桐山登士樹が選ぶ 注目のデザイナー

COLUMN 樹幹通信 桐山氏の近況やデザインの話題をお届けします

2012年12月

伊東豊雄さんと談笑する平田晃久さん伊東豊雄さんと談笑する平田晃久さん

11月18日に陸前高田市を初めて訪れた。あの時、テレビに映っていた病院や市役所の無惨な姿を見て、改めて自然災害の凄さを知った。そんなセンチメンタルな気分を吹き消したのは、「みんなの家」の竣工式を祝う為に集まった人達だった。伊東豊雄さんを筆頭に建築家の乾久美子さん、藤本壮介さん、平田晃久さん、写真家の畠山直哉さん、支援に協力している中田英寿さんほかボランティアの面々を囲み一つの輪が出来た。もちろん「ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」金獅子賞に輝いた事は大きい。しかし、それ以上に陸前高田には連帯感があった。寒さに震える人達にサービスしてくれた地元の人達の素朴な人情、包容力には頭が下がった。一人一人傷を追いながら他人に優しい、しかし心に復興を刻み、執念を燃やす強さも感じた。数日後「みんなの家」メンバーの一人、平田晃久さんが釜石市天神町に建設を予定する災害復興公営住宅コンペで見事選ばれた。一つ一つ歯車がかみ合って行く。新しい未来の為に。

2012年11月

建築家の式地香織さん建築家の式地香織さん

今年のTDW、DTTは晴天に恵まれ、展示内容には前進が見られた。特に日本のデザインが不透明になっている中で、デザイン界の層の厚さを示す機会となったと思う。30~40代の建築家・デザイナーには活躍している人、これから楽しみな人が層をなしている。世界でもトップクラスの人材を有しているといえよう。
こうした中でプロ展に参加していた式地香織さんと会場でお会いした。出展のきっかけは、JDNのこのページを見たという事務局の方からの連絡だという。コンセプト、デザイン、試作のプロセスを丹念に検証して創られた「KIDS NEST」は、丁寧な観察眼から具現化されたデザイン。後は実際の市場でどのように評価されるのかが楽しみだ。
私の関係する所では、高岡銅器のKANAYAの発表会を行った。地域ブランドを確実に育て、JAPANBRANDの成功例といわれる様に心血を注いでいる。また、ミッドタウンの野外ステージでは武蔵野美術大学の長澤教授とトークを行った。毎年多くのデザイナーの卵が排出されてくるが、この人材をもっと国際的に活用できるスキームづくりに、国として、大学として、早急に取りかからねばならないと力説した。

2012年10月

図工女子、高岡伝統青年会等のプロデュースを手がける羽田純さん図工女子、高岡伝統青年会等のプロデュースを手がける羽田純さん

軽薄短小の代表的存在のウォークマン(1979年初代発売)を筆頭にCD、MD、コンパクトカメラから一眼レフ、薄型ノートパソコン、プロフィールプロからアクオス亀山モデル、カローラ、シビックからプリウスまで高品質で経済的なモノづくりを特長とした日本製品は、30年に渡り世界の頂点にいた。世界を牽引する企業が5社も6、7社も一業種にいる極めて強力なフォーメンションだった。
ところがこの数年の間に海外生産へ拠点が移り、技術・デザインも流通する時代が到来し、気がつくと日本企業の存在は急速にダウンしてしまった。横一線の団子レースに終始し、物事を俯瞰で捉える戦略的な視点を欠いてしまった。また、現行品から発せられる「インダストリーの匂い」は、極めて表層的で危険な様相を孕んでいる。消費者の欲求が別の軸にシフトしているにも関わらず、これまでと同様のモノづくりに終始している。

話は変わるが、先日富山県高岡で文芸ギャラリーのキュレーターを行っている羽田純さんとトークセミナーを行った。彼の活動は日常的に形骸化されたモノ・コトを再編集する手法を用いている。しかし、その潜在的なリソース(強さ)を新たなスキームや表現、テイスト、価値に置き換えることが可能となる。iPhoneがデザイン性に加えて、アプリで魅力を倍増させている様に、日本企業はかつての様に革新的なモノづくりにより、名は体で表す様な魅力倍増に取り組まなくてはならない。時間はそんなに残されていない。

