桐山登士樹が選ぶ 注目のデザイナー

COLUMN 樹幹通信 桐山氏の近況やデザインの話題をお届けします

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2016年12月

第33回伝統的工芸品月間国民会議全国大会、会場第33回伝統的工芸品月間国民会議全国大会、会場
アニメ&キャラクターと伝統工芸がコラボ―レションした、新しい試みアニメ&キャラクターと伝統工芸がコラボ―レションした、新しい試み
「THE BOUNDARY BETWEEN KOGEI AND DESIGN―工芸とデザインの境目」「THE BOUNDARY BETWEEN KOGEI AND DESIGN―工芸とデザインの境目」
スギノマシンの新デザインスギノマシンの新デザイン
すみだ北斎美術館すみだ北斎美術館

第33回伝統的工芸品月間国民会議全国大会(もっと親しみがともるネーミングが必要だ)が、福井県鯖江市文化センター、サンドーム福井で11月24日から27日まで開催された。昨年の富山大会では開催地メンバーの一員として、伝産品の新しいプレゼンスを示したいと思い、随分汗をかいた。結果は大変好評をいただけた。

以前にも記述したが、全国各地には100年以上続く工芸品の産地が222箇所指定されている。ここで日々生産されているモノは、日本の文化だと言っても過言でない。しかしその実態は厳しく、上手くいっているところとそうでないところの差が顕在化している。全国大会に参加している産地はまだ元気で、国内外に対する販路や普及に意欲的に取り組んでいる。そうでないところをどのようにテコ入れしていくのか、新たな検討が急がれる。来年の開催地は東京。国内外の生活者に発信するには絶好の機会だけに、有意義な大会にして欲しい。

深澤直人さんが監修した「THE BOUNDARY BETWEEN KOGEI AND DESIGN―工芸とデザインの境目」が来年の3月20日まで金沢の21世紀美術館で開催されている。会場の展示台に引かれたラインが、KOGEIかDESIGNかの分岐線となっているのが面白い。深澤さんの思考を表した展覧会として客観的に楽しむことができた。

創業80周年を迎えた、ウォータージェットで知られるスギノマシンの中枢に入り込んで、CI、BIプロジェクトを担当した。産業の一端を担ってきたこの企業の技術開発力は素晴らしく、大変まじめに役割を担っている。しかし企業価値を再考し、グローバルマーケットで際立つアピール力には課題を残していた。今回、廣村デザイン事務所、GKインダストリアルデザインの廣村正彰さんや田中一雄さんに入っていただき、2年半に渡りさまざまな角度で検討してきた。その結果が、先日東京ビックサイトで開催されたJIMTOF(日本国際工作機会見本市)で発表、展示された。日本の産業を支える企業全般に共通した課題(ブランド力)を再認識する機会となった。

富山県美術館アート&デザイン(通称TAD)は、来年8月26日の開館に向けて準備の真っ只中にいる。そんな折、11月22日に新たな美術館「すみだ北斎美術館」が開館されたので早速訪れてみた。設計は世界の建築家・妹島和世さんが担当。コンパクトな美術館ではあるが、外観デザインが存在感を示していた。

2016年11月

「HIGHLIGHT」にて、村越淳さんの作品「HIGHLIGHT」にて、村越淳さんの作品
「HIGHLIGHT」にて、tempoのモビール「HIGHLIGHT」にて、tempoのモビール
「“COMPOSITION”」にて、TAKT PROJECTの吉泉さん「“COMPOSITION”」にて、TAKT PROJECTの吉泉さん
大城健作さん大城健作さん

デザインウィークで賑やかなオフィス(外苑前)の周辺。でも東京にいることが少なく、DESIGN小石川で開催している「HIGHLIGHT」とTAKT PROJECTのオフィスで行われている「“COMPOSITION”」を見ただけだ。だいたいのイベントが終わる最終日の3日に、スタッフから勧められた箇所だけを回りたいと思っている。毎年4月のミラサロに全精力を賭けるあまり、この時期のイベントにエネルギーが回らない。併せて、来年8月26日にオープンする富山県美術館やら富山県総合デザインセンターANNEXの準備で富山県人化している(笑)。北陸エリアがアート&デザインを先導していくチャンスが到来している。なぜなら分母の大きい東京は、コトを起こすのは大変でコンセプチュアルなものを創りづらくしている。例えば、国立デザイン美術館構想はどうなったのだろうか?反面、富山は実験的な試みが着実に実行できる。

