桐山登士樹が選ぶ 注目のデザイナー

COLUMN 樹幹通信 桐山氏の近況やデザインの話題をお届けします

2008年12月

建築家・藤本壮介氏の仕事場建築家・藤本壮介氏の仕事場

日頃から建築家・デザイナーは知財であると明言してきた。資源のない国が生きていくには尊敬される開発が生命線であり、それを実践できるのは開発に携わるクリエーターである。こうした考え方をベースに15年前に横浜ポートサイド地区にYCSデザインライブラリーをオープンさせた。小さいながらこのライブラリーは全世界のクリエーター600名のデータを保有し、これまで数多くのプロジェクトに建築家・デザイナーを紹介してきた。この運営に祭し、地区や大手企業のバックアップがあった。そのライブラリーも来年3月末で閉館することが決まり、そろそろ横浜での役目は終わりにしてよいかなと思い、早速オフィスの一部を東京・外苑前に移した。来年4月からは完全に東京に移転することになる。新しい部屋からは、六本木ヒルズなど東京の景色が見える。知財を生かした東京での活動がスタートする。

2008年11月

コリーンさんとガブリエルさんコリーンさんとガブリエルさん

この時期、東京はデザインの話題で花盛りになる。多いに結構なことだが外苑前やミッドタウンの会場を見て回っても何か物足りない。それはデザインがデザイン外へ訴えかける力が不足しているからだ。何故、東京デザイン宣言ができないのか?。金融危機に単を発する経済不況下で全世界がマイナススパイラルに向かっている。こんな現状だからこそデザインは今後どうして行くのか、力強い声明が必要だった。

富山で先月末行ったデザインウエーブin富山は、なかなか密度の高い内容だった。このイベントの展覧会をスタイリストの長山智美さんにお願いした。詳しくは、彼女のブログ( http://blog.excite.co.jp/diarymumu/ )に掲載されているのでご覧いただきたい。

今月末トヨタから発売されるIQのプロモーションの一環として、絵画館前のテントで「IQ×SOMARTA MICROCOSMOS」が開催された。今年のサローネのキヤノンで起用した廣川玉枝さんがここでも独自の世界観を再現している。石上純也さんを初め、私が紹介する人が活躍している姿を見るのは嬉しいものだ。同時に自分の視野角をさらに磨かなくてはと思った。

知人のデザインナー ガブリエルからメールが入り、滞在していた日比谷のペニンシュラホテルで会った。彼は現在、エルメスのデザインマネージャー。一緒にお会いしたコリーンさんはイノベーションディレクター。お二人からエルメスの戦略を聞き大変興味深かった。

2008年10月

花婿ではなく展示品を物色中の長山智美さんと展覧会担当の西中川京さん花婿ではなく展示品を物色中の長山智美さんと展覧会担当の西中川京さん

世界的な金融不安の重い空気が漂う中、昨日は久しぶりに仙台へ出かけた。日本商工会議所、全国商工連合会が共同主催するJAPANブランド・フォーラムの講師として呼ばれたからだ。このフォーラムでは、山形工房のリーダーで家業15代目となる菊地保寿堂の菊地規泰さんや東京ミッドタウンでTHE COVER NIPPONを経営する赤瀬浩成さんらとご一緒した。このお二人、私より年が若いのになかなか肝が据わった方々で頼もしい発言が聞けた。JAPANブランドの良い点は、日本のモノ作りの歴史・原点を確認できる点である。400年以上続く源泉は、いまの様な難局を幾たびも乗り越え今日がある。先達からすると右往左往するこの様相は滑稽でさえあろう。地に足が着いたモノ作りは大変ではあるが、やりがいがあり成功させなくてはならない。

今月22日から開催するデザインウエーブ2008イン富山では、スタイリストの長山智美さんに展覧会を要請した。その為、長山さんは富山の会社を訪れ様々物色していただいている。彼女の手にかかれば埋もれてしまった製品に命を再び与えることができるかも知れない。乞うご期待。また、11月4日には世田谷区主催の安藤忠雄講演会をコーディネーションしている。アジェンダを見ると、この秋はデザイン一色になっている。

