現役の建築家・デザイナーの講師陣の指導や、本格的な工房での実習などを特徴とする専門学校「ICSカレッジオブアーツ(以下、ICS)」。社会に対応できる思考力と実践力を養うことができる場所として、1963年の創立以来多くのデザイナーや建築家を輩出してきた。
なかでも「インテリアアーキテクチュア&デザイン科」は、家具・インテリア・建築などジャンルを横断し、3年間で総合的にデザインを学ぶことができるコースだ。同学科の卒業生であり、現在それぞれ第一線で活躍する上川聡さん(upsetters architects)、大川原正剛さん(アルテリア)、西村佳大さん(スタジオすぅ)の3人に、同学科の魅力とICSで得られた学びについてうかがった。
総合的で実践的な学びに惹かれた、ICSの「インテリアアーキテクチュア&デザイン」科
──まずはみなさんのICS卒業後のキャリアと、現在のお仕事について教えてください。
上川聡さん(以下、上川):私は2004年に卒業後、アトリエ系の設計事務所で働きながら同時に、現在につながる活動として、仲間たちと設計事務所「upsetters architects」を立ち上げました。3人の創業者のうち、私ともう1人のメンバーもICSの卒業生です。設立してから16年になりますが、空間設計やデザインのほか、事業者の方と並走しながら「何をつくるべきか」から考えるストラテジデザイン(事業戦略)にも力を入れていて、ふたつの部門を行き来しながら空間へと昇華させていく仕事をしています。
大川原正剛さん(以下、大川原):私は2006年の卒業後、個人の設計事務所を経て、インテリアデザイン事務所「アルテリア」に入社しました。当初は、出向先である百貨店の「CM=コンストラクションマネジメント」室に所属して、CM業務やプライベートブランドの店舗開発業務に携わっていましたが、2年前に会社に戻り、いまは商業施設やオフィスのインテリア設計やプロジェクトマネージメントをしています。最近では、今年オープンしたIKEA原宿店の設計監修に携わりました。
西村佳大さん(以下、西村):私は3年次のインターンシップ(※)で建築家の隈研吾さんの事務所に入り、そのまま2007年の卒業後に入所しました。模型が得意だったので、入れてもらえて。その後、住宅の設計をやりたいと思い、住宅系の設計事務所を経て2013年に独立し、設計事務所「スタジオすぅ」を立ち上げました。
※インテリアアーキテクチュア&デザイン科では、3年次に5週間インターンシップに行く期間がカリキュラム内に設けられている。
──みなさんが入学先としてICSを選んだ理由をお聞かせください。
西村:僕は正直、当時は何も考えてなかったんです。高校までずっと野球一筋でプロを目指していたんですが、ケガで野球を諦めました。そこで、いくつか専門学校を見学したところ、ICSの学校説明会でリートフェルトのレッド&ブルーチェアのミニチュア模型をつくらせてもらったんですね。昔からレゴが好きだったこともあり、それがおもしろくて。直感的に「ここ、いいな」と思ったんです。
大川原:私も大学では、いまとはまったく関係のない生物学を学び、大学院にも進学をしたのですが、アカデミックな世界に触れたときに「このままでいいのだろうか……」と考えてしまって。もともとインテリアや模様替えが好きだったことや、親の仕事の都合で引っ越しをたくさんしていたので、色々な土地で生活をしていたこともあり場に対する思いも強く、ものや場をつくる仕事に関わりたいと思いました。
そこで、いくつか専門学校を探していたのですが、ある学校の説明会で「家具に興味があるんです」と話したところ、「それならICSがいいよ」と勧められたんですね。ICSの中でもインテリアアーキテクチュア&デザイン科は家具をはじめインテリアや建築といった、人が関わるものを総合的に捉えていて、本格的な工房もある。頭で知識を得ながら手を動かして、実践的に学べるところがいいなと思い、「ここだな」と覚悟を決め、大学院を辞めて入学しました。
上川:私は工業系の大学で、鉄鋼系の建築材料や新素材などを研究する材料工学を勉強していたんですが、建築学科の友だちが多かったので、授業をのぞいたり、学科のフィールドワークで建築を見て回っているうちに、材料よりも建物や空間の方に興味を持ちはじめて。
そこで、通っていた大学の建築学科に移るという選択肢もあったのですが、より身体に触れるものとしてのフィジカルな素材に関心があり、インテリアを学びたいと思ったので、大学卒業後にICSに入りました。あと専門学校の方が、大学のような基礎課程がない分、一足飛びに学ぶことができるんじゃないかという期待もありましたね。
入学後、最初の授業で固定観念が崩された
──「インテリアアーキテクチュア&デザイン」科は、基本スキルを学習する1年次、応用的なデザインを学ぶ2年次、インターンシップで実践を積む3年次と、3年間で総合的にデザインを学ぶカリキュラムが組まれています。授業で印象に残っていることはありますか?
