編集部の「そういえば、」2021年7月

編集部の「そういえば、」2021年7月

ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。

どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。

カーテンにぴったりなAsendadaの生地

そういえば、かなりパーソナルなことですが今年のはじめに引越しをしました。リノベーション済み、さらにDIY可という好物件なのですが、裏を返すとカーテンレール・収納などの備え付けがまったくないという、なんとも創作意欲を掻き立てる部屋だったのです。そこでインテリアデザイナーに相談・設計してもらい、壁一面にわたるカーテンレールをDIYしました。

設計のCG。窓枠と壁までを覆うカーテンレールです。

「せっかくだからインパクトのある生地をカーテンにしたい!」と思っていたところ、知人から「Asendada(アセンダダ)」を紹介してもらいました。

「Asendada」は、デザイナー・サトウアサミさんが手がけるテキスタイルレーベル。もともと絵画の制作をベースに、空間やパッケージなどのアートディレクションを行っていたサトウさんが、「生地デザイン専門の部門を」と独立させてつくったレーベルです。

絵画制作の延長でテキスタイルデザインも行われているということもあって、どの生地も絵としての魅力が詰まっています。テキスタイルデザインの特徴の一つにリピート(図柄が繰りかえされる様)がありますが、「Asendada」のデザインは大柄なリピートのものが多いため、カーテンなどの広範囲に使用するのがぴったりです。

実際に部屋に設置された「Asendada」のカーテン。

Webサイトでビジュアルを見たところ、ビビビっと来てしまい、早速購入!と思い立ちましたが、特にオンラインショップ・小売りの説明がない様子……。そんなクール(?)な対応も良い!となぜか納得し、友人経由で繋げてもらい、アトリエへお邪魔することになりました。

デザイナー・サトウさんに相談のもと、カーテン用には「Fruits Green」を、クッション用に「Hide1」を購入しました。

手前の大きなクッションの生地が「Hide1」。「Fruits Green」の余った生地で小さなクッションもつくりました。

今回一番良かったポイントは、つくり手であるサトウさんと直接話せて購入できたこと!制作の背景や、工場生産の工夫ポイントまでお聞きしました。またアトリエの様子やお人柄も知ることができ、今ではもうすっかりファンのひとりです。人に会うことが難しい世の中ですが、「会いたい!」や「欲しい!」という熱量は、物事を好転させてくれると、改めて学んだ1件でした。

(栗木 建吾)

「わからない/わかる/わかろうとする」ためのヨーゼフ・ボイス

そういえば、先日埼玉県立近代美術館で開催中の「ボイス + パレルモ」展を観にいったことをきっかけに、ここしばらくはボイスに関連する書籍をいくつか読んだり、彼のドキュメンタリーを観たりしていました。「誰もが芸術家になることができる」と語り、「社会彫刻」の概念を提唱したことで知られるボイスですが、なかなか難解な彼の作品について考えるにあたって、2017年に公開されたドキュメンタリー『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』は、彼の生涯を通した活動を知るにあたってとてもいい作品だと思います。

「ボイス + パレルモ」展ではじめてじっくりとヨーゼフ・ボイスを鑑賞することができたのですが、有り体に言えば奇妙な組み合わせの無機物がごろりとそこに横たわった空間の中で、ただひたすら作品に織り込まれた意味を紐解きたいという気持ちのまま、しかめっ面をしながら過ごしていたと思います。

ドキュメンタリーの冒頭、グッゲンハイム美術館で行われた彼の展示を観た観客たちが、それぞれ感想を述べるシーンがあるのですが、「工事現場みたいでがっかりした」という言葉があり、そのくらい彼の作品は、アート作品に期待される暗黙の美的感覚や、理解をはねのけるようなものばかりです。

映画では同じく「芸術とはなにかを考えさせられた」と感動を語る観客の姿も映し出されています。彼の作品において象徴的に使用される素材に込められている意味を知ることで、彼が表現したいことの一端を垣間見れる瞬間に、芸術に触れた時に内側で広がる独自の感覚があるのは確かだと思います。彼の作品では、フェルトと脂肪が繰り返し使用されていますが、フェルトは絶縁体を象徴するものであり、脂肪は運動を彫刻する素材であるという解説がそこに加えられると、脂肪の塊が塗り固められた椅子や、フェルトに覆われたグランドピアノの意味がわかるような気がしてくるのです。

