桐山登士樹が選ぶ 注目のデザイナー

COLUMN 樹幹通信 桐山氏の近況やデザインの話題をお届けします

2014年12月

かつてはデザイン都と言われたミラノを象徴するドゥオーモかつてはデザイン都と言われたミラノを象徴するドゥオーモ

最近起こっていることをミラノの出張中に考えてみた。20世紀後半は大量生産を推進する大企業の時代だった。貪欲なマーケットは、新製品が生まれる度に踊った。私もその一人であった。しかし、21世紀に入り生産の分布図が変わり、日本からは徐々に大工場が消えていった。日本の大企業は、賃金が安く将来性のある後進国に工場を移している。最近訪れたインドネシアなどは、その代表的な国である。

また、インダストリー製品に従来ほどの魅力はなくなった。賢い消費者は簡単に財布を開かなくなった。それより地球に優しいか、人に優しいか、企業は社会的活動に積極的か等、消費者の企業を捉える目が大きくチェンジしてきている。

現場ではSONY等メジャーブランドが失速し、代わりに高度な技術に支えられた特定の分野に焦点が当てられるようになった。もはや完成品=ブランドである必要はなくなり、培ったリソースのみが世界で選定されアッセンブリーされる時代となった。新サプライヤーの時代とも言えようか。

一方、これまで大手企業の下請けだった中小企業や産地の伝産品を作る職人達は、世界ブランドの道を推し進めている。オンリーワンの技術、長年培われた感や技が世界で高く評価され逆転現象が起こっているのだ。こうした構造的転換にデザイナーはどう立ち振る舞えばよいのか、難しい局面を迎えている。大企業のライフラインを支えてきたインハウスデザイナーという職制は、ひょっとしたら後10年以内になくなるかもしれない。危機感を悪意的に募らせるつもりはないが、これからのデザイン開発は従来と間違いなく異なってくると予測している。

【お知らせ】12月8日に日本国内で様々な活動を行っているディレクターやプロデューサーをお呼びして、「とやまデザイン会議2014」を開催いたします。次代を透視できる新たなスキームを探ることができれば嬉しいです。

» とやまデザイン会議2014

2014年11月

16Lab×田子學のパーソナルデバイス16Lab×田子學のパーソナルデバイス
松山祥樹のSky Lighthouse松山祥樹のSky Lighthouse

デザイナーズウィーク2014も今日(11/3)が終日。案内をいろいろいただきながら半分くらいしか見ることができなかった。パーティには顔を出したい。でもパーティでは展示デザインをきちんと見られない。そんな葛藤をくり返しながらながら時間を調整。ミラノと比べるとそこそこの規模、丸二日スケジュールを空ければ良いのだが。

二回足を運んだのは、増上寺(光摂殿)で開催された「Any Toky」でした。中でも16Lab×田子學のパーソナルデバイス、松山祥樹のSky Lighthouse(数日後には別の展示品に変わっていた)、宮脇玲の空気の流れに着目した意識ヴィジュアライゼーションは、今後の展開が楽しみな研究、デザインでした。また、東京大学生産技術研究所S棟で展示された「チタン / 3Dプリンティング ―マテリアルの原石」は、次なる素材の可能性を追う興味深い内容でした。

さらに、近年イタリアデザインの低迷が続く中、Yamagiwaが新たに設けた外苑前のショールームでのLUCEPLAN、zanottaほか、これぞイタリアンデザインと言わんばかりの富裕層をターゲットにした上質な展示。カッシーナのエントランスには、アーティストの松尾高弘のミウラ折りからなる「Lighting Objet LUCIS」。アルフレックスはロングライフデザインの定番マレンコに鈴木マサルがテキスタイルデザインを提供、まだまだ元気なデザイン都市、東京を感じさせる充実の展開でした。

こうした世界も類を見ない豊富な人的資源と日本のカルチャー、高品位な製品ではまだまだ負けていない日本企業、高度で多様なコンシューマー。こうした環境では、ダイナミックで柔軟な発想やデザインが実践できるラボラトリーの必要性を強く感じたデザインウィークでした。(文中敬称略)

