【SDGs時代の木とデザイン】第3回:森林認証とクリーンウッド法

【SDGs時代の木とデザイン】第3回:森林認証とクリーンウッド法
森林大国である日本にはさまざまな木材が存在しています。木材は限られた資源とは違い、再生可能で持続的に使い続けられる資源です。

現在の日本は、海外産木材の輸入増加による国内林業の衰退や、森林の手入れを怠るなどさまざまな問題を抱えています。数ある木材の性質や特徴を正しく理解し、その理解をものづくりの現場に活かすことができれば、木材の正しい需要が増え、森や木材に関する問題解決に繋げることができるのではないでしょうか。

そこで連載コラム【SDGs時代の木とデザイン】では、木材コーディネート集団である森未来(しんみらい)の代表・浅野純平さんに、木にまつわるさまざまなことをご紹介していただきます!第3回のテーマは「森林認証とクリーンウッド法」です。

森未来の浅野です。

前回の第2回では、「サステナブルウッドとは」というテーマで、当社の考えるサステナブルウッド「Due Diligence(潜在的な木材の調達リスク)」と「Storys(地域への環境・社会貢献)」の2点が重要、というお話をさせていただきました。

そもそもFSC®やPEFC®といった森林認証や、クリーンウッド法とは何なのか?という疑問もあるかと思います。第3回では、森林認証とクリーンウッド法についてわかりやすく説明していきます。

国際的な森林認証「FSC®」は1993年、「PEFC®」は1999年に発足されました。日本ではあまり浸透していない森林認証制度ですが、ヨーロッパや北米ではスタンダードな認証として認知、普及しています。

それぞれの理念や考え方に若干の違いはありますが、ここでは詳しく取り上げず、重要な部分をご説明します。

森未来 コラム

FSC®、PEFC®(および相互認証しているSGEC):国際的な森林認証
※FSC®、PEFC®(SGEC)を総称して「森林認証」と呼びます。以下からは森林認証とします。

FM(Forest Management)認証:適切な管理がされている森林を認証する制度

CoC(Chain of Custody)認証:FM(森林管理)認証を受けた森林から産出された原材料を、適切に管理・加工しているかを第三者から審査を受け、認証する制度

日本と森林面積が近いスウェーデンでは、1,809万haが森林認証を取得しており、森林面積の約64%、生産的森林の約82%にあたります。ちなみに、日本のSGECのFM認証面積は215万haと桁が違うことがわかります。

ヨーロッパや北米は、元となる森林が森林認証を取得していることにより、建材や木工品なども森林認証がスタンダードとなっているようです。FSCジャパンが以前取った認知度アンケートでは、日本のFSCの認知度は26%と対象国の中で最下位という結果でした。

認知度が低いことは問題ではありますが、内装デザイナーがぶち当たる大きな壁は、CoCのチェーンをつなぐという仕組みです。

「森林認証材で家具や内装を仕上げたい」となった場合、単純に森林認証材を使えばいいわけではありません。納品までの行程で、多くは木材加工や塗装などの処理が必要になると思います。その加工工程におけるすべての事業者が、CoC認証を取得しなければならないのです(※1)。

※1:外部委託先の登録やプロジェクト認証など、一部CoC認証を取得しなくてもよい事例あり

森未来 コラム

森林認証材の調達までは何とかなるケースはあります。ただ、木工所でCoC認証を取得している数は非常に少ないため、木材加工でチェーンが途切れてしまいます。そのため、森林認証として納品できない、という事態が増えています。

また、ただでさえ認証を取得している事業者が少ないにも関わらず、認証を取得している事業者を探すことができない、というのも大きな課題です。当社によくある依頼として、たとえば以下を挙げられます。

「森林認証材で内装造作をつくってほしい」
・この設計においてルーター加工の業者がCoC認証を取得していないため、チェーンをつなぐことができない
・御社で施工されると思いますが、CoC認証を取得していないため、森林認証材としての納品は難しい

