「場」ってなんだろう? 谷尻誠×ナカムラケンタ×西澤明洋:第1回「みんなでクリエイティブナイト」

「場」ってなんだろう? 谷尻誠×ナカムラケンタ×西澤明洋:第1回「みんなでクリエイティブナイト」

エイトブランディングデザイン&JDNが共同開催する「みんなでクリエイティブナイト」は、「◯◯とデザイン」(毎回「〇〇」のテーマが変わります)をテーマに、 社会や⼈の⼼理にデザインがどのように作⽤するのかを問い、デザインの役割や価値について、“みんな”で考えていくイベントです。ブランディングデザイナーの⻄澤明洋さんをファシリテーターに、各回のテーマにあったクリエイター2組をゲストに迎え、さまざまな角度からテーマを掘り下げていきます。

2019年8月2日(金)に開催された第1回目のテーマは「場づくりとデザイン」。ゲストに、谷尻誠さん(SUPPOSE DESIGN OFFICE共同代表)とナカムラケンタさん(日本仕事百貨代表/株式会社シゴトヒト代表取締役)をお迎えし、それぞれの「場」についての考えを語り合うイベントとなりました。本記事では、当日行われたナカムラさん・谷尻さんそれぞれのキートークと、西澤さんを含めた3人の鼎談のレポートをお届けします。

「日本仕事百貨」の運営のほか、「リトルトーキョー」という「場」を持つナカムラさんと、誰もが利用できる「社食堂」やゲストを招いたイベント「THINK」を広島の事務所にて開催されている谷尻さん。この日は、“建築出身”という共通のバックグランドを持つ3人が集まった一夜となりました。それぞれが抱く「場所」観から、これからの場づくりへのヒントを探っていきます。

場所と人を結びつけるために  ナカムラケンタ(シゴトヒト代表)

「場所は人なり」

「雪国」という世界的に有名なカクテルをつくった、山形県酒田市のバー「ケルン」のバーテンダー、井山計一さんという方がいるんですが、93歳のいまでも週5日カウンターに立ってらっしゃるんですね。今年作られた彼についてのドキュメンタリー『YUKIGUNI』について、評論家の成田一徹さんが、「バーは人なり」というコメントを寄せています。

ケルンには、かならずしもお酒を飲まない人も通っているんですよね。なぜだろうと考えると、それは井山さんに会いに行っているからじゃないかなあと感じるんです。

僕自身も、こういった「場所は人なり」ということをずっと実践してきました。

ナカムラケンタ<br /> 日本仕事百貨代表/株式会社シゴトヒト代表取締役。生きるように働く人の求人サイト「日本仕事百貨」を企画運営。東京・清澄白河に小さなまちをつくるプロジェクト「リトルトーキョー」や「しごとバー」の企画・デザイン監修。シゴトヒト文庫ディレクター。2015年-2017年グッドデザイン賞審査員。2018年インテリアライフスタイル展ディレクター。2017年4月22日、誰もが映画を上映できる仕組み「popcorn」をスタート。2018年9月20日に初の単著『生きるように働く(ミシマ社)』を発売。

ナカムラケンタ
日本仕事百貨代表/株式会社シゴトヒト代表取締役。生きるように働く人の求人サイト「日本仕事百貨」を企画運営。東京・清澄白河に小さなまちをつくるプロジェクト「リトルトーキョー」や「しごとバー」の企画・デザイン監修。シゴトヒト文庫ディレクター。2015年-2017年グッドデザイン賞審査員。2018年インテリアライフスタイル展ディレクター。2017年4月22日、誰もが映画を上映できる仕組み「popcorn」をスタート。2018年9月20日に初の単著『生きるように働く(ミシマ社)』を発売。

もともと僕は親が転勤族で、地元がありません。出生地や実家はあっても、引っ越しばかりしていると地元がどこにあるのかわからない。なので、「自分の居場所が欲しいな」という思いがずっとありました。