» 秋のデザインイベント特集 2014

  • 宮脇玲の空気の流れに着目した意識ヴィジュアライゼーション宮脇玲の空気の流れに着目した意識ヴィジュアライゼーション
  • チタン / 3Dプリンティング ―マテリアルの原石チタン / 3Dプリンティング ―マテリアルの原石
  • 松尾高弘の「Lighting Objet LUCIS」松尾高弘の「Lighting Objet LUCIS」

2014年10月

2011年富山プロダクトデザインコンペティションでグランプリ(とやまデザイン賞)を受賞した「collinette」2011年富山プロダクトデザインコンペティションでグランプリ(とやまデザイン賞)を受賞した「collinette」
collinette
collinette

今週は、26年目となる「富山デザインウエーブ」の開催週です。商品化コンペとして、新人デザインナーの登竜門として、地元企業とのマッチングの機会として、おなじみとなった「富山プロダクトデザインコンペティション(通算21回目)」を核に開催されます。今年のテーマは「新幹線と旅」。10月1日、第一次通過者11名によるプレゼンテーションと公開審査が行われ、各賞が決定します。

翌日10月2日のデザインフォーラムは、ナガオカケンメイさんと水戸岡鋭治さんとの対談です。お二人には、「デザインを通じた魅力づくり」について、じっくり語っていただく予定です。これから参加の方も歓迎です(無料・富山国際会議場・13:30-16:30)。

デザインウエーブ事業で一つ悲しいことがおきました。富山県総合デザインセンターは、県内企業のデザイン力を高めるために日本デザイン振興会が実施しているGマークに協力してきました。しかし、今年の第二次審査会で、2011年にグランプリを獲得した松山祥樹さんのツボ押し「collinette」が落選しました。この商品を製造販売するナガエの熊木社長から何故なのか?と、連絡を頂きました。

「collinette」のデザインの新規性・デザイン性は、このコンペティションで厳しく審査され選出されたデザインです。また、この製品を生み出すまでに1年半の期間を要し、デザインセンターが中心となって何度も原型型の修正を重ねて来ました(左の写真)。磨きに関しては、手作業でバフ仕上げを施してあります。その結果、現在6万個のヒット商品となり、最終的には20~30万個の需要があるだろうと推測されています。こうした商品が何故、Gマークに通らないのか、この活動の協力中止も含めてデザインセンター内では重く受け止めています。

» 富山デザインウェーブ

» TOYAMA DESIGN WEEK(10/1-10/6)

» デザインフォーラム2014「富山県と旅とデザイン」(10/2)

2014年9月

東京染小紋の岩下江美佳さん東京染小紋の岩下江美佳さん
陶芸家の山本篤さんと藤本彰さん(左) 浜田拓郎さん(右)陶芸家の山本篤さんと藤本彰さん(左) 浜田拓郎さん(右)

一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会(略称:伝産協)の第2回プレスミーティングでお会いした二人の伝統工芸士に魅せられた。その一人、山本篤さんは九谷焼の第一人者で「妙泉陶房」で作陶する陶芸家。九谷焼技術研究所研究科で後進の指導にもあたっている。この人の魅力は業界の慣例や風習をいったん呑み込んだ上で、冷静沈着に新たなスキームを模索している点だ。山本さんの想いの込められた端正な作品からは、上質な存在感が漂う。宮内庁にも納められている実力者だ。

かたや、東京染小紋の伝統工芸士の岩下江美佳さんは、小紋の可能性に挑む強い人だ。歯切れの良い口調や容姿のどこに、過酷な環境に屈しないパワーが隠されているのかわからない。作品はアートかと思えるほど細やかで美しい。

このお二方に共通する点は、美への拘り、伝統の継承、後世に伝える使命感。そして、閉ざされていた業界の開拓者であることだ。たとえるならば「文化」を背負っている。インダストリーの世界は生産の拠点がボーダーレス化し、この先ますます日本の立ち位置は危うくなっていく。ソフトバンクの孫正義さんは、日本の将来に『良くも悪くも人間には「生産性」よりも「創造性」が求められるようになりました』と言う。創造性を担う日本のデザイナー達が、お二人の伝統工芸士のように、新たな使命感を持たないと日本には明るい未来はない。

