リクルートデザインマネジメントユニットが提起する、ビジネスを動かすデザインの力(2)

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リクルートデザインマネジメントユニットが提起する、ビジネスを動かすデザインの力(2)

デザインでビジネスを動かし、価値を生み出す

──一般的なデザイン部署とデザインマネジメントユニットの違いは、どんなところにあるのでしょうか。

磯貝:部の名称をただの「デザイン部」ではなく「デザインマネジメント部」としたことには、大きな理由があります。僕が前職でクライアントワークをやっていたときは、クライアントに何か提案しても、「それはもう決まっているので動かせません」とよく言われ、上流から絡んで事業運営にコミットする必要性を痛感しました。また、事業会社の中でも「デザイン部」と聞くと、「社内でつくってくれる人たちね」みたいな感じで、実質的な上下構造ができてしまう……。それがイヤで、「デザインマネジメント部」という呼称にしました。

デザインマネジメントユニットでは「動かすデザイン」というフィロソフィーを掲げています。つくることはすごく大切ですが、それだけではなく、デザインという能力を活かしてビジネスを動かし、価値を生み出していく。その思いが、「動かす」という言葉に込められているんです。

デザインマネジメントユニットが掲げる、デザインフィロソフィーのイメージ図。

──なるほど。たしかに組織の名称はすごく重要ですよね。では、デザインマネジメントユニットで実際にリリースされたプロダクトには、どのようなものがありますか?

磯貝:自分たちでプロダクトを動かした例でいうと、たとえば「ホットペッパービューティー」がそのひとつです。ホットペッパービューティーは、ヘア・ネイル・アイ・リラクゼーション・エステサロンが検索・予約できる国内最大級の総合美容メディアですが、2007年にスタートして以来、長年できていなかったデザイン品質改善に取り組むことになりました。

具体的には「Webアクセシビリティを向上させたデザインガイドラインの策定」と「アプリのデザイン改修」の2つが大きな取り組みとなりましたが、現場の課題感を可視化するため、さまざまなステークホルダーの声を聞いて問題を整理し、「こういう方針で改善することで、ユーザビリティーがこんなふうにあがりますよ」とストーリーを立て、合意形成したうえでデザインを改善していきました。

2019年に行ったという、ホットペッパービューティーのデザイン品質基準の策定図。

サイト内で使用するカラーやタイプスケールなどを丁寧に設定したデザインガイドラインと、サイトの新デザインイメージ。

磯貝:デザイナーは言って終わりではなく、目的を設定した上で継続的に改善していく姿勢が必要だと思っています。だから事業側のことも理解して、KPI(Key Performance Indicator)とバランスをとったうえで「なぜ」の部分をわかりやすく「翻訳」して事業を動かす。そういう仕事を、ほかのさまざまなリクルートのプロダクトでも実践しています。

──プロダクト改善のタイミングは、どこが起点となるのでしょうか。

磯貝:デジタルプロダクトは、日々ユーザーが利用しているものなので、ある日突然大きくリニューアルすると、それまで使い慣れていたものが、使いにくくなってしまう可能性があります。リクルートでも昔、あるプロダクトをガラッと大きく変えたらユーザーが離れてしまい、すぐ元に戻したことがあったそうです。

そうした失敗を経た今は、デジタルプロダクトでは普段から小さな改善をちょっとずつ繰り返し、デザインのアンチエイジングを積み重ねています。気づかないレベルではあるけれど、「そういえば、前より使いやすくなったな」と思ってもらえるようなスムーズな移行が、デジタルプロダクトの改善の仕方として、一番ふさわしいのではないかと思っています。

──デザインマネジメントにあたり、UI/UXが会社にもたらす利益を、デザイン系ではない方にどのように伝えて理解を得ているのでしょうか?

磯貝:そこはいつも難しく、壁にぶちあたってばかりいます。特に成熟領域と呼ばれる大きな領域では、すでに事業計画が明確にあるので、介入することが難しく苦戦します。そこで、デザインの価値を指標化したり、ロジックに転換する試みを、日々がんばっているところです。新規事業の場合は企画段階から関わり、プロトタイプをつくっては検証することを繰り返して事業の立ち上げをサポートしますし、より事業を大きくしていく成長フェーズであれば、多様なユーザーに対応できるUIや情報設計を提案したりします。

そうして、求められる時々のフェーズに適応しながら、目標達成に向けて伴走し、「デザインでこんなこともできるんだ」という価値を認識してもらえるようにしています。そうした努力を積み重ねていくことで、最終的にはデザインという概念が当たり前に事業の中に溶け込んでいく状況をつくっていけたらと思っています。

──デザインマネジメントを実践されているおふたりの視点から、今後ビジネスにおけるデザインの位置付けはどのように変化していくと思いますか?

