編集部の「そういえば、」2021年5月

編集部の「そういえば、」2021年5月

ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。

どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。

毎年恒例、デザイナーの登竜門

そういえば、先日、展覧会「JAGDA新人賞展2021 加瀬透・川尻竜一・窪田新」を拝見してきました。

「JAGDA新人賞」は、アジア最大規模のデザイン団体である公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会(略称JAGDA)が毎年刊行している年鑑『Graphic Design in Japan』出品者の中から、今後の活躍が期待されるグラフィックデザイナーに授与される賞です。デザイナーの登竜門として、1983年からこれまで116名のデザイナーを輩出しています。

入口すぐにある展覧会のハンドアウトは、巨大なふせんのようなつくりで、自分でペリッと1枚はがす仕様になっていました。はがした後は折り目がついているので4つ折りにできます。各展示壁面に書いてあるキャプションと連動して作品名が記載されています。

39回目にあたる今回、新人賞対象者139名の中から選ばれたのは、加瀬透さん、川尻竜一さん、窪田新さんの3名。3つの部屋に分けられた本展では、ポスターやプロダクトなどを中心にそれぞれの受賞作や近作が所せましと展示されています。

中央の部屋の真ん中には、加瀬透さんが自身の個展「2つの窓辺」に出展した、グラフィックが印刷されたカーテンが展示されています。

川尻竜一さんが手がけた、催事「合理日記」の告知ポスター。展示品から抜粋した文字を独自にグラフィック化したポスターになっているそう。

窪田新さんが手がけた「HEARTLAND365」。365枚のイラストが描かれた、ブックレット型の店頭ツール。

加瀬透さんによる、第21回グラフィック「1_WALL」展での作品「モニュメント、マン」。

毎年楽しみにしているJAGDA新人賞展、今回も無料でいいのかな……と思うほどお腹いっぱい個々の表現を見ることができます。なお、6月5日には、3名が自ら作品の解説や制作エピソードなどを話す、オンラインギャラリーツアーがライブ配信されるとのこと。参加は無料ですが、予約が必要なので公式サイトをチェックしてみてください。

●JAGDA新人賞展2021 加瀬透・川尻竜一・窪田新
http://rcc.recruit.co.jp/g8/exhibition/2105/2105.html

(石田 織座)

写真家が撮る映画に感じる画面の「奥行き」 上田義彦監督作品『椿の庭』

そういえば、先日、写真家の上田義彦さんが監督する映画『椿の庭』を観にいきました。

「写真家が撮る映画」というひきだしがぼくの中にあるのですが、そこにはスタンリー・キューブリックやヴィム・ヴェンダース、ラリー・クラーク、アントン・コービンなど、お気に入りの監督たちによる作品の名前が並んでいます。

もともと写真家だった映画監督や、映画を撮りながら写真家として活動する人などさまざまですが、共通するのは、劇中の画づくりにおいて透徹した美意識が感じられること。画面に映る人物やもの、風景などの配置や色彩など、作家が美しいと感じる一瞬が切り取られていることを感じるのが、写真家としてのアイデンティティを持った映画監督による作品の特徴だと思います。

『椿の庭』も、「写真家が撮る映画」のひきだしの中のお気に入りとしてしまっておきたい作品だなと感じました。写真家としての上田義彦さんの表現が、映画というメディアに変換されることで生じる独特の質感がそこにはあって、上田さんの作家としての一貫した視線や美意識を感じることができる映画でした。

写真家が撮る映画の特徴のひとつとして、一枚の画としての美しさが連続することによって映像が生み出されていることが挙げられますが、『椿の庭』は、全編にわたって「奥行き」を感じさせる画面構成が特徴的だと感じました。

人物や背景、ものなど、カメラに映る要素の配置を整えていく美しさの感覚は、ある意味で二次元的なものだと言えますが、ピントを合わせた被写体よりも手前にあるもの=ぼやけたまま写り込む遮蔽物を含めた画面のつくり方は、「奥行き」があることを前提としているため、三次元的な画面づくりだと言うことができると思います。

『椿の庭』では、ものがたりの舞台となる家の中や椿の庭で過ごす人々の姿を、陰から撮影しているようなシーンが多く、フォーカスが当てられた人物の手前に映り込むものが、画面の美しさを構成する重要な要素として捉えられているように感じました。それは、二次元的な美しさの卓越性が「写真家が撮る映画」の特徴だと考えていたぼくの中で、「奥行き」という大事な視点が与えられるような感覚でした。

もちろん、そういった画面の構成の妙に限らず、ものがたりの舞台となる庭のどこまでも深い緑や、椿の花のピンクや金魚の赤など、鮮やかさの中に静けさを感じる色彩からは、上田義彦さんの写真でしか感じることのできないものを、映画という時間の中で味わうことができます。

ストーリーについてまったく触れられませんでしたが、季節の移り変わりと巻き戻すことのできない時間の流れが描かれていて、夏がすぐそこに感じられるこの時期にぴったりの作品だと思います。映画館で、ぜひご覧ください。

https://bitters.co.jp/tsubaki/

(堀合 俊博)