大幅に増えたミラノサローネの来場者
2018年4月17日から22日まで開催された「Salone del Mobile.Milano 2018(第58回ミラノサローネ国際家具見本市、以降サローネ)」。世界最大の家具見本市であるだけでなく、日本企業も数多く出展するミラノデザインウィークの核と言うべき存在だ。そのサローネが、ここ数年で最多となる434,509人の来場者を集めた。今年と同様の構成のキッチンとバスルーム商材の見本市が併催された一昨年と比べて17%増加、照明とオフィスが併催された昨年と比べても26%も増えている。会期中は澄み渡る青空が続いたので、サローネからミラノ市内に回遊した人々もここ数年では最大規模だっただろう。
この大幅な来場者増加の理由について主催者は「サローネが常にさらなる高品質を提供すべく、トップ企業が一堂に会し、世界中から業界オペレーターが集結することと、来場者を魅了し続けることで、業界トップの座にあり続けるからだ」と答えている。
他の都市や見本市との違いを明確にするマニフェスト
サローネ開催の記者会見で発表されたマニフェスト。「デザインに無関係な人まで魅了する唯一無二のイベント」「世界中のクリエイターが新しい出会いを求めに、またはトレンドリサーチや新しいプロジェクトの基礎を築きに集結」という言葉がならんでいる。
会期始めに「サローネは既に強い状況にあると思うが、なぜ今年、マニフェストが必要だと考えたのか?」とミラノサローネのクラウディオ・ルーティ社長へ質問したところ、「ミラノ市そしてサローネが他の街や見本市とどう違うのか明確にしたかった。もしこれらマニフェストの言葉を忘れたら、私たちは今の地位を失ってしまう」との回答を得た。
マニフェストは9のキーワードからなり、たとえば、その1つは「若者たち」として若手デザイナーの登竜門であるサローネサテリテにあてられている。また「ミラノ」という項目には、市内の展示フオリサローネについても言及がある。
家具見本市としての強さの確認を中軸に、これら他都市のイベントが手本とする企画も含めて、その基盤を強固にしようとしているサローネ。家具ビジネスの起点であるだけでなく、ミラノ市とともにデザイン全般そして全世界へ影響力を持つブランディングの起点であり続ける、という意欲の表明と受け取った。
The Manifesto
http://www.milanosalone.com/salone/news/images/20180213_0.manifesto_japrivisto_DEF.pdf
サンワカンパニーがミラノサローネ・アワード受賞の快挙
そして今年は会期半ばに大きなニュースが届いた。サローネと併催される隔年開催のキッチン見本市「エウロクチーナ」に2度目の出展となるサンワカンパニーが、全出展者から選出されるミラノサローネ・アワードの受賞者のひとつに選ばれた。
受賞したのはラグブランドのCC-Tapis、日本でもおなじみのMagisと、前述のサンワカンパニーの3社。プロジェクト、製品、ブースデザイン、会場でのコミュニケーションなどの観点で優れた展示に授与されるもので順位はない。
「興奮に包まれる会場内でオアシスとして新鮮な空気を提供。クリーンでミニマルな空間が製品を引き立て、細部まで無限にストーリーを語り、空間と空間でない部分の重要性が均一なバランスを保っている」というのがサンワカンパニーの受賞理由。後述するが、コンパクトキッチンという日本ならではの観点とその表現が成功していることは、日本企業のブランディングの良い事例となるだろう。
参加する日本企業5社の進化
サローネに参加する日本企業は昨年と同じ、KARIMOKU NEW STANDARD(カリモク家具)、MARUNI COLLECTION(マルニ木工)、飛驒産業、リッツウェルという木製家具メーカー4社。そしてエウロクチーナにはサンワカンパニーが参加した。各社の新作やブースについて紹介する。
KARIMOKU NEW STANDARD(カリモク家具)
ドイツ・ベルリンで活動するデザインスタジオGeckeler Michelsを迎えて開発した椅子「PANORAMA CHAIR」、ブランドスタート時からの共同者BIG-GAMEと、昨年発表したソファが人気のクリスチャン・ハースによるシェルフ2点などを発表した。
ブースは昨年と同様に部屋を思わせる舞台セットのようなイメージ。サローネ本会場への出展は2年目だが、ミラノ市内での展示を含めると9年目となる。クリエイティブディレクターのダヴィッド・グレットリによる一貫した世界観でブランドイメージを訴求。日本国内の広葉樹間伐材活用を背景に、小径木であることを生かして製品をデザインするという特徴が上手くブランドの個性となっている。
MARUNI COLLECTION(マルニ木工)
“工芸の工業化”を掲げるマルニ木工。毎年、深澤直人さんとジャスパー・モリソン(以降、ジャスパー)という2人のデザイナーによる新作を追加し、MARUNI COLLECTIONを拡張している。一昨年はスチールを取り入れたダイニングチェアとバースツール、昨年はそのカラーバリエーションや仕上げ違いを発表。今年は深澤さんが成型合板、ジャスパーが無垢という素材違いによる2つのラウンジチェアを発表した。それぞれの新作に座り、両デザイナーと話す機会を得た。