今年のミラサロでブレイクしたデザイナーの大城健作さんがオフィスに立ち寄ってくれた。日伊のデザイン状況を確認する機会となり、混沌している問題を議論できた。結論を手短にまとめると、身の丈を越えてグローバルビジネスを追いすぎて混迷している状況。21世紀型のクリエイティブ産業の全貌は、まだ明確に現れていない。あと数年はトライアンドエラーが繰り返され、エネルギーやクルマ、家電、さらにはロボットなどにより、私たちの生活はさらに変化していくことだろう。その一端は、10月初旬に幕張で行われたIT技術の国際展示会「CEATEC JAPAN」でもうかがい知ることができた。AIと制御の研究開発がキーファクターなので、この分野に多くのデザイナーが参画してほしい。

最近頻繁に交流しているのは、台湾のデザインセンターだ。先日も台湾からの13名のデザイン関係者と交流する機会を得たが、それぞれに独自のデザイン活動を実践しており、勢いを感じた。事実、台湾はクリエイティブ産業に最も力を入れている国だと言えよう。この12年間だけ見てもドイツのiFデザイン賞の受賞数は952点、レッド・ドット・デザイン賞は844点、Gマークは447点と世界のトップランナー、デザイン立国だ。同時に特許許可数世界1位(WEF2010-2011)。国際競争力ランキングイノベーション能力世界6位(IMD2011)と目を見張る。そろそろ視野角を広げて、新たなデザイン環境を作らなくては日本は遅れてしまう。

2016年10月

とやまデザイン賞 馬渕晃さん「Slanting mirror」とやまデザイン賞 馬渕晃さん「Slanting mirror」
準とやまデザイン賞 柏木玲子さん「お守りホイッスル」準とやまデザイン賞 柏木玲子さん「お守りホイッスル」
黒木靖夫特別賞 Orada’s 「catie」黒木靖夫特別賞 Orada’s 「catie」
(写真左から)審査委員の鈴木マサルさん、川上典李子さん、安積伸さん(写真左から)審査委員の鈴木マサルさん、川上典李子さん、安積伸さん

第23回目の富山デザインコンペティションは、例年になくデザインが直面する課題と向き合うこととなった。23年前の第1回目から黒川雅之さんが問いただした「デザインは美しくコンセプシャルであるべきだ」という考え方と、黒木靖夫さんが「デザインは美しいだけではなく、売れなくてはダメだ」という考え方との黒黒対決である。

今回は応募デザイナーの柏木玲子さんの「お守りホイッスル」と馬渕晃さんの「Slanting mirror」、さらにはOrada'sの「catie」の3作品が審査の最終候補となった。とやまデザイン賞に輝いた馬渕さんの作品は、商品化しても数十個しか売れないかもしれない、ステンレスの材料費が高い、機能性はなくはないがどうしても必要なものではない。ミラーはすでにさまざまな商品がある。しかし評価すべき点は、多様化し、成熟化する中で素のデザインを問いただした点である。

かたや柏木さんのデザインは、災害列島日本に暮らす一人ひとりが携帯すべきホイッスルをお守りとかけた点である。コンセプト、リサーチ、社会的な意識喚起などなど、非の打ち所がないデザイン提案だった。Orada'sのcatie(蝶ネクタイ)は、金属を身につけるファッションアイテムとして提案し、マテリアル領域を提案してきた点だ。

つくづくコンペの審査は難しい。しかも富山のコンペはすべてを公開している。(私が提案したことだが)舞台裏の密室では決めない。だから審査委員も、23年間モデレーターをしている私自身も胃が痛くなる。極めて体に悪い、非常に消耗する一日である。こうした機会を続けてきたことで、企業や聴講する学生、最終審査に参加しているデザイナーも多くの刺激を受け、自分と対峙することになる。いまや一方通行のコンペやさまざまなイベント、メディアの意味は薄れてきている。

