「LAMY thinking tools展」トークイベントレポート、山中俊治の視点で読み解くLAMYデザインの精緻

[PR]
「LAMY thinking tools展」トークイベントレポート、山中俊治の視点で読み解くLAMYデザインの精緻

LAMYデザイン50周年を記念する、世界巡回展

世界中にたくさんの愛用者がいる、ドイツの筆記具ブランド「LAMY(ラミー)」。ペンのデザインプロセスに焦点を当てた「thinking tools展」が、3月3日から4月8日まで21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3にて開催されました。

LAMY thinking tools展

会場の中心には、LAMYアルスターのボディでつくられた、人間の思考回路を表すようなインスタレーション作品がありました

LAMY thinking tools展

クリストフ・ニーマンのイラスト作品のペン先から生み出される一本の線として、会場内に青い糸が張り巡らされています
© Christoph Niemann for C. Josef Lamy GmbH

LAMY社は1930年にドイツの古都・ハイデルベルグに設立され、ユニークなデザインでドイツのみならず、世界中の筆記具市場に新風を吹き込みました。世界中のさまざまな分野のデザイナーとのコラボレーションによって開発された商品は、多数のデザイン賞を受賞しています。

本展では、LAMYを代表するさまざまなペンのプロトタイプや製品開発の現場のワンシーンの紹介を主軸に、「WIRED」「The New York Times Magazine」などのグローバルメディアで活躍するイラストレーター、クリストフ・ニーマンが同展のために手がけたドローイングとインスタレーションが展示され、機能美とデザインの本質に迫りました。

LAMY thinking tools展

入口すぐの壁にあったのは、LAMY 2000でつくられた手の形に見える作品
© Christoph Niemann for C. Josef Lamy GmbH

LAMY thinking tools展

© Christoph Niemann for C. Josef Lamy GmbH

また、会期中にはゲストスピーカーによるギャラリートークが開催。「LAMY noto(ノト)」のデザインを手がけた深澤直人さんや、ドイツ・LAMY本社マーケティングチームの大貫仰さん、LAMY製品の愛用者でもあるデザインエンジニアの山中俊治さん、それぞれがLAMYに対する考察や思いを語りました。

この記事では、4月1日にインターナショナル・デザイン・リエゾンセンターで行われた、山中俊治さんのトークイベントについてレポートします。

トークイベント 「デザインエンジニア山中俊治氏が読み解くLAMYデザイン」
日時:2018年4月1日(日)15:00~
会場:インターナショナル・デザイン・リエゾンセンター

Suicaなど自動改札機の角度のデザインからアスリートの義足まで、幅広い製品をデザインする一方、技術者としてロボティクスや通信技術に関わる山中俊治さん。東京大学生産技術研究所の教授を務め、人とものの新しい関係を研究しています。かねてからLAMY愛用者で、自身のSNSでもLAMYについて触れることがしばしば。今回のトークイベントでは「LAMY design&I」というテーマを掲げ、自身とLAMYの出会いや、製品を考える際に欠かせないというスケッチについて、また、LAMYの代表的なペンを複数取り上げ、独自の視点からペンのデザインと、それを具現化するエンジニアリングについて読み解いていきました。

LAMY thinking tools 山中俊治トークイベント

LAMYとの出会い

サインペンやボールペンでスケッチを描くことがほとんどだったという山中さん。2012年にカリグラフィペンである「LAMY joy」と出会い、ここ5~6年はずっとLAMY製品でスケッチを描いているそうです。普通のボールペンやサインペンとは違い、より繊細に紙との関係が生まれる点が気に入っていて、かすれ具合やインクがたっぷり溜まることを楽しんでスケッチしているそうです。特に楕円は“スケッチの素振り”としてよく描くとのこと。

LAMY thinking tools 山中俊治トークイベント

一番右が「LAMY joy」、その他3本は「LAMY safari」

山中俊治さん(以下、山中):小学生の頃、シャープペンやボールペンを潜水艇だったり宇宙船だったり、“乗り物”に見立てていました。文房具を選ぶ基準もスピード感で選んでいたのですが、safariの“少しも速そうじゃないのに、かっこいい”という印象に衝撃を受けたんです。あらゆるパーツに無駄なく、すべてが目的のためにデザインされている。このペンをいろいろ調べてるうちに、機能美やプロダクトデザインってこういうことなんだろうと気が付きました。

clockoid

LAMY製品でスケッチしたもの。「clockoid」という、時計でもあり機械でもあるロボットプロジェクト

分解して構造を把握する

イベントでは山中さんが教鞭をとる、東京大学生産技術研究所の学生と行った、safariなどのLAMY製品をバラバラに分解した研究についても発表されました。スライドでは分解された製品のパーツも投影され、各パーツの役割についての見解が述べられました。

分解することについて、観客からの「何かをつくるために分解をするのか、何かおもしろいものを見つけるために分解をするのか、どちらでしょうか?」との質問に山中さんは、『両方ですね。実際メーカーに依頼された時はそのメーカーの部品を分解してみて、あと工場へも行って、一通りつくり方を学んでからデザインします。それは、何でそういうデザインになっているのか知るというとても大事なことで、ものづくりに携わっていると何をどういう手順でどういう風につくるのかっていうことが、デザインそのものとも言えるんです』と、話しました。

分解された、LAMY Safari

分解された、LAMY Safari

また、イベント終了後にも少しお話を聞くことができました。

-「thinking tools展」で印象に残っている展示物は何ですか?

