桐山登士樹が選ぶ 注目のデザイナー

COLUMN 樹幹通信 桐山氏の近況やデザインの話題をお届けします

2009年12月

IFFTインテリアライフスタイルリビングの設営会場でIFFTインテリアライフスタイルリビングの設営会場で
アッシュコンセプトの名児耶さん

仕事の一環としてデザインの潮流を毎月データベース化しているが、その中で最近気になったものは柴田文江さんがデザインしたカプセルホテル「ナインアワーズ京都寺町」。単なるカプセルホテルの領域を超えて、新たな可能性を見出すことができる。例えば、銭湯の様な場に発展するか?、はたまた他の業態連携を生み出すか?このカプセルが今後どんな広がりを見せるのか楽しみだ。私は整体+アロマがプラスされたリラクゼーションスペースとして使いたい。日航の経営問題が話題となっているが、片や全日空は、欧米便の内装を一新した。これまでの味気のないインテリアから半歩踏み出したデザイン。2月20日からの導入なので4月の出張時には使用してみたい。カプセルホテルと飛行機って似てると思いませんか。

本日から始まるインテリアライフスタイルリビングの施工会場で、またまた知り合いのデザイナー、事業主、コーディネーターにお会いする。産地の置かれている状況はどこも同じ、地域を越えて横軸のスキームで新たな商品開発を考えたい。数人のプロデューサーが先頭に立てば可能な企画だ。

友人の建築家高市忠夫さんから13年におよぶプロジェクトをまとめた作品集が届いた。仕様はハードカバーでずっしり重い。ブリヂストン美術館、六花亭など、多くの仕事を手掛けているが、書に綴られた「残る」「残す」のキーワードが重く響く。限定本なので世の中には出ないが、視点を定めたぶれない仕事ぶりは見事である。

2009年11月

コンペの審査員をお願いした安積朋子さんコンペの審査員をお願いした安積朋子さん

16回目になる富山プロダクトデザインコンペティションも無事に終了。例年になく提案デザインが拮抗しており賞選びは大変だった。その中でもコンペテーマに対して、新たな解読を示してくれた参(マイル)と関達也さんの二組は個人的には二重丸。このコンペは、デザイナー同士の交流の場としても良い刺激と機会を創出している。そのことが直に嬉しい。次回はコンペを更に進化させたいと思っている。

今週、外苑前のオフィス界隈はデザインの街と化している。今年は精力的に視察しているが、当然ながら玉石混交。デザイナーの世代交代も進んでいる。東コレではSOMARUTAとmintdesignsを視察。ますますファッションとプロダクツの境界がなくなってきている。

これまで行きたかった展覧会も精力的に見て回っている。オラファー・エリアソンの常設を見たくて三時間クルマを飛ばして群馬のハラミュージアムARCへ。東京都の現代美術館で始まったレベッカ・ホルン展はなかなか良い。以前テート・モダンで見た作品もあり時間をかけて観賞してほしい。同時開催のラグジュアリー展は、妹島和世さんのコムデの会場デザインが必見。感銘したのは森美術館のアイウェイウェイ展。京都近代美術館で行われていたウィリアム・ケントリッジ展のフィルムとドローイングも原点を感じさせる内容だった。川久保玲さんが大阪に開いたアートギャラリーSixの草間彌生展もパワー全開。また、飯倉片町のAXISで開催された「三保谷硝子店-101年目の試作展」は力量感溢れる完成度の高さに感服した。時代の低迷とは裏腹にアーティストの熱い闘志やぶれない姿勢が刺激を与えてくれる。こんな楽しい日本、東京をもっと元気な街にますます頑張らなくてはならない。最後に友人の石上純也君が最年少で日本建築学会賞を受賞、おめでとう!!

2009年10月

代々木上原の川上元美氏のオフィスにて代々木上原の川上元美氏のオフィスにて

現在の混沌とした時代で思い出すのは、私に影響を与えてくれた(与えてくれている)年長者の存在だ。純粋に夢を語り、経営とビジネスを説いたのは黒木靖夫氏だった。デザインの良し悪しを冷静に分析してくれるのはミラノの蓮池槇郎氏である。そして、プロのデザインを実践している川上元美氏の緻密さと大らかさは学ぶ点が多い。「感性価値」と「機能価値」を企業の新たなコミュニケーションとして確立し、デザインのポテンシャルをアップする為に我流でプロデュースの世界を切り開いてきたが、時に迷いが生じた時は年長者の言動を思い出すことにしている。