こうした機会を長く続けられることを素直に喜びとしたい。分母の大きい東京ではできないことを富山でできる。だから私は富山に入れ込み、この地をデザインのメッカにしたいと意気込んでいる。

2016年9月

とやま国際工芸シンポジウム パネルディスカッションとやま国際工芸シンポジウム パネルディスカッション
国宝瑞龍寺にて、左からマリオ、イビィー・ボーンチェ、トードの3人国宝瑞龍寺にて、左からマリオ、イビィー・ボーンチェ、トードの3人
シマタニ昇龍工房で島谷好徳さんより説明を受けるシマタニ昇龍工房で島谷好徳さんより説明を受ける
五箇山で和紙梳き体験五箇山で和紙梳き体験

9月3日に富山国際会議場メインホールで、これからの国際工芸を考える「とやま国際工芸シンポジウム」を開催した。誰をゲストスピーカーに呼ぶか、二転三転。こちらの日程に合わせていただかなくてはならず、胃の痛い思いが一カ月ほど続いた。6月初旬にトード・ボーンチェさんとマリオ・トリマルキさんから参加の意思を受け取ることができ、一安心した。

私がこだわったのが、広く見識がありクラフト(工芸)デザインの実践者であることだった。マリオ・トリマルキさんは、ドムスアカデミーの開校時からディレクターとして活躍し、現在のNABAの教育者として、またデザインの創造や意味、定義のアプローチに独自のソリューションを持つデザイナーだ。一方トード・ボーンチェさんはRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)の学科長として、また現在は途上の国々の生活に根付く素材と手法を活用しているデザイナーだ。

宮田亮平文化庁長官にもお越しいただき、2020年までに文化力を強化する方針と北陸三県で国際工芸サミットを開催する旨が報告された。それ以外にも楽しい基調講演だったが、紙幅の関係で割愛する。石井隆一富山県知事からは、伝統工芸の振興にはデザインが必要不可欠で、県としてもインフラ整備を含めてバックアップしていくことが熱く語られた。

そしてシンポジウムでは、テキスタイルデザイナーの須藤玲子さん、地元を代表して能作克治さんと石井知事に加わっていただき、地球規模で直面する天然資源や再利用(リユース)とデザイン、デザインする意味、そして次の時代へ残すべきこと、整備していくことなどを議論した。本シンポジウムは4時間にわたり繰り広げられたが、内容の濃い機会となった。

来年は富山開催、そして2018年か2019年に福井、2020年には金沢で国際工芸サミットが開催される。すぐに来年の準備に入らないと間に合わない。

2016年8月

国際工芸シンポジウム国際工芸シンポジウム
深川製磁の「大花瓶」深川製磁の「大花瓶」
高岡銅器の「菊花文飾壺」高岡銅器の「菊花文飾壺」

この春から、9月3日に富山国際会議場で国際工芸のシンポジウムを開催する為に準備をしてきた。ミラノからは、ドムスアカデミーなどデザイナー教育に力を注いできたマリオ・トルマルキ氏、ロンドンからはRCAの学科長を担っていたトード・ボーチェ氏を招聘することができ、準備は整った。さらに宮田亮平文化庁長官、テキスタイルの可能性にチャレンジしているデザイナーの須藤玲子氏。彼女は来年からセントラルセントマーチンズ カレッジ オブ アート&デザインの教壇にも立つ。

日本人の生活に寄り添うように規模や秩序を守り、今日まで役割を担ってきた伝統工芸。しかし、この数十年間のライフタイルの変化や住まい方の変化、さらに核家族による家族形態や町内会の行事の簡素化などにより、工芸の需要は低迷したままだ。さらに20年後の人口の自然減や少子化により、将来の展望も閉ざされている。

こうした環境下の中で、追い風なのは日本のものづくりの確かさ、精巧さ、美しさに世界の関心が寄せられていることだ。このチャンスに新しいスキームを生み出すことができたら、事業縮小や後継者不足を補うことができる。今回開催されるシンポジウムは、単に富山県だけの話ではなく、広く隣県や国内外が共通の認識を持ち、モノづくりの改革を推し進めていく為の一歩となればと考えている。それにしても大きなテーマだ。

