「場」ってなんだろう? 谷尻誠×ナカムラケンタ×西澤明洋:第1回「みんなでクリエイティブナイト」

「場」ってなんだろう? 谷尻誠×ナカムラケンタ×西澤明洋:第1回「みんなでクリエイティブナイト」

僕がしていることは「混ぜる」こと 谷尻誠(建築家/起業家)

定義のない場所をつくる

僕は「SUPPOSE DESIGN OFFICE」という設計事務所をやっているんですが、自分がなにしてるのかというと、「混ぜてる」んじゃないかなと思うんですよね。

昔の家には、玄関先で商いをやっていたり、家事や子育てしている、よくわからない場所があったんですけど、今の時代は仕事は仕事、生活は生活と分かれていますよね、僕はこの昔の状態がいいなと思っているんです。日本人って白黒つけるのが大好きなんですけど、僕はグレーゾーンが大好きで。混ざっていてどっちとも定義できないような場所とか、そういうものがすごく好きだなと思っています。

谷尻誠<br /> 1974年、広島県生まれ。1994年、穴吹デザイン専門学校卒業。1994年から1999年まで本兼建築設計事務所に、1999年から2000年までHAL建築工房に在籍。2000年、SUPPOSE DESIGN OFFICEを設立。2014年より吉田愛と共同主宰。住宅、商業空間、会場構成、ランドスケープ、プロダクト、インスタレーションなど、仕事の範囲は幅広い。最近では、社食堂、絶景不動産、21世紀工務店など様々な業態で起業するなど、幅広く活躍している。

谷尻誠
1974年、広島県生まれ。1994年、穴吹デザイン専門学校卒業。1994年から1999年まで本兼建築設計事務所に、1999年から2000年までHAL建築工房に在籍。2000年、SUPPOSE DESIGN OFFICEを設立。2014年より吉田愛と共同主宰。住宅、商業空間、会場構成、ランドスケープ、プロダクト、インスタレーションなど、仕事の範囲は幅広い。最近では、社食堂、絶景不動産、21世紀工務店など様々な業態で起業するなど、幅広く活躍している。

本来建築家は、やることが決まってから「これを作ってください」と頼まれるんですが、僕たちが「ONOMICHI U2」というプロジェクトをやらせてもらったときに、事業全体の提案をしたんですね。尾道はサイクリストがたくさんやってくる街なんですが、調べてみると、日帰りの観光者が多かったんです。人が泊まる街にしないかぎりは観光地として発展しないんじゃないかと思ったので、このプロジェクトではサイクリストたちが泊まるようなホテルと、ベーカリーやカフェ、レストランなど、商業施設が一緒になった提案をしました。「なにを設計するのか」というところからプロジェクトに関わったので大変だったんですけど、その後、「なにをつくるのか」という段階から一緒に考えていくプロジェクトが増え始めたんですね。

2017年に渋谷にオープンした「hotel koe tokyo」も、もともとは、アパレルブランドの「koe」から、「渋谷にショップをつくりたいんだけど、どんなふうにやったらいいか考えて欲しい」と依頼されてつくりました。僕はもともとクラブが好きで、クラブはおしゃれな服を着ていって、音楽の情報も得られる学びの場だったんですが、オンラインで洋服を買いはじめると、その隣にある音楽やカルチャーと出会わなくなってしまった。そこで、洋服がもう一度カルチャーをつくるような場所になるために、洋服を売っているホテルを提案したんです。一階がカフェで、ポップアップスペースをつくって、 夜になればカウンターにDJブースを設置して、クラブやライブハウスにもなる。そうやって、時間によって場所の用途自体がうつろっていくんです。

「社食堂」という場所のしかけ

企画から仕事をしていたら、気がつくとコンペをしなくてもよくなってたんですね。仕事量は増えるんですけど、他社と比較されなくなって、頼まれる率がすごく上がってきました。

そのうち、段々と頼まれる仕事だけじゃ物足りなくなってきたんです。うちの奥さんは料理家なんですが、いつも「からだの細胞は食料が原料だ」と言ってるんですよ。設計事務所とかクリエイティブな会社は、コンビニ弁当ばかり食べていたりして、食に対してぜんぜんクリエイティブじゃないですよね(笑)。コンビニ弁当食べている人は、コンビニ弁当でからだできているので、さぞかし健康でいいアイディア出しそうじゃないですか(笑)。そんなはずないんで、東京の事務所を作るときに、細胞をデザインするというコンセプトで、誰でも利用できる「社食堂」をつくりました。キッチンをど真ん中において、ギャラリーやライブラリーの機能を持たせることで、ごはんを食べに来た人がうっかりデザインのことを知ったり、打ち合わせに来た人がうっかり食の大切さを知ったり、そんなことが起こるような「しかけ」をわざとつくっているんです。

最初はすごくいろんな人たちから反対されたんですよね。みんなダメな理由を考えることにすごくクリエイティブで(笑)。逆にこんなに反対されるってことは、この取り組みがまだ価値化されてないってことなんだなと思ったんです。オープン後は、みなさんの期待を裏切ってたくさんの人に来ていただくことができるようになりました。なによりスタッフと一緒にごはんを食べるようになったので、チームワークも形成されて、会社の雰囲気がよくなってきたんですよね。

検索に時間を奪われないために

ほかにも、「tecture」という会社をつくりました。“tecture”は、“architecture”の“archi”をとったことばで、テクノロジーの“tech”と、ラテン語で「こと」という意味の“ture”で、「テクノロジーでことを起こす」会社です。

なぜテクノロジーの会社を作ったかというと、うちのスタッフが働いている様子をみていたら、みんな図面を書かずに検索していることに気がついたんです。本来設計事務所は、図面を書いたり考えたりするのが仕事なのに、みんながGoogleでずっと検索している。便利になったようで、検索に時間を奪われているんだと思ったんです。だから、長い時間働かなくちゃいけなくなるんだなあと。なので、建築事務所で働く人たちの検索の時間をシュリンクする必要があるんじゃないかなと思って、アプリケーションをつくりました。

tecture

「tecture」

検索はキーワードを打たなくちゃいけないので、キーワードのセンスがないと知りたいことに永遠にたどり着けないんですよね(笑)。だから、メーカー名と商品名の品番がすぐわかって、そのままメーカーにコンタクトできるワンストップのアプリケーションをつくりました。検索の概念を変えようって思ったんです。

設計事務所はめちゃくちゃ忙しくて、めちゃくちゃ働くのに、薄給なんですよ。だからだれも目指さない。どの設計事務所も人手が足りなくて、いつも求人してるんです。意地悪な言い方をすると、それは業界に人が来ないってことをアピールしてる状態。なので、自分たちの会社だけじゃなくて、ほかの建築会社のためにも、検索にかける時間を省略できるようにしようと思ったんです。

なんでこんなにたくさん事業をつくっているかというと、5年前、うちの事務所に税務署が入ったんですよ。なんでうちなんかに来るの?って税理士さん聞いたら、「売り上げが上がってきています」って言われて。そのときにはじめて売り上げを知ったんですね(笑)。うちの会社ってけっこう立派になってんだなと思ったんです。だったら、このお金を、ちゃんとスタッフに還元したり、会社をよくすることに使わないとなって思って。ちゃんとスタッフがはたらいていて誇りに思ってもらえるような会社にしようと思って、お金の使い方について考えていこうと思っています。

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