編集部の「そういえば、」2023年7月

編集部の「そういえば、」2023年7月

ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。

三澤遥さんの個展「Just by|だけ しか たった」

そういえば、銀座のクリエイションギャラリーG8で開催された三澤遥さんの個展「Just by|だけ しか たった」を見に行きました。

そ三澤遥個展「Just by|だけ しか たった」

本展は三澤さんによる幼稚園のサイン計画「玉造幼稚園」が第25回 亀倉雄策賞を受賞された記念の展覧会です。最終日の前日かつ閉館1時間前だったこともあり、会場は混雑していて注目度の高さがうかがえました。

受賞のことばのなかで三澤さんは、ものの可能性を探求すること、実験や検証を継続し、手を動かすことと思考を続けることについて語っています。その探求こそが、受賞作品のデザインプロセスにつながっている、と。

今回の展示は、その探求の作業を覗き見るような構成となっていました。会場では「ただ切るだけ」「ただ折るだけ」といった「だけ」「しか」「たった」の考え方から生まれたものたちが、壁や床に張り巡らされた細い角材の上に点在しています。

三澤遥個展「Just by」展示風景

三澤遥個展「Just by」展示風景

それらの原形は赤青鉛筆や落ち葉、小さな丸に切り取られた紙片のようなものですが、手を加えられたり、見せ方を変えられたりすることで、もとの機能や姿からは少し離れた、なにか別の新しい意味を持ったもののようにも見えます。観察しているうちに、少しずつ「こんな見方もあるんだ」「ここを削るとこんな見え方をするんだ」といった、ささやかだけれどハッとする発見がたくさんありました。

自分はものを認識するとき、それを自明のものとしてしか見ていなかったと痛感。「物事を多角的に見なさい」とはよく言われる言葉で、日頃から多様な視点に立つことを意識してはいるものの、実際に手を動かし、実験を積み重ねることでしか見えてこない視点もあるものだと改めて気付かされました。

クリエイションギャラリーG8

また、2023年8月で惜しくも活動を終了するクリエイションギャラリーG8では、終了までの期間、「G8 Library」が開催中です。ここでは過去の展覧会や関係のあった作家のみなさんの関連書籍を閲覧することができます。こちらも注目度の高い最終展「THE ENDING ’23」を訪れるついでに、ぜひ立ち寄ってみてください。

(萩原 あとり)

グラフィックに引き寄せられた商品

そういえば、ハンドメイドマーケットプレイス「Creema(クリーマ)」が主催する、日本最大級のクラフト・ハンドメイドのイベント「HandMade In Japan Fes 2023」へ行ってきました。

HandMade In Japan Fes 2023

同イベントは、雑貨・ファッション・アクセサリー・アートなどの創作活動に取り組む全国3,000名のクリエイターが一堂に会し、オリジナル作品を展示販売する祭典。10周年を迎えた今回も多くの人が来場しており、クリエイターの熱量と相まってかなり盛り上がっていました!

今回は私が散財した中から、特にグラフィックに惹かれて購入した作品やクリエイターをご紹介します。

Türr(つるる)
水彩作家・柘植香里さんが展開するブランド「Türr」。水彩画特有の絵の具のにじみやたまり、筆跡をそのまま活かしてつくられたアクセサリーは、この時期にぴったりな涼しさを感じさせてくれます。アクセサリーのほかにもポスターなどがあり、悩んだ挙句、「水面」柄の紙箋を購入。こちらも涼しさの中に、どことなく感じるノスタルジックさに惹かれました。

Türr(つるる) 商品画像

haru
グラフィックデザイナーのharuさんは、チューリップなどの植物が描かれたハンカチやトートバックなどの作品を出展。グラフィックデザイナーならではの抽象的なデザインがとても愛らしく、ポストカードを購入しました。

グラフィックデザイナーのharu作品画像

ほかにもご紹介したい作品・クリエイターがたくさんいましたが、どのブースもそれぞれのクリエイターの世界観が爆発していました!直接クリエイターから商品の魅力などを聞ける貴重な機会なので、次回開催の際はぜひ足を運んでみてください。