山中:safariの初期のものは懐かしくて嬉しかったし、金属の削り出しのプロトタイプなんかもあって、全体的になかなか萌えポイントでした。プロダクトデザイナーが観るには結構いい展示だったなと思います。スケッチも、なるほどこう考えたのかっていうものがあったし、あと製造技術も見せてくれてて、スピリットのシートを刻んでそれを丸めてつくるんだよってあれもなかなかいいですよね。

初期のsafari。パッケージは、ゲルト・アルフレッド・ミュラーによるもの

初期のsafari。パッケージは、ゲルト・アルフレッド・ミュラーによるもの

LAMY spiritの製造工程

LAMY spiritの製造工程

-デザインしている中で、壁にぶち当たった時にやっていることはありますか?

山中:先ほど工場見学をするという話をしましたが、こういうつくり方をするからこういう形になるのは当たり前だというような、その業界特有の習慣があります。でもそういった、ほかの業界だと当たり前ではないということに気が付くと、それだけで新しいアイデアになっちゃうんですよね。それなんかはひとつのヒントだと思っています。やっぱりLAMYが世界的なデザインブランドとして確固たる世界をつくれたのも、常に製造技術と共にあったからだと思っていて、だからそういう意味では何か思い付かなくなったらつくっている現場を見に行くってことは結構やっています。こんな加工方法があるんだっていうことを知ると、ちがうアイデアが出る。

煮詰まっちゃったら外に出るのは間違ってなくて、街に出て、それが使われている風景を見るとかも結構いいと思います。あとは同じ製品が海外で、どう使われているかを見るのもいいかもしれません。基本的には煮詰まっちゃってるというのは、自分である空間を限定しちゃってるんですよね。ずーっと端から端まで丁寧に考えているつもりでも、探索している範囲がそもそも狭い。だからその範囲から外に出るっていう努力を意識的にするのは大事です。

-山中先生の研究室のプロトタイプは、日本の先端技術と繊細な美的感覚が調和しているように思うのですが、「thinking tools展」のプロトタイプを観て共通するなと思う部分はありましたか?

山中:僕がLAMYに惚れ込んでいる理由でもあるかもしれませんが、装飾的でないですよね。スタイルとして加算してないんですよね。僕はデザインする時に日本的であるっていうのは意識していないんですけど、先日、サンパウロでおこなっている展示にエルメスのアートディレクターの方がたまたま来てくれて、その時に「日本的だと思う?」っていう話をしたら、「そう思うよ」って。装飾のような何かを足さないで、本質的な要素だけを磨き上げる感じが日本的なミニマリズムだと感じるらしいです。LAMYは日本的だとは思わないけど、装飾的じゃないところが日本人が好きな理由の1つじゃないですかね。

-展示会名が「thinking tools展」ですが、山中先生が思考する時に大切にしていること、必要な道具などはありますか?

山中:スケッチっていうのは僕にとっては完全に思考のツールの一環になっていて、頭の中でモヤモヤって浮かんだものを1回紙に置いてみて、それを目から再入力してそれでもう1回考えるというサイクルで使っているので、スケッチは最終的な提示ではなく、サイクルの中で1回外在化させるのが狙いなんです。そういう意味ではスケッチは手を通して1回形をつくるという、僕にとってはthinking toolsですね。

-改めてLAMY製品の魅力を教えてください。

山中:筆記具の本質に常に迫ろうとしてますよね。それからLAMY製品の中にはいくつか三角がテーマになっているものがありますけど、それは基本的には指3本で摘まめる形なんです。リチャード・サッパーの三角形もそうだし、safariもそうだし、深澤直人さんのnotoもそうだし、人間工学的な意味とも言えるんだけど、指との関係っていうのもいつもきちんと意識していることがすばらしい。それから素材と格好の関係もとても率直ですね。つまり素材感を活かしてある。高級万年筆って金を目立つように使ったり螺鈿を入れたり、装飾的に高級品にしようと思うよね。そこをしないところがLAMYですよね。金など使っているものもあるけど、装飾としては使っていない。結果的に高級にはなるんだけど、質感を追求していったら高級になっちゃいましたという感じがいいですよね。

LAMYに対して、自分がデザインしていないので、くやしいという山中さん。講演中は終始笑顔で話されていた

LAMY thinking tools
http://www.lamy.jp/thinkingtools.html

LAMY
http://www.lamy.jp/