家具とインテリアデザインの起点
1年で最初に開催される家具とインテリアデザインの国際見本市が「imm cologne ケルン国際家具インテリア見本市(以下、imm)」だ。世界遺産のケルン大聖堂からライン川を渡ったケルンメッセ会場で開催され、毎年15万人もの来場者を集めている。その半数以上が開催国ドイツ以外からで、とりわけヨーロッパ圏外が伸びている。主催者資料によると、たとえば日本からはニトリが、北米からはアマゾンが毎年訪問しているそうだ。
家具やインテリアの見本市は1月のimmに始まり、ほぼ同時期にパリのメゾン・エ・オブジェ、2月にストックホルムファニチャーフェアー、4月にミラノサローネ、5月にニューヨーク国際現代家具見本市(以下、ICFF)と続く流れがある。日本では10月半ばから11月にかけてのデザインウィークで新作がお披露目されることが多い。immとミラノサローネが来場者も出展者も他の見本市より桁一つ大きく、immはまさに1年の起点といえる。
広大な会場には世界の主要ブランドがそろっている。WALTER KNOLL、CORといったドイツ勢はもとより、同時期に本拠メゾン・エ・オブジェで展開するフランスのligne rosetがimmでも大規模に展開している。そして、Minotti、Cassina、B&B ITALIA、FLEXFORM、Molteni&C、baxterなど日本でもおなじみのイタリア勢。定番ブランドのKnoll、vitra、artek、Fritz Hansen、Carl Hanse & Son、kvadrat、arperと書ききれないほど。
会場を歩くと、たとえば色のトレンドは青や緑に加えて、朱色など赤系が多くなったと感じた。一方で、素材感を際立たせる見せ方、ユニークな構造や外観、幾何学モチーフといった流れが続いていることも確認できた。大規模な国際見本市だからこそ分かることだ。
この巨大なimmから、今後、国外での活躍が期待される日本人デザイナーと、10年以上にわたり出展を続けるカンディハウスを紹介する。
Junpei & Iori Tamaki(玉置潤平、玉置唯織)
2013〜2014年にミラノサローネ・サテリテに参加して欧州の家具メーカーとの接点を作り、今やCappelliniやLIVING DIVANIといったイタリアを代表するブランドにデザインを提供しているJunpei & Iori Tamaki。LIVING DIVANIではブランドの顔の一つとなっている木製椅子「RIVULET」をデザインしている。
今回はフランスのligne rosetから新作のテーブル「Yuragi」を発表。コーディネートのメインアイテムとして使われていた。
福定 良佑
シャープのインハウスデザイナーを経てイタリアのドムスアカデミーで学び、パトリシア・ウルキオラの事務所でアシスタントを務め、自身の事務所FUKUSADA STUDIOを開設した福定良佑。
今回はデンマークのファニチャーブランドPLEASE WAIT to be SEATEDから、スツールなどのコレクション「Anza」を発表。ファブリックに丹後ちりめんを使ったバージョンも試作として展示していた。会場の反応を見て今後の展開を検討するそうだ。デザインはパトリシア・ウルキオラの事務所で一緒だったRui Pereiraとの合作。
カンディハウス
海外でも評価を確立させている数少ない日本の木製家具メーカーがカンディハウス 。2018年に創立50周年を迎えたばかりだ。immには2005年から連続出展している。この数年は「北海道産広葉樹」材の利用を推進しており、地元の材料を地元の技術で加工し、世界へ届ける“Local to Global”を実践している企業だ。
カンディハウスの藤田哲也社長に今回の手応えを聞いた。
藤田:(ヨーロッパはもちろん)immにはヨーロッパ以外のバイヤーも多く、アジアからの反応もポジティブです。今年は参加するホールが変わり心配もありましたが、メインの出入り口から見通せる場所で人通りも多く安心しました
同じホールには日本でも知られるASPLUND、e15、MENU、SWEDESE、TECTA、THONETなどがブースを構える。しかも、カンディハウスのすぐ隣は英国の老舗木製家具ercolであった。imm唯一の日本企業がこうした著名ブランドに並び、その中で評価を得ているのは喜ばしい。
創立51年目となる今年は世界戦略を前進させる年になるそうだ。
藤田:今年はこの1月のimmを皮切りに、4月にミラノデザインウィーク、5月にNYのICFFと連続出展します。6月にはASAHIKAWA DESIGN WEEKがあるので、なかなか忙しいですね
見本市で実績を出すには3年が必要と言われる。カンディハウスのICFF出展は3年目なので、世界戦略についての準備は少なくとも3、4年前から始められていたと推測できる。またこのタイミングでコントラクト市場向けの新製品第一弾として「KOTAN」をimmで発表し、合わせて社内にコントラクト事業部を新設した。海外でのマーケティング、製品づくり、社内体制をリンクさせて新たなチャレンジへの準備は万端というところだ。
すでに写真が公表されていた深澤直人デザインの新シリーズ「KOTAN」は、丸棒の脚、曲げの背とアーム、丸い座という普遍的ともいえるシンプルな椅子。この椅子はどのようにして生まれたのだろうか。
藤田:世界市場へ向けたコントラクトとなると、コストとデザインが重要です。深澤さんと相談したところ『どんな椅子ならば価格を抑えることができますか』と聞かれました。『たとえば当社のロングセラーであるルントオムですね』と答え、こうした作り方ならば、とお伝えしました。デザインに関しては信頼関係もありお任せしています。こちらからルントオムを参考にして欲しいとお願いした訳ではないのですが、ご提案を見て、なるほどと感じました
コントラクト用の椅子には、数十脚と並んでも空間に馴染む外観と、軽さやスタッキングなどの機能、リーズナブルな価格、大量な発注への対応などが求められる。その条件下でどのように競合他社との違いを生み出すのかが勝負どころで、カンディハウスの代表作を参考にしたデザイナーからの回答が今回の新作「KOTAN」ということのようだ。新シリーズと発表されていることから今後のバリエーション展開にも期待したい。
nendo
imm会場外のケルン市内では、ヴェネチアンガラスのWonderGlass社の新コレクション「melt」が展示されていた。デザインはnendo。同社は、溶けたガラスを型に流し込んで成型する鋳造ガラスを得意としており、ガラスが柔らかいうちに型から取り出し、手作業で造形を施す独自技術を持っている。その技術をもとに、ガラスの粘性をできるだけ生かした家具などのコレクションだ。ミラノより一足早くこうした新作を見ることができるのもimm時期のケルンの魅力だろう。
2020年のimmの会期は1月13日〜19日。一年後、どのようなデザイナーが新たに注目を集めるのか、また、カンディハウスの次なる一手にも注目したい。
山崎泰(JDN)