今、一番心配なのは美大生の就職先である。毎年多くの人材が社会に送られてくるが、就職環境は依然厳しい。友人や知人の紹介で若い卵達に会う機会も多いが、総じて何かが欠けている。デザインがうまい、へたという問題ではなく、大きな目標が欠けている。私は国内外の年長者の言動に刺激され続けてきたが、この様な若き才能を刺激する環境が欠如している。もちろん個人の資質の問題は当然スキルアップしていただくしかない。しかし、急ぎすぎていてステップが踏めない人、自分の人生設計のリアリティが欠如している人・・・。これらは、若者だけの問題ではなくデザイン界の大きな課題として、新たな機会や環境を作らなくてはならないと思っている。

2009年9月

須藤玲子さんからテキスタイルの説明を伺う須藤玲子さんからテキスタイルの説明を伺う

布を主宰されている須藤玲子さんにAXISのショップでお話を伺った。最近、テキスタイルの国際学会ではハイテクの話しが中心となるらしい。確かに宇宙ステーションで何日も滞在したり、世界陸上では人間とは思えない早さで走ったり、建築空間では規正の領域を越えて様々な変化が起こっている。併せて、環境への配慮も必要だ。さらに高質なテキスタイルを可能とする職人さんとのコラボも生命線である。須藤さんは、こんなに大変な仕事を真正面からシャキシャキと行っている。かっこいい。具現化されたモノはセンスに溢れ、心地よい刺激をたくさん頂きました。

27日から三日間、東京・六本木ミッドタウンホールBで今年のサローネに発表したキヤノン「NEOREAL」の東京展を開催しました。多くの方々にご来場いただきありがとうございました。これまで企業の技術とデザインを生かす、高める事の大切さを幾度となく繰り返し訴えかけてきましたが、今回のプロジェクトは満足のいくものでした。時代の変化(人類の進化)に機敏に対応していく前向きな姿勢は、個人でも企業でも重要な事だと考えています。

2009年8月

映像と音と異空間を充分体験してください。映像と音と異空間を充分体験してください。

この春、ミラノトリエンナーレ美術館で展示したCanon「NEOREAL」展は、今月27,28,29の3日間のみ東京・六本木ミッドタウンで巡回展を行うことが決定した。今年最後の夏休みを子供から大人までインターラクティブの世界で楽しんでいただきたい。また、丁度21_21DESIGN SIGHTで開催中の「骨」展の会期終盤にもあたり、久しぶりにミッドがクリエーティブの場となればいいなと思っている。私も三日間の会期中は、会場にいるのでどうぞ声をかけて下さい。

日本の産地のモノづくりにスポットが当たって久しくなる。どの産地も特有の課題をまだまだ沢山抱えてはいるが、何も東京の雛形で覆う必要はない。一つ一つを確認し構築するだけの時間は、かろうじて残されている。郡山から会津若松に向かうローカル電車の中で、これまでとは一変する景色を車窓から眺めながら地方特有のオリジナリティの継承と創造を考えていたら駅に着いた。私自身の直近の課題はBITOWAをビジネスで成功させる事だ。

富山のプロダクトデザインコンペティションはまもなく締め切りです。多くの人材の登竜門として参加頂き、本当に多くのデザイナーに支えられてきた。

若き熱い才能の片鱗を見せてください。

2009年7月

プンタ・デラ・ドガーナの全貌プンタ・デラ・ドガーナの全貌

6月中旬、ミラノ出張の合間をぬって日帰りでベネチアに出かけました。目的は「第53回ベネチア・ビエンナーレ」の視察に加えて、6月6日から一般公開が始まった安藤忠雄建築の新美術館「プンタ・デラ・ドガーナ」をいち早く見学したかったからだ。現代美術の世界的なコレクター、フランソワ・ピノー氏のコレクションを展示したこの美術館は、06年に改装された「パラッツォ・グラッシ」と共にベネチアの新たな文化芸術都市のスタートを切る施設となった。そして、何よりこの美術館は安藤美学に満ち溢れた作品となっている。15世紀に建てられ、倉庫や事務所として使われていた建物を匠に残し、新たな空間展示要素を加えている。細やかな作業であり、またベネチアの景観を匠に生かした建築となっている。また、美術館としての規模もヒューマンスケールである。実は近年巨大化する美術館において、もっとも大切な要素だと思っている。私の好きなフランク・ゲーリーのビルバオ「グッゲンハイム美術館」、フランクロイド・ライトのNY「グッゲンハイム美術館」、ヘルツォーク&ド・ムーロンのロンドン「テートモダン」、マリオ・ボッタのバーゼル「ジャン・ティンゲリー美術館」に新たな美術館が加わった。ベネチア・ビエンナーレに関しては、近日「日曜美術館」で放映されるらしい。

