誰もが楽しめる未来の建築、ハイテクノロジーの先のネオアナログへ ー 齋藤精一インタビュー(1)

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誰もが楽しめる未来の建築、ハイテクノロジーの先のネオアナログへ ー 齋藤精一インタビュー(1)
2016年7月、新たに発足したライゾマティクスの建築部門「Rhizomatiks Architecture(ライゾマティクスアーキテクチャー)」。10月に開催される東京ミッドタウンの「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2016」では、メインの展示として彼らがデザインする初の大型インスタレーション作品となる「CURTAIN WALL THEATRE」が芝生広場に出現する。それは、人の感情によって空間がダイナミックに変化する新しい建築。発想からモチーフの選び方、作品に込めた思いを、ライゾマティクスの代表取締役社長であり、「Rhizomatiks Architecture」を率いている齋藤精一さんに聞いた。
「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2016」に登場する大型インスタレーション「CURTAIN WALL THEATRE」。参加者のひとりが画面左の台に立ってデバイスを装着し、「集中」することによってカーテンが開閉する。夜にはライトアップされ、違った様相を見せる http://www.tokyo-midtown.com/jp/event/designtouch/

「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2016」に登場する大型インスタレーション「CURTAIN WALL THEATRE」。参加者のひとりが画面左の台に立ってデバイスを装着し、「集中」することによってカーテンが開閉する。夜にはライトアップされ、違った様相を見せる
http://www.tokyo-midtown.com/jp/event/designtouch/

ライゾマティクスでは、設立10周年を迎えた今年7月、「Research」「Architecture」「Design」の3部門を発足しました。これまではジャンルを分けずにクリエーションを行ってきましたが、もう少し専門性を明確にするためにわかりやすい旗を立てたかたちです。

齋藤精一さん(株式会社ライゾマティクス 代表取締役)

齋藤精一さん(株式会社ライゾマティクス 代表取締役)

僕が代表を務めている「Rhizomatiks Architecture」は、建築を学んだスタッフを中心とした建築部門。調査や設計、都市開発、イベント運営などをシームレスに行い、その空間で起こる体験のすべてを創造することを目的としています。現在はいくつかのプロジェクトを並行して進めていますが、東京の再開発が急速に進んでいることもあり、都市開発に関する案件が多いですね。

「Rhizomatiks Architecture」では、従来の空間論とは異なる考え方で建築にアプローチしていきたいと思っています。たとえばメディア的な発想を切り口にしたり、モーターみたいなもので動くようにしたり。あとは、ビッグデータや人工知能を用いることにも取り組んでいます。つまり僕らが行っているのは、天井が何色で、どういう素材を使うかを考えることではなくて、「建築のUXデザイン」ということになるでしょうか。空間にいる人にどんな体験を与えられるか、さらに、そのために必要な施設の運営方法や事業形態のプランニングにいたるまでをトータルで考えるのです。

東京・恵比寿にある、多中心的で多視点なライゾマティクスのオフィス。設計は中川エリカ建築設計事務所が担当

東京・恵比寿にある、多中心的で多視点なライゾマティクスのオフィス。設計は中川エリカ建築設計事務所が担当

身近なモチーフを科学した、老若男女が楽しめる「動く建築」

「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2016」で展開する「CURTAIN WALL THEATRE」は、今年の2月に「MEDIA AMBITION TOKYO」で出展した「SPACE EXPERIMENT #001, 002, 003」シリーズの進化版ともいえるものです。僕はこれまでに、いろいろな作品を通して、空間を使っている人と空間自体が直結できる方法を探ってきました。そのひとつが、「#001 Minded Mirror」。脳波を読み取るデバイスを鑑賞者が装着して「集中」すると、目の前にあるミラーでできた装置がゆっくりと閉じていくという作品でした。人の感情が建築に作用して動くというエスパー的な発想が、予想していたよりもわかりやすく鑑賞者に響いたので、またどこかでやりたいと思っていたんです。

「MEDIA AMBITION TOKYO」に出展された「SPACE EXPERIMENT #001」 Photo: YAMAGUCHI KENICHI (RRD)

「MEDIA AMBITION TOKYO」に出展された「SPACE EXPERIMENT #001」
Photo: YAMAGUCHI KENICHI (RRD)

「五感で楽しむデザイン」という「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH」のマスターコンセプトは、体験者に多くを委ねる場合が多いと考えています。今回の「CURTAIN WALL THEATRE」も「#001 Minded Mirror」と同じく脳波を使った作品で、デバイスを装着した参加者が集中すると、カーテンが一斉に開閉するインスタレーションです。ひとりの感情によってコントロールされた巨大な装置に、人々は自由に出入りすることができます。カーテンのなかでは、子どもだったら変化する空間を単純に楽しむでしょうし、しくみを知っている大人だったら、他人に制御されている空間のなかにいる状態に違和感を覚えるかもしれません。脳波でカーテンを操る人とそのカーテンに佇む人。その相互性が知らないうちに起こることで、心も含めた五感で感じてもらえるような、今までにないデザインの新しい体験をしていただけると考えています。

でも、実際に建ててみないとわからないのは、建築のおもしろいところでもあり、難しいところでもあります。「CURTAIN WALL THEATRE」のなかでどんな体験が生まれ、人がなにを感じ、どう遊ぶか、あるいはどう壊れていくのかは、僕も本番にならないとわからないのでとても楽しみですね。

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東京のど真ん中にある東京ミッドタウンの芝生広場は、東京の人にとって特別な場所だと思います。「CURTAIN WALL THEATRE」は従来の建築家によるインスタレーションとはちょっと違った、ライゾマティクスの建築チームならではのインスタレーションを数多くの人、老若男女にぜひ体験していただいて、いろいろな意見を持っていただければと思い、参画しました。

これまで、実験系の建築はハイブローなものが多かったかと思います。でも、作品がわかりにくすぎると子どもが自由に遊べなかったりする。だから、難しいうんちくを知らなくても、単純におもしろいとか、きれいとか、気持ちいいと感じられる空間にしたいと考えました。そして、建築家の人はソリッドな空間をつくることが多いなかで、僕は可変する空間みたいなことを考えた。そこが、従来の建築の考え方とはちょっと違うところです。

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誰もが楽しめる建築にするために、可変する「壁」の部分にはカーテンを採用しました。身のまわりにあるものを、科学の力でもう少しおもしろくできたらと思ったんです。それに加えて、これだけの空間のボリュームを満たすために、できるだけ汎用性があって一般的であるものを使いたくて。

カーテン以外の案としては、信号の遮断機や、駐車場の出入り口にある開閉式のバーなどが挙がっていましたね。人の動きを制御するもので、身近にあるもの。でも、数分間で劇的に空間を変化させる、それから、人の脳波というミクロな情報をマクロな空間の演出に使うという視点からカーテンを選びました。

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実はカーテンを作品に使うことは、ずいぶん前からアイデアとしてもっていたんです。カーテンって、おもしろくないですか? 居住空間では、外部と内部の透明と不透明、透過性を操る存在。空間操作のツールとしては定番であるカーテンを使って、いつかなにかをつくりたいと思っていました。だから今回のお話をいただいたときには、やっと実現できることがうれしかったですね。

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