1990年のパリ万国博覧会で金賞を受賞した深川製磁の「大花瓶」や美術商の林忠正によって発注された高岡銅器の「菊花文飾壺」など、歴史を振り返ると世界に影響を与えてきた工芸品には、その中心的役割を担った人のロマンと意地を感じる。

» とやま国際工芸シンポジウム パネルディスカッション

2016年7月

ロッサーナ・オルランディーさんロッサーナ・オルランディーさん
イゼーオ湖の水面に貼られたイエローの上を歩く参加者イゼーオ湖の水面に貼られたイエローの上を歩く参加者
ひたすら自分で歩くしかない、この時間が様々な事を思い出させるひたすら自分で歩くしかない、この時間が様々な事を思い出させる

ミラノサローネの人気会場のひとつ、「スパツィオ・ロッサーナ・オルランディ」のオーナーである、ロッサーナ・オルランディーさんに、ミラノ滞在中にお会いした。彼女は「ところで、貴方は何を考えているの?」と、いきなり切り出した。

「サローネ時期には毎年6日間で2万8千人の人が訪れるわ。来年からは有料制にしようと思うの。一人1~2ユーロで…」「この費用を奨学金に充てて、若い世代の育成に活用したいと思っているの。ミラノ工科大学の学生10人にテーマを与えて、優秀作作品10点をここに展示して、来場者に投票してもらい、上位3人にこの奨学金(入場収入を3等分にして)を与えたい」

突然そんな構想を話し始めた、ロッサーナさん。その次代の人づくり手法・構想にちょっとぐらぐらきた。さらに、「貴方テーマを考えられない?」「わかりました。バカンス前でいいですか?」こんな会話を終え、ロッサーナさんと別れた。テーマをどう絞り提案できるのか少し頭が痛いが、この一瞬を共有できてよかった。

重い腰を上げて、ミラノの北東に位置するイゼーオ湖で開催(7/3まで)されていた、アーティストのクリストのインスタレーションを見に出かけた。6時出発、列車待ち、定期船待ちで11時前に現地に到着したが、しみじみ来てよかったと感じた。自然空間とのクリストの作品を媒介にして、体感する気持ち良さ、視界の変化、参加者が一緒に過ごす時間、何もかもが新鮮だった。夜の時間はさらに神秘的だと聞いたが、日中でも十分な経験だった。

オープニング時には、スポンサーのアドバルーンが上がったことにクリストがいたく激怒して取り外させたり、市長が自分の功績だとアピールしたことに怒って、その場から退席したりと大変だったようだが、芸術に体を張って向かうクリストの姿勢に共感する。当日、テレビ収録で船に乗って現れたクリストに多くの見学者は、万代の拍手を送り続けていた。

2016年6月

トリエンナーレ美術館エントランストリエンナーレ美術館エントランス
昨年のデザインコンペの審査員らと、TOYAMAキラリ、富山市ガラス美術館を視察昨年のデザインコンペの審査員らと、TOYAMAキラリ、富山市ガラス美術館を視察

最近のJDNを見ると、デザインコンペティションが増えたことに驚く。私が起案したのは1993年、当時富山県インダストリアルデザインセンターの企画部長として富山県に呼ばれ、周りを見渡したらデザイナーが数名しかいない状況だった。あれから足掛け24年、富山県はデザイン先進県と言われるまでになった。中でも力を入れているのは、3Dプリンターや計測器など最新鋭機の工作機器が揃うデザイン工房だ。こうした工房とモックアップ専門会社のウィン・ディー(日南系列)、400年産業を守ってきた富山の職人さんや知見者によって、より魅力的な製品開発が可能となった。

当時数名だけだったデザイナーは、「とやまデザインコンペティション」で知りあったデザイナー達により継続的に地場の企業と連携し、例えばタカタレムノスや能作、三協アルミ他は、一社辺り20名以上の外部建築家やデザイナーと日々コラボレーションを行っている。現在首都圏で活躍する多くのデザイナーと、富山が繋がっていると言っても過言ではないだろう。来年からは、これまでに開発してきた商品を6月1日から始まるインテリアライフスタイルへ出品し、バイヤーさん達の評価を得たいと考えている。よりダイナミックな展開に進んでいきたい。

