世界最大規模のオフィス家具見本市NeoCon(ネオコン)に見るワークプレイスとホームの融合

「NeoCon(ネオコン)」の会場、シカゴ中心部にある「The Mart(ザ・マート)」

オフィス空間・インテリアデザイン業界をリードする世界最大規模の見本市

2019年の開催で51回目となるオフィス家具見本市「NeoCon(ネオコン)」。NeoConは「Neo Convergence(新しい集まる場所)」の略で、1969年にシカゴで始まり毎年6月に開催されている。例年、500以上の出展者と5万人の来場者を集め、オフィス家具の分野では隔年開催のドイツ・ケルンの見本市「オルガテック」と並び世界最大規模である。

会場の1階は10フロアにわたる展示の出発点であり、「contract」「interior design」などイベントを象徴するキーワードがバナーに並ぶ。

会場の1階は10フロアにわたる展示の出発点であり、「contract」「interior design」などイベントを象徴するキーワードがバナーに並ぶ。

メインエントランスのホールでのHerman Miller(ハーマン・ミラー)による展示

メインエントランスのホールでのHerman Miller(ハーマン・ミラー)による展示

会場はシカゴ中心部に位置する「マーチャンダイズ・マート」呼ばれる巨大な建物。一時期は世界最大のフロア面積を誇ったほどで「ザ・マート」と呼ばれている。25階建てで、NeoConはその10フロアを使って開催されている。他の見本市と異なるのは、ザ・マートに常設のショールームを持っている出展者が多いこと。日本企業ではたとえばオカムラがショールームを開設している。期間中は毎日の基調講演と80を超える各種勉強会が開かれており、業界の交流や学びの場としても機能している。

看板となる大規模出展者は北米4大スチール家具メーカーと呼ばれる内の3社、Herman Miller(ハーマン・ミラー)、Steelcase(スチールケース)、Haworth(ヘイワース)。残る1社であるKnoll(ノル)は2019年からザ・マートを出て市内に独自のショールームを構えている。

Knoll(ノル)は2019年からNeoCon会場を離れて独立したショールームをシカゴ市内に設立した

Herman Miller(ハーマン・ミラー)

イリノイ州に隣接するミシガン州にて1905年に設立。デザインディレクターのジョージ・ネルソンの指揮のもとイームズ夫妻などと共に数多くの名作家具を生み出し、ミッドセンチュリーモダンを代表する存在として知られる。

2019年のNeoConでは常設ショールームに加えて、1階のサウスロビーと呼ばれるメインエントランスのホールで目を引く展示を行った。「All Together Now」というコピーが大きく踊るその内容はHerman Millerグループの8ブランドの家具を組み合わせたもの。たとえば日本でも馴染みのデンマークのブランドHAYがHerman Millerの隣に並んでいる。これは北米のコントラクト向けの展開で、日本や欧州で見ることはない組み合わせだ。ショールームでもこのコピーは引き継がれ、オフィスの様々なシーンをブランドの集合体でコーディネートしていた。

メインエントランスのHerman Millerの展示、HAYなどのブランドが並ぶ。

メインエントランスのHerman Millerの展示、HAYなどのブランドが並ぶ。

以上3点、Herman Millerのショールームの展示

以上3点、Herman Millerのショールームの展示

Steelcase(スチールケース)

ミシガン州で1912年設立。木製家具が主流だった時代に鉄製の机を売り出しオフィス家具メーカーとしての成長を始めた。欧米でのオフィス家具分野のシェアトップを誇り、ワークプレイスのコンサルティングにも注力している。こちらもグループ6社の家具を組み合わせてコーディネートしていた。

以上4点、Steelcaseのショールームの展示

以上4点、Steelcaseのショールームの展示

Haworth(ヘイワース)

ミシガン州で1948年設立。4大メーカーの中で唯一戦後に誕生した。開発研究と共に買収への投資が特徴で、イタリアの高級家具メーカーとして有名なPoltrona Frau(ポルトローナ・フラウ)、Cassina(カッシーナ)、Cappellini(カッペリーニ)などを傘下に持つ。それぞれ独立した世界観を持つ著名ブランドだが、これら複数ブランドを組み合わせたオフィス空間のコーディネートは、欧州や日本では見たことがなく新鮮な印象。

以上4点、Haworthのショールームの展示

以上4点、Haworthのショールームの展示

シカゴの注目エリアにショールームを構えたKnoll(ノル)が開催した「Knoll Design Days」

Knoll(ノル)

ニューヨーク州で1938年設立。ドイツの家具職人の家に生まれたハンスG・ノルがニューヨークで設立したことから「バウハウスが父、クランブルックが母」と例えられるほどの、モダンデザインを代表するブランド。

2019年よりNeoCon会場から徒歩15分ほどのウエスト・ループ地区の「フルトン・マーケット」という施設にショールームを開設した。ウエスト・ループはGoogleなどがオフィスを構えるシカゴの注目エリア。ショールーム内部は陽光が注ぐ開放感ある雰囲気で、新しい働き方のデザインを提案するには相応しい立地と施設に感じた。

Knollのショールームがあるフルトン・マーケット

Knollのショールームがあるフルトン・マーケット

以上3点、Knollのショールームの展示

以上3点、Knollのショールームの展示

Muuto(ムート)

Knollと同じフルトン・マーケットに北米最大のショールームをオープンした。オフィス、ミーティングスペース、カフェや食堂など数多くのインテリアシーンを見ることができる。パイン材を含む樹脂でシェルを作った椅子、竹を使ったランプシェードなど素材へのアプローチも特徴がある。

イベントとしてはKnollが主催する「Knoll Design Days」に参加しており、北米のみのスペシャルとしてKnollとミックスしたコーディネートも見ることができた。

以上4点、Muutoのショールームの展示

以上4点、Muutoのショールームの展示

ホームやカフェの要素を取り込み変化を続けるワークプレイスのデザイン

NeoConそしてKnoll Design Daysで大手ブランドの展示を見て感じたのは、オフィスとホームの融合だ。リモートワークが普及した後に、そのデメリットも顕在化しワーカーをオフィスに集約する揺り戻しがある。ホームやカフェでの仕事をする快適さを知ったワーカーが「オフィスに戻りたい」と思える空間作りに需要があるようだ。世界的なシェアオフィスの普及もその流れに拍車をかけている。

一方でオフィスとホームの融合は、設計者には新たなコーディネートスキルを求め、異なる商流を束ねたりと手配コストの増加につながる。そこに商機を見出し、様々なブランドをコーディネートしたパッケージをワンストップで提案する戦略を、大手がこぞって採用しているようだ。

NeoConとKnoll Design Daysは北米市場を対象とするものなので、ブランドミックスや色や柄の考え方は他の地域と事情が異なるだろう。ただし、生産性・健康・居心地・コミュニケーションなどに資するオフィス空間が注目されていること、それに適した家具やインテリアアイテムが求められていることは全世界共通だ。そこにおいて、どのようなデザインが求められていくのか、もしくはデザインを切り口にどのような展開を見ることができるのか注目していきたい。

NeoCon
https://www.neocon.com/

Knoll Design Days
https://www.knoll.com/story/discover-knoll/knoll-design-days-2019

構成・文:山崎泰(JDN)