桐山登士樹が選ぶ 注目のデザイナー

COLUMN 樹幹通信 桐山氏の近況やデザインの話題をお届けします

2007年12月

富山プロダクトデザインコンペティションの審査員(公開審査会)富山プロダクトデザインコンペティションの審査員(公開審査会)

通算17回目を数えるデザインウエーブは、富山県が実施しているデザインイベントである。一見、田舎のイベントのように映ると思うが、その実最も進んだ内容を有している。デザインをこれだけ真正面から捉え、包み隠さずオープンにした企画は他にはない。それというのもデザインは、人々の五感を刺激する最もデリケートで、最もインパクトの強いものであるからだ。参加したデザイナーは、時に熱く語り、時に稲妻が体を通り抜け、そして戻っていく。今後も私が関わるとすれば、アスペンやダボスの様な場としていきたい。

商品開発でマスマーケティングほど妖しいものはないと思っている。定量的な数値は、ややもするとデザインの進化を阻害する。耳障りのよいフレーズは、何か妖しさを含んでいる。あなたに喜んでもらえるデザインとはどんなものか?いま最も関心があり、直面している課題である。

今年もいろいろなデザインを見て周り、購入した。ベストは「iPodtouch」とSonyの「有機テレビXEL-1」である。そして最も気になったデザインは、Audiの「メトロプロジェクト・クワトロ」とトヨタの「iReal」である。今後製品化されたら一番に購入してみたい。常に進化を求めて、信念を持って具現化する大切さをひしひしと感じている。企業と生活者との距離感やその後の共有の場づくりも次の重要な課題である。

2007年11月

ミラノは2015年のEXPOを誘致し、新たな経済力のアップを目論んでいる。ミラノは2015年のEXPOを誘致し、新たな経済力のアップを目論んでいる。

例年この時期は忙しい。今年も沢山のデザインウィークの案内をいただいた。お送りいただいた皆さんには大変申し訳なかったのだが、31日からミラノへ出張に行かなくてはならず何一つ見ることはできなかった。機中泊を含めて三泊の短期滞在だったので、ショッピングや地方へ足を伸ばす時間は持てなかった。イタリア経済は、相変わらずの低成長で追い討ちをかけるようにユーロ高が生活者を苦しめている。その中で目に付いたのは、リナシェンテデパートの7階が食品売り場に大改装され、回転寿司屋もオープン。街中ではフィアットのチンクエチェントが可愛らしい姿で走り回っていた。そういえばプリウスも随分増えた。偶然横を入りぬけたNIVEA装飾のトラムは可愛く、慌ててカメラを取り出したが時すでに遅かった。トリエンナーレでは、カルティエ財団のデビット・リンチ展が開催されていたが、展示作品は好きになれなかった。来年のミラノサローネに向けて水面下で準備が進むが、サローネが今後のデザインムーブメントを生み出す場となるか、例年同様発表会で終わるのか、その後の世界のデザイン界にとって重要な機会となろう。

いま発売の「Pen(2007年11/15号)」のデザインアワードは力作。私も審査委員の一員として名を連ねているので興味のある方は見てください。

2007年10月

11月8日から富山県高岡市で黒木氏の回顧展を計画している。11月8日から富山県高岡市で黒木氏の回顧展を計画している。

ミスターウォークマンと言われた黒木靖夫氏を偲ぶ会を企画し開催した。黒木氏の所持していたウォークマンや扁平ブラウン管ペチャトロンのモックアップのほか、生前親しかったナムジュン・パイク氏が黒木氏に宛てた書簡や作品など、四つのコーナーに分類して展示した。また、数多い写真ビデオを編集し足跡を振り返った。黒木氏と交友の深かった諸先輩方やデザイン関係者に来ていただき、私としては25年に及んだお付き合いに一つのけじめをつけることが出来た。「感性というのは非常にいい言葉でして、日本人は非常に優れている。特に若い人はですね。それを育てる。それが私達の義務である。」と生前黒木氏は語っていた。この言葉を日本のデザイン界のために継承していきたい。

9月22日に予約しておいたiPodtouchが届いた。この操作性の快感は、iPhoneで体験済みだが実際に使ってみるとすばらしいの一言。またtouchは、音楽専用に特化した商品であることがわかった。そのハンディーゆえ、この二週間でYouTube、Videos、Calendarはフル活用。Safariは接続できる便利性はあるがアクセスが限られる。しかし、アップルの戦略にまんまとはまり、WinPCと同等にMacBookがフル活用。ここまで来ると8-10インチのMacモバイルが欲しい。こうした魅力的な製品を手にすると、ますます黒木さんが活躍されたSONYは、過去の会社となりつつある。