2008年9月

もう20年来の付き合いになるナガオカケンメイさん。もう20年来の付き合いになるナガオカケンメイさん。

月曜日まで銀座松屋で開催された「デザイン物産展ニッポン」は、疲弊している地方の物産メーカーに自信を与える展覧会となった。

コミッショナーを務めたナガオカケンメイさんの作り手に対して送った「日本らしいものづくりをしているから・・・」の強いメッセージは、産地とデザインと消費者との関係を再考する機会となった。私も二度会場に足を運んだが、800円の入場料を払い途切れる事なく多く人が入場され、熱心に見入り、友人同士か会話が生まれ、なかには購入していく人もいて、これまでのデザイン展とは違う場の雰囲気がなんとも新鮮だった。ナガオカさんに聞いた所、予想以上の売れ行きで用意した選定品は売り切れ、補充で大変だった。

この企画は、できれば松屋で定着してほしい。また来年は、自分ではなく他のコミッティのメンバーがやってほしいと寛大な発言をされたのが印象的であった。企画次第で根強くたくましい消費者がいる事を実感して、今年4年目を迎えている会津若松のジャパンブランドの「BITOWA」や16年通い続けている富山県のデザイン開発にさらに注力しようと思った次第である。尚、今回富山県の展示に選定していただいた「デザインウエーブ」の初日(10月22 日)に富山で講演をお願いした。その後、旨い寿司を食べにいく事も。

ミラノサローネ2008
http://www.japandesign.ne.jp/HTM/JDNREPORT/salone08/

2008年8月

テートモダンからウェストミンスター、シティーサイドを望むテートモダンからウェストミンスター、シティーサイドを望む

ミラノでの短期出張を終えて、久しぶりにロンドンに立ち寄った。二日間だけですが。その目的は、テートモダンで開催中の「Cy Twombly展」とデザインミュージアムで開催中の「リチャード・ロジャース展」を観賞する為です。両展覧会とも丁寧な展示が印象的でした。テムズリバーサイドのシティでは、近代的な建築が建設されています。ウェストミンスターに代表される古き建築と新たな建築がどう整合していくのか、ロンドンの建築・デザインも分岐点に立っていると感じた次第です。もう一日は、パディントンから1時間列車に乗ってオックスフォードで下車。ほとんどの時間を本屋とカフェで過ごしましたが、この街に漂う学術の匂いは、しばし時間を忘れさせる魅力がありました。

最近思うに、そろそろバウハウスの呪文から開放されないと、魅力的な商品が誕生しないのではないかと危機感を持ち始めています。「軽薄短小」以降の約30年間のモノづくりは、日本のインダストリーを頂点にまで高めました。しかし、モノの価値の定義は緩やかに進化、固定的なモノだけに捉われない価値や情報の価値が重要視されるようになりました。iphoneに代表されるように新たな潮流に対応するには、根本的にデザインを再考する時期に来ていると思います。この点は、研究会等々で今後論議し研究して行きたいと思います。

富山のプロダクトデザインコンペティションはまもなく締め切りです。ここで会えるデザイナー、ここから巣立っていったデザイナー、コンペという場の大切さを実感しています。

詳しくは、http://dw.toyamadesign.jp/DW2008/compe2008.htmlで。

2008年7月

大の甘党のnendoのイトウアキヒロ氏と佐藤オオキ氏大の甘党のnendoのイトウアキヒロ氏と佐藤オオキ氏

ミラノサローネをオーガナイズしているコスミットは、ニューヨークとモスクワでも同様な展示会の開催にむけて動き始めている。今日の二ユースでは資源を持つロシア、カナダ、南アフリカ、ブラジルの四国の株価が急騰している。これまでとは違って先進国、経済大国などと胡座をかいている時代は過ぎ去った。この国の国力をアップさせないと、この先どうなってしまうのか不安な空気が漂う。私には、4、50年先の安定生活を夢見る新人類と言われる世代の安定志向の心理は理解できない。

いささか飛躍するがデザインの強みは、相手に感性価値で存在を示す事ができことである。故にデザインは、その最前線の表現として最も大切である。先日、情熱大陸に出演したナガオカケンメイ氏は、ロングライフデザインを提唱し粘り強い活動を展開している。また、同氏は8月27日から日本デザインコミッティーの主催で松屋銀座で開催される「デザイン物産展ニッポン」のコミッショナーとして日々奮闘している。ミラノサローネで話題となったLEXUSの会場構成とデザインを行ったnendoは、その後世界各国から引っ張りだこだという。世代を超えて信念を持ったデザインとそのアクションは、次の門戸を開くと固く信じている。

