建築出身のデザイナー3人と考える、「プロセスとデザイン」とは? 太刀川英輔×山崎亮×西澤明洋:第3回「みんなでクリエイティブナイト」

建築出身のデザイナー3人と考える、「プロセスとデザイン」とは? 太刀川英輔×山崎亮×西澤明洋:第3回「みんなでクリエイティブナイト」

質問3.「プロセスとデザイン」が生まれるタイミング

質問者:みなさんははじめからプロセスを意識されていたわけではないと思うのですが、デザインしていく中で「これって手法だな」というか、プロセスのデザインだなと思われたタイミングはどんな時だったのでしょうか?

西澤:いい質問。ド直球きたね。

太刀川:めっちゃいい質問だね。すばらしい。

山崎:この質問ももう10回ぐらい答えたことあるから、悩んでる……。

西澤:じゃあ最後にしといてあげる。そうね、僕は最近本に書いたからわりと整っちゃってるな。

山崎:それ、封印しよう。

西澤:はい(笑)。じゃあ、太刀川さん先いってくれる?

太刀川:僕はけっこうシンプルで、ここにいる人たちはきっと共感してくれると思うんだけど、やっぱりかっこいいものをつくりたいじゃないですか。できればめっちゃかっこいいものを。で、たとえばつくったものによって生まれてくる関係性やコミュニケーションの重要性っていうところに踏み込んでしまったら、もうそれはプロセスの話に入りはじめているよね。だって、そこで生み出したい関係性なしには、そのかたちが出現しえないから。そういうところまで考えていくと、「Why」に踏み込んでいけているので。

で、いくつかの理由があってそれがプロセスになったなと思うんです。ひとつは、まずその目的を持っている人たちにアプローチするようになったの。というのは、主従でいうとデザイナー側には「主」がないのよ。その「Why」をもっと身近に感じている人たちが、基本的には僕らデザイナーよりもその領域は絶対詳しいわけ。しかも、その問いを明確に持っている場合に、つくることからはじめないで、彼らの側に踏み込んでその問いを一緒につかまえていくっていうプロセスがないと、間違えてしまいそうじゃない?

太刀川さん

山崎:確かにそうだ。

太刀川:その時に、教えてくださいって素直に聞くのも技術のひとつなんだけど、それを抽出する術、自分と相手の「Why」をチューニングしていくっていう作業が絶対ある気がするんです。これがもうプロセスなんだよ、すでに。

なんだろうな、たとえば「カレーをつくる」っていうことが大事なのか、それとも「相手が今日はカレーの気分なのかを察すること」が大事なのか。その察する力を磨いていくと、「今日はチンジャオロースだね」ということもできるんですよ。それこそが最高の料理人ですよね。

西澤:なるほどね。僕行きましょか。どういったタイミングでプロセスと思えるようになったのかですよね。

プロセスはかなりはじめの段階から意識はしていて。僕の場合は、学生の頃に経営学者の紺野登さんが本にも書かれている「形式知」と「暗黙知」という考え方に出会っているんです。紺野さんは、デザイナーが体感的な経験として学んでいる技術を、一度「形式知」という方法論として、「暗黙知」と行ったり来たりさせることで知識を増大させていくっていう「SECIモデル」を提唱してるひとりなんですけど、それに僕は影響を受けて、プロセスをちゃんと意識してつくるということは学生時代からやってました。

それで、実際に僕がどういったタイミングでプロセスと思えるようになったのかというと、やっぱり東芝を辞めて独立した時だったかなと思います。大きな会社に属しながら働いてた感覚と、ゼロベースで自分で仕事をやりはじめるのは、理屈は分かっていても、実際にやってみるとこんなに違うのかと思いましたね。いま振り返ってみるとその頃が本気でプロセスを自分でつくり出していこうとしたタイミングですね。学生のときも会社勤めのときも、プロセスや方法論の研究はしてたんですけど、それは学問として知ってただけだったんですよね。

山崎:いい答えだと思います。いまの話を聞きながら思い付いたことなんですが、僕は磯崎新さんという建築家が大好きでよく本を読んでいて、彼の「プロセス・プランニング論」というものに学部生の時に出会って「おおっ!」って思ったんです。建築では、どんどん増築していくこともあるので、それを見越した上で「とりあえずいまはここまで」ということを設計するのがプロセス・プランニング論なんですよ。だからそれは、増築が可能なつくり方であると同時に、途中でぷつっと切れたようにも見える平面計画なんですね。

その考え方を知ったときに、確かにプロセスの一部分としての建築のデザインの仕方っていうのはありだなと思ったんですけど、確か大学院の時に、そのプロセス・プランニング論で出来上がった建築を実際に見に行ったんですよ。すると、全然途中じゃなかったんですよね。これ、空間としてちゃんと必要なものが全部揃ってるから、建築として成立してるよねって。なんだか、「プロセス・プランニング論」だって説明することで、自分の建築を興味深いものに見せたり、価値が上がったように見せているだけなんじゃないかと思うようになってきて。建築業界で言うところのプロセスというのが、実はレトリックでしかなかったということに、疑問を抱いたんですよね。これはいかん、本当にプロセスのデザインしなきゃいかんって、そのときに思ったんです。