2007年9月

Bohlin Cywinski Jackson によるアップルストアーの建築インテリアはすばらしい。Bohlin Cywinski Jackson によるアップルストアーの建築インテリアはすばらしい。

私のもの好き、初物好きは、友人知人の間ではちょっと有名である。時間があると有楽町の某量販店にたむろするのが大好き。先月、久しぶりにニューヨークに渡航し、アップルストアーにまっしぐら。お目当ては「iPhone」。指先と連動したスムーズな操作性には正直驚きました。やはり新しいものに触れるドキドキ感やヤラレタ感はたまらなく好きである。身近なものとしては、これまですべてのバージョンを購入した「iPod」が上げられる。他には、川久保玲氏のデザイン哲学に魅せられ、ブランド立ち上げ時から早30年間買い続けている「コムデ」とか。トヨタの技術開発の傑作であるハイブリッドシステムに感銘し、二代10年間で11万キロを走破した「プリウス」とか。「人間が考える葦である。」のことわざではないが、人の考えが色濃く反映されたものに出会う、触れるのが好きだ。

最近、東京の展覧会はなかなかの企画が目白押しだ。高くなった入場料を除けば質・量とも世界トップレベルだと思う。その中でも国立新美術館で行われた「スキン+ボーンズ 1980年代以降の建築とファッション」は、とても新鮮で刺激的だった。かって権威の象徴だった建築とは距離を置き、ファッションのようにかろやかに街に人に溶け込み、その存在感を極力消している建築デザインの数々。まさに次代の可能性と進化を感じさせる。

2007年8月

Honolulu Neiman Marcusで、私のスタッフとHonolulu Neiman Marcusで、私のスタッフと

ウォークマンのプロデューサーとして知られる元ソニーの名物ディレクター、黒木靖夫氏が静かに天に召されてしまった。長く癌との闘いだったので、いずれこの日が来ることは覚悟していた。しかし、その日は突然やってきた。25年に及ぶお付き合いだった。特にこの14年は、富山県総合デザインセンターの所長とデザインディレクターの関係だったので、年20回程度富山に飛び一緒に勤務してきた。富山滞在中は、毎夜酒を酌み交わした。黒木さんは、新しいことが大好きだった。そして熱かった。時にデザイン評で意見が分かれることもあったが、それ事態を楽しんでいる節もあった。私利私欲に走ることなく、極めてピュアでバランス感覚のよい方だった。そんな黒木さんの側近として、これまで一緒にいられたことを心から感謝しなくてはならない。黒木さんから教わったのは、物事の透視力・判断力である。黒木さんは、亡くなる直前までハワイでのバケーションを望んでいた。期せずして私は、来ることのできなかった2名のスタッフを除く7名のスタッフと一緒にハワイにいる。これからは、この世代に受け継ぐ何かを使命として生きなくてはならない。黒木さんを偲ぶ会は、10月2日黒木さんの75歳の誕生日に計画している。

黒木靖夫氏
http://www.sony.co.jp/Fun/design/activity/interview/kuroki_01.html

2007年7月

ブランドデザイン研究会でお話しする中塚重樹さんブランドデザイン研究会でお話しする中塚重樹さん

6月6日から三日間、ビッグサイトで行われたインテリアライフスタイルは、この手のトレードショーとしては充実した内容で見ごたえがあった。中でも招待展示の「Disney+WA-Qu展」は、京都を活動拠点とする建築家、デザイナー、アーティストがデザインする新しい和の世界と、あのウォルト・ディズニーとが一緒になって商品開発。アーティストの堀木エリ子さんのミッキーの照明から御香、爪楊枝、手拭など、二者の絶妙なコラボレーションに感服した。早速20年来の友人で、和空のプロデューサーの中塚重樹氏にコンタクト。私が汐留イタリアで、月一で開催している「ブランドデザイン研究会」の講師として来ていただいた(写真参照)。ウォルト・ディズニーが考える新たなブランド戦略と京都のモノづくりの伝統を現代に置き換えようとする和空のブランド戦略とが一致し、二者が求める上位概念のハイパーゾーンをどう商品開発できるのかこれからが楽しみだ。旬だと思った私は、今月12日より新宿のリビングデザインセンターOZONEで開催する「夏の大茶会2007」のメイン会場への出展を強引に要請した。興味のある方は、このブランドをご自身の目で確かめて、意見を下さい。