2012年9月

S&O DESIGN にて、清水久和、岡田栄造の両氏S&O DESIGN にて、清水久和、岡田栄造の両氏

デザイン界はかつてない変革期に差し掛かっている。7月にデザイン事務所S&O DESIGNを立ち上げた清水久和さんは、これまでのインダストリアルの流れとは一線を画した「インダストリアルデザインの進化」を標榜している。同時に、この数年プライベート活動として行っていたアプローチは、アート&デザインの領域である。かつて実践していた数百万台のデザインから顔の見えるデザインへ、新たなスキームづくりに出航した。一方、デザイン&エンジニアリングの世界では、さまざまなトライアルが日々されている。AR(Augmented Reality)やインタラクションなど、機会を増幅することによって新たな価値や意味にトライアルしている。AR三兄弟、takramや、最近お会いしたRCAで研究中の吉本英樹さんなど、ローテク、ハイテクを問わず自ら脚本・設計デザイン・製作まで行う人種が現れている。この分野は、これまでの意識、形態を越え五感、六感の世界に踏み込んでいる。
無理矢理共通点を探すならば、楽しさ、没入感の体験・体感を通じて得られる共感コミュニティーということになるだろうか。いずれにせよ、いまトライアルされていることはマス的発想ではなく、極めてオタク、マニアックなR&Dの視野視点で起こっていることである。しかし、ソーシャルメディアが成熟した現在では、簡単に情報発信し顕在化、共有化できる環境が整っている。また、TEDの様なグローバルステージも用意されている。バウハウスの誕生からうしろ7年で100年、時代は次のムーブメントを暖め始めている。

2012年8月

「NEOREAL 2010」参加クリエーターとの夕食会「NEOREAL 2010」参加クリエーターとの夕食会

キヤノン総合デザインセンター所長を4月末に退任された酒井正明さんは、マネージメント能力に卓越した責任者だった。日本橋に生まれの生粋の江戸っ子、決断力の早いリーダーだった。そして、厳しさと同時に細やかさも持ち合わせていた。

これまで幾つかのお仕事をさせていただいたが印象に残るものは、社内チームと競合コンペで最終的にはジェームス・アーヴィンに依頼し製品化した、欧州向けファックスのデザインプロジェクトやマークニューソン、マタリー・クラッセ、ジャスパー・モリソンに依頼したAPSカメラのデザインプロジェクトである。このデザインは、直後のデジタル化の流れで残念ながら中止となった。しかし、何と言ってもこの5年間濃いお付き合いをさせていただいたのは「NEOREAL」である。

私が企画を持ち込んだのは07年9月下旬だった。その数日後には内田恒二社長(12年3月退任)に直談されてオッケーが出た。このスピード対応には正直驚いた。酒井さんは「いいものはいい」「やるべきことはやる」「どんないい提案でも具現化できなかったらゼロだ」等など、短いコメントの中にずっしりと重い想いを込め方だった。それだけにこちらも曖昧な対応は出来なかった。

事実、「NEOREAL」会期前にはその重圧で数キロ体重が減っていた。この5年間の間には数回、内田社長に直接プレゼンテーションできる機会を設けていただいた。外部の人間が経営者に直接伝えることの出来る最高の機会であった。また「NEOREAL」の帰国報告会兼慰労会を開催していただき、社長の慰労の言葉に参加メンバー一同感動した。様々な刺激とやる気を起こさせていただいた酒井正明さんは一流のリーダーであった。人が人をつくる、そんな経験が刻まれた密度の濃かった5年間に改めて感謝したい。今は手みやげを片手に事務所に遊びに来ていただく、酒井さんをスタッフ一同大歓迎している。

2012年7月

無錫のダウンタウン無錫のダウンタウン

先頃出張した中国、無錫市(人口630万人)の視察はデザインの現状を知る上でおおいに刺激的な機会であった。早くから日本企業も進出し友好的な地域である。しかし、GDPのアップとともに人件費も上がり、これまでの製造業の街から高度な産業都市へ脱皮しなくてはならない課題に直面している。そして、官主導のもとに新たな価値創造の街へグランドデザインが進行中である。特に重点課題として、文化創造産業、ソフト産業、ハイレベル産業の創出が検討されている。滞在期間中、錫山経済開発区、南長経済開発区、外事弁公室の 責任者と会見し説明いただいたが、一番驚いたのは巨大なジオラマだった。そこには、国際空港、高速道路、新幹線、港、地下鉄などの交通インフラはもとよりオフィスビル、高層住宅など街を大きく三分割した近代都市が描かれていた。既にその多くは開発されたものや現在工事が進行中のものであり、その開発規模の大きさに驚嘆した。

さて、これらの取り組みから理想郷となるモデルができるのであろうか。日本のデザイン界がこの街づくりに関与できるのだろうか。とても一人で企画できる規模ではない。客観的に分析のもとにデザインセンター、デザインの大学院大学の設立に向けたプランを作成してみたい。

滞在中一番心落ち着けたのは、ダウンタウンにある南禅寺界隈の夜景と若者が音楽に陶酔するカフェやクラブ街を覗けた点と精華大学美術学院、南京芸術学院、江南大学設計学院、同済大学設計創意学院、上海芸術設計学院の教授達と交流が持てた点である。

