企業が自社の歴史や製品、技術などを展示し、企業の魅力を多くの人に発信する施設である企業ミュージアム。本記事では、JDN編集部が全国のなかから厳選した施設を東日本と西日本に分けて掲載。ぜひお出かけの参考にしてみてください。
東日本にあるミュージアム
■クロステックミュージアム(X TECH MUSEUM)
ベアリングやモーターを中心とする総合精密部品メーカー・ミネベアミツミグループの相合※力の強化と優秀な人材確保・育成を目的に、東京本部などを移転・集約した東京・汐留の新拠点「ミネベアミツミ 東京クロステックガーデン」。そこに誕生したのが、新たな企業ショールーム「クロステックミュージアム(X TECH MUSEUM)」です。
旧ショールームは商談を目的として製品を見せる場でしたが、移転を機に目的や来館者、コンセプトまですべてを抜本的に見直すことになりました。そして、「ミネベアミツミの特性を活かし、世界のものづくりを支える技術」をテーマに、小学5年生以上を主対象とした、ものづくりのすごさを体験・体感できる施設に生まれ変わりました。
※相合:総合ではなく、相い合わせることを意味する造語。自社グループのあらゆるリソースを掛け合わせ、相乗効果により新たな価値を創造する。
普段は目にする機会はあまりないものの、私たちの身の回りの生活のあらゆる場面で使われているミネベアミツミの製品と、それを支えるミネベアミツミの超精密加工技術、また、製品と密接に関わる⾃然界の原理を展示の軸としています。
ミネベアミツミの製品は、⼩学校の理科の授業で習う自然界の原理原則(摩擦、電気/電⼦、磁気、光/電波)を利用して動いているということや、各部品の仕組みや構造、社会の中で大きな役割を果たしていることを、実際の製品や体験展示に触れながらわかりやすく学び、ものづくりへの興味や関心、気づきを得られるような展示構成となっています。
ミネベアミツミのコア事業を「X RANGER(クロスレンジャー)」としてキャラクター化。X RANGERがナビゲーターとして、ミュージアムを案内する構成にすることで、コーポレートアイデンティティーをインパクトのある表現にするとともに、展示に対する子どもたちの理解促進を図っています。オープニングのシアター映像にもX RANGERが登場し、こだわりのある音響と臨場感のある映像で、ぐっと関心を惹きつける演出となっています。
展示には、自然界の原理原則に改めて触れ、それぞれの特性を理解してもらうための体験展示のコーナーや、ミネベアミツミの8つのコア事業と2つのサブコア事業を紹介する展示ゾーン、身の回りで活躍する「ミネベアミツミの部品が組み込まれた製品」を紹介する展示ゾーンなどがあります。普段馴染みのない本物の部品に直接触れることができます。
展示の最後には来館者もX RANGERの仲間になって自分の夢を表明するコンテンツも展開。一連の流れを通じて、子どもたちの記憶に残る空間となっています。
住所:東京都港区東新橋1-9-3 ミネベアミツミ 東京クロステックガーデン
設計・施工:株式会社丹青社
撮影:RINO KOJIMA/ライツ撮影事務所.
https://www.minebeamitsumi.com/xtechmuseum/
※休館日:土・日・祝・年末年始
※完全事前予約制
■Bridgestone Innovation Gallery
100年に一度と言われる大変革期を迎えている自動車業界。ブリヂストンもまた、イノベーションを通じて新たな価値を創造し、持続可能な社会の実現に貢献するために、さまざまな変革を推進しようとしています。それを実現するグローバルでの拠点として、技術開発拠点である小平地区を再開発し、Bridgestone Innovation Parkを開設しました。
Bridgestone Innovation Park内にある「Bridgestone Innovation Gallery」は、人とモノ、過去と未来、リアルとデジタルをシームレスに繋ぐ場所を目指し、「ROUNDABOUT(信号機のない交差点)」をテーマにデザインされました。個性を持った4つのゾーンの体験を介し、ブリヂストンのこれまでの歩み、魅力的な製品、モビリティ社会、最新のテクノロジーについて知ることができる施設です。
「WHO WE ARE」ゾーンは、一筋の赤いラインを空間に走らせ、歴史と未来をつなげる場。「WHAT WE OFFER」ゾーンは、さまざまな車両タイヤが勢ぞろいするタイヤパークを中心に、これからのサステナブルなモビリティ社会を想像させる場。「WHERE WE GO」ゾーンでは、体を包み込むような映像でブリヂストンのイノベーションを体感すると同時に、最新技術トピックを見ることができます。
従来型の活字やパネルに頼った説明的な展示空間を脱却し、直感的なサインやグラフィック、「リアル」と「デジタル」を組み合わせ、環境や光、身体や体験を通じて理解を深めてもらう、挑戦的な試みをしています。すべてのゾーンには、ブリヂストンのアイデンティティであるタイヤ(つまりはマル)のモチーフが、さまざまに変換して配置されています。