コンペを活用した地場の製品開発のスキームは、既に完成の域に達している。後は地域間連携やコンペのコラボ、ブランドとのコラボなどの可能性があるかどうかだ。

この富山のデザイン活動の一端は、9月12日まで開催されている第21回ミラノトリエンナーレに出展し、トリエンナーレ美術館で多くの方々に触れて関心を持っていただいている。JDNの元編集長・浜野百合子さんの「伝統工芸を活かした欧州市場への挑戦、ミラノデザインウィークにおける岐阜・佐賀・富山、3県の取り組み」の記事を参照してほしい。

» 富山デザインコンペティション 2016

» 伝統工芸を活かした欧州市場への挑戦、ミラノデザインウィークにおける岐阜・佐賀・富山、3県の取り組み

2016年5月

アイシン精機、Milano Design Award「BEST ENGAGEMENT by IED賞」アイシン精機、Milano Design Award「BEST ENGAGEMENT by IED賞」
伝産協会「DENSAN Products2016 -THE BEST 60 -」会場風景伝産協会「DENSAN Products2016 -THE BEST 60 -」会場風景
台湾「CREATIVE EXPO TAIWAN 2016」日本館風景台湾「CREATIVE EXPO TAIWAN 2016」日本館風景

この一ヶ月は激務だった。重なる時は重なり、一ヶ月の間にミラノと台北で4本もの展示・展覧会のプロデュース&キュレーションを行った。この与えられたチャンスを生かすために神経を集中し、数ヶ月寝る時間も惜しんだ。結果は大変好評で、高い評価をいただくことができた。まだまだこの仕事を続けられそうだ(笑)。

その1つ目は、ミラサロ3年目となるアイシン精機「Imagine New Days」の総合プロデュース。成熟した時代に人々の関心や新たな機会を日常の光、風、音のなかで緩やかに表現したかった。そして、作る楽しみや触れる楽しみを、企業ブランディングと絡めて上手く表現するよう心がけた。結果、Milano Design Award「BEST ENGAGEMENT by IED賞」を受賞することができた。(本当は2011年のキャノンでの受賞以来、2回目のグランプリを狙っていたのだが次回に再度挑戦)

2つ目は、全国222箇所の伝統工芸を担う産地品のなかからキュレーションした「DENSAN Products2016 -THE BEST 60 -」。昨日集計がまとまった来場者アンケートを見ると、伝産品に対する理解や興味が増していることがわかる。昨年のEXPO以降、日本への関心が高まる欧州マーケット、日本の文化や習慣を含めてエデュケーションする機会として捉え、理解を深めていただき成果に結びつけていきたい。

3つ目は、台北で行われた「CREATIVE EXPO TAIWAN 2016」の日本館のプロデュース。会期は5日間と短かったものの、日本館は一番人気だったと主催者から聞かされた。日本の特色である多様な環境・風土・習慣・知恵を海外向けに再編集し、興味や理解を促す内容に構成した。4つ目のトリエンナーレは、先月号に記載したので省略したい。

連休に今年のミラノサローネ、ミラノデザインウィークを振り返りトレンド分析を始めた。昨年までは、日本のものづくりはアーキタイプ(原型)だと持て囃されていたが、果たしてこれからもそうなのかという疑問が湧き始めた。結論を提示するにはもう少し考察が必要だが、その一旦は昨日富山県総合デザインセンターの商品開発研究会でメンバーにお伝えした。世界で日々起こるテロや天災は、人の内面に突き刺さる。こうした極度の不安は、日々の生活の価値観さえも変えることになる。自由で縛られない、押しつけられない、もっと豊かなデザインが求められていくと考える。人々の生活を基軸にデザインも更に高度に進化しなくてはならない。

» IMAGINE NEW DAYS Milano Design Week 2016(会場風景動画)

» DENSAN Mialno Design Week 2016(会場風景動画)

2016年4月

JAPAN TOYAMA ブースJAPAN TOYAMA ブース
テアトロアルテでオープニングセレモニーが行われたテアトロアルテでオープニングセレモニーが行われた
おりんを叩くマリオ・ベリーニさんおりんを叩くマリオ・ベリーニさん

2005年以降、ミラサロ(正確にはミラノデザインウィーク)で日本企業をプロデュースしている。既に11年(回)が経過した。それ以前は編集者やトレンドウォッチャーとして1986年以降、20年間ミラサロを眺めてきたが、いつの間にか見ているだけでは物足らなくなった。

