傘の素(もと)

12年間傘のために描かれた原画約130点を収録

傘の素(もと)

2010年に主宰のひがしちかが日傘作家としてスタートし、2022年8月に幕を閉じた唯一無二の傘屋「Coci la elle(コシラエル)」。日傘はすべて一点もので、白い生地の張られた日傘へ下書きなしでダイレクトに描き、ハンドルやボタンを一点ずつにあしらったアートピースのようなものでした。次第に量産できる雨傘や兼用傘のために絵を描き、さまざまな技術でプリントを試み、生地を製作していきます。

本書は12年間、傘はもちろん本の挿画、ポスター、パッケージ、生地、小物のために描き続けた絵200点以上から130点ほどを選別し、描く楽しさをそれぞれのページに惜しみなく閉じ込めています。水彩や鉛筆画、コラージュなど、手法や画材にとらわれずにその瞬間の感情や風景をつかみ、平面として浮かび上がらせることでさまざまに変容し、それぞれに昇華してゆく核である原画は特別の存在感を放ちます。プリント複製された物の楽しさがあることと同時に、生である醍醐味を意識させてくれる1冊。なお、本書は柄が選べる特製ハンカチも付属します。

「2年間で雨傘、兼用傘の為に描いた絵は気づくと200点以上ありました。
その中から選別し、通常は日の目を見ない原画たちをまとめてみようと思いました。
私にとってこの原画たちは日々の集積であり、想いを封じ込めた傘の素です」
――ひがしちか

また、本書と同時発売となる書籍『コシラエルとはなんだったのか』には、いかにして、どんな思いで一点ものの日傘はうまれたのか、日傘屋にたどり着くまでのことや、「傘」というメディアを通した挑戦の記録がふんだんなテキストでまとめられています。コシラエルに縁があるさまざまな書き手によるコラムも収録していますので、あわせてご注目ください。

中村水絵(HeHe)のおすすめコメント

絵を描くきっかけにはさまざまな動機や衝動がありますが、この本に収められている絵は、傘やプロダクトになることを宿命に描かれています。でも、はじめてひがしちかさんの絵を見たときに「なんだろう、この自由度の高さは…!」と、楽しいや嬉しいなどの感情が溢れていることに驚きました。


それはたぶん、彼女が「自分の人生を愛したい」と生きていることと、彼女が自分を愛するように誰かのことも愛したいと思っていることが絵から滲み出ているからではないでしょうか。だから、描かれている風景や感情はすでに誰か(私やあなた)と共有されているようにも感じられます。


たとえば、たった一人の寂しい夜があったとしても、この本を開いたら「なんか大丈夫」と思える気がするし、この本を手に取った方が、一人でもそう思える夜を過ごせるように、と願っています。


発行 HeHe/ヒヒ
著者 ひがしちか/Coci la elle(コシラエル)
デザイン 宮村ヤスヲ
仕様 A4判、176ページ、ソフトカバー(特大カバー)、特製ハンカチ&栞付き
価格(税込) 9,680円
ISBN 978-4-908062-45-2