「世界で最も美しいミュージアム 2026」リストに選出。形なき文化をアーカイブするMoN Takanawa

「世界で最も美しいミュージアム 2026」リストに選出。形なき文化をアーカイブするMoN Takanawa
2026年3月28日、東京・高輪ゲートウェイシティ内に開館した「MoN Takanawa: The Museum of Narratives(モン タカナワ: ザ ミュージアム オブ ナラティブズ)」。

100年先につながる文化創造・発信拠点として誕生した同館が、国連教育科学文化機関(ユネスコ)による世界的な建築賞「Prix Versailles(ベルサイユ賞)」の美術館・博物館部門「The World’s Most Beautiful Museums 2026(世界で最も美しいミュージアム 2026)」リストの1つに選出されました。日本国内にあるミュージアムのリスト選出は、2024年にベルサイユ賞を受賞した下瀬美術館(広島県大竹市)に続いて2館目の快挙です。

「MoN Takanawa: Museum of Narratives」外観

「MoN Takanawa: The Museum of Narratives」外観

今回、この空間で開催される多種多様なコンテンツを企画運営している、一般財団法人JR東日本文化創造財団 コミュニケーション推進部長の清水理三郎さんに、開館早々に世界から注目を集めた理由や、“新たなミュージアム”のあり方についてうかがいました。

世界が評価した、「文化を未来につなぐ」ミュージアム

「ベルサイユ賞」は、2015年にユネスコ本部にて創設された、世界各地の優れた現代建築プロジェクトを顕彰する世界的な建築賞です。単なる造形美にとどまらず、建築が環境・社会・文化に与える影響を含めて評価される点が特徴です。

毎年、空港やホテル、レストランなど多岐にわたる施設が対象となり、各部門のリストに選出された施設の中から、フランス・パリのユネスコ本部で年末に開催される授賞式で、「ベルサイユ賞(最優秀賞)」「内装特別賞」「外装特別賞」の3つの賞が選出されます。

――まずは、「世界で最も美しいミュージアム2026」リストへの選出おめでとうございます。今回どのような点が特に評価されたと思いますか?

開業してまもないタイミングでの選出は大変光栄です。評価された点としては、ロゴやサインなどのグラフィックも含めて、「文化を未来につないでいく」というコンセプトが、螺旋構造の建物から来館者に提供する体験価値まで一貫して表現されている点に注目され、世界的にもユニークだと思っていただいたのではないかと思います。

また、施設名に関しても、「物語」を意味する「Narratives(ナラティブズ)」が、外装や空間、ブランディングというところで結びついてコンテクストが伝わりやすかったのではないでしょうか。

デザインスタジオ「Pentagram(ペンタグラム)」が手がけたロゴ。スパイラル状のシンボルマークは、「文化は止まることなく、螺旋を描きながら移り変わり、時間と空間を超えて物語を紡ぎ、未来へつながっていく」という精神を表現している

イギリスのデザインスタジオ「Pentagram(ペンタグラム)」が手がけたロゴ。スパイラル状のシンボルマークは、「文化は止まることなく、螺旋を描きながら移り変わり、時間と空間を超えて物語を紡ぎ、未来へつながっていく」という精神を表現している

そして、高層ビルが建ち並ぶ東京の都心にあえてシンボリックな低層建築を造った点などが、国内外に新設されたミュージアムの中でもひときわ存在感を放っていて評価につながったのだと感じています。

――建物が完成した時にどのような可能性を感じましたか?

外観を初めて見た時は、スケール感に圧倒されました。また、外観の植物が成長するにつれて、日本の四季の移ろいや自然との調和を感じるデザインであることにも驚かされました。内観では、光と影の入り方や、見る角度によって表情を変える天井のルーバーなど、細部まで計算し尽くされた美しさを感じています。

2Fエントランスロビー Photo:Yasuyuki TAKAKI

一方で、運営側としての難しさも感じました。というのも、館内の多くを占める白い壁はどこでもアート作品の展示やプロジェクション投影が自由にでき、床もアンカーを打てる仕様となっているなど、自由な「余白」が広がっていたからです。

館内には、用途の定義を固定しないようにあえて各空間に「シアター」や「展示室」といった名前を付けず、抽象的に「Box(ボックス)」と呼ぶ3つの空間と、靴をぬいでくつろげる約100畳の畳空間「Tatami(タタミ)」の計4つの展示空間があります。それらをスロープや階段でつなぎ、来館者が回遊できる導線となっています。それぞれのスロープでつながるこの環境で、いかに来館者に一貫した体験を届け、物語を持ち帰っていただくかは、キュレーションの腕が試されると感じています。

――その自由な「余白」を活かすために意識していることはありますか?