学生時代には建築を学んでいたんですが、建築では、敷地などの制約条件から、なにを建てるのかを具体的にしていきます。でも、僕はそういった制約の前の段階から自分で決めていくことをやりたいなと思っていたんですね。もっとクリエイティブの川上に行きたいなと思って、ずっともやもやしてたんです。

その後、建築の道には進まず社会人として働いていたんですが、当時週6日でバーに通っていました。週7日じゃないのは、休肝日ということじゃなくて、お店の定休日だったからです(笑)。毎晩のように通っている中で、自分がこんなに通ってしまうこの場所は、とてもいい場所なんじゃないかと思ったんですね。「自分の居場所をつくりたい」「いい場所をつくりたい」とずっと考えていたので、自分がここに通う理由を突き詰めれば、いい場所の定義が自分なりにできるんじゃないかと思いました。

食事やお酒がおいしいことや、内装の居心地のよさはもちろんですが、ここに通っているのは、バーテンダーに会いに来ているのがいちばんの目的なんじゃないかと思ったんです。場所がその人に合っていれば、その人は生き生きするし、生き生きとしている人がいる場所には行きたくなる。そんないい循環が生まれて、場所と人がすれ違うことなく結びつければ、より生き生きとする人が増えてくるんじゃないかと思ったんです。「日本仕事百貨」をはじめたのは、そういった思いがあったからでした。

なにかがはじまる「中心」が生まれる場所

今年でサイトをはじめて11年になります。いろんな求人を載せている中で、やっぱりそこにいる「人」が大切なんだなと思ったんですね。そして、そこからさらに魅力的な場所を、もう一段階広げることができるんじゃないかと考えるようになり、「しごとバー」や「リトルトーキョー」といった場所をつくることにつながっていきました。

リトルトーキョー

リトルトーキョー

しごとバー

「しごとバー」開催時の様子

ほかにも、だれもが自分で映画館をはじめることができる「popcorn」というサービスをはじめました。もともと自主上映会というのは、権利関係が複雑で初期費用が高いという問題があったんですが、そういった問題をクリアにして、簡単に開催できるようにしました。

だれでも自分の映画館をつくることができるサービス「popcorn」

だれでも自分の映画館をつくることができるサービス「popcorn」

映画館だと、映画を観終わったあとに隣の人の知り合いじゃない人に急に語り出すことってないですよね(笑)。でも、自主上映会では隣に座った人との会話が自然と生まれやすいんです。そういった場づくりの意味をこめて、このサービスをはじめました。

荻窪の喫茶店「6次元」の店主、ナカムラクニオさんとお話ししていて思ったことがあります。いい場所っていうのは、中心となってなにかをはじめる人がいて、そこに人が集まってくる。そしてさらに広がりのある場所にするためには、参加者同士がつながることがすごく大事です。6次元は、イベントが終わったあと、なんとはなしにその場所を1時間解放してるそうなんです。そうすると、勝手に参加者同士が知り合いになっていくんですね。知り合いができれば、その場所にいくことでまた会うことができる。6次元では、その場所を通して知り合いが増えて、また来たいと思う人が増えているんだと思うんです。

ナカムラさんの当日のスライドより。(左)誰かを中心として人が集まり、(中央)集まった人同士がつながり、(右)そこからまた別の中心が生まれていく。

ナカムラさんの当日のスライドより。(左)誰かを中心として人が集まり、(中央)集まった人同士がつながり、(右)そこからまた別の中心が生まれていく。

さらにその次の段階は、参加者がそこでなにかをはじめることです。そこでまた新しい中心が生まれて、人が集まってくる。そうやって、おもしろいことがどんどん生まれていくんだと思います。集まってきた人同士をつなげて、連鎖的に集まってきた人がまたなにかをはじめやすいような環境を整えることが、魅力的な場所なんじゃないかなと思っています。

次ページ:僕がしていることは「混ぜる」こと 谷尻誠(建築家/起業家)