋ってるから……。

西澤:今日は封印!

太刀川:これはどう答えるかが問われますね(笑)。

山崎:いま思いついたのですが、地方都市って自然がもうまわりにたくさんあるから、あえて公園をつくらなくてもいいんじゃないですかね。それから、もう人口も減ってるから、新しくそんな所に公園なんかいらないんじゃないかっていう。地域活性化のための公園といっても、太刀川さんと同じく地域活性化とは何かを考えないと。

経済が活性化すればいいわけではないし、人口が増えりゃ活性化っていうわけでもないですよね。保育園などを無料にしたり、あるいは来てくれれば住宅改装費200万円補助が出るとか。でも、200万くれるんやったら移住するで、っていう人が1万人増えても、あまり街にとってはよくないですよね。

どんな人たちがその地域に増えていって、どんな活動が起きることが地域活性化なのかを考えた時、それを担保するような公園をつくるとしたら何をしますかと。ちょっとこれは暴論かもしれないんだけど、公園予定地を分譲したらいいんじゃないかと思ったんですよ、新しく。

太刀川:どんな風にですか?

山崎:1,000平米ぐらいの家として考えるのはどうでしょうか。たとえば、1、2ヘクタールぐらいある公園だとすると、建ぺい率は3パーセント。だから、30平米までしか家は建てちゃだめなんですよ。なので、残りは広場や緑の空間でなければならない。しかも、そこに住む人は、あなたの土地だから管理しきゃいけないですよと。

西澤:なるほど、あーそれおもろいね。所有権をちゃんと明確にする、運営させるってことか。管理人付き公園みたいな。

山崎:それで、もう一つの条件は、あなたの庭にほかの人が入って来てもいいっていうこと。あなたがそこを管理しなきゃいけないし、花植えてくれなきゃいけないし、芝生は刈ってくれなきゃいけない、だって持主だから。だけどそこはみんなが使うんです。そしてその境界線は見えていないわけで、3パーセント分だけどこかに30平米の小屋が建ってて、おじいちゃんおばあちゃんが住んでるんですよ。30平米だから、おじいちゃんおばあちゃんぐらいは2人で住めるし、都心のワンルームマンションよりはちょっと広いわけですよね。そして庭は抜群に広い。高齢化した地方都市で、おじいちゃんおばあちゃんの2人暮らしになった時に、庭仕事をずっとやってるんだけど、それに対してどうもありがとうっていう人たちがそこにいると。

太刀川:おもしろいですね。仕組みをハックしに行く感じが。

質問2.「2038年」のプロセスとデザイン

質問者:2038年の時に、みなさんがやっているプロセスとデザインはどんなものでしょうか?

山崎:2038年?

太刀川:微妙に20年後じゃないんだ(笑)。

西澤:19年後(笑)。

山崎:そのとき65歳か……。

この時代になると完全自動運転の車ができているはずですよね。だから、運転席に人が座っていなくても、車が勝手にどこかに行ってくれるわけです。そうすると、いくらお酒飲んでも車に乗ってスイッチだけ押して寝れば、次の朝にはびゅーんともう目的地にいるわけですよね。そういう時代になった時に、コミュニティってどうあるべきだろうと考えますよね。寝ている間に移動し続けていて、人々のふれ合いもすれ違う一瞬ぐらいしかないわけですから。町内会とかみんなで運動会やりましょうとかいうのが、あんまり意味をなさない状態になってるでしょうね。

そんな時に、2038年でも家はまだあると思うんですが、きっとガレージはリッチになってますよね。5人家族だったら、5台車が入るようになっていて。きっと、それぞれの車が部屋なんでしょうね。キッチンやリビングでご飯食べたりはすると思うんだけれど、おやすみって自分の部屋に戻っていき、それが車でもあるっていう。そんな状態になった時、コミュニティデザインみたいなことをやろうとすると、それは一体誰とつながって、どこで何の活動するということになるのか。そのプロセスを考えてるんだろうなと思いますね。