2012年6月

フィンランドのログハウスメーカー「HONKA」の東京本社移転と都市型ログホームの発表会の様子フィンランドのログハウスメーカー「HONKA」の東京本社移転と都市型ログホームの発表会の様子

ミラノサローネが終わり、直ぐにゴールデンウィークとON-OFFの切り替えが難しい5月であったが、幸いにも充実した機会に恵まれた。先ずは、フィンランドのログハウスメーカー「HONKA」の東京本社移転と都市型ログホームの発表会のお仕事をいただいた。このログホームのデザインはフィンランドを代表するデザイナー、ハリー・コスキネン氏(左写真中央)。この会で彼のロングライフデザインの考えを知る機会となった。

5月の中旬には、キヤノンの総合デザインセンター所長を4月末で退任した酒井正明氏ほか、数名の知人から上海・紹興の旅に誘われた。酒井氏の親しい現地大学教授のフルアテンドにより、普段知ることの出来ない中国マーケットの推移や可能性を知る機会となった。工程は3泊4日の旅であったが、行く先々で見るもの、知ること、交わること、食べること、泊まること、すべてが充実した時間であった。

さてさてNEOREALに費やして来た時間が空き、次に向けこのエネルギーを転換しなくてはならない。デザインは経営によって左右される、そしてマーケットやエンジニアリングに感性を加えた新たなスキームが必要とされる。そんな大きな転換期に差し掛かっている。

【お知らせ】
第19回目富山プロダクトデザインコンペティションの作品募集中です。現在活躍している多くのデザイナーがトライアルして来た登竜門、昨年の優秀賞も9月発売に向けて準備中です。
http://dw.toyamadesign.jp/compe01.html
6月30日11時~21時まで丸ビル丸キューブにて、エステー・デザインアワード2012の発表・作品展示会を開催致します。14時30分からは審査委員をお願いした建築家の鈴野浩一さん、デザイナーの佐野研二郎さんのデザイントークがあります。申し込みに関する詳細は、下記サイトをご覧ください(先着申し込み制)。
http://design-award.st-c.co.jp/news.html

2012年5月

蓮池槇郎邸のリビングで蓮池槇郎邸のリビングで

ミラノサローネが無事に終わり安堵している。昨年誕生した「エリータデザインアワード」の初グランプリをCanon NEOREAL WONDERが受賞し、メンバー一同大いに盛り上がったが、今年はミラノ大学のキャンパスで「Photosynthesis - 光合成」を展示コンセプトとしたパナソニックが受賞した。二年連続日本企業が受賞し、サローネに新たな流れを作り出している。

今年のサローネは設営前から雨と寒さの悪天候に見舞われ過酷年であったが、各社の展示から今後のトレンドを予知する上で大変興味深いものであった。詳しくは、分析作業を終えた後JDNで報告したいと考えている。気になった点は次の通りである。

成熟した国際社会は過酷なまでも新たなスキームを求め始めている。価格や質の二極化はますます明確化されてくる。環境をテーマとした製品が顕在化してくる。デザインとデザイナーを話題としてきたサローネ時代は終わる(弱まる)。新たな価値創造をビジネス化するコラボレーション時代(特にファッションブランドの仕掛ける)に突入する。

さらに来年は日本企業がたくさん参加しそうな気配が伺える。この国際舞台は、更なる時代のイメージングを求め始めているだけに斬新なコンセプトが勝負となる。私も気を引き締めて新たなコンセプトメイキングに思考を集中させたい。同時に近隣諸国のアウトバンド、インバンドの動きも見逃せない。

今年も最終日に蓮池槇郎さんからホームパーティにご招待いただいた。NEOREALの企画、制作、運営の緊張感で疲弊していたが、蓮池 さんの時代を捉える眼力が刺激となり新たなエネルギーチャージができた4時間だった。

【お知らせ】
デザイナーの登竜門。第19回富山プロダクトデザインコンペティションの募集を開始しました。
http://compe.japandesign.ne.jp/dw_toyamadesign/2012/

2012年4月

IN THE FOREST では映像の森を体感下さい。(Photo大木大輔)IN THE FOREST では映像の森を体感下さい。(Photo大木大輔)

振り返ってみると建築家、デザイナーと沢山の仕事をしてきた。また、けっこう多くの仕事を紹介してきた。先日、nendoの伊藤さんから「NECの携帯電話のお仕事を桐山さんに頂いて、レクサスのお仕事を頂いて、nendoも10年目でようやくデザイナーとしてスタートラインに立てたと思っています。」と丁重なメールをいただき嬉しかった。現在、帰国中の根津さんからは、JDNに紹介されて以降HPのアクセス件数が増えたと喜んでいただいた。何れにしても若いデザイナーが羽ばたいて行くのは嬉しい。