2008年6月

露出量の多かったプラダ携帯の広告露出量の多かったプラダ携帯の広告

東京表参道駅に貼られたポスター、屋外広告、見開きの雑誌広告、15段の新聞広告、異常とも思える数の露出量、広告宣伝費をかけたLG製のプラダ携帯。あたらしモノの大好きの私は、もちろん真っ先に行きつけの有楽町のB店の店頭に立ちました。しかし、しばらくして購入するのをやめました。その理由は「何か違う」と感じたからです。docomoの新しいロゴの導入を契機に売り場が一新されていました。なにか時代迎合するような派手派手の売り場のデザインとプラダ携帯は、明らかにミスマッチ。広告媒体で見せていたような先鋭的なイメージは微塵も感じ得ませんでした。客観的に見てみると、とても怖い事です。ブランドのデザイン戦略を仕事にしているせいか、こうした売る為には手段を選ばない扱いは、時間軸で見るとプラダ、LG、docomoにとってマイナスイメージに繋がります。直営のショップデザインに重きが置かれている現在でも、簡単に自分たちの生命線を軽視してしまう。これからは量販店にもデザインが必要だと感じました。尚、この携帯は現在品切れ中のようです。

2008年5月

この世界の先駆者の一人、小池一子さんからも高い評価をいただいた。左はキヤノンの酒井所長、その隣はSOMADESIGNの福井さん。この世界の先駆者の一人、小池一子さんからも高い評価をいただいた。左はキヤノンの酒井所長、その隣はSOMADESIGNの福井さん。

前号で、ミラノサローネを「そろそろ卒業しようと思いながらも」と書いたら「まだ卒業するな」と、いろいろな方から言われた。ちょっと嬉しく思った。4月16日の夜に開催したキヤノン「NEOREAL」のオープニングパーティーには、多くの方々が訪れてくれた。そして6日間の会期中、不順な天候にも関わらず、この波は絶えることなく続き、22年間通い続けて一番来場者が多い年になったと思う(ラ・トリエンナーレの公式発表はまだでていない)。これまで数多くの展覧会を20年間手がけてきたが、一番気になるのは展覧会の評価より人が来てくれるかどうかである。そういう意味では、第一の難関はなんなく突破した。後はマスコミや関係者がどのように評価してくれたかである。一都市に6日間で30万人弱の人が、世界中から集まるサローネは、改めて凄い機会(デザインビジネスとデザインイベント)でした。

サローネに関して、私の考えはこれまで繰り返してきている通りである。サローネを見ても良いデザインは当たり前になった。日本企業や日本人デザイナーの質量は世界のトップランナーであることを実証した。その上で、私達が世界に向けて発信しなくてはならないことをもっと模索する時期に来ている。例えば、環境問題や資源問題は避けては通れない課題である。サローネ自体も新作デザインを核にしたビジネス面では機能しても新たな機会の創出の場としての機能がないとこのポテンシャルを維持していくのは難しくなる。

2008年4月

椅子のモデルを検討する廣川、福井の両氏椅子のモデルを検討する廣川、福井の両氏

いよいよ来週末にはミラノへ向かう。そろそろ卒業しようと思いながらも22年目のミラノサローネとなる。前号でも記載したようにミラノサローネは、家具の新作発表商談会からブランドコミュニケーションの場へと変化している。

新たなモノはなくても生活できる現代社会で支持されるには、単なるモノだけではない企業の可能性や経営のセンス、さらには独自に提案されるブランドの世界観がマスト条件となり始めている。デザインの新規性やデザイナーの名前だけで注目されるような時代ではなく、そのモノと自分との関係性が重要な視点となっている。わかりやすく説明すると「必要か」「必要でないか」、「もっと関わりたいか」「関わりたくないか」、まるでコンビニ3秒ルールの様に瞬時に判断されてしまう厳しい時代である。それ故、新たな対話の技が必要となってきている。これまでの日本的な暗黙知の世界やマス媒体だけでは、対話が成立しない。この数年よく使われてきたエクスペリエンスな機会にするには、鮮烈なインパクトとロジカルで深い会話(シナリオ)が必要である。今回、総合プロデュースを手がけたキヤノンは、このような私なりの考えをベースに組み上げた。サローネに来られる多くの方々と4月16日の夜、ミラノトリエンナーレの会場でお会いできれば幸いだ。