7月14日に世田谷区民会館ホールにて2016東京オリンピック・パラリンピックのプロモーションの一環として、「東京~夢の都をつくる安藤忠雄と語る」が開催されます。予席は後100席程度です。是非お時間のある方はご参加下さい。→ http://www.japandesign.ne.jp/HTM/JDNREPORT/090603/ando/

2009年6月

左からグラフィックデザイナー中山真由美さん、下尾さおりさん、関秀道さん、下尾和彦さんの面々左からグラフィックデザイナー中山真由美さん、下尾さおりさん、関秀道さん、下尾和彦さんの面々

明日から始まる「インテリア ライフスタイル / Interior Lifestyle」の設営で、お台場のビックサイトで作業しているといろいろな方にお会いした。先ずは、小泉誠さんと「新しい仏具が時代的に求められている事等々」の立ち話。名児耶秀美さんとは「昨年の富山プロダクトデザインコンペの受賞作、小林幹也デザインTATE OTAMAの商品化等々」、増田尚紀さんとは「山形と富山のものづくりの環境面での話等々」、まるで同窓会の様であった。また、これまでメゾン・エ・オブジェで、三年間ジェトロの「Japan Style」プロジェクトをプロデュースしお世話になった全国各地の企業も数多く出展している。メゾンで選定していただいた事が転機となったとお礼を言われ、照れくさかった。みんな厳しい経済環境である事には違わないが、何年も何百年も続けてきたモノづくりは簡単にはなくならない。また、自らの立ち位置を持つ人間はどんな環境下でも強いことを実感。この三日間は、久しぶりに楽しい機会となりそうだ。私が担当したのは、以前にこのコーナーで紹介したデザイナー、下尾和彦さんからの依頼で高岡で仏具・美術品の製造・卸を手がける関菊さんの展示デザイン。下尾さん、関さんの確かなモノづくりをご覧いただきたい。

昨年、9月末に他界した渡辺英夫さん念願の経営デザイン本が上梓された。タイトルは、「超感性経営」ソニー伝説のストラテジストが授ける渡辺流・マネージメントメソッド:25という副題がついている。私も寄稿している。故人は多くの人に読んでいただきたいと熱望していた。

2009年5月

シカゴのデザイナー リック・バレセンティとは15年ぶりの再会シカゴのデザイナー リック・バレセンティとは15年ぶりの再会

長期に渡ってミラノサローネを視察・分析してきたのでデザインの変遷がよくわかります。

80年代はメンフィスに代表されるイタリアデザイン全盛の時代、90年代はシンプル、ミニマルデザインに象徴される大量生産型デザインへ移行し、21世紀に入りマーケットの拡大、同時に投資家によるブランド統合、そして昨年秋のリーマンショック以後世界的な経済不況へ。イタリアは一部の企業を除き、この数年間は低迷しています。

自信を失ったイタリアデザイン界には、80年代に見られた様な威厳はありません。しかし、イタリアデザインのアイデンティティを取り戻し、再構築する機会だと考えます。結局、身の丈以上の量を求めると生産形態を換えなくてはなりません。それが如何にアイデンティティを阻害するか、経営者は難しい課題を抱えてしまいました。

そんな中、サローネはトリエンナーレ美術館で行われた「SENSE WARE」と「Canon NEOREAL」が話題を独占しました。日本の技術とデザインを核とした表現は、現地デザイナー達には必見だった様です。

キヤノンブース運営のためトリエンナーレ美術館にほぼ缶詰状態だったので、多くの古き良き知人友人と再会する事ができました。特に嬉しかったのは15年ぶりに再開したシカゴのリック・バレセンティ、一番の古き友人ミケーレ・デ・ルッキとも3年ぶりくらいでした。

デザインの可能性を求めて、来年のサローネに向けて新たなスタートが始まります。

2009年4月

私の事務所にて田中千尋さん(左)と石渡ゆみかさん私の事務所にて田中千尋さん(左)と石渡ゆみかさん

ミラノサローネまで3週間に迫ったこの時期、現地との施工に関する打ち合わせ以外は平穏な日々をエンジョイ。オフィスのある青山界隈の桜も今週末が見頃。

イタリアのメジャー企業の数社が景気低迷で出展を取りやめたニュースが飛び込んでくる。やはり日本企業と若手デザイナーが例年通りパワーを示す事になりそうだ。初出展のTOSHIBA、2度目のCanonPanasonic電工、5度目のLEXUSが主な出展企業。私は昨年に引き続きキヤノンの総合プロデュースを手がけています。ここでは製品を活用したパワフルな展示を企画制作しています。(オープニングパーティは、22日19時からトリエンナーレ美術館)。