また、彼が第二次世界対戦従軍中に負傷した際にタタール人に救出され、体温保持のために獣脂を塗布した上でフェルトで包まれたというエピソードは、どこか素材に対する精神的な結びつき、あるいは執着のようなものも感じさせます。

一方で、彼が討論会やシンポジウムで語る姿はとてもパフォーマティブで、明快なメッセージを観客に訴えかけています。芸術の既成概念を覆し、拡張すること。旧来のシステムや官僚主義によって失われてしまった民主主義を取り戻すこと。それらが人を鼓舞すると同時に反感も買い、大きな波紋を生んでいく中でも、彼は終始ユーモアの感覚を忘れずに、時に冗談を言い放ちます。その姿は力強く、芸術家というよりも活動家のような佇まいです。

そういった「わからない/わかる」を繰り返しながら、なぜだかボイスのことを考え続けてしまう。なんとかわかろうとする中で、どうしても彼の生い立ちや戦争体験などといった、ある種わかりやすい理由付けとともに彼の作品のことをわかったつもりになってしまいそうになる。ですが、彼のことを知れば知るほど、そのことに強い抵抗すらも覚えてしまいます。そんな芸術家は、やはりボイスのほかにはいないのだなと思います。まだしばらく考えてしまいそうです。

(堀合 俊博)

手元に置いておきたいパッケージ

そういえば、先日、パッケージデザインの美しさからずっと気になっていた「サンタ・マリア・ノヴェッラ」の石けんを購入しました。

「サンタ・マリア・ノヴェッラ」は、イタリア・フィレンツェで800年の歴史を持つ世界最古の薬局で、オーデコロンやホームフレグランス、スキンケア、ヘアケアなどの商品を取り扱っています。もともとは修道僧たちが薬草を栽培して薬剤を調合していたのが始まりだそうで、各商品は自然治癒や予防医学という思想をもとに、創業当時から変わらない製法でつくられています。

SNSやネットで商品をくまなくチェックしていたのですが、今回は実際に店舗に行ってみてパッケージデザインに一目ぼれした「ミントソープ」と「アーモンドソープ」の2点を購入しました。

ミントソープ。石けんが包まれている紙にもびっしりと文字がデザインされています。

ミントソープは、夏に合いそうなミントの香りで、すっきりした使用感のボディソープ。パッケージはすべすべした白い箱にミントらしいさわやかな緑色の文字が印象的なデザインです。薬局で売っていそうな少しラフな箱のつくりで、日常使いしやすい印象を受けます(とはいってももったいなくて使えていませんが……!)。

アーモンドソープ。山吹色の箱に黒一色で文字がデザインされています。

アーモンドソープはスイートアーモンドオイルを配合した、保湿力の高いソープ。ミントソープよりさらになめらかな質感の紙で、高級なチョコレートが入っているようなしっかりしたつくりの箱です。アーモンドのはずですが、杏仁のような甘く少しひねりのある香りで、ボディケア商品ではなかなか出会わない特別感があります。ちなみにお店の方に教えていただいたのですが、映画「ハンニバル」でレクター博士がクラリスに贈ったプレゼントとして話題になったソープなんだとか。

アーモンドソープの箱を開けるとふたの内側にはイタリア語(?)で文字が描かれているのですが、なんと文字はすべて黒の箔押し……!内側というすぐには見えないところに贅沢感を出すところに粋な印象を受けました。

文字はすべて黒の箔押し。見えない部分までしっかり丁寧にデザインされていました。

また、海外のパッケージによく見受けられる気がする、複数のフォントを使ってデザインしているということも驚きポイントでした。複数のフォントを混ぜるとバランスが難しかったり、表現がとっちらからってしまいそうなのですが、さも当然のように箱におさまっているのがすごいなと感じます。

どうにも自宅にいる時間が増えてしまっているので、自分のモチベーションを上げるようなものを手元に置いておきたいですね。読者のみなさんにも、いつか捨てられないパッケージを教えてほしいです。

(石田 織座)