しかし、イタリア企業のモノの展示と真っ向勝負をしてもつまらない。そこで美術館の展覧会や舞台の様に、テーマを演出する手法を用いた。具体的には、インスタレーション(映像、音、インターラクション)である。ミッションである企業ブランドの可能性や世界観についても鮮明にプレゼンテーションして、記憶に焼きつくよう内容と質に全力を挙げてきた。歴史あるミラサロの中でも、新たな展開を作り上げた一人だと自負している。もう一つの力点は若手クリエイターの起用だ。「有能なクリエイターを発見するのが早い」と言われるが、日々リサーチ、この目で確認しているので間違いはない。今年もどんな評価が得られるのか楽しみである。

1923年にスタートし、今回で21回目となるミラノ・トリエンナーレが4月2日に開幕した。BIE(国際博覧会事務局)が認定する特別博である。2016年度のテーマは「21世紀Design after Design」、今世紀のデザインの可能性と期待をプレゼンテーションする内容で、9月12日までミラノおよび近郊の15箇所の文化施設で展示が行われている。4月1日のプレスデーに出席したが、会場に漲る熱気は「デザインの都市ミラノ」の復活を予感させるものだった。昨年のEXPOの成功で自信を取り戻したのかもしれない。

私はトリエンナーレ美術館で富山県の展示をキュレーションした。コンセプトは「音の波紋」で、物欲的な時代からモノとの関係性や精神性が今世紀のデザインだと思っている。おりんと風鈴を使ったインスタレーションを軸に、TOYAMAデザインを紹介している。期間中覗いていただければ幸いだ。先日のオープニングの際には、お越しいただいたマリオ・ベリーニさんが無邪気にガンガンおりんを叩く姿が印象的だった。

» アイシン精機
(4月12日 AISIN Party 18:00~21:00)

» 伝統工芸ミラノスクエア
(4月13日 DENSAN Party 18:00~20:00)

» ミラノ・トリエンナーレ

2016年3月

2005年 LEXUS(写真左から)石上純也、アレッサンドロ・メンディーニ、妹島和世、アンドレア・ブランジ、ニコレッタ・モロッジィ2005年 LEXUS(写真左から)石上純也、アレッサンドロ・メンディーニ、妹島和世、アンドレア・ブランジ、ニコレッタ・モロッジィ

4月12日から「第55回ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)が始まるが、どうしても使い慣れた「ミラサロ」が口に出てしまう。それというのも通い始めて31回目、55年の歴史の半数以上を見てきたことになるからだ。このミラノの家具フェアを通して、デザイン、ブランドの推移を定点観測してきたから僕は「ミラサロ」と呼びたい。

2005年からLEXUS、CANON、AISINほかのプロデュースやコーディネートを手がけ始めた。この間エリータデザインアワードも受賞。私なりの演出表現で話題を創り上げてきた。デザインを単なるモノ展示から脱して、背景を含めた多重な表現で可能性を示したかったからだ。同時に日本人の若手建築家やデザイナー、アーティストも積極的に起用してきた。一種の賭けではあったが、その後の活躍を目にすると嬉しい気持ちになる。今年の展開は、来月のこのページでお伝えしたい。

世界の展示会には時間が許す限り足を運ぶようにしているが、未だミラサロに代わる機会には遭遇していない。若手~巨匠、新参ブランド~プレミアムブランドまで、オールクリエイターが参加できる機会はミラサロだけだ。結果はともあれ、ここでの評価はその後の活動の糧となる。混迷するデザイン界だがインハウスを抱える日本企業と、デザイナーは積極的に参加して欲しい。内なる評価より外からの客観的な評価が重要と考えている。

http://www.salonemilano.it/en/

http://www.21triennale.org/en/

  • 2012年 CANON「NEOREAL」(写真右から)八木奈央、カツイホクト、中村竜治、志村信裕2012年 CANON「NEOREAL」(写真右から)八木奈央、カツイホクト、中村竜治、志村信裕
  • 2013年 LEXUS 平田晃久、外木裕子2013年 LEXUS 平田晃久、外木裕子
  • 2015年 AISIN(写真左)クワクボリョウタ2015年 AISIN(写真左)クワクボリョウタ

