5層のワンルーム住居

敷地の特性を読み解いて生まれた、その場所だけの建築と暮らし

デザインコンセプト
担当:松山建築設計室

福岡県宗像市の閑静な場所に建つ、4人家族のための住宅である。かつてはのどかな田園風景だったこの場所も、近年住宅群が建ち並び、徐々に都市化の様相を見せている。計画地の周囲も新旧の家屋が混在している中、この敷地は崖地という立地条件から未開発のまま取り残されていた。

建築計画では、道路から4mの高低差をもつこの崖地を、コストを抑えながらどう克服するかが最大の課題であった。その課題に対して土木的造成による開発行為ではなく、建築がいかに地形に沿って立地するかを考えた。道路から上段の平地までの高低差を、約3等分で設定された床レベルによって繋げていく断面構成となっている。したがって、建築の骨格や断面は敷地のレベルから導かれており、斜めの平面的様相は現存する風景を壊さずに自然な佇まいを目指した。

内部は、お互いの気配を常に感じながら日常を過ごす空間と、適度な距離を置ける空間とを共存させるために、地形に沿って導き出された5段の床にそれぞれの生活の機能をもたせた。また、機能全体を家族が共有できる段状のワンルーム空間としながらも、フロア間を直接繋ぐ階段は設置していない。それは動線を一度切ることで、それぞれの関係に微妙な距離感が生まれ、家族という複合体と個人という単体が、つかず離れずの関係で共存することを意図している。一見不利な立地条件を受け入れながら、その場所でしか生み出せない建築や暮らしを目指した住宅である。

所在地 福岡県宗像市
設計 松山建築設計室
構造 木造
竣工日 2015年9月
撮影 石井紀久