この国のポテンシャルは、「クール・ジャパン」などと言わなくても非常に高い。しかしコミュニケーションに関しては、残念ながら後進国である。そのコミュニケーションの機会として、ミラノサローネを捉えてきた(1986年から毎年も通っているとミラノデザインウィークなんて言われてもピーンと来ない)。2005年からはレクサスのプロデュースを行い、その後アドバイザーとして関わり、現在はキヤノンのプロデュースを5年担当している。この8年間で、独自に創り上げた企業コミュニケーションの手法は確立したと思っている。今回は更に高い目標を設定し「NEO REAL IN THE FOREST」を起案した。例えば、池に投げた小石が波紋を広げる様にデザインの大きな波紋(波及)を狙っている。詳細は、4月17日に現地より速報にてお届け致します。

http://www.youtube.com/watch?v=2_M1S6UHaXE

2012年3月

ミラノサローネに向けて、「NEOREAL IN THE FOREST」の実験検証作業が続いています。この作業は、今回参画いただいた中村竜治ミントデザインズ志村信裕森ひかるの4組5名のほか、クリエーターのアシスタント、クリエーターを支える映像や制作のエンジニアリング集団、キヤノンのデザインセンターから広報セクションまで総勢30名以上で構成されています。特に作品に関しては、それぞれのスタンス(生命線)を背負っているので日々熱い現場です。それだけ互いが、より良質で、より高度で、これまでにないオリジナリティを求めている証でもあります。こうしたチームをまとめ、牽引し実証するのが私の仕事です。日々進化して行くプロセスは、様々なことを教えてくれます。そして、目的を共有化する同士の絆を感じます。私たちが熱くなり、目的を達成する事は、日本の力を国外に示す事に繋がります。そして年代、国境、人種を超えて感動を発信することが可能となります。力が抜けない持続力を問われるプロジェクトです。

2012年2月

nendoのパリでの展示会場内(3/17迄)“object dependencies” for Specimen Editions @ Pierre-Alain Challier Gallerynendoのパリでの展示会場内(3/17迄)
“object dependencies” for Specimen Editions @ Pierre-Alain Challier Gallery

パリで9月と1月に開催されるメゾン・エ・オブジェの注目度がアップしている。会場スペースもこの2年間でホール7が新設され、ホール8も拡張された。展示会ビジネスが確立している欧州諸国では、各都市がしのぎを削り勢力争いを展開している。展示会のポテンシャルが高ければ高いほど出展者は増加し、海外からの渡航者も増え、そして市内の観光施設や商業施設に経済効果を生む。新たなインカムが見込めない現状では、渡航者が落とすお金は大きい。

ビジネスレベルでは、相変わらず個人消費は低迷している。しかし、根強く牽引しているのはコントラクト市場である。新設や改装の物件に併せた高品位なモノを求める動きは失速していない。単に海外販路開拓市場のかけ声ではなく、グローバルマーケットの動向を深く読み戦略を立てなくてはならない。KANAYAは初出展にも関わらず、欧州の一流ブランドからオファーを頂いた。これはメンバー一同大きな自信となった。

いよいよミラノサローネの準備終盤に差し掛かっている。キヤノンNEOREALの4年間を越える新たなデジタルイメージングの世界を求め、日々制作に打ち込んでいる。3月決算時の業績低迷のニュースが流れ著しく日本企業の評価が下がっている中で、日本企業健在なりを強く示したい。

2012年1月

2012年はどんな年になるのであろうか、どんな年にしなくてはならないのか、ただ平坦な年ではなさそうだ。

年初の日本経済新聞に米テスラ創業者イーロン・マスク氏の記事「革命なき会社に未来はない」が掲載された。2012年は、これまでの既存概念に捉われない新たな創造社会に突入した事は確かである。クリエーションを日常の仕事にしているのはデザイナーだ。このデザイナー達の新たな活動の場=スキームづくりが必要とされている。

このコーナーも足掛け13年目。これまで紹介したデザイナー、建築家、アーティストは150名に上ります。そろそろ古くなったデータを更新しなくてはなりません。クリエーターの皆さんよろしくお願い致します。

第二回目となるエステー・デザインアワード2012は、審査委員に佐野研二郎さん、鈴野浩一さんをお迎えして斬新なアイデアを求めています。

1月20日から開催されるメゾン・エ・オブジェにこれまで以上に日本の各地の企業が参画されます。私がプロデュースを担う「KANAYA」も世界のマーケットへ向けて出航します。