西村:僕が入ったときの最初の課題が「芋の器をつくる」というものだったんです。紅あずまっていうさつま芋を、先生がダンボールから学生にひとつずつ渡して、「これからこの子と24時間を共にしてください。そして器をつくってください」と言われて、「はあ?」となって(笑)。
大川原:あ、覚えてる!西村さんは私より学年が1つ下でしたが、そのときは芋を持ち歩いていたよね。
西村:そうなんです。寝るときも枕元に芋を置いてました。そんな生活を1ヶ月半くらい続けてると、だんだん「この子の顔はこっちだな」とわかってくる(笑)。それで、その芋を美しく見せる器をつくるわけです。あの課題は強烈なインパクトがありました。
大川原:私のときのテーマは「木ツルツル」でしたよ。板を一枚渡されて「それで表現しなさい」って。
上川:私のときは「水」。2D平面でも3D立体でもいいから自由に「水」を解釈してデザインしなさい、と。もう禅問答ですよ(笑)。
こっちとしては設計の課題が出されるのかなと思って授業に臨むんですが、1年次のその授業の担当の先生って、設計の専門家ではなくてアーティストなんですよね。その時は何をやっているのかわからないんですけど、その後、具体的な設計の授業に入ってから振り返ると、設計する上での条件がない「水」を題材に、自分で条件をつくり考えるための授業だったのかなと、いまになって思うんですよね。
西村:いや、そうだと思います。
大川原:最初の授業で、固定観念が崩されますよね。インテリアを学ぶということは、素材を選んできれいなかたちをつくることだと思っていたのが、「そういうことだけじゃないんだ、何も答えがないところから考えるんだ」って。あれで視野が広がりました。その後、図面から10分の1スケールで模型をつくる授業があったり、「木ツルツル」の自由さとは逆に、今度は枠組みの中でどうつくるのかという具体的な課題に取り組んでいきました。
多様性の中での刺激から生まれる卒業制作
上川:1年のときから、デザインの歴史やロジックを学ぶ授業と並行して、手を動かす実践的な課題がありましたよね。
大川原:考えてみると、大学の場合、卒論や卒験で忙しいのは4年生最後の1、2ヶ月じゃないですか。でもICSでは、課題を1ヶ月半で仕上げるというターンがずっと繰り返される。大学の卒論をずっとやり続けているようなハードさがあるんですよね。
西村:あと、既卒で入学されている方は10代から40代までいるし、留学生も多く、元ミュージシャンの方とかもいて、いろんなキャリアを経た人が集まっていることに刺激を受けましたね。課題に対する切り口がみんな違うのがおもしろいですし、ICSはどの学科も年齢や学年による上下関係もないので、現役で入学した高校卒業したての僕にとっては社会的な勉強になりました。
大川原:ICSのよさは多様性にありますよね。学生や講師の世代や国籍、バックグラウンドもそれぞれ違う。そのなかで3年間過ごした経験は、社会を知る上で得がたいものになりました。
──それでは、みなさんの3年次の卒業制作についてお聞かせください。
大川原:私は人とものの関わりに関心があったので、それをテーマに家具を制作しました。たとえば照明にはいろんなかたちがあるけど、人が実際に手で触るのはスイッチだけですよね。この関わり方を変えられないかなと、照明や電気について掘り下げていき、その思考をプロダクトに落とし込んでいきました。
最終的に、傘から落ちた雫が灯りを点ける照明をつくりました。あらためて振り返って無駄じゃなかったなと思うのが、大学での生物学研究の経験ですね。解決したい社会的な課題を自分で立て、研究室にある素材や道具を使い、実験のプロセスを組んでいく、生物学とデザインでもその進め方は同じだなと思いました。こうしたものづくりの考え方は、大学とICSで培ってきたものの集積だと思っています。
上川:私は、書店街として知られる神保町の細い路地に空間を挿入して、見本市スペースをつくる提案をしました。家具として造作されたものによって空間構成された、そこに人が滞在することで成立する公園のようなオープンスペースです。建築とインテリア、そして家具のあいだのようなものを表現したかったんですね。実際につくるとなると非現実的なものではありますが、卒業制作でしかできないことをしたくて、学生ながら社会的テーマを内包した試みに挑みました。
ちなみにインテリアアーキテクチュア&デザイン科では、カリキュラムとして3年生の卒業制作を1年生に手伝ってもらう期間があるのですが、私の時は大川原さん含む3人に手伝ってもらいました。当時住んでいたシェアハウスに来てもらって、工場のようにしてひたすら作業して(笑)。
大川原:ごはんをつくってもらったりね(笑)。お手伝いする側からしても楽しいですし、1年生の時から卒業制作の過程がわかるので、とても勉強になりましたね。
西村:僕は建築家の東孝光さんの狭小住宅「塔の家」のような、極限に小さい空間に興味があって。卒業制作では、新宿の高層ビルと新宿御苑に挟まれ、バラック化した低層住宅が建ち並ぶエリアに、周辺のギャップを埋めるように細長い家を建てる提案をしました。「アスパラの家」と呼んでいるんですが、らせん状に空間が旋回していく一戸建て住宅で、らせん階段の中に住んでいるような感じなんです。実は、実際にこれを今年建てることになりまして。
一同:おお!
