編集部の「そういえば、」2021年6月

編集部の「そういえば、」2021年6月

ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。

どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。

日本のものづくりが集う展示会

そういえば、先週、中川政七商店が運営する「第6回 合同展示会 大日本市」に行ってきました。大日本市は展示会やイベントの企画などで、日本のつくり手(工芸メーカー)と伝え手(小売店)をつなぐ活動をおこなっていて、小売店に向けた製品の紹介や情報発信などを行っています。

約1年ぶりの開催となった今回は、全国各地の工芸・雑貨・食品メーカー65社が出展し、たくさんの製品が会場に並びました。基本的にバイヤーを対象にした展示会のため一般来場はできないので、個人的に気になったプロダクトをここでご紹介します!

■HEP

履物の産地である奈良県で、1952年に創業した川東履物商店が手がけるサンダルブランド「HEP(ヘップ)」。いわゆる「つっかけ」や「ご近所ばき」と言われ、さっと履いて気楽に出かけられるヘップサンダルを、未来にもつなげられるようにという思いからスタートしたブランドです。

現在のシリーズは5種類で、さまざまな服装に合わせやすい色合いや形をしたヘップサンダルが並びます。長年、日本の家庭で親しまれてきたヘップサンダルの新しいスタンダードになりそうです。

■LinNe

LinNe(リンネ)」は、京都にある創業180年余りの鳴物専門の南條工房がつくったブランドです。銅とスズの合金である「佐波理(さはり)」という素材を使った、新しいかたちの「おりん」をつくっています。

おりんと言うと仏間にあったりお寺でみかけたりという印象が強いですが、「もっと身近に佐波理おりんの音色を楽しんでほしい」という思いから立ち上げられています。一つひとつ職人が手づくりでつくることから一つとして同じものはない、やさしく広がる澄んだ音色が特徴です。

JDNのプロダクトを紹介するモノとコトでも、近々記事としてさらに詳しい情報をお伝えしたいと思っていますのでお楽しみに!

(石田 織座)

市民の視点で街を見つめるドキュメンタリー

そういえば、いまわけあって各領域のデザインの歴史を総調べしているのですが、「都市デザイン」について調べる中で、ジェイン・ジェイコブスのドキュメンタリー『ジェイン・ジェイコブズ ニューヨーク都市計画革命』を観ました。

この映画は、『アメリカ大都市の死と生』で知られる彼女が、60年代にどのような革命を社会にもたらしたのか、建築家や都市計画家などのインタビューを通して紐解いていくもの。ニューヨークという街が辿った歴史を振り返りながら、都市計画家であるロバート・モーゼスと彼女の戦いの過程が、当時のニューヨークの様子が感じられる記録映像の数々とともに描かれていきます。

本作では、エンパイアステートビルディングに代表されるニューヨークのスカイスクレイパーが次々と建設された1920〜30年代から、大恐慌、第二次世界大戦を経て、デベロッパーや政治家たちによって都市の姿が劇的に変容されていく様が描かれていきます。公営団地や集合住宅、高速道路が整備され、人々の暮らしというものが、権力を持った一部の人間の采配によって規定されてしまった時代。スラム街をまるで病気のように扱い、計画された街のあり方からはみ出す人々を切り捨てるように扱う専門家たちに立ち向かい、怒れる市民たちの声を掬い上げ、導く存在として登場するジェイン・ジェイコブズの姿が、ドラマチックに映し出されていきます。

『アメリカ大都市の死と生』において彼女は、都市の中で生きるひとりの市民の視点から、街で生きることのすばらしさや、「生活」を描写しています。「複雑な秩序」という言葉で表現されていますが、ストリートを自由に行き交う無数の人々と、そこから生まれる、複雑で規定しがたい秩序が都市を形成するのであって、テーブルの上の都市の模型を見下ろす男性政治家やデベロッパーたちには、都市はデザインできないということ。ジェインが彼らに放つ鋭い言葉によって、女性たちが連帯していく様がとても感動的です。

2016年に公開された本作は、おもに60年代を舞台としていますが、フェミニズムや公民権運動など、2021年を生きるいまもなお向き合わなくていけない問題について、さまざまなことを感じさせる映画だと思います。恥ずかしながら『アメリカ大都市の死と生』は10年弱積読しているのですが……これから読むのがとても楽しみです。

(堀合 俊博)