目黒美術館で開催中の「ジョージ・ネルソン展」は企業とデザイナーについて考えさせられる良質な展覧会でした。会期は、今月18日まで。

» 一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会

» ジョージ・ネルソン展

2014年8月

ddpのメインエントランスddpのメインエントランス
アルミのパネルからなる有機的な外観アルミのパネルからなる有機的な外観

お隣、韓国ソウル市に、3月21日にオープンしたトンデムン(東大門)の“ddp”。その規模と施設構成には正直驚きました。建築は新国立競技場の設計デザインで話題のザハ・ハディッドさん。敷地面積86,574平方メートル、土地を含めた総工費は2,000億円弱。施設名の“ddp”はトンデムン・デザイン・プラザの略称、キャッチフレーズはDream,Design,Play。デザイン創造産業の発信地として一般市民も含めた啓蒙や教育、デザイン産業の拠点として位置づけられています。

施設の構成は、1,500席規模のアートホール、過去から未来まで展示する博物館、デザインが生活をつくり産業を生み出すデザインラボの3つの施設で構成されています。なかでも宮崎県産の木材を使用した幼児たちの創造教育施設や、工芸からデザインの製品展示販売するマートなど、本腰を入れた施設だということがひしひしと感じられます。サムソンのデザインディレクターだった鄭ddp経営團長の案内で施設を見学させていただきましたが、実に有機的で未来に向けた施設であることがわかりました。同時に巨大の箱の維持管理の難しさも垣間見ることができました。

政治的にはギクシャクしている両国ですが、羽田から2時間で訪れることができる隣国です。ddp側からは日本と様々なデザイン交流を要望されました。いがみ合うのではなく協調する、連携する、民間交流の必要性を再認識する機会となりました。

2015年ミラノ国際博覧会日本館は、facebookを立ち上げました。皆さんの声をお寄せ下さい。

» 2015年ミラノ国際博覧会日本館 facebook

  • 施設中央の博物館は螺旋のスロープ施設中央の博物館は螺旋のスロープ
  • デザインと工芸品を扱うマートデザインと工芸品を扱うマート
  • 鄭ddp経営團長と私鄭ddp経営團長と私

2014年7月

ミラノ万博イタリア政府代表のジュゼッペ・サーラ氏と日本政府代表の加藤辰也氏ミラノ万博イタリア政府代表のジュゼッペ・サーラ氏と日本政府代表の加藤辰也氏

6月16日に現地で行われた2015年ミラノ国際博覧会の起工式(鏡割り)に行ってきました。私の中で鮮明に記憶に残っている博覧会は、1985年に筑波で開催された「つくば'85」。これは、国際科学技術博覧会に属します。当時は、3D映像や2000インチのジャンボトロンと呼ばれた巨大なモニター、LED素材等々、見るものすべてが刺激的で躍動感に満ち溢れていました。そして何より日本企業の存在や躍進を体感できるものでした。それ以降、今回のミラノ博の話を頂くまでは、正直私の興味からは外れていました。それよりデザインやアート、工芸が世界に影響を与えた1873年のウィーン博から1900年のパリ博の期間の再考に興味があり、日本の文化が世界に影響を及ぼしジャポニズムが広まった背景(仕掛け)をもっと探りたいと思っていました。この研究はこれからの海外戦略に必要なことだと考えています。同時にボーダーレス化する情報社会のなかで、日本のリソースとアイデンティティを再確認することにもなります。

さて、話を戻すと2015年の博覧会開催地がミラノということもあり、おまけに人類共通の課題「地球に食料を、生命にエネルギーを」がテーマなだけに気持ちが前向きになりました。実際、関わって1年半が経ち、様々な課題・調整を抱えつつ牛歩と言うわけにも行かず、前向きに取りかかっています。また、様々な場所でお話しする機会も増えたのでミラノ博を正確に知っていただく、理解していただく機会を作りたいと思っています。ミラノ博の概要は、かなり真面目に作られたホームページが最適で、日々リアルタイムで更新しています。是非ご覧頂き、直接、間接的に関わっていただく機会を作りたいと思っています。これからしばらく、JDNのこのコーナーでミラノ博に関する記事をレポートして行く予定です。

» 2015年ミラノ国際博覧会 日本館(EXPO Milano 2015 Japan Pavilion)

2014年6月

前回の富山プロダクトデザインコンペティションの審査委員、左から柴田文江さん、澄川伸一さん、橋田規子さん前回の富山プロダクトデザインコンペティションの審査委員、左から柴田文江さん、澄川伸一さん、橋田規子さん