このような事例が頻発してしまうのです。

認証取得者が少ないからチェーンがつながらない

森林認証材を使用した仕事を依頼することができない

コストをかけて認証を取得しても仕事が増えない

このような悪循環が生まれ、森林認証の普及が伸び悩んでいるのが現状です。そのため、こんな面倒なことやってられない……そう思う方も多いかと思います。

当社では長年、森林認証コンサルティングをやってきたノウハウやネットワークがあり、当社自身もCoC認証を取得し、多くの加工業者と加工ネットワークを構築しています。森林認証材の調達から加工までワンストップで提供することが可能です。CoCのチェーン構築に悩まれた際は、お気軽にご相談ください。

森未来 コラム

話を戻して、一方の日本国内の法律、「クリーンウッド法」はどうなのか。

クリーンウッド法は2017年に制定されました。2000年のG8サミットではじめて「森林の違法伐採問題」が取り上げられ、2005年のG8サミットで「世界の主な木材輸入・消費国の違法伐採抑止強化」が合意されました。

2017年制定は、グローバルの流れから大きく遅れた法制定だったといえるでしょう。

クリーンウッド法は上述した森林認証のCoCのチェーンをつなぐという発想ではなく、合法証明を発行した木材であることが証明されれば合法として扱われます。つまり、当社のような木材流通業者は、仕入れ先の大元から合法証明を取得するだけなので、森林認証に比べ極端にハードルが下がります。

しかし、合法証明を添付するだけなので、森林認証に比べれば信頼性は劣るともいえるでしょう。また、現時点においての日本では、クリーンウッド法に基づく合法木材利用はあくまで“努力義務”とされており、罰則規定もありません。そのため、こちらもほぼ普及していないというのが実情です。

このような法的拘束力や遵守義務への意識の低さが問題視され、2025年に法改正されることが国会で承認されました。改正内容は大きく、下表に明記した3つです。

森未来 コラム

これらは非常に大きな改正点です。現状の木材流通では、これらが実施されていることはほとんどありません。2025年になってから「実は法令違反していた」とならないよう、いまから準備しておかなければなりません。

また、森林認証についても大きな流れがあります。2022年12月19日にカナダのモントリオールで開かれた国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)にて、2030年までに地球上の陸域、海洋・沿岸域、内陸水域の30%を保護するという歴史的な合意がされました。

しかしながら生物多様性を保全するといっても、現時点ではどうしたらよいかわからないと思います。第1回でも書かせていただいたとおり、森林の再造林率は30%程度で、多くは植林されておりません。そのような森林から出てきた木材は生物多様性を棄損しているということになります。

では、どうやって生物多様性保全に貢献したらよいのか?1つの答えとして森林認証材があると思います。

このような大きな流れから、森林認証、クリーンウッド法は今後ますます注目されてくると思います。

ここ数年で自然素材を使った建築家やデザイナーが出てきていると思いませんか?2011年の東日本大震災や、2015年のSDGsからこのような価値観の変容が起こっているのだと思います。

次の時代は、これらの流れからさらに「環境保全」や「サステナブル」が重要視され、それらの素材を使ったデザイナーが今後も多く世に出てくることでしょう。

まだこの分野での先行者は少ないため、ここまで長文を読んでいただいた方には、ぜひ業界をリードしていただければと思います。そして、サステナブルな木材が当たり前に普及する社会を一緒につくり上げてくれたら嬉しいです。

【森未来からのお知らせ】
⽇本全国の地域材情報をまとめた新コンテンツ「地域材ポータル」をリリース

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森未来が提供する⽊材情報プラットフォーム「eTREE」にて、⽇本の各地域で生産された木材情報を都道府県ごとにまとめたコンテンツ「地域材ポータル」の提供を開始しました。

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eTREE
https://www.etree.jp/

株式会社森未来

株式会社森未来

木材が適正な価値を持ち、全てのプレイヤーに適切に還元される社会“Sustainable Forest”をミッションに事業を展開。木材プラットフォーム「eTREE(イーツリー)」を運営しており、木材の利活用や調達加工をサポートしている。

https://shin-mirai.co.jp/

浅野純平
IT業界から林業で起業するために転身。東京都の秋川木材協同組合で事務局長を務める。2016年株式会社森未来を設立。