2016年2月

華山の中にある、ハイセンスなカフェとショップ華山の中にある、ハイセンスなカフェとショップ

台湾デザインセンターの執行長、陳さんからの招聘で年初早々に台北へ出張した。昨年11月にファーストコンタクトを受けた案件は、この4月に台北で開催される「CREATIVE EXPO TAIWAN」のJAPANブースのキュレーション依頼だった。年末に慌てて企画概要を練り上げて持参。イベントのプロデューサーほか関係者と合同会議、会場となる華山も視察した。

わずか27時間の滞在だったが、デザイン誌「DESIGN」、建築・インテリア誌「la vie」の取材も受けた。この編集者の真摯に聞こうとする姿勢に感動した。二誌共にエディトリアルデザインは美しく、時間とお金をかけていることが数枚ページを捲っただけでわかった。発行部数も日本の類似誌の倍以上と多く、デザインに関心を持つ層が多いと聞かされた。

そして、何よりビックリしたのは台湾デザインセンターの規模である。広大な敷地と総勢130名のスタッフを抱える勢力だ。文化面と経済面が実に計画的に遂行されている。この規模と役割を担える機関は、日本には存在しない。台湾の本気度を十分に感じた。私たちが忘れかけている学びの精神と上質を求める熱い人たちとお会いして、私の体内にアドレナリンが充満。やるしかない。

» CREATIVE EXPO TAIWAN

  • 台北駅近くの華山の全景、日本統治時代のビール工場の跡地台北駅近くの華山の全景、日本統治時代のビール工場の跡地
  • 台湾デザインセンター、ライブラリーの柱に要請されてサイン台湾デザインセンター、ライブラリーの柱に要請されてサイン
  • 台湾といえば小籠包台湾といえば小籠包

2016年1月

トリエンナーレ アンドレア・カンチェラート氏と建設中の現地を視察トリエンナーレ アンドレア・カンチェラート氏と建設中の現地を視察
新富山県立近代美術館(仮称)のメインエントランスと外観パース新富山県立近代美術館(仮称)のメインエントランスと外観パース
立山連峰を望む外観パース立山連峰を望む外観パース

JDNでデザイナーの紹介を始めて、今回がちょうど200人となった。期間にして17年間。登場いただいた方々は、産業界の一翼を担い多方面で活躍されている。JDNを通じて、デザインおよびデザイナーをより多くの方に知っていただく機会を持つことができ大変嬉しい。

30年前デザイン誌の編集者だった頃、国内外の著名なデザイナーに登場いただき、そのデザインや哲学、トレンドなどを紹介したが思うほど販売部数は伸びず、業界誌から脱皮できなかった。そうした経験から業界、デザイン村から脱却して、市民権を得るような行動を自分の目標とした。

そのため、業界の既存の形態とは一線を画し、独自の手法でデザイン展やデザインイベント、デザインライブラリーなど必要と思われることはすべてやってきた。また、その活動を広く知らしめるためにはメディアは重要だと考えた。そんな折、JDNの立ち上げの話を知り、デザイナー紹介の枠を持たせていただいた。多くの方にアクセスしていただいている様だ。

デザインは言うまでもなく、カタチのデザインからコトのデザインへ移行している。大量生産のシステムに組み込まれてしまったデザインを開放し、人間中心の手工芸芸術に復活させることを主眼としたバウハウスを再び研究している。それというのも現代デザインを再構築しなくてはならない時期に遭遇しているからだ。あと数年でバウハウス誕生から100年。

今年は、2017年秋誕生予定の新富山県立近代美術館(仮称)の立ち上げに汗をかかなくてはならない。ありがたいことに、石井隆一富山県知事はデザインをその柱にしたいと議会で表明している。富山県が生んだ瀧口修造は、シュルレアリスムを紹介した人として知られている。現代的に言えばイノベーティブ、様式を否定したアーティストの活動に次代の息吹を感じ取っていたのだろう。新しい美術館は、この瀧口思想が原点になくてはならないと思っている。その上でアートやデザインに共通した、新しいことに向かうエネルギーと無限の可能性を提示する場の必要性を感じている。