昨夜(6/2)、先月このページで紹介したNOSIGNERの太刀川瑛弼さんに東京フィルハーモニー交響楽団の定期公演に誘われ、初台の東京オペラシティに行った。演目はベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」とR.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」、ワーグナーをこよなく愛する私にはベストな組み合わせであった。

その後、代官山のIVY PLACEでデザインについて語り合ったが、時間の経過を忘れてしまうほど楽しい一時であった。太刀川さんと私は、親子ほどの年齢差はあるが共にデザインの「Creation」と「Environment」をテーマとしている。この約30年間独自に思考し実践してきた話を熱心に聞いてくれた。簡潔に言えばデザインを特殊な世界ではなく解放区にする為の活動であった。基本はデザイナーの持つ考える力、生み出す力を最大限に活かした環境の整備であり、既存の組織や形態とは距離を置いて試行錯誤しながらあらゆることを行ってきた。具体的には、デザイン展やコンペやマッチング、異業種交流会やミラノサローネへの日本企業出展、更には企業のブランディング等々、そのコアはデザイナーバンク(人的知財のデータベース)であった。それは苦痛ではなく楽しいことであった。この先は、デザインディレクターやデザインプロデューサーを名乗り始めた若い人に委ねて行ければいい。産業スキームがますますボーダーレス化し、アメーバ的な動きを見せる中、如何に柔軟に新たな可能性を追い求めることができるか、この挑戦はまだまだ続く。しかし、様々な活動を介して知るクリエイターと語り合うのはなかなか気持ちよい。

今年21回目となる新人デザイナーの登竜門であり、限りなく商品化を目指している「富山プロダクトコンペティション」の募集を開始しました。テーマは、来春開通となる北陸新幹線を意識して「新幹線と旅」。それぞれの旅を意識しながらデザインを考えて下さい。

» 富山プロダクトデザインコンペティション

2014年5月

COSMITクラウディオ・ルーティ代表COSMITクラウディオ・ルーティ代表

今年で53回目となるミラノサローネ国際家具見本市に4月3日より出向きました。そろそろ卒業と思いながら、この見本市の虜になり連続29回目。最初はイタリアデザインを取材する編集者でしたが、その後はデザインディレクターとしてトレンドを知る上でも押えなくてはならない見本市となりました。2005年からは実際に参加する立場にもなり、LEXUS、Canon NEOREALを展開し、フォーリサローネとしては最高の評価をいただきました。

昨年からは再びLEXUSの一部を担い、今年はニューヨークでデザイン活動を行う田村奈緒さんと照明デザイナーの岡安泉さんらを担当し「LEXUS DESIGN AMAZING 2014 MILAN」に参画しました。もちろん、毎年続けている取材活動も行い、近々JDNで二回に渡り掲載予定です。来年はミラノ国際博覧会の前夜祭となり、今年以上に盛り上がるでしょう。初参加のシチズンはトリエンナーレ美術館で素晴らしいインスタレーションを展開し話題となりました。

あの巨匠、ルイジ・コラーニさんが5月8日に来日します。御歳85歳、現在も精力的にデザインを実践しています。彼のデザインの特長は、自然をモチーフに生物的な曲面を持つあらゆるデザインを創造している点にあります。30年前にお会いした時から今日まで、その提案は色あせることはありません。5月9日の夕方には、渋谷ヒカリエで記念講演が開かれます。巨匠の日本での最後の講演となるかどうかは分かりませんが、貴重な機会であることには違いません。お申し込み等、詳細は下記リンクからご確認ください。

» LEXUS DESIGN AMAZING 2014 MILAN
» 京都・たち吉 since 1752「Luigi Colani 2020 Collection」(PDF)