現在のデザインで何が欠けているかといえば色気です。シンプルモダンのデザインは好きですが、暫くは購入したくありません。それより色気のある知恵と存在感とセンスに溢れたデザインが欲しい。デザイナー諸氏には、さらに奮起していただきたい。そんな折、事務所に作品を持って訪ねてくれた田中千尋さん(写真参照)は、なかなかの逸材でした。この若さで、頭脳とデザインとビジネス感覚を持ち合わせている楽しみなクリエーターだ。最後に西武コミュニティカレッジからの依頼で「ニッポンデザインの力」というタイトルで5回の講座を持ちます。毎回、ゲストをお招きして炸裂トークを繰り広げたいと思います。

2009年3月

Frankfurt messe Ambiente の会場でFrankfurt messe Ambiente の会場で

変化を探る、可能性を探る、この時期ほどこうしたことを考えるに適した時間はない。日々様々なジャンルの方にお会いし、考え方を聞き、キーワードが注入される。暫くはこうした時間を大切にしながら次の時代提言を考えなくてはならない。振り返ればバブルがはじけた91年、横浜で「AGGRESSIVE展」をキュレーションした。当時も社会は混迷した時期だったが、だからこそ精力的に実践しているクリエーターを世界のシーンから選び協力していただいた。建築家のマイケル・ロトンディやアレッサンドロ・メンディーニ、リック・バレセンティ、フィリップ・スタルクらである。再びクリエーションの磁場をつくらなくてはならないと考えている。

今月16日午後、佐藤卓さんとミッドタウンで対談する。今の私の思いをお話ししたいと思っている。

3月28日午後、芝浦工大の田町キャンパスに誕生する「デザイン工学部」を記念し柘植学長と対談する。マクロ・ミクロについてお話しする予定である。

そして、来月に迫ったミラノサローネの準備のため神経を注いでいる。昨年と同じトリエンナーレでキヤノン「NEOREAL」の空間体験を体感していただく予定である。

2009年2月

私が担当したジェトロ広報ブース私が担当したジェトロ広報ブース

世界的に低迷する経済状況だけに心配して望んだメゾン・エ・オブジェは、心配もよそに出展者も人の出足も好調。みんなが打ち萎れているわけでない事を知り安堵する。年々、規模・華やかさも増し高感度な見本市に成長。今後、主催者のフランス見本市協会は、規模の拡大維持と全体の質とのバランスに頭を痛めることになるだろう。

さて、今年のジェトロの広報ブースは7Bホール。今年は日本の文化と環境を考慮し、紙に焦点をあて商品セレクションを行った。もちろん会場デザインもテーマ性を貫いた。しかしこのパビリオンは仮設の大型テントの為、初日に吹いた強風により安全上の問題から運営事務局から突然入場ストップがかかるという前代未聞の事態が発生。翌日からは、天候も安定し無事に終えることができた。この時期に併せて、日本からはジェトロブース以外に27社(団体含む)も単独出展。プラスしてSOZO_COMM、市内の三越エトワールではJAPAN BRANDの展示商談会が開催され、日本の存在感をあらためて示すカタチとなった。また、お会いした企業の経営者からは、来年は単独出展したいと意欲的な方も多く心強く思った。あえて助言するなら、どの場所で、どんな商品構成で、どんな展示を行うべきか。同時に欧州マーケットへの事業戦略をしっかり練り込んでから来てほしい。これだけ情報過多の時代には、削ぎ落としたシャープな見せ方(デザイン)の方が欧州のビジネスでは可能性が高い。

2009年1月

東京が世界の都市モデルにならなくてはならない東京が世界の都市モデルにならなくてはならない

新年おめでとうございます。この正月は、今後の産業とデザインを考えるには良い時間でした。

第一に一昨年急逝した黒木靖夫さんは「これからの企業は、増収増益ではなく減収増益を考えなくては駄目だ」と熱く話していました。以前にも記しましたがソニーの創業者のひとり井深大氏は、起草した設立趣意書の経営方針に「徒ラニ規模ノ大ヲ追ハズ」と記しています。先達の透視眼を改めて感じています。

第二にどんな時代でも消費者の欲求は失せないという事実です。だからこそ、どうしても欲しくなる魅力(デザイン)を真剣に考えなくては駄目です。欲しい物は我慢ができません。

第三に四マス媒体の失墜です。代わって文化的アプローチによるコミュニケーションに可能性を見いだしています。20年間数多くの展覧会を行ってきた結果、たどり着いた「場」と「波紋」によるクロスメディア・コミュニケーションです。

12月にオフィスを横浜から東京・青山に移し、毎日の移動が少なくなり自由な時間が多くなりました。今月末からはパリ、フランクフルト、ミラノと飛び回りますが、新たなデザイン潮流を青山から発したいと思っています。