クリエイターの「わ」第14回:YUVI KAWANO

クリエイターの「わ」第14回:YUVI KAWANO

クリエイターからクリエイターへと、インタビューのバトンをつないでいく連載「クリエイターの『わ』」。編集部がお話をうかがったクリエイターに次のインタビューイを紹介してもらうことで、クリエイター同士のつながりや、ひとつのクリエイションが別のクリエイションへと連鎖していくこと=「わ」の結びつきを辿っていくインタビューシリーズです。

前回のうーたん・うしろさんからバトンを受け、今回お話をうかがったのはランジェリーデザイナーのYUVI KAWANOさんです。ロンドンへの留学経験があり、現在は東京と京都の2拠点で活動しているというYUVIさん。

女性の体のラインやフォルムの美しさを表現したコレクションの数々は、ランジェリーというよりアート作品のよう。ランジェリーブランドを立ち上げたきっかけや、2年前に移り住んだという京都で得たインスピレーション、なくてはならない仕事道具などをうかがいました。

ランジェリーブランド立ち上げのきっかけ

私はもともとロンドンの大学で、ファインアートを学んでいました。ロンドンはLGBTQ系のカルチャーがすごく発達していて、関連イベントなどもよく開催されているんですね。そこでランジェリーブランドのデザイナーさんと関わらせていただく機会があり、3年間インターンのような形でデザインアシスタントをさせてもらいました。

ランジェリーブランドは、機能重視だったり、胸を大きく見せたりするフェミニンなイメージが多いなかで、ファッション性やかっこよさをもっと自由に表現できるジャンルがあるといいのにと思い、自分でブランドを立ち上げました。

最近は少しオープンになってきましたが、ブランドを立ち上げた当初は展示会やショーなどをおこなっているブランドは少なかったですね。ランジェリーブランドで展示会をやると言ったら、ギャラリーはなかなか場所を貸してくれず、すごく大変だったのを覚えています。現在はブランドを立ちあげて3年目です。コレクションによってテーマは変わりますが、女性ならではの体のラインやフォルムにすごく惹かれる部分があって、女性の美しさみたいなものを表現できたらと思っています。

作品紹介

「SABI Corset」

最近は、錆染め(さびぞめ)の技法を使った「SABI Corset」を発表しました。錆って排除されがちなものだと思いますが、それをあえて使ったコルセットで、日本の伝統文化と現代のデザインを融合させました。テキスタルデザイナーの友人と一緒につくりあげたものです。

「SABI Corset」

「SABI Corset」

コレクションごとにストーリーやワードをつくり、コンセプトを決めています。ただ、今回はもうちょっと手が勝手に動いていくようなことをしたくて。脳が思考するというよりも手を思考させるというか、手を動かしていくことによって進んでいく作品になりましたね。

「AJIRO COLLECTION 2023」

同じく手を動かすことで生まれたのが、網代(あじろ)細工からインスピレーションを受けてつくったコレクションです。京都に住みはじめてから、伝統工芸や古風なものに触れていくなかで、こういうテクニックを自分の作品に落とし込めないかなと思うことが増えました。

AJIRO COLLECTION 2023

「apoyb」

1番最初に発表したコレクションは「apoyb」です。ロンドンにいる時に子宮系の手術をしたんですが、内部をえぐられる悲しみだったり、自分が健康だと思っていたから感じた精神的なショックだったりを表現としてコレクションにできないかなと思ったのがきっかけです。この時はコレクションショーや展示会を中目黒で開催しました。

apoyb

ビジュアルでは緑をアクセントにしているんですが、これは病院にいたときに「I am clean」と書いてある緑のシールがいっぱい施設内に貼ってあって、それがすごく目に入ってきたんです。たぶん“除菌済み”みたいなことを表現しているシールだと思いますが、それがすごく印象的でした。それをブラジャーやショーツ、展示空間のアクセントとして入れたりすることで、一連の体験の中で生まれてきたコレクションだということを表現しました。

apoyb

コレクションを発表する上で、普通はどこをターゲットにするかとか、マーケティングを考えると思うんですが、私はそういうことはあまり考えず、本当に“ただこれを表現したい”という思いだけがありました。この展示会をおこなったことで、ランジェリーブランドのセレクトショップの方などが見に来てくださり、日本で本格的にランジェリーブランドを展開していくきっかけになりましたね。

お仕事クエスチョン

Q.なくてはならない仕事道具はありますか?

