開催の迫る「大地の芸術祭」、蔡國強氏の注目の新作や廃校を活用した新施設をプレビュー

開催の迫る「大地の芸術祭」、蔡國強氏の注目の新作や廃校を活用した新施設をプレビュー

「大地の芸術祭」、正式には「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」が開催される越後妻有(えちごつまり)は、過疎高齢化の進む日本有数の豪雪地で、「とどのつまり」が地名の由来と言われるほど、厳しい条件のなかで人々の営みが続いてきた地域だ。同時に、農業を通して大地とかかわってきた「里山」の暮らしが今も豊かに残っている地域でもある。

2000年から3年に1度開催され、現在では世界最大級の国際芸術祭となった「大地の芸術祭」。開催が迫る現地の様子を、制作中の新作や新しい施設を中心に紹介する。

蓬莱山/蔡國強

「大地の芸術祭」に第1回からフルエントリーしている蔡國強氏。越後妻有交流館キナーレの中央に、仙人が住むといわれていたユートピア「蓬莱山」をつくりあげる。地元住民とともにつくるわら細工のオブジェ(約1000体の戦闘機・軍艦・潜水艦など)が「蓬莱山」を取り囲むように設置される予定。ユートピアはユートピアでしかないということを示すように、裏側に回るとはりぼてになっているのが示唆的だ。東アジアが緊張状態にあるなか、国内外の関心が集まる「島」をテーマにした大規模なインスタレーションは注目。

制作中の「蓬莱山」(蔡國強)

制作中の「蓬莱山」(蔡國強)

「蓬莱山」の周囲をわら細工のオブジェが囲む

「蓬莱山」の周囲をわら細工のオブジェが囲む

チョマノモリ/淺井裕介

キナーレから駅前商店街を結ぶ広場と道路に、横断歩道などに使われる素材をバナーで焼き付ける作品を公開制作する淺井裕介氏。「チョマ(苧麻)ノモリ」は、かつて越後縮が特産品として知られていた、織物の町「十日町」を由縁としている。

制作中の「チョマノモリ」(淺井裕介)

制作中の「チョマノモリ」(淺井裕介)

バナーで直接焼き付けて「チョマノモリ」はつくられる

バナーで直接焼き付けて「チョマノモリ」はつくられる

憶測の成立/目

荒神明香氏とwah-document(南川憲二氏、増井宏文氏)によって組織された現代芸術活動チームは、今回の「大地の芸術祭」が初出展。国道117号に面した旧店舗、この場所におとずれたかもしれない可能性、別の世界をしのびこませる、という一筋縄ではいかない試みが行われる。作品の詳細について事前にお伝えすることができないのだが、荒神明香氏は「現実には見えていない部分がある、現実に対して別の『リアル』をしかけている」と作品について語っている。

一見ふつうの旧店舗にしか見えない「憶測の成立」(目)

一見ふつうの旧店舗にしか見えない「憶測の成立」(目)

この2作品をはじめ、これまでの「大地の芸術祭」ではあまりしてこなかった、十日町の市街地にもアプローチをはかっているそうだ。

Soil Museum もぐらの館

旧東下組小学校を活用した「土」を体感する美術館。左官職人、写真家、陶芸家などが参加し、それぞれアプローチで越後妻有の「土」の特質や歴史を表現している。廊下を丸ごと使って原始的な土の工法でつくられた「もぐらの散歩道」(日置拓人氏+本田匠氏)、縦に細長い階段の高低差を使って山水図を立体的に描く「泥枯山水階段」(木村謙一氏)、土の豊かな色や美しさの魅力を壁画で表現する「原子へと続く道」(佐藤香氏)など、見ごたえのある作品が多い。

「泥枯山水階段」について説明する木村謙一氏

「泥枯山水階段」について説明する木村謙一氏

土の豊かな色を壁画で表現する「原子へと続く道」(佐藤香)

土の豊かな色を壁画で表現する「原子へと続く道」(佐藤香)

直径約4.2m、厚さ25cmの土の球体「球体 01」(大平和正)

直径約4.2m、厚さ25cmの土の球体「球体 01」(大平和正)

うたかたの歌垣/古郡弘

総合ディレクターの北川フラム氏が「初めて見た時に、会心の出来だと感じた」と語る本作は、「じょうもんの湯 おふくろ館」の一角を改修して展示されたものだ。若い男女が互いに求愛の歌謡を掛け合う「歌垣」に着想を得て、カラスの羽による漆黒の屋根や乾漆、鉛、金箔、木、古紙(こより)などが用いられた茶室を6年以上の歳月をかけて制作。古郡弘氏の執念を感じさせる作品だ。花器には松之山に自生する蓮が連日活けられる予定。

制作に6年の歳月がかかった「うたかたの歌垣」(古郡弘)

制作に6年の歳月がかかった「うたかたの歌垣」(古郡弘)

また、今回はプレスツアーでは廃校を活用した新しい施設にも訪れた。ひとつは、旧上郷中学校が「上郷クローブ座」として再出発。こちらは体育館を劇場空間にしたパフォーミング施設で、パフォーマーたちのレジデンス施設、稽古場としての機能を備えるパフォーミングアーツの拠点として利用される。年々、増加するパフォーミングアートの公募へ応える形の新しい取り組みだ。もうひとつは、旧清津峡小学校の体育館を「清津倉庫美術館」として大幅にリニューアル。作品の保管庫とギャラリーを兼ねた倉庫美術館となる。お披露目となる今回は、4名の作家による企画展「4人展 : 素材と手」を開催。

旧上郷中学校の体育館を劇場空間にした「上郷クローブ座」

旧上郷中学校の体育館を劇場空間にした「上郷クローブ座」

旧清津峡小学校の体育館を「清津倉庫美術館」としてリニューアル

旧清津峡小学校の体育館を「清津倉庫美術館」としてリニューアル

その他には過去の「大地の芸術祭」に出展され、大地の芸術の里の常設作品となった、「ポチョムキン」(カサグランデ&リンターラ建築事務所)や、「たくさんの失われた窓のために」(内海昭子)など、そこにある風景と一体化する象徴的な作品を見学。現地に行く機会があったら、ぜひ観ておきたい作品だ。

不法投棄の多かった場所につくられた「ポチョムキン」(カサグランデ&リンターラ建築事務所)

不法投棄の多かった場所につくられた「ポチョムキン」(カサグランデ&リンターラ建築事務所)

妻有を見渡す台地に立つ「たくさんの失われた窓のために」(内海昭子)

妻有を見渡す台地に立つ「たくさんの失われた窓のために」(内海昭子)

多くの人から注目を集める「大地の芸術祭」。展示場所が広範囲にわたるので、ある程度リサーチをしてから現地に赴いたほうが楽しめるとは思うが、特に今回は力を入れている「食」に主眼を置いてスケジュールを組んでみるのも良いかも知れない。取材時に「里山食堂」でいただいた、新鮮な現地の野菜は格別だったことを記しておきたい。

地の野菜をたっぷり使った、ビュッフェスタイルの「里山食堂」

地の野菜をたっぷり使った、ビュッフェスタイルの「里山食堂」

「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015」
会場:越後妻有地域(新潟県十日町市・津南町)760k㎡
会期:2015年7月26日(日)~9月13日(日)
http://event.japandesign.ne.jp/2015/06/7750/