編集部の「そういえば、」2023年6月

編集部の「そういえば、」2023年6月

ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。

どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。

サイエンスとフィクションの恐竜

そういえば、上野の森美術館で開催中の『特別展 恐竜図鑑 失われた世界の想像/創造』に行ってきました。私は学生時代に恐竜図鑑について調べていたことがあり、本展の東京巡回を楽しみにしていました。

「特別展 恐竜図鑑 失われた世界の想像/創造」会場の様子

「特別展 恐竜図鑑 失われた世界の想像/創造」会場の様子

この企画展は化石ではなく、恐竜の復元図などの「描かれた恐竜」が展示されています。生きている恐竜の姿を見たことがある人類はいないため、すべての恐竜の図像はあくまで想像図です。しかし単なる想像図ではなく、科学的な研究が反映された、アートとサイエンスの融合でもあるのです。一部を除いて恐竜の体の色は判明していないので、同じ種類の恐竜でも、図鑑によってその姿が異なっています。

現在の図鑑におけるヴェロキラプトルの復元画。左から、『小学館の図鑑NEO』 恐竜(2018年)、『講談社の動く図鑑MOVE 恐竜 新訂版』(2020年)、『ポプラディア大図鑑WONDA 恐竜』(2013年)。上記図鑑は出展作品ではなく筆者私物

また、研究が進むことによって学説が覆され、恐竜の復元図も更新されてきました。本展でもクローズアップされているイグアノドンは、まさにその象徴とも言えます。当初は鼻の上の角だと思われていた化石が、後の研究で親指だということが明らかになりました。さらに化石はバラバラに見つかることが多いため、1800年代は四足歩行の巨大な爬虫類と考えられていましたが、後に後肢と尾の三点でバランスをとっていた姿になります。そして現在は尾で頭の重さとのバランスをとっていたと考えられており、尾は地面から離れた姿で復元されています。

イグアノドン復元図の模型。左から、1800年代、1900年代、現在

ゴジラは「恐竜は後肢と尾の三点でバランスをとっていた」という考え方が主流だった時代に制作されたため、そのような姿をしています。そして恐竜人気の火付け役ともいえる映画『ジュラシック・パーク』ですが、第一作目の制作時にはなかった「ティラノサウルスに羽毛が生えていた」という説が現在では有力になっています(羽毛に覆われていた範囲については諸説あり)。フィクションはサイエンスに大きな影響を受け、今日のサイエンスは明日のフィクションになるかもしれないのです。

科学と想像は相反するものと捉えられがちですが、実はお互いに影響をおよぼし合っているのだと、恐竜の復元図は感じさせてくれます。本展では作品の実物と対峙するので、油絵の作品ではその絵肌まで見ることができます。復元図を「文章を補足するための図」という機能だけに留まらず、アート作品として鑑賞できる貴重な機会です。科学と想像、そして創造のつながりを体感できる展示でした。

ズデニェク・ブリアン『アパトサウルス・エクセルスス』(1950年)より

(小林 史佳)

グラスの厚みと味の関係

そういえば、先日中央大学がグラスの厚みと味の関係についての論文を発表していました。

同論文は、中央大学の有賀敦紀教授と松下光司教授、北海道大学大学院生の市村風花さん、東京大学の元木康介講師との共同研究で、飲料を飲むときのグラスの厚みが緑茶の味に影響を与えるのかを研究したもの。

これまでの先行研究で、容器の色や形状、材質、手触りなどの視覚や触覚情報が、ワインやコーヒーなどの飲料の味覚に影響を与えることは報告されていましたが、今回の論文では「グラスの厚み」に注目。目隠しをし、同じ材質・手触りのグラスでも、飲み口の厚いグラスは甘味が増し、薄いグラスは苦味が増すという結果が出たことが報告されています。

そこで、個人的に気になったので、我が家で1番味覚が優れている子どもに似た実験をしてみました。種類は緑茶、麦茶、りんごジュース。家にあった厚さの違うガラスコップを使用してみました。また、同論文では「甘味」「まろやかさ」「濃厚さ」などの項目で評価をおこなっているのですが、子どもには難しかったので、味が同じか違うかの質問をしてみました。

結果、“まったく同じ飲料でも味に違いがある”という実験結果が出ました!(我が家調べ)

グラスの厚みと味の関係 実験画像

今後、飲食店などの場で、自分たちが提供したい味はどういうものなのか、それを実現していくための1つの切り口として、グラスの厚みも意識したほうがいいのではないかと思った論文でした。興味がわいた方は、ぜひご一読ください!

https://www.chuo-u.ac.jp/aboutus/communication/press/2023/06/66260/

(岩渕真理子)