(岩渕 真理子)

吹けば風、見るは何故

そういえば、愛知県の豊田市にある豊田市美術館に行ってきました。同館では「吹けば風」という企画展が開催中です。本展は川角岳大さん、澤田華さん、関川航平さん、船川翔司さんのいずれも30代の若手作家4名の作品で構成されています。

豊田市美術館「吹けば風」外観

「吹けば風」という展示タイトルは、詩人・高橋元吉の「咲いたら花だった 吹いたら風だった」という一節が由来とのこと。大量の情報を処理しながら日々を過ごす中で、予測の外側から訪れる発見の瞬間に生じる小さな心の変化に目を配り、見つめようとする展覧会です。4名の作家の表現方法は異なるものの、どこか捉えがたい部分を含みながら、見るたびに別の発見があるようで汲みつくせない魅力をもっています。

なお、作品 ガイドボランティアによるギャラリーツアーも毎日開催されており、私も参加してきました。ギャラリーツアーは、作品を「正しく理解する」ための解説よりも、 作品を「どう感じるか」という対話を重視した内容でした。

関川航平さんは、展示室に設置された23.4度の斜面でパフォーマンスをしています。ガイドボランティアの方が関川さんと美術館のエレベーターで会った時の話をしてくれたのですが、目の前で作品の一部になっている作家の「人となり」が垣間見え、作品の中と外を行き来するような不思議な感覚でした。

豊田市美術館「吹けば風」展覧会風景

寝そべっているのはパフォーマンス中の関川さん。この作品のために、手すりに23.4度の傾斜が付けられた

川角岳大さんの作品はキャンバスに描かれた絵画です。ギャラリーツアーでは、どの絵が好きで、どんな印象を受けるか、どんな記憶を思い出すか、ということを語り合いました。

会場の中央には作品の優しい色に合った、柔らかい色と形のソファが設置されていますが、このソファは作家自身が持ち込んだものだそうです。作品をゆったり観る時間と空間を作家自身がデザインしており、美術館側もそれを許容しているという関係性が、居心地のいい雰囲気を醸し出している展示だなと思いました。

豊田市美術館「吹けば風」展覧会風景

実はこのソファの下にも、作家の遊び心が隠されている

澤田華さんはビデオを用いたメディアアートを出展。『漂うビデオ(移動、裂け目、白い影)』では複数台のプロジェクターが三脚で設置されていて、その投影を遮るようにコピー用紙が吊るされています。風に揺れるコピー用紙にも映像が映り、自分がビデオの中を漂うような感覚になりました。

豊田市美術館「吹けば風」展覧会風景

(左)展示室全体(右)吊るされたコピー用紙にも映る映像

船川翔司さんは天気を取り込んだ作品を多数出展しているのですが、会期中に作家自身が作品を増やしたり減らしたりしているそうです。展示室内だけでなく、美術館の屋外にも作品が展示されており、紙の作品や映像作品、インスタレーションなど幅広い表現方法が使われています。私が見た作品のラインナップは、 もしかしたらもう見られないものかもしれない、一期一会の展示風景だったということになります。

豊田市美術館「吹けば風」展覧会風景

中央の旗も船川さんの作品

同時開催のコレクション企画展「枠と波」では、1960~70年代に「吹けば風」展と同じくらいの年齢だった作家によって制作された作品を中心に展示しています。あいさつ文のキャプションには『「いま、ここで」出会い、時間と空間の奥行きを深めることができるのは美術館のおもしろいところです。』という一文が印象的で、コンピューターが普及していなかった頃の創作活動を想像しながら鑑賞しました。

狗巻賢二『無題』(サインペン、紙)

豊田市美術館は建築としても見どころがたくさんあります。自然に囲まれ、見る角度によって違った印象を受けます。「これは何だろう」と「なぜこうなんだろう」と立ち止まってゆっくり考えるのにちょうどいい環境でした。

豊田市美術館 外観

夏の豊田は暑いですが、心地よい風が吹いていました。

(小林 史佳)