  • 例年に比べ13%増で賑わうフィエラ会場例年に比べ13%増で賑わうフィエラ会場
  • ルイジ・コラーニ氏ルイジ・コラーニ氏

2014年4月

シンガポールの開発は、規模や演出が飛び抜けているシンガポールの開発は、規模や演出が飛び抜けている

3月は国内外を駆け巡りました。シンガポールでは初の展開となる「メゾン・エ・オブジェ アジア」を視察に行きました。数年後には面白い展示会になるのではないかと期待値は上がりましたが、直ぐの出展は早過ぎるかも知れません。それ以上にシンガポールの様々な都市開発、特にマリーナ・ベイ・サンズを見て、改めてデベロッパーの大切さを感じました。その後、富山に飛び、パリのオペラ座公演を観賞するため一日東京に戻り、翌日再び富山・高岡に向かいジャパンブランド最終年となる「KANAYA」の〆のフォーラムを実施。デザイナーの小林幹也さん、紺野弘通さんと共に本格的に始動する株式会社への想いを強く持ちました。数日後には、岡山県北木島での北木ノースデザインプロジェクトの発表会で、次年度の事業構想を発表しました。この島の産業を活性化する案を提案しました。新幹線で東京に戻り、翌日からは二泊のショートスティで5年ぶりのニューヨークへ向かいました。現地で4月8日からミラノで始まる「LEXUS DESIGN AMAZING 2014 MILAN」で依頼しているデザイナーの一人、田村奈緒さんの作品制作と照明、音響の最終実験確認に立会い、完成度を求めて一歩も引かない制作現場の楽しさを思い出し、帰国後、再び富山に出向き21年通い続ける富山県総合デザインセンターの来期事業や相談を受けている企業対応を終えて、年度末ギリギリまでエネルギッシュに動き回りました。

今月自分の気持ちがいつも以上に高まった理由は、3月4日東京ドームで行われた「THE ROLLING STONES」のコンサートです。前日、某編集長から招待を受けて行ってみるとアリーナ席。目の前を走り回るミック・ジャガーを見て、70歳のスーパースターが全力でこのステージに向かい合っているのをひしひしと感じました。何事にも全力でぶつかる、走り抜ける、そんな気持ちがより強くなりました。しかし、この話にはおちがあります。3月最後の土日曜は、さすがに疲労困憊で38度の高熱で苦しみました。何事も程々に、そして年相応のペース配分が必要な事も併せて自覚して、明日からミラノサローネに向かいます。

  • 岡山県笠岡市から船で40分、北木島は石の宝庫岡山県笠岡市から船で40分、北木島は石の宝庫
  • NYのアバタスタジオでデザイナーの田村奈緒さんとNYのアバタスタジオでデザイナーの田村奈緒さんと
  • ローリングストーンズのコンサートが行われた東京ドームローリングストーンズのコンサートが行われた東京ドーム

2014年3月

フランクフルトアンビアンテでのDENSAN、デザインはトラフ建築設計事務所フランクフルトアンビアンテでのDENSAN、デザインはトラフ建築設計事務所
JOHANASの打合せ、左から廣田尚子さん、式地香織さん、松井紀子さん、高橋三和さんJOHANASの打合せ、左から廣田尚子さん、式地香織さん、松井紀子さん、高橋三和さん

上質で装飾性が高い出展者が多い「メゾン・エ・オブジェ」と大量消費材見本市で知られる「アンビエンテ」の2つの見本市に出展し、最近のトレンドを探ってみた。前者は高岡銅器のKANAYAブランドの商談会(前回紹介)、後者は今回初の出展となる伝統的工芸品産業振興協会(略称DENSAN)である。

2つの見本市に共通するのは、綺麗な色の世界で溢れていた事、製品そのものの質感が上がり差異が少なくなっている事、欧州バイヤーがやや活気を取り戻しつつある事。そして成熟化社会での欲求は、単にモノだけではなくブランドストーリーとデコレーションが必要な事、異文化融合のハイセンスなコーディネーションが必要な事、世界のマーケットは増幅し続けている事、ひとたびバイヤーに気に入っていただければ大口の商談も可能だという事など最近の市場変化を知る事ができた。

さて、デザイン&デザイナーの将来は明るいだろうか? これだけ様々なものが出揃い、ハイテク分野では息切れ、事業採算性など事業構造の再構築を余儀なくされている。その為、活躍の場を地方に求め中小企業や補助金事業に関わるケースが増えている。長い目で見れば地域のデザインの活性化に繋がる。しかし、売れてなんぼのロイヤリティーが多く、デザイナーの力量が試される。大局ではデザイン教育も含めて、新たな産業創出に向けたスキームや、デザイナーを活用する新たなシステムが必要だ。また、デザイナーに的確にアドバイスするサポートシステムも必要だ。