また、モータースポーツに懸ける情熱と、サステナブルなプレミアムブランドへの進化を体感できる施設「Motorsport Gallery」が2024年11月にリニューアルしました。モータースポーツに懸ける情熱を「Passion to Turn the World」のメッセージに込め、1963年からのブリヂストンモータースポーツ活動60年の歩みから、次のステージへ向けた「サステナブルなプレミアムブランド」へ進化を図るブリヂストンの取り組みを紹介しています。
ブラックアウトした空間に足を踏み入れると、大きな弧を描きながら浮かび上がるダイナミックな天井の光が目に飛び込みます。その光は、ブリヂストンのモータースポーツの歴史と未来への旅を象徴し、観覧者を引き込みます。空間内にはパネルによるモータースポーツの歴史と実際に使用されたバイクやレーシングスーツが展示されており、当時のレースの熱気を感じさせます。この空間全体を通じて、観覧者はモータースポーツとともに歩んできたブリヂストンの情熱と進化を体感することができます。
ドットアートの大きさは、W31×H10mという巨大なもの。W1310×H1116mmのアルミパネルを横23枚、縦6枚、合計138枚を連結して作成されています。サイズが異なる9種類のドットを用い、約3万個を一つひとつ手作業で配置し、11種類のクルマや飛行機といったさまざまなモビリティを原寸大で表現しています。
また、3万個のドットの中には、子どもたちが宝探しをするための遊び心として、数カ所にブリヂストンのロゴマークが隠されています。子どもから大人まで瞬時に現寸のスケール感を把握できる説明いらずの表現であり、同ギャラリーにおける展示の基本型であり、最も大切にした伝達方法だそうです。子どもたちがブリヂストンを身近に感じ、お父さんやお母さんにキラキラしながら体験を語ってくれたらという願いが込められた空間演出となっています。
住所:東京都小平市小川東町3-1-1
設計:株式会社モーメント
施工:株式会社アクシス
https://www.bridgestone.co.jp/corporate/innovation_gallery/
■長谷工マンションミュージアム
長谷工マンションミュージアムは、長谷工グループ創業80周年記念事業の一つとして、2018年に東京の多摩センターの地に誕生しました。長谷工グループが長年培ってきたマンションづくりの技術力や商品開発力、それらを支えてきた社員一人ひとりのものづくりへの想い、マンションづくりの魅力を社会に広く発信する拠点となっています。
展示内容は、集合住宅の歴史、企画・設計から建物ができるまでの過程、間取りの変遷、リフォームや建替え事例、未来の住まい、マンション防災など9つのゾーンで紹介。
太古の昔から集合住宅の成り立ちまで、「集まって暮らす豊かさ」をテーマに放映する大迫力の360°シアターや、マンションの今昔を実空間で比較体験できる実物のモデルルーム展示、マンションが完成するまでの工事現場の映像などを通じて、“見て、触れて、感じて、学べる”施設です。
同ミュージアムは、2023年10月に「自然共生サイト」に認定された長谷工テクニカルセンターの本館2階に位置し、マンションのあらゆることを展示した日本で初めてのミュージアムです。常設展示のほか、企画展示やワークショップや防災イベントを開催するなど、来場者や地域の方とのコミュニケーションの場にもなっています。来場による見学のほかにも、公式サイト上のバーチャルツアーでオンラインでも気軽に見学することができます。
また、新入社員やグループ会社の社内研修の場や、マンションの施工、修繕、管理などを学べる場として、社外の研修目的の利用も広がっています。
同ミュージアムを通じ、マンションに関しての過去から現在、そして未来にいたる進化の過程や、安全・安心・快適を追求する長谷工グループの姿勢を伝えること。そして多くの人がより一層、新たな視点でマンションに興味を持てるよう、未来につながる拠点となることを目指しています。
住所:東京都多摩市鶴牧3-1-1
設計:株式会社長谷工コーポレーション
施工:株式会社長谷工コーポレーション、不二建設株式会社
https://www.haseko.co.jp/hmm/
西日本にあるミュージアム
■ニンテンドーミュージアム
任天堂株式会社が、おもにトランプ・花札の製造や、サービスセンターとしてゲーム機の修理業務をおこなっていた任天堂宇治小倉工場をリノベーションして、2024年10月2日にオープンしたニンテンドーミュージアム。
任天堂宇治小倉工場は、1969年に「宇治工場」として建設され、その後、現在の宇治工場(京都府宇治市槇島町)の建設と増改築にともない、1988年に「宇治小倉工場」へ改称。宇治小倉工場での業務を2016年11月に宇治工場に移管したため、用地や建屋利用を検討していました。
任天堂は以前より、同社のものづくりに対する考えを広く理解してもらうため、過去に発売した商品を展示する資料館施設の設置を検討していたこともあり、宇治小倉工場を広報施設としてリノベーションしました。
ニンテンドーミュージアムでは、任天堂がつくり続けてきた娯楽の歴史と、独創を大切にしたものづくりへのこだわりを、発売してきた数多くの製品展示を通して知り・体験することができるようなコンテンツづくりを目指しています。訪れた人自身の記憶や体験とくらべながら、任天堂のものづくりへのこだわりや変遷を知ってもらうために、あえて詳しい解説は展示されていないとのこと。
