大屋根の棲家

原風景を踏襲し、集落での暮らしを継承した住宅

デザインコンセプト
担当:松山建築設計室

長崎県佐世保市の郊外に建つ、家族4人のための住宅。

敷地は東南に連なる山々と北西に流れる河川の狭間に形成された、古い集落群の中にある。夫婦は子供たちを育てる環境として、今も変わらず助け合いの精神で暮らしを営んでいるこの集落に飛び込むことを選んだ。しかし、この場所も古い民家が壊され、住民の高齢化により住宅の更新が進んでいる。この集落の人々が共存しながら暮らしてきたこれまでの環境とは遠ざかるように、都市化の様相へと変わりつつある。ここに新しい住まいをつくる上で、現存する風景を踏襲し、互いの関係性を尊重しながら存在してきた集落の暮らしに呼応する佇まいを目指した。

計画地は2面道路の角地にあり、南側からは見下ろされる状況にある。また北側の隣家は計画地より2m下がっており、平屋で建てても隣家に当っていた日射しを遮ってしまう。そのため、床レベルを半地下に掘り下げ、平屋でありながらさらに高さを抑えて、この集落が培ってきた関係にならって、この場所の環境に応えることにした。この建ち方によって北側の隣家は以前と変わらない住環境を保持し、同時に、接道する2面の道路側には大きな余白が獲得でき、その余白は集落に対して大きく開放された境界のない場所となる。この建ち方は、建主が自らの身を集落の環境に委ね、新たな関係を築いていきたいという想いが元となっている。これから更新されていく住まいの指標として、原風景が壊されることなく未来へと継承される原動力になればと願った。

内部は、限られた予算の中でも、大屋根の下で家族が密接に関わりながら暮らす大らかな空間を目指した。半地下にするものの、土留めを必要としない深さに留め、構造は2,275×3,185mmのグリッドが反復する単純な架構で構成し、天井は大屋根を支える構造体が現し(柱や梁などの構造材が見える状態で仕上げる手法)となっている。壁や天井の素材は針葉樹合板に限定し、間仕切りや建具もこの地の暮らしに必要なものを選ぶことで、コストへの対応を図りながら大屋根の大きな気積(室内の空間量)をつくった。外部から見ると地窓とも見える半地下空間の様子は、この床レベルならではの感覚である。両端に設けたコンクリート板によって視線が大地へと地続きでつながっていく感覚を助長させ、腰上だけが外に開かれて外部と一定の距離が保たれた。この集落のあり方を根源にして、この住宅の個性に辿り着いたのは大きな収穫だった。

所在地 長崎県佐世保市
設計 松山建築設計室
構造 木造
竣工日 2016年9月
撮影 石井紀久