2007年6月

河合寛次郎記念館。左手に二畳の部屋がある。河合寛次郎記念館。左手に二畳の部屋がある。

京都に出張したついでに一泊し、翌朝相国寺承天閣美術館で行われている「若冲展」を見に行った。親族と自身の永代供養のために献納した釈迦三尊像と動植綵絵を見れたのはやはり感動でした。しかし、つぎつぎと押し寄せる人で早々に相国寺を後にした。向かったのは、河合寛次郎記念館。あいにく小雨のふる日でしたが、より京都を感じさせ、心地よい時間でした。人一人歩いていない路地を入った所に記念館はある。この河合の自邸は、京都に行くと一番立ち寄りたい場所。昇窯の手前にある二畳の部屋が特に好きな場所で、この窓から見える母屋や庭の景色、一輪挿しを通して知る季節感、河合の美学が見て取れる。また、この記念館の中に置かれている自作の椅子や道具一つ一つがセンスについて教えてくれる学校でもある。そして、この記念館にいると時間を忘れさせてくれる。心が癒される。デザイナーを志す人は、デザインを学ぶ前に、先達の美学に触れて欲しい。そんなお勧めの場所についても今後綴ってみたい。

今月9日午後、川崎市岡本太郎美術館で開催中の「青山時代の岡本太郎1954-1970」を記念して、建築家の長大作さんと私とでトークを行う。これまた先輩達のエネルギーを再確認する場となりそうで、精神を集中して望みたい。

2007年5月

LEXUSの設営会場で 乾久美子さんと中牟田洋一さんLEXUSの設営会場で 乾久美子さんと中牟田洋一さん

過酷なミラノサローネを取材して、いろいろ考えさせられた。先ずは、日本人はプレゼンテーションが下手だ。サテリテに出展した若手デザイナーもトルトーナに出た日本企業も海外でコミュニケーションする為にはもっと考えなくては駄目だ。世界で最大のデザインフェアのサローネで国際的な評価を得る為には、展示コンセプトの明確化と展示シュミレーションの検討に時間をかける必要がある。日本のデザインは世界でナンバーワンと繰り返し明言している私としては、このままだでは恥ずかしい。来年出展を予定している企業やデザイナーは、投資に見合う成果が得られるように総合的に検討して欲しい。サローネの取材分析は、5月中には本サイトで掲載して頂く予定であるが、5月17日にはOZONEでセミナーを行う。既にかなりの方が申し込まれているそうだが興味のある方は、参加してください。もう一つ、ユーロの高騰は何とかしなくてはならない問題である。実態経済としては125円~130円くらいが適切だ。何十年も渡航していて、今回ほど高いと感じた事はない。このまま為替ルートが容認されるようだと海外建築家・デザイナーの起用は難しくなり、サローネ出展にも影響を及ぼす。ここでも多様な選択肢があり適正価格で何でも手に入る日本は、なんといい国なのか強く実感した次第である。

2007年4月

3月20日国内外の要人、関係者600人が集まりパーティが開催された3月20日国内外の要人、関係者600人が集まりパーティが開催された

来週末には、21回目となるミラノサローネに出かける。今年は例年にも増して日本の大手企業の出展が予定されている。国際家具見本市として歴史を重ねてきたサローネも数年前からデザインウイークと称されるようになり、あらゆるデザインを受け入れるようになった。その背景には、生活スタイルの変化に対応せざるを得ない事情とイタリア経済が近年低成長(昨年あたりから底入れしつつある)で一部の企業を除き、多くの企業が新たな製品を開発できる余裕がなかったことが挙げられる。また、こうした隙間を埋めたのが日本人デザイナーであり、この数年間は日本企業の異常な進出である。特に今年はトルトーナ地区に日本企業が集中する。何をコンセプトにどんな展示を行い、どんな効果を狙っているのか、一時的なブームで終わるのか、今年はじっくり視察分析したいと思っている。

新たな街づくり施設づくりに関与しているShiodomeitaliaクリエイティブセンターは、3月20日に全施設が完成してオープニングパーティが行われた。ルーティ伊副首相も来られ記念すべき日となったが一番脚光を浴びたのは黒木靖夫氏のスピーチであった。「日本の企業や社会は美しいか?それぞれのパーソナリティが生かされ、尊重され、また同時に甘んずることなく自立しているか」という提言は、成熟社会に対する年長者からの警鐘であった。最も面白い都市東京をより高度な街にするのは、一人ひとりのパーソナルデザインである。

