リクルートデザインマネジメントユニットが提起する、ビジネスを動かすデザインの力(1)

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リクルートデザインマネジメントユニットが提起する、ビジネスを動かすデザインの力(1)

「リクナビ」「SUUMO」「ゼクシィ」「ホットペッパー」「じゃらん」「Airペイ」など、生活のあらゆる領域にわたるサービスを数多く手がける株式会社リクルート。2019年には、グループ全体のデザインを統括する組織として「デザインマネジメントユニット デザインマネジメント部」が設立された。デジタル化が進む社会で求められるデザイン組織のあり方とは?そして、3月に開催される大型カンファレンス「UI UX Camp!」が示すデザイン思考の最前線とは──。

組織の立ち上げを起案したデザインマネジメントユニット部長の磯貝直紀さんと、リクルートグループのWeb制作会社であるニジボックスの執行役員で、「UI UX Camp!」を企画運営する丸山潤さんにお話をうかがった。

亀倉雄策氏が社外取締役として在籍、デザイン経営の先駆け

──はじめに、お二人の経歴からうかがえますか。

磯貝直紀さん(以下、磯貝):僕は、学生時代は建築を専攻していましたが、独学でグラフィックデザインを勉強し、大学院ではプロダクトデザインやUI、UXなどを学びました。そんなバックグラウンドがあったので就職してからも領域をあまり限定せず、いろんなデザインに関わってきました。

ただ、前職ではクライアントワークがメインだったので、もっと上流から絡んだ仕事をしたいと思っていたんです。それで、2015年に事業会社であるリクルートに転職し、さまざまなサービスのデザインや改善業務に携わり、2019年にデザインマネジメントユニット デザインマネジメント部(以下、デザインマネジメントユニット)を立ち上げて今にいたります。

磯貝直紀 株式会社リクルートプロダクトデザイン室 デザインマネジメントユニット デザインマネジメント部部長 兼 株式会社ニジボックスクリエイティブ室

丸山潤さん(以下、丸山):僕はWebデザイナーやフロントエンドエンジニアといったキャリアを経て、2011年にリクルートに転職しました。当時、リクルートにはMedia Technology Lab.という新規事業の開発機関があり、その組織から分社化したニジボックスに出向という形で働くようになりました。

その後、ニジボックスのクリエイティブ室室長や、Media Technology Lab.でUXチームのマネージャーを務め、現在のニジボックスの柱となる、UI/UXを軸としたコンサルティング事業を立ち上げました。2017年からはニジボックスを主務とし、今は執行役員として事業開発から組織運営まで全体を見ています。また、デザインマネジメントユニットにも所属しています。

──お二人が所属する、デザインマネジメントユニットの業務内容について教えてください。

磯貝:デザインマネジメントユニットでは「デザインディレクター」として所属するメンバーが、リクルートのデジタルプロダクトのUXの設計、UIデザインやディレクション、またデザインシステムの構築、デザイン戦略立案など、さまざまな業務を行っています。

――ちなみに、リクルートにおける「プロダクト」とは、デジタルサービスを指すのでしょうか?

磯貝:そうですね。近年はデジタルサービスをプロダクトと呼ぶ傾向があり、リクルートでもこの呼称で統一しています。

規模やフェーズが多岐にわたる、リクルートが展開するプロダクト。全部で200以上のプロダクトを手がけている。

──丸山さんが執行役員を務めるニジボックスの業務内容についても教えてください。

丸山:ニジボックスはWeb制作会社で、リクルート内外の仕事を請け負っています。リクルートが運営するプロダクトについては、デザイナーがグループ各社にジョインし、さまざまなプロダクトのクリエイティブ制作に携わっています。リクルート外では、クライアントから受託した仕事を、UXリサーチからフロントエンド開発まで一気通貫で手がけています。

丸山潤 株式会社ニジボックス執行役員 サービスプロデュース事業本部長 兼 株式会社リクルートプロダクトデザイン室 デザインマネジメントユニット デザインマネジメント部

丸山:特に近年、私は上流工程におけるフレームワークの設計に新しい手法を取り入れるなど、ニジボックス独自のカスタマイズにも注力しています。さらにこれまでの知見やノウハウをブログなどで展開し、マーケティングやブランディングにつなげることを事業戦略として行っています。

──2019年に、デザインマネジメントユニットを立ち上げたきっかけについてお聞かせください。