2008年3月

ミートパッキング・ディストリクト地区に誕生したヨージのショップミートパッキング・ディストリクト地区に誕生したヨージのショップ

今年のミラノサローネでは、二つの企業のお手伝いをしています。一つは、参画して早4回目となるLEXUSです。今年は佐藤オオキ氏率いるnendoに依頼しました。彼らの新たなチャレンジにご期待いただければと思います。もう一つは、今年初めてサローネに参画するキヤノンです。タイトルを「NEOREAL キヤノンが創り出す新しい感性の世界」と題し、こちらは総合プロデュースを担当しています。本日、内田社長への報告会を終え若干安堵していますが、残された時間で更なるクオリティーアップを図らなくてはなりません。依頼したチームメンバーは、建築家の石上純也、ファッションデザイナーの廣川玉枝、建築・デザイナーの森ひかる、グラフィックデザインの粟辻美早、そしてデコレーターとして深澤里奈の各氏です。私のスタッフも総動員です。企業デザインや技術をどう伝えるか、このコミュニケーションの技とセンスが最も重要なテーマです。次号で、詳細をお伝えしたいと思います。

そんな中、NYへ1泊3日の短期出張をしてきました。大雪で交通マヒはありましたが、往復26時間のフライトは日ごろの睡眠不足の解消と冷静に考える時間となりました。現地で新プロジェクトの打合せ後、石上氏の最新プロジェクトのヨージ・ヤマモトのショップとSANNAのニューミュージアムの二件だけ視察しNYを後にしました。

2008年2月

ジェトロの広報ブースジェトロの広報ブース

今年もパリ、メゾン・エ・オブジェでのジェトロ広報ブースのプロデュースを依頼され、22日から1週間パリに滞在しました。昨年と違い天候に恵まれ、また昨年の反省を踏まえ設営・展示の準備をしてきたのでスムーズに準備が完了。今年のキュレーションの軸は「ディテール」。日本国内40ほどの地場産業から17品を選び展示。 全体としては、あらためて日本のものづくりの質の高さが評価され想像以上の引き合いがありました。課題は、こうした質的に高く、美しい日本の地場製品をどう世界の市場に送り出すかです。また、その為の新たな戦略が必要で、現在企画中です。

今回のパリ滞在で時間を調整して、二つの博物館・美術館に行けたのが収穫でした。
一つは、以前に一度訪れたことのあるミュゼ・デ・アール・エ・メチエ(Musee des Arts et Metiers)、メカが好きな私は一 日でもいられる場所です。特にフーコーの振り子時計は飽きない。もう一つはジャン・ヌーベルの建築で知られるケ・ブランリ美術館(Musee du quai Branly)。やっと訪れることが出来ました。この二つの施設を見て、改めて教育の大切さを実感しました。高度な展示の仕方を含めて、まだまだ日本の文化施設の脆弱さを感じた次第です。日本にもそろそろ本格的なデザインミュージアムの必要性を感じています。

2008年1月

年末には吉岡徳仁さんとナガオカケンメイさんと久しぶりに食事。年末には吉岡徳仁さんとナガオカケンメイさんと久しぶりに食事。

世界のデザイン界の巨匠エットレ・ソットサスが12月31日に90歳の生涯を閉じました。合掌。実際に何度かお会いしたことがあるのでショックでした。生前エットレが語っていた「人が喜んでくれて、おもわず頬にキスしてくれるようなデザイン」の話しが脳裏に焼きついています。マスプロダクションでこうした理念を具現化するのは大変難しいことですが、しかし最も大切な視点です。とかく購入までが楽しいバーチャルなデザインが溢れる中、購入した後も大切にしたくなるデザインへ、デザインには重量感が必要です。

日本のなかでも東京は、さまざまなデザインに対してポジティブな都市です。海外からの旅行者は、東京のスケール、密度、そして秩序に驚きます。世界に類のない街なのです。この東京を世界の最先端のデザイン都市にしたいと私は夢見ています。

この二十年間、日本のデザインは技術+デザインだと思ってきました。強い力ではなく、賢い力が必要です。わかり易い世界観に陥ることなく、これまでご一緒したことのない企業や専門家と交流し、新しい価値を醸成するデザイン都市を作らなくてはなりません。これが今年の抱負です。