ただ単に空間を空けておくのではなく、人が自然とそこに留まり、語りたくなるような仕掛けを意識しています。例えば、館内のパブリックスペースには、大阪・関西万博の会場に設置されていた3Dプリントでつくられたスツールや、日本科学未来館から寄贈されたいろいろなサイズの椅子とテーブルなどを配置しています。

日本科学未来館から寄贈された椅子とテーブル

日本科学未来館から寄贈された椅子とテーブル

また、日本初の鉄道が走る際に海上へ築かれた鉄道施設跡「高輪築堤」で使われていた約150年前の松杭をベンチとして再利用し、屋上やテラスの一部には高輪築堤の石をそのまま活用するなど、それぞれに物語を持つものをさりげなく点在させています。この仕掛けを点在させることによって、かつてこの地に刻まれた歴史の記憶と、現在進行形で生まれる文化や表現が交差する空間づくりを意識しています。

生きている営みそのものを100年後へアーカイブ

――MoN Takanawaを回遊していると、どこか内側と外側の境界が曖昧な印象を受けました。

日本の伝統的な平屋のような感じがしますよね。隈研吾さんによるこの設計は、都市に対して閉ざすのではなく、1階はぐるっと外側を回り、3階から内側に入り込んで再びぐるっと回って、6階から外に出ていく構造になっています。内と外を自然に行き来できる、「都市に開かれたミュージアム」になっています。

クレジット「Photo_ Yasuyuki TAKAKI」画像2

Photo:Yasuyuki TAKAKI

MoN Takanawaから出た瞬間に現実に戻ってしまうのではなく、館内での感動や体験がシームレスに日常へと続いていく。そして、気づきや感じたことを誰かに話したくなるような豊かな体験を提供し続けられればと思っています。

2026年5月16日まで開催されていた「MANGALOGUE(マンガローグ):火の鳥」では、ロボットアームを使った最新のイマーシブ体験を提供した後、畳の部屋で元々の漫画をじっくりと読み返し、パブリックスペースで感想を語り合っていただくような導線をデザイン

2026年5月16日まで開催されていた「MANGALOGUE(マンガローグ):火の鳥」では、館内に原作の手塚治虫『火の鳥』を並べ、最新のイマーシブ体験をした後、各空間に置かれた漫画をじっくり読み返してパブリックスペースで感想を語り合えるような導線をデザイン

――これまで私たちが持っていた、いわゆる「ミュージアム」の概念が変わりそうですね。最後に今後の展望を教えてください。

オープニングのこの半年のテーマとして「Life as Culture – 生きるは、ブンカだ。」を掲げています。「ミュージアム」と言うと、コレクションや所蔵品を持っていたり、研究していたりというイメージがあるかと思います。

しかしMoN Takanawaはコレクションを持つことを目的としておらず、人々の営みやプロセス、「生きること」そのものが「文化をつくり、つないでいく」、まさに生きている営みそのものが文化であると考え、100年後の未来へアーカイブしていくことを目指しています。その考え方はこの多次元的な空間構造にも表れています。

かたちのない「文化」というものを記録し、アーカイブとして残すことは簡単ではないですし、まだまだ試行錯誤の途中ですが、それもまた未来のどこかにつながっているはずです。日々ここで文化、歴史を作っているという感覚を持ちながら、さまざまな展覧会やライブ・パフォーマンスの体験をお届けしたいですね。

6F月見テラスから眺める高輪

6F月見テラスから眺める風景。江戸時代、この一帯は海岸線に面した月見の名所だった

■MoN Takanawa: The Museum of Narratives
https://montakanawa.jp/

取材・執筆:Naomi 編集:岩渕真理子(JDN)