世界遺産の五箇山に近い南砺市に城端と言う町がある。裏山が迫る長閑な町で小京都と言われ、明治時代から生糸の生産で栄えた街だ。その中でただ一軒、織りからすべての工程を一貫生産している松井機業という会社がある。この会社の新たなブランドを任され、5代目の継承者松井紀子さんを中心に女性5人からなる「JOHANAS(ヨハナス)」というブランドを立ち上げた。最初にコンセプトやロジックだけに口に出し、後はメンバーの女性達に任せた。グラフィックデザイナーやスペースデザイナーを含めると、合計7人の女性達が関わった事になる。スパイラルで行った発表会では、大変好意的な意見をいただけた。生産体制を整え6月から首都圏で販売を計画している。

2014年2月

会場にはカラフルな色づかいの商品が目立つ会場にはカラフルな色づかいの商品が目立つ
ホール8 nowのKANAYAブース、デザインは私ホール8 nowのKANAYAブース、デザインは私

先週28日までパリで開催された「メゾン・エ・オブジェ」は久々に楽しい展示会だった。特に目立ったのは、赤や緑、黄色のカラーのオンパレード。同時に色彩配色のバランスが良く、どこか北欧デザインに共通点を見出す事が出来る。
併せて、ディテールへの拘りも高く、世界的に高品質なモノ造りが定着しつつあることを証明していた。これには主な製造地である後進国の技術水準、技能水準が格段に上昇し、品質管理が安定して来た証であろう。デザイン的には、長く抑制された環境にいよいよ春が来そうな予感がする。
こうした背景には様々な要因がある。特に最近は、情報社会による世界的な同質化現象、ファッションデザインとリンクしたカジュアル化傾向、新たなライフスタイルを求めるロストゼネレーションの影響力等が挙げられる。また、一方ではホール7に象徴される富裕層をターゲットにした高級化路線、併せブランド路線にも注目しなくてはならない。何れにしてもデザイナーは、今の状況を的確に認識した上でデザインを提供する必要がある。
また、バイヤーの買い方にも変化が見られる。以前であれば一期一会、売れると思えば、ある程度の量を発注しリスクを持ったが、最近はネットの普及で後からでも容易にアクセス出来るので先ずはサンプルで買い、その後見積もり依頼や発注へと変わって来ている。それだけにバイヤーに対する丁寧なフォローや納期や掛け率等高度な商談が、主に英語で求められる。
私のプロデュースする高岡ブランドの「KANAYA」は、出展三年目にして大きな手応えを感じる事が出来た。帰国後もコンテナー単位の大口見積もりの依頼が舞い込み、いよいよジャパンブランドを卒業して飛躍できる環境が出来つつある。しかし、私の目標は東京とパリに直営店を出す事など、4年前に企画構想した通り夢は大きい。必ずや実行出来ると思っている。
世界経済と価値意識が大きく変革する時代の中で、端的に変化を知る機会として展示会は良いリサーチの場である。これから私は7日よりフランクフルトで開催される「アンビアンテ」に向かう。パリ、メゾンと合わせて、再度分析し今後の商品開発、ブランド開発に活かしたい。

● KANAYA http://www.kanaya-t.jp
● MAISON & OBJET  http://www.maison-objet.com
● Ambiente http://www.mesago-messefrankfurt.com/ambiente/

2014年1月

ミラノ国際博覧会日本館のマークミラノ国際博覧会日本館のマーク

2015年ミラノ国際博覧会日本館のマークは、HAKUHODO DESIGNの丹野英之さんのデザイン。祝い箸をモチーフに柔らかで繊細なライン、三善縦に並べることで「E」を表している。このデザインを活用したアプリケーションもデザイナーから提案があり、今後の展開も楽しくなる。作品は指名コンペで選ばれたデザインだが、どの作品も甲乙付け難い高レベルであった。今回のコンペでは、様々なモチーフが周辺に転がっていることを教えてもらった。大切に活用したい。

暮れまでバタバタと落ち着かない生活だったが、年が明け、2日目に録画しておいた紅白歌合戦を視聴した。と言ってもリモコン片手に早送りの短縮版で見たのだが、最近は歌唱力だけでなくダンスが重要な要素だということ、さらに最新映像技術を駆使していることなど大変参考になった。紅白は侮れないなと思った次第。さてさて今年はどんな年になるか、願わくはデザイナーが業種を越えて盛んに交流し、リーダーシップをとれる時代を作らねばと考えている。

● 2015年ミラノ国際博覧会 日本館 http://expo2015.jp