若手日本人デザイナーが活躍するサローネサテリテ
本レポートでは、ミラノサローネのフィエラ会場から、特に若手デザイナーたちが出展する「サローネサテリテ(Salone Satellite)」における日本人の作品について紹介する。
サローネ国際家具見本市は今年50回目という区切りの年を迎えたが、“ジュニアサローネ”とでも呼ぶべきサテリテは14回目の開催となる。今年は「未来をデザインする(Designing the Future)」をテーマに、6人のデザイナーと3校のデザイン系スクールがプロジェクトを組み、作品を発表した。なかでも印象に残った作品は、スペイン人とイタリア人のユニットAlvaro Catalan De Ocon + Francesco Faccinの建築現場の足場材を使ったタワー「FUTURE SPOTTING」。地上(2012年)から一番上の展望台(2050年)まで1年ずつ目盛りを刻み、「2050年の高さから現在(2011年)のデザインの風景を眺めてみよう」というメッセージを込めた作品だ。【写真2】
1割以上が日本人デザイナーの出展
今年のサテリテの出展状況は、33カ国から約700人のデザイナーと20校のデザイン系スクール(大学など)が参加した。この出展数は、例年と大きく変わらない。会場の展示ブース数は150。アート系スクールの20ブースを除くと個人の出展は130ブース。後日資料で確認したところ、海外を拠点とする人も含めた日本人デザイナーは16組で、全体の1割以上であった。
ところで毎年サテリテで気になるのは、優秀な出展者に与えられるアワード(賞)だ。ドイツの「REPORT」誌が選出する「デザイン・レポート・アワード」以外に、昨年からサテリテ独自のアワードが新設された。今年は同時開催されたユーロルーチェ(Euroluce)とオフィス家具見本市(Salone Ufficio)にちなんで、「照明」「オフィス家具」から上位3位が選出されたが、残念ながら、いずれのアワードにも日本人受賞者はいなかった。日本人デザイナーの作品は、コンセプチュアルで深く考えられたデザインが多いように感じた。
身近なテーマ+身近な素材で取り組む
ここでは筆者が気になった作品を取り上げてみたい。
昨年のサテリテアワード1位を獲得した田村奈穂(NOWNAO)氏はLED照明「Light」を発表【写真3、4】。大きさや色の異なる照明ユニットが空間に張り巡らせたテープ状の電線をはさむことによって通電し点灯する。“昆虫”を思わせるユニットから透ける光が情緒深い作品だ。
2回目のサテリテ出展となる3-1 designはテキスタイルを発表した。「Origane Switch」は細い金属の糸を織り込んだ布で、手で触れると通電し調光・調色ができる。「Orisuki」は織り方の過密を変化させることで布のたたみやすさを追求した【写真5】。RENDS DESIGN WORKSの「MOURI SERIES」は、テーブル脚の交差部分を昔の玩具にヒントを得たという【写真6】。
角田陽太氏の「Tenon」は、細い角材をホゾのみの四方転び(脚が上方で内側に傾く構法)で組み上げる家具のシリーズ【写真7】。t/mは、厚さ0.5ミリのアルミとブナ材をミルフィーユ状に重ねた合板によるテーブルとスツール「Wafft」を展示した【写真8】。
ユニークな試みとしては、山本達雄氏の作品を紹介したい。過去2回のサテリテ出展を経て、今年は家具でも照明でもないインスタレーション「Resonance」を発表した。ブースいっぱいに設置された1,600本の細い竹の棒がさらさらと音をたてて揺れる作品は、来場者を楽しませていた【写真9、10】。
いずれも共通するのは身近な着目点やテーマに対し、身近な素材や技法を用いて解決または問題提起する姿勢だ。海外デザイナーの作品には、インスピレーションやパフォーマンスで勝負するものが多い。一方、試行錯誤を重ね、細部まで神経の行き届いた完成度の高い仕事は日本人デザイナーが得意とするところ。ただ、売り込む場においては一瞬のインパクトも大切な要素である。プレゼン(演出)力を兼ね備えれば、世界の大舞台でより鮮烈な印象を与えることが出来るのではないだろうか。
田村奈穂(NOWNAO) : http://nownao.com/
3-1 design : http://www.3-1design.jp/
RENDS DESIGN WORKS : http://www.rendsdesignworks.jp/
角田陽太(YOTA KAKUDA DESIGN) : http://www.yotakakuda.com/
t/m : http://tani-matsumura.jp/
山本達雄(Tatsuo Yamamoto Design) : http://www.tatsuoyamamoto.jp/
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※クリックで拡大
 【 1 】 サローネサテリテ会場

 【 2 】 Alvaro Catalan De Ocon + Francesco Faccin「FUTURE SPOTTING」

 【 3 】 田村奈穂「Light」の展示

 【 4 】 田村奈穂「Light」の照明ユニット

 【 5 】 3-1 design 「Orisuki」

 【 6 】 RENDS DESIGN WORKS「MOURI SERIES」
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 【 7 】 角田陽太「Tenon」
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 【 8 】 t/m「Wafft」
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 【 9 】 山本達雄「Resonance」の展示
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■以下参考:インパクトとプレゼン力が印象的だった海外デザイナーの作品たち
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 【 11 】 Johan Lindsten「Crack lamp」(スゥエーデン)。使っているうちに自然に入るヒビをデザインに取り入れた。サテリテアワードの次点に選ばれた
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 【 12 】 en&is(Enrico Bosa / Isabella Lovero)「MegaPhone」(イタリア)。電気を使わずにiPhoneの音を拡音する陶器
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 【 13 】 en&is。ポリウレタンによる折り紙のような3Dの座面カバーが特徴的な「SoftEdge」と照明「Baloon」
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 【 14 】 PHILLIP GRASS(デンマーク)。とにかく個性的なフォルムの椅子の数々が印象的だった
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 【 15 】 BEYOND(KarolinaTylka)「Coffee Bench」(ポーランド)。人や用途によって形を変えられるベンチ
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 【 16 】 VIN & Co/DESIGN MONG「Mr. Chair」(韓国)。「アームチェアと男性には共通点がある」というデザイナーがマッチョな椅子を提案
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 【 17 】 Silvia Knueppel「foam cupboard」(ドイツ)。戸棚の形をした発泡樹脂の固まり。ナイフなどで必要な切り込みを入れてから使用するという
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 【 18 】 RAPHAEL CHARLES「Ordinary day in a wood factory」(フランス)
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 【 19 】 STREET HOUSE The Street Is In The House(アメリカ)は、NYの通りにあるフリーペーパーのラックをベースにした家具を制作
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 【 20 】 Avinash Shende「WW-II Fan 」(インド)。戦争が産業化を促したことになぞらえ、自国の急速な発展を「各大陸から押し寄せる戦闘機」で表現
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 【 21 】 ROOMS(グルジア)は、「Wood stories」と題して木を使った家具や小物を紹介。キャンバス地を張ったブースで、タイムレスな“美術作品”のように展示した
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 【 22 】 Catarina Carreiras「OPTICAL WAND」(イタリア)。ベネトンが運営するFabrica Design Studioがガラスとオーク材を使った作品を披露
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 【 23 】 MaRaMa(Marcantonio Raimondi Malerba)(イタリア)のコンセプトは「デザインもアートも好き」。印象に残りました
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 【 24 】 JAN PLECHAC(チェコ共和国)。名作椅子をワイヤーで表現し、新しい解釈を与えるという試み
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 【 25 】 TANIA DA CRUZ「Wig」(イタリア)は、陶製の花器。モディリアニの人物画をイメージした形だとか
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