道具のこだわりは強いほうではありませんが、私が小学生ぐらいの時に、祖母が買ってくれた鳥の形の糸切りばさみはずっと使っていますね。似たような形のものを雑貨屋さんなどでも見ますが、使い慣れたものだから大事にしています。

YUVIさんが昔から使っているという糸切りばさみ

ランジェリーはパーツも多いし細かく縫う部分があるので、糸切りばさみをよく使うんです。Tシャツの場合、パーツは4パターンくらいだと思いますが、ブラジャーは12パターン以上になることが多いので。

普段デザインを起こしていく時は、ノートにラフにメモをしています。綺麗に描くのではなくてササっとスケッチしていくというか。そのほかにもたとえば体に直接ペイティングして、その線に合わせて切ったりとか。最初からデザインを決めきってしまうと、手を動かしているときにあらわれる偶然の面白さがなくなってしまうので、全部をコントロールしきらないようにしています。

Q.あなたの仕事場とそのこだわりについて教えてください。

いまは一軒家を借りてそこを住居兼アトリエにしています。これはうーたんに影響されているんですが、彼のアトリエに行ったことがすごくいい経験になっていて。ああいうところで自由に制作できるといいなと思ったのがきっかけの一つですね。

シンプルなことですが、家や庭が広いとすごく制作の幅が広がります。いっぱい水を使えたり、乾かす場所も広く取れますし。東京ではなかなかそういうことはできないので。撮影もスタジオを借りないで、全部庭で撮ったりすることがあります。

Q.仕事をする上で大切にしている日課

その時々でやりたいことをやっているので明確なルーティンはないんですが、ここ最近は鉄観音茶のプロテインを飲みはじめました(笑)。パッケージに惹かれて買った、台湾のものですね。少し割高だけど1回買ってみたらおいしくて、これなら続けられるなと。プロテインは飲んでいるだけだと太ってしまうので、運動もちゃんと習慣化できているのでよかったです。

あなたのクリエイターのわ

◯影響を受けたデザイナーやクリエイター

たくさんの方から影響は受けていると思いますが、いま一人挙げるならニキ・ド・サンファルです。アーティストのほかにモデルの仕事や子育てもしていて、あの時代の中で女性の地位というか、立場をすごく強くしていってくれた方なのかなと。

もちろん作品もすごく好きです。彼女は20年以上かけてイタリアのトスカーナに「タロットガーデン」という彫刻庭園をつくったんですが、女性の体に入っていくような作品もあって、そういう表現もユニークで素敵だなと思います。

◯前回のうーたんさんからの質問:ユミックスのつくるランジェリーにおいて、素材とはどのようなものですか?また、素材を選ぶ時に気をつけていることはありますか?

素材を選ぶ時に気を付けているのは、それがどうやってつくられたものなのか、どこでつくられたかを確認することです。素材には、それがつくられた土地でしか生み出せない風味があると思っていて、そういうものを作品に乗せていけたらなと思っています。

既製品を使うにしてもそこからちょっとアレンジして、自分の素材として使うことを考えますね。買ってきたものでそのままつくるのは誰でもできちゃうじゃんって。変なプライドかもしれないんですが、誰もが簡単につくれないものをつくりたいっていうのがありますね。

◯ご紹介したいクリエイター

YUVI KAWANOさんにご紹介いただくクリエイターは吉川和人さんです。

◯吉川和人さんへのメッセージと質問

吉川さんとは、彼が私の展示会に来てくださってから偶然会う機会が重なり、仲良くさせてもらっています。ランジェリーは吉川さんの専門である木工と離れたジャンルかつ特殊な分野ですが、クリエイターとして認知し、作品づくりに興味を持っていただきとても嬉しかったです。

吉川さんの自然に向き合う姿勢や言葉に共感しつつ、美しさを追求した造形と木特有の個性を生かしたものづくりが毎回素敵だなと思っています。

以前「The thinking hand」という展示でご一緒したときに、ものをつくる際に手で考えること、動かすことについて少しお話ししました。私は最近、大きさや迫力について、また体感することに興味がありますが、吉川さんは大きい作品をつくるとしたらどんなものをつくりたいですか?

次回のクリエイターの「わ」は、吉川和人さんにお話をお聞きします。

タイトルデザイン:金田遼平 聞き手:石田織座(JDN)