事前に公開された写真を見て驚いたのが深澤さんの「Roundish アームチェア」。成型合板で背座が一体のシェルチェアだ。成型合板のシェルというと、第二次世界大戦後のイームズ夫妻による挑戦や、アルネ・ヤコブセンがフリッツ・ハンセンと開発したアントチェアやセブンチェアを思い出す。「成型合板の作り方には逆らわないようにしました。ですから、とてもシンプルな形。平面の板を曲げて作った立体的な形状です。むしろ驚きなのは、この薄い座面に脚をつなげる難しさを実現したマルニ木工の技術でした」と深澤さんは答えた。
ジャスパーの新作は「Fugu」。脚、座面、背面の厚さが均一に見えるからか、素材の質感が強調される印象を持った。あえて成型合板との比較を尋ねると、「無垢の木の質感が良いのです、成型合板にはこうした感覚はないでしょう。マルニ木工の強みを活かせますしね。将来、良いデザインが浮かべば成型合板の椅子もやるかもしれませんね」とのこと。「マルニ木工の工場がある広島に行くたびにフグを食べていて、とても好きなんです(笑)」と製品名の由来について冗談交じりに語り、新作についてとても気に入っているようだった。
大ヒットしている椅子「HIROSHIMA」から始まり、10年が経ったMARUNI COLLECTION。そのアートディレクターも務める深澤さんはその過程を「毎年毎年、期待値に応えるデザインを積み重ねてきた結果」「とにかくやってみる、それで学ぶ。結果、他が追随できず、真似できないようになる」と語った。サローネのホール16/20というトップブランドが並ぶ会場から、日本の家具の品質、その技術力を世界に伝える同社。さらなる発展を期待したい。
飛驒産業
単独出展2年目となる今年、ブースのイメージを2017年に出店した東京ミッドタウンの直営店と統一した。また、同社の技術的な特徴である曲木、圧縮技術を前面に出して「Bent & Compressed」というキーワードと共に、新作となる柳宗理・柳工業デザイン研究会デザインの「YANAGI カウンターチェア」などを展示する構成だった。
白を基調とするシンプルなブースは日本人の目には見慣れたものだが、サローネにおいては他との明確な区別となり、同社を初めて見たであろう来場者の口からは「Japan」という言葉が聞こえてきた。3年出展してようやく名前と顔を覚えられるというのが見本市なので、2年目のこの変化をどのように発展させていくか注目だ。
Ritzwell
これまでのコーディネートを中心に見せる開放的なブースから一転して、美術館のような展示方法に変えた。「アピールしたいのはデザインとものづくりの品質なので、それを強く見せることにした」という趣旨は成功しているようで、新作として発表したRitzwellチーフデザイナーの宮本晋作さんによるサイドボード「JABARA」と、2017年に発表し好評を得ているハイバックイージーチェア「BEATRIX」などが通路を行く人々の撮影対象となっていた。
3年続けて出展したホール5/7は、Minotti、Flexformなどイタリアを代表するラグジュアリーブランドが並ぶ場所で、そうしたマーケットに向けたコミュニケーションの取り方を最適化してきたということだろう。来場者にもその存在は馴染んでいるように見えた。
サンワカンパニー
白を基調としたブースは前回より広い320平米、”The Impact of Compact”というテーマで8種のコンパクトキッチンを展示した。社内デザインによる新製品だけでなく、シンプル、ミニマムという同社の持ち味を3組のイタリア人デザイナーが引き出した新製品とサンワカンパニーデザインアワード最優秀作品の試作も発表。
特にポストモダンを代表するデザイナーであるアレッサンドロ・メンディーニによるキッチンは新たな挑戦といえるだろう。上述のようにミラノサローネ・アワードを受賞したのだが、こうした姿勢も好感を得た一因なのかもしれない。他に類を見ないコンパクトキッチンという視点で新たな風を吹き込んでいる。
以上、ほんの一部ではあるが、2018年のサローネの概要と日本企業について紹介した。「日本のテクノロジー、日本のクオリティに対して期待が高まっている。そうした認識が全世界に広がっている」。これは、あるデザイナーへのサローネ会場でのインタビューで聞くことができた言葉だ。サローネという大舞台を利用して出展者がどのように発展していくのか。また、本記事では充分に紹介できていないが、関わる多くの日本人デザイナーとミラノ市内で展開した多くの日本企業がどのような評価を得ていくのか、これからを楽しみにしたい。
構成・文:山崎泰(JDNブランドディレクター)
ミラノサローネ2018のマニフェストが発表。新作を発表するデザイナーと参加する日本企業にフォーカス
https://www.japandesign.ne.jp/report/milano180403/
ミラノサローネ国際家具見本市での日本の家具4社、2017年の戦い方
https://www.japandesign.ne.jp/editors/170626milano/
ミラノで奮闘する日本の家具メーカーに見るブランド確立の道、サローネ出展の意義
https://www.japandesign.ne.jp/report/salone-2016-japan-furniture/