2007年3月

ギャラリートークの後で歓談。納谷学・新、廣田尚子、塚本カナエの各氏ギャラリートークの後で歓談。納谷学・新、廣田尚子、塚本カナエの各氏

ニッポンのデザイナー展」は無事に会期を終えた。この展覧会には若いデザイナー達がたくさん来てくれた。展示に協力していただいた建築家、デザイナーからは異なるジャンルのデザイナーと知り合うことができ大変有意義だった感謝された。世界で一番質量的に突出しているニッポンのデザイナー達には、もっと活躍できる場が必要だ。また、村社会で群れることをやめ積極的に社会との関係性を構築していかなくてはならない。その上で、それぞれの固有名詞と何が得意なのか、存在意味を明確化しなくてはならないと考えている。今回の展覧会では、4回に渡り会場内でギャラリートークを行った。展示作品を見るだけではなく、デザイナーの考え方、生き方、その上で生まれてくるデザインについて身近な距離で聞く会である。直接本人からデザインを解説いただきとても新鮮だった。

一ヶ月後に迫ったミラノサローネには、今年多くの日本企業、日本人デザイナーが参画する。今年もお手伝いしているLEXUSは、会場構成は乾久美子さんに依頼した。女性建築家にお願いしたかったことと、乾さんのディオール等の作品を見て、美の表現、美の表情に魅せられたからだ。特に今回のためにデザインされた家具「nohara」は、これまでの椅子の概念を覆す意欲作である。乞うご期待下さい。

2007年2月

JAPAN STYLE 2007 design meets craftの展示風景JAPAN STYLE 2007 design meets craftの展示風景

1月26日からパリのノール・ヴィルパント見本市会場でメゾン・エ・オブジェが開催された。プロデュース担当したジェトロの日本ブース「JAPAN STYLE 2007」は、深夜の作業となり、寒さと進行のスローさから渡航したメンバー三人がダウーンしてしまった。しかし、展示は大変好評で日本人の丁寧な仕事を再確認でき、発表することができ満足している。
昨日からは汐留イタリアで「ニッポンのデザイナー展」がスタートした。会期中には、秋田道夫、近藤康夫、西山浩平、佐藤卓、隈研吾、佐藤大ほか各氏によるデザインセミナー、ギャラリートークを予定している。URLでご確認頂き、一緒に日本のデザインの今後について前向きなディスカッションを行いたい。同会場で2月14日にはジャパンブランドの一つ会津若松のBITOWAについて、塚本カナエさんとフォーラムを計画。詳細は下記URLをご覧下さい。

BITOWA
http://www.aizu-cci.or.jp/BITOWA/

週末OZONEで開催された「JAPANブランドエキジビション」はなかなか見ごたへのある企画展示だった。認定された全国30のジャパンブランドは、それぞれ個性的であり、いずれも高いクオリティを持っていた。しかし、マーケティングと新たなルート開拓など問題も山積している。デザインビジネスは、もっとアグレッシブに詰めの作業を行わないと未来は開けないと実感した。

2007年1月

パークアクシス青山一丁目タワーから美しい東京が眺望できます。パークアクシス青山一丁目タワーから美しい東京が眺望できます。

2007年、明けましておめでとうございます。写真は青山一丁目でいま建設している現場の31階でフォトグラファーの大木大輔さんが初冬に撮影したものです。東京がデザインの力で魅力的な街になることを夢見ています。

さて、現在はパリで1月26日から30日まで開催されるメゾン・エ・オブジェのジェトロブースの総合プロデューサーを授かり、地域で起こっている新たなブランド開発を調べ選定して「JAPAN STYLE 2007 design meets craft」を企画しました。同じくメゾン・エ・オブジェに出展する会津若松の新しい漆器ブランド「BITOWA modern」は、エレガントな日常をコンセプトに世界で評価される地域ブランドにすべくデザイナーの塚本カナエさんと共働しています。

汐留シオサイト5区のイタリア街に12月誕生しました「Shiodomeitaliaクリエイティブ・センター」では文化軸での街づくりに参画しています。2月6日より3月4日まで「ニッポンのデザイナー展」の開催に向け、展覧会と同時にセミナーやトークなどを企画しています。日本のデザインシーンを作っている建築家・デザイナー約80名に参画していただきデザインパワーをぶつけてみたいと思います。今年最初のコーナーなので自己アピールみたいな文章になってしまいましたが、デザインの可能性を信じ具現化するためにも力が必要です。