創業期の原点である花札からはじまり、現代の技術で生まれ変わった娯楽まで。新たな時代を生きる子どもたちと一緒に、大人も楽しめるコンテンツがもりだくさんな施設です。
住所:京都府宇治市小倉町神楽田56
https://museum.nintendo.com/index.html
※チケットは抽選販売。抽選申込・購入にはニンテンドーアカウント(作成無料)必須
■MIZKAN MUSEUM
MIZKAN MUSEUMはミツカングループ創業の地、愛知県半田市にあり、かつて半田工場があった場所に2015年11月に設立。半田工場にはそれまで見学施設として「酢の里」がありましたが、その展示内容を一部踏襲しつつ、ミツカンが歩んできた歴史に触れ、いまを感じ、未来につなげる施設として誕生しました。
古くから続く運河沿いの黒壁の景観とともに、ミツカンの酢づくりの歴史や、醸造の技術、ものづくりへのこだわり、食文化の魅力などを、伝統・革新・環境を大切に考えながら、次世代へ伝えていく施設として、見て、さわって、楽しみ、学べ、また来たいと思ってもらえる体験型博物館を目指しています。
館内は、エントランスと多目的ルームのMIMホール、見学ゾーン、ショップで構成。見学ゾーンは「大地の蔵」「風の回廊」「時の蔵」「水のシアター」「光の庭」の5つのゾーンに分かれています。
運河沿いの立地や、かつての工場の風景を思わせる煙突を利用した自然換気、半田の豊富な日射量を活かした太陽熱温水や酢づくりに使用されていた井戸水を利用した省エネ空調など、設計の初期から、この場所ならではの自然や長年の酢づくりで培った知恵を活かし、環境施策を施設計画に取り入れた施設です。
住所:愛知県半田市中村町2-6
設計:株式会社NTTファシリティーズ
施工:株式会社竹中工務店
https://www.mizkan.co.jp/mim/
※全館・ミニの2つのコースがあり、どちらのコースも各回定員30名の事前予約制
※希望日の1か月前からインターネットによる予約受付開始
【番外編】企業が運営するお客さま向け体験施設
■SHISEIDO BEAUTY SITE
株式会社資生堂は、工場を単なる製造拠点ではなく、企業やブランドの発信拠点と位置づけています。品質に関心をもつ多くの生活者に真摯に向き合うため、大阪茨木工場で製造されているSHISEIDOの高品質で安全安心なモノづくりの製造現場を、お客さまにオープンしようと考え、「SHISEIDO BEAUTY SITE」が生まれました。
また、化粧品のさまざまな知識を、見学施設のコンテンツを通して学んでもらうことで、より多くの人に資生堂のファンになってもらうことを目的に運営しています。
施設のコンセプトは「The Journey to Beauty」。デザインコードは「透明」、キーワードは「浸透」、キーモチーフは「スキンケアのしずく」とそれぞれ定義し、さまざまなサイズのスキンケアのしずくが点在しており、透明感ある空間デザインに仕上げられています。それぞれのしずくは、中に入ったり座ったり、手に取ることもできます。
施設内は、化粧品を美術品のように展示する「美術館」エリア、化粧品の原材料の実物を展示する「植物園」エリア、アームロボットを使い、充填を体験できる「スクール」エリアなど、まるでひとつの街のようにつくりられています。コンセプトの「The Journey to Beauty」をさらに実感してもらうため、一貫性のある体験デザインも施されています。
サイン計画では標識やバス停をモチーフにしたデザインを採用。リーフレットはパスポート形状にし、コンテンツを体験した後には出入国時のようにスタンプを押すことができ、訪れた人は、工場見学に来たのではなく、スキンケアヴィレッジを訪れたかのように、さまざまなモチーフでデザインされた各エリアを巡ります。そして、訪れた人は魅力的な建物のひとつひとつで美の秘密を楽しく学びことができます。
外壁にも透明感あるダブルスキンが採用され、スキンケアビレッジから外の世界に向かって浸透が続いていくことが表現されています。
清潔感があり、爽やかなスキンケアビレッジを回遊するだけで、スキンケアが肌に浸透していくようなイメージを感じてもらいたいという思いからつくられた空間。性別を問わず、子どもから大人までさまざまな人たちがスキンケアについて楽しく体験できる施設です。
住所:大阪府茨木市彩都もえぎ1-4-1
ディレクション:鐘ヶ江哲郎/株式会社資生堂、上村玲奈/資生堂クリエイティブ株式会社
施工:TOPPAN株式会社、株式会社トータルメディア開発研究所
撮影:ナカサアンドパートナーズ
https://www.shiseidocreative.com/shiseido-osaka-ibaraki-factory-shiseido-beauty-site
建物をはじめ、展示方法や体験コンテンツなど細部までこだわり、企業の個性を表現したそれぞれの施設。このほかにも全国にはまだまだたくさんの企業の魅力を伝える企業ミュージアムが存在します。ぜひみなさんも気になる企業が展開する企業ミュージアムに訪れてはいかがでしょうか?