ただ、その後コミュニティデザインみたいなことをやるようになったら、もうプロセスしか表現することがなくなっちゃったわけです。僕の仕事は、クライアントやその家族、コミュニティと何度も対話することで、彼らに学んでもらって、彼ら自身の考えが変わっていくっていうことなんですよ。

太刀川:あ、それすごい分かる。

山崎:だからそのためにどう適切な情報を与えたり、煽ったり、おだてたり、泣きついたりするかっていうのが僕らコミュニティデザイナーの仕事で。

たとえば、7cm角の付箋に意見を書いたものを模造紙に貼ってまとめていくというのが、いわゆるコミュニティデザインやワークショップだと思われがちなんですが、そのやり方って参加した人たちの意見が永久に変わらないっていうことを前提に考えられていることが多いんですよ。でもね、ワークショップを重ねていろんなことについて学んでいけば、変わる可能性があるんですよ、付箋に書く答えが。1回目のワークショップではこう書いちゃったんだけど、10回目のワークショップでは全然違う答えになってることだってある。そういった、学びのプロセスをつくることが僕らの仕事だってことを、10年ぐらいやってからわかりましたね。

太刀川:いい話だなあ。

山崎:いいこと言ってもうたな(笑)。

質問4.「これからの日本」のプロセスとデザイン

西澤さん、太刀川さん、山崎さん

西澤:4番目いってみようか、はいお願いします。

質問者:いまの日本の現状や歴史について考えたときに、これからのプロセスのデザインはどういったものになっていくといいと思いますか?

西澤:テーマがいいね、締めっぽくていい。

太刀川:それね、僕も言いたいことあるなあって思ってたんですけど。プロセスを理解する中で、僕はざっくり分けて4つの考え方があるなって思ってて。ひとつは解剖学的に中を見ていくことで意味を捉えていくこと。こういった思考は、20世紀にめちゃめちゃ使われたんですよ。とにかく分解していくことで改善して、次のものになっていくということ。進化の軸線って、同じ目的に対してずっと応えていくことなので、「前よりいいものがいいもの」っていう考え方になるんだよね。

で、いままではそういう改善のプロセスの先にあったのが僕らの未来だって思ってたんだけれども、まさに現在起こっていることは、海や山など、そういった人ではないものに対しても他者としての責任を持っていたんだっていうことに気づかされているんだと思っていて。それは考え方として「生態系的」なんですよ。

マーケティングだったら買ってくれる人のことだけ考えてれば大体成立するんだけど、生態系的に考えると何かをつくることによって誰かがひどい目にあっていないかだとか、その素材によって環境がひどいことになってないかとか、そういう考え方をどうやって自分に取り入れることができんだろうと、デザインにどうやったら根付かせていこうみたいなことで。20世期の解剖的な時代から、21世紀に生態系的な時代になれるかっていうのが、いま僕が考えてるテーマでもあって。ミクロで考え続けてきちゃったのをマクロ側から逆算するみたいなこと、頑張んなきゃいけない時代になっていくんじゃないのかな。

西澤:なるほど。次、僕いっちゃっていい? 山崎さんにトリ押し付けます(笑)。

西澤さん

僕はこれからのデザインというか、デザイン業界がどうなっていくのかについて考えますね。僕は、デザイナーってなんか真面目やなあって思ってて、真面目にやること自体は仕事に向き合ってるってことなのでいいんですけども。たとえば建築では、批評や批判がいろいろあるんですけど、デザインってそういうのはないですよね。なぜかと言えば、クライアントの守秘義務とか、そういう理由があるからですよね。

でも、僕はこれからのデザイン業界は、もっとプロレスみたいになっていったらいいと思ってまして。なんだか真面目過ぎるから、もっとプロレスの技を掛け合うような状態になればなあと。クリエイティブナイトにはそういう意図もあるんですけども、もっとそれがスタンダートになっていくとおもろいなと思ってて。「デザイン経営」について、経産省から2018年に発表されましたけども、いまいち広まっている感じがしないのは、デザインっておもしろいって感じてもらえるようなエンタメ化がされてないからだと思うんですよね。だから、僕はデザイン業界にエンタメのプロセスを挿入したいですね。

山崎:今日はちょっとプロレスっぽい感じですよね。

西澤:そう、これいい感じ。それでは亮さん、大トリね。

山崎:これは今まで何回も話しているので今日は話せませんが(笑)、小学校からデザイン教育をした方がいいというのが答えなんです、僕の中ではね。でも今日はまたはじめてのことを言いますから、まとまるかどうか分かんないけど挑戦してみましょう。