西村:僕の奥さんがICSの同窓生なんですが、自宅兼事務所をつくろうとなったときに「アスパラやっちゃえば」って言われて(笑)。現在、工事中です。4階建てに16層のスキップフロアがあるんですが、扉がトイレにしかないから、事務所と自宅の境界も曖昧で。それも新しい住まい方、仕事の仕方として、おもしろいかなと思っています。
「個」を見つけること。それがデザインの強みになる
──ICSでは現在、感染症対策としてオンライン授業も導入しながら授業が継続されています。お仕事をされるなかで、コロナ禍を経て感じた変化はありますか。
上川:これまではあたりまえのように行っていた場所に行けなくなると、実空間での体験が特別なものになってきているのを感じますね。その時に、空間をつくる人間もその質をあげる必要があるし、そういうものでないと淘汰されていくだろうと思います。
西村:僕もそう思います。あと、自分がどう考え、どう発信していくかという「個」の力が重視される時代になると思う。そう考えると、多角的な視点で学べるインテリアアーキテクチュア&デザイン科のカリキュラムはすごくいいと思いますね。
上川:濃いですよね。3年間のカリキュラムの濃度がすごく濃いと思う。課題も年次が上がるごとに具体性を帯びて、より実務的になっていくし。しっかり取り組むと、「やったなオレ」って、かなり自分に自信がつくと思います。
大川原:課題をこなすのは大変だけど、続けることで4年制大学にも劣らない知識と経験を蓄えられますよね。かたちをつくるだけでなく、問題を定義して、思考のプロセスや、社会とデザインの関わりについて学べるのがいいと思いますね。社会に出ても怖くないというか、そのくらいの知識と経験は積めたと思います。
西村:僕が携わっている住宅設計では、デザインをお客さまに受け入れてもらうことも大切です。ICSでは課題について少人数で発表しあうチュートリアルという場があって、僕はそこでデザインを「伝える」ことを学びました。これからICSで学びたいと考えている方には、「デザインをどう伝えるか」も意識してほしいなと思いますね。
大川原:そうですね、ここに学びに来る人たちは本当に多様性に富んでいるので、ひとりで黙々とつくるのではなく、どんどん対話してもらいたいですね。自分がつくったものを言語化することは、社会に出てからとても必要になりますから。
上川:あと、デザインに大事なのは、スキルだけでなくパーソナリティ、つまり自分を見つけることなんですよね。自分がどういう人間かわかれば、社会に出たときに戦える「強み」になる。それを見つけるきっかけが、インテリアアーキテクチュア&デザイン科にはたくさんあると思います。
西村:僕はもともと建築が好きだったわけではなく、「インテリアでもやるか」みたいな感じで入りましたが、いまこうして天職として仕事ができているのは、インテリアアーキテクチュア&デザイン科での3年間を走り抜いたからだと思っていて。ここで得た学びは、きっとその先にもつながっていくのだと思います。
写真:西田香織 構成・文:矢部智子 聞き手・編集:堀合俊博(JDN)
「WEB OPEN CAMPUS」特設ページ
遠方にお住いの方や新型コロナウイルスの影響で来校が難しい方の為に「WEB OPEN CAMPUS」特設ページを開設いたしました。
特設サイトからはオンライン個別相談の申し込みも可能です。是非ご検討ください。
https://www.ics.ac.jp/opencampus2021
◯授業での感染症対策について
現在、ICSカレッジオブアーツではオンライン授業を積極的に取り入れながらも、感染症対策を万全に行った上で、可能な限り対面授業を行なっています。
本校はデザイン教育機関として、ただ技術を「教える」だけでなく、次代を担う人材を「育てる」ことを重視しており、この「育てる」という面において、日々対面の重要性を感じています。変わり続ける情勢の中でそれでも変わらない大切な事。この2つの最適なバランスを常に模索し続けながらICS独自の「デザイン教育」を実施していきたいと考えております。
※対面授業の割合については感染拡大状況によって増減いたします。