西澤:じゃあ僕いきますね。先日、「創造系ペリカンナイト」っていうイベントに出たんですけど、建築家がファシリテーターをしていて、ゲストで出てくるのが「建築YouTuber」「建築ダンサー」、ほかに「ペリカン建築家」とかだったんです。で、それは何が起こってるかというと、今の20代から30代の若手が、建築っていうものをエンタメ化しはじめてるんですよ。たとえば「建築ラッパー」もいたんですが、有名な建築家の名前をひたすら言うだけのラップをやるの(笑)。

僕がゲストとして呼ばれたのは、建築出身だけど建築じゃないことをやってるからだと思うんですけども、2038年の僕のプロセスとデザインは、多分ブランディングをもう1回プロセスに持っていかなきゃいけないと思うんですよ。いま僕はブランディングデザインというものを、かたちをつくる手段、方法論として使っているんですが、これをもう一度ひっくり返って味わい尽くす必要があると思うんです。

西澤さん

僕が独立し始めた15年前とかはググってもなんにも引っ掛からなかったブランディングデザインっていう言葉が今ようやく定着してきましたが、2038年ぐらいの時にはもう古いと思う。古くなった時に、もう一度味わえるかどうかをプロセスとしてやってみたいかな。

山崎:ブランディングデザイナーラッパーが出てきてるかもしれない!

西澤:やりたいやりたい、それ(笑)。

山崎:ノレるかな、それ(笑)。じゃあ太刀川さん。

太刀川:はい。生物の進化に最近興味があるんだけど、生物の進化における変異側と淘汰される側、それぞれの関係性を調べたり、理解するために、AIを使えばいいんじゃないのかっていうことを、IBMの人たちと話しているんです。それがあると何ができるようになるかっていうと、AIが愛を持てるかもしれないんですね。

すごくざっくり言うと、いわゆる“共感”みたいなものを、ひょっとしたら機械が持つことができるかもしれない。そうすると、いま自分がこういう状態だなっていうことを察してくれる機械が出てくるようになるわけです。そのときに、あらゆる道具が人間を拡張するようにできているように、思ったことを加速させる装置みたいなものが出てくると思うわけです。

しかも、それが未来の思考プロセスになる可能性があって、自分の脳だけで考えなくて済むみたいなことが可能になった場合、デザインのプロセスは変わるかもしれない。その時に、デザイナーってどうなってるんだろうねってのは、僕も分からない。でもそういう未来は本当に来つつあるんだと思う。

西澤:よく「AIが発達したらデザイナーってどうなるんですかね」って質問をインタビューとかでよく聞かれるんですよね。デザイナーは無くならないって一応言うようにしてるんですけど、いまの話を聞いていたらマジでデザイナーってなにすんのかなって思いますね。

太刀川:その時には世の中はものすごい激変を迎えているはずで、そうなると、マインドフルネスじゃないけど、「願いの方向性」みたいなことが結構重要になってくるんじゃないのかなっていう気がしていて。なんだか怪しい話になってきたけど(笑)。いや、でもそう思うんだよなあ。願いためのクリエイティブディレクションていうのが必要になってくると思う。

山崎:コミュニティデザインに関して言うと、僕がやっているようなワークショップのときに、ファシリテーターがばーっと説明したり喋ったあとに、「すみません、実は僕はAIなんですよ」って言ったら、どう思います?(笑)

西澤:人工知能がファシリテーターのワークショップはいやかも(笑)。

太刀川:確かにいやだね。

山崎:そう、みんな落胆感ありますよね。なんや、人工知能の話聞いとったんかい、と。だから、そういうことなんじゃないかと思うんですよ。同じ情報だったとしても、いま私たちは人間の話を聞いてたんだよねって思えれば、そこに我々人間のデザイナーの役割はあるんだと。

仮説を立てることは人工知能ができたとして、ものすごい演算を経た上での結論なんて、議論の余地がないよね、ということになってしまう。だって人間が立てた仮説は不完全だから、僕らはディスカッションを楽しむことができる。というような話を……すみません、過去にもう4回ぐらいしてました(笑)。

太刀川:おお、そんなに。いやいや僕らには斬新。

西澤:斬新だった。おもろいな。はい、質問もう1個いってみようかな。

次ページ:「プロセスとデザイン」が生まれるタイミングとは?