多分、デザイン業界の問題は、経済の潮流に相当影響受けてるのに、そのことを自覚してないことなんじゃないかと思うんですね。

太刀川:おお、そうだそうだ。

山崎:デザイナーはアダム・スミス以降の近代経済学、いわゆる古典派経済学っていうのがなぜだめだと言われているのかだとか、その後新古典派だったりとか、あるいはケインズ主義、そのちょっと前の社会主義のマルクス経済が、どーんとぶっ倒されて新自由主義にいまなっちゃってるという、まずはそこをちゃんと理解してないといけないと思うんです。それぞれの時代に応じたデザインがあったということを踏まえて、新自由主義的なデザインじゃだめだっていうことを把握することが、特にいまの日本のデザイナーに必要なことなんじゃないかと思うんですね。

アダム・スミスの言うところの「見えざる手」って、現代の新自由主義的な経済にとって都合のいい言葉だったんでしょうね。かつてはひとつの国のなかの、社会階層間の移動がほとんどない時代に使われた言葉だったのに、現在では地球規模で自由に交易すればいいんだという話になっている。世界のどこかで「あれが欲しい、これが欲しい」と望めば、別のどこかで必ずそれをデザインする人が出てくる。もしその数が少なければ、高い価格でも購入する人がいる。買ってくれる人がいるってことがわかれば、それを量産する人が出てくる。そうすると徐々に単価が安くなってくるので、より多くの人がそれを手に入れることができるようになる。これを繰り返していけば、地球規模で「必要なものが誰かによってデザインされて、必要な人に届くようになる」と考えられているんですよね。あたかも「見えざる手」が差配しているかのように。

でも実際には、たくさんお金を持っている企業が安く作ってくれる人たちに製品を作らせているわけだから、金持ちはどんどん金持ちになり、貧乏な人はいつまで経っても貧乏なままということになっている。世界的に格差が広がりつつある。さらにものづくりのために必要な素材はどんどん浪費されている。水も空気も土も石油も樹木も、無料の素材として破壊され、搾取され、利用され続ける。地球規模の「外部不経済」が放置されたままになる。アダム・スミスは限られた地域の限られたメンバーを対象とした経済について「見えざる手」という言葉をわずかに使っただけなのに、現在ではそれが地球規模で働くことを勝手に期待してやりたい放題なわけです。

太刀川さん、山崎さん

デザイナーはクライアントから言われたとおりのことを信じていいデザインさえすれば、ものが売れるし人々を幸せにするって思い続けたのかもしれないけど、実際には新自由主義経済が引き起こす格差社会や自然破壊に加担してしまっていることが多い。

デザイン業界の人たちは、知らない間に経済によってその思考プロセスを左右されているんですよ。僕らは、発想方法自体が新自由主義的になっちゃってるんです。地球規模で費用対効果ばかり考えている。短期的な効率を高めることに注力しすぎている。本来は、誰に何をどれだけ供給すべきなのか、人々はどう働いて賃金を得るべきなのか、自然の回復力に見合った資源の使い方とはどういうものなのか、ということを考慮しながら進めるのがデザインであり、それこそがプロセスのデザインのはずなのに。

太刀川:そうだ、そうだ。

山崎:だから日本のデザイナーは、社会的共通資本がどういうものなのかを考えないといけないと思うんです。日本には宇沢弘文という偉大な経済学者がいたわけですから、それに学ぶようなデザイナーがこれからちゃんと出てこないといけないと思いますね。

西澤:もっとデザイナー自身が社会の仕組みみたいなところをつくる側に回ったほうがいいんですかね。

山崎:もちろんそうなれたらとってもいいんだけれども、まずは理解することでしょうね。自分達が無意識にクライアント企業から誠心誠意応えてることが、大きな経済の流れの中でどんな役割になってるのかをまずは理解すること。ある時はクライアントに意見できるところまで、経済の仕組みを理解していかなきゃいけないだろうし、その先に社会や経済の仕組みをデザインするデザイナーが出てくるといいと思いますね。

西澤:デザイン経営の話を外ですることが多いんですけども、デザイン経営って一般的には、企業経営とかにデザインをどう役立てるかっていう方法論的に捉えられているんですね。いまの話を聞いてると、やっぱりもう1回経営や市場環境を含めてデザインをするような、広義のデザイン経営に日本は舵を切ったほうかいいのかもしれないですね。

山崎:儲けるとか貧乏とかいう概念ではなくて、「共に豊かである」っていう状態ってどうやってつくり出すのかをデザイナーが発想しはじめると、もっとおもしろくなると思う。

西澤:豊かさをデザインする。

太刀川:いいですね。

西澤:お金だけじゃない豊かさね。うんうん、おもしろい。きょうは大分時間オーバーでしたね。

山崎:時間も予定調和じゃなかったわけね(笑)。

山崎さん、太刀川さん、西澤さん

松井さん

第1回、第2回に引き続き、楽天株式会社の同好会「グラフィックレコーディング部」の松井藍さんに、当日のトークセッションをグラフィックレコーディングしていただきました。

松井さんのグラレコ

撮影:深地宏昌(エイトブランディングデザイン) 編集・文:堀合俊博(JDN)