丸山:昔は、特にソフトウェアの場合、プランナーやプロダクトマネージャーがコンテンツを考えて、それをデザイナーにお願いするという流れがありました。でも今は、何か事業をはじめるときに、デザイナーが最初から主体者として加わるケースが僕の肌感でも増えている印象があります。実際、大手電機メーカーでもデザインセンターを設立してデザイン思考を取り入れた経営を強化していますし、2021年に発足したデジタル庁にはCDO(Chief Design Officer)という役職が設けられている。企業や行政におけるデザインの必要性は、これからも増していくと思います。

丸山潤

磯貝:僕もそう思います。デザイナーの能力って、上流から関わってこそ発揮されるものだと思うんですよ。そういう意味では、デザイン系のバックグラウンドを持った方が、ちゃんとそのレイヤーにいることがすごく大事です。理解のある決裁者と、意思決定できるポジションにいる専門家という合わせ技が重要なんじゃないかと思います。

そういう意味では、過去に亀倉雄策さんが社外取締役として在籍していたリクルートは、すでにスタート地点からゴールにいたようなものなんです。なので、リバイブして当時の状況を取り戻すことを目標に、ビジネスの中でデザインの価値を生み出すことを、いろんな領域で実践していけたらと思っています。

国内外の最前線の知見が集まる「UI UX camp!」

──来る3月26日には、ニジボックス主催のデザインカンファレンス「UI UX camp!」が開催されます。丸山さんはこれまでにも、UXをテーマにしたイベントを運営されてきたそうですね。

丸山:2015年から「UX Sketch」という、UXと事業開発について考えるイベントの運営を行ってきました。ただ、次第に「UXさえやっていればビジネスがうまくいく、というわけではないのでは?」と疑問を持つようになったんですね。そこで3年前からはより視野を広げ、「BUSINESS & CREATIVE」というタイトルで、ビジネスシーンにおけるUI/UXのアプローチを紹介するイベントを定期的に開催しています。

BUSINESS & CREATIVE ロゴ

丸山:オーディエンスとしては、実際に手を動かしているUI/UXの専門家やデザイナーだけではなく、デザインを経営に取り入れたいと考えている経営陣やプロダクトマネージャーなどにも参加していただき、ビジネスとクリエイティブの架け橋となる知見を共有できる場にしたいなと思っています。

──「BUSINESS & CREATIVE」から派生した「UI UX camp!」は、かなり大規模なデザインカンファレンスになるそうですね。

丸山:はい。ここ数年、「デザイン経営」「デザイン思考」という言葉が広がってきたように、企業においてデザインが大きな役割を占めるようになってきました。そこで今回は、外資系企業や行政、研究機関など、さまざまな分野で活躍するエキスパートの方々に、最新の取り組みについてお話いただきます。

──おふたりもイベントに登壇されますが、どういったお話をされるのでしょうか。

丸山:僕は主催者側ではありますが、UI/UXの最新動向や、「web3.0」の時代が来るといわれ、世の中が大きくデジタル化へシフトしていくなかで、こんなところにもデザインの領域が広がるんじゃないか、という話をしたいなと思っています。

磯貝:僕は、長くデザインマネジメントを実践してこられたアートディレクター/デザイナーの田子學さんと対談させていただきます。デザインマネジメントの最新事例を共有しつつ、今後さらに活用させていくにあたり、デザイン職でどういうキャリアを志向していったらいいのか、といったお話ができればと思っています。

──「UI UX camp!」を通して得られる学びとは、どういうものになりそうですか。

丸山:デザイン思考が広がりを見せる一方で、課題もあります。僕自身がコンサルをしていて思うことは、経営陣がデザインの必要性を理解していても、実際にどうすればいいのかわからなかったり、どうビジネスに繋げるか言語化できないということが多い。そこに関しては、まだ日本は発展途上なんですよね。

そこで、本イベントではGoogleやIBMなど外資系企業の方にも登壇いただき、UI/UXの理解と活用が進んでいる海外の状況などについてもお話いただきます。先端企業のUXリサーチの活用事例を知っているだけでも上司を説得する材料になりますし、そうした方法論やノウハウを僕ら自身も学ぶことで、日本も少しずつ課題を解消していけると思っています。

また今回は、先ほど話に出たデジタル庁CDOの浅沼尚さんや、オンラインゲームの「フォートナイト」の制作にも携わったUXディレクターのセリア・ホデントさんなどにも登壇していただきます。いつもイベントで登壇者の方々とお話していると、UI/UXやデザイン業界のみなさんが、いろんなアプローチでトライされていることを、すごく実感します。今回の「UI UX camp!」はそうした国内外の最前線の知見が集まる、刺激的で濃厚な8時間になると思います。

■UI UX camp!
https://nijibox.jp/cp/uiuxcamp
日時:2022年3月26日(土)10:30~18:30
参加費:無料
参加方法:上記サイトより申し込み ※3月25日(金)12:00申込締切

■リクルート プロダクトデザイン室 中途採用サイト
https://www.recruit-productdesign.jp/

文:矢部智子 写真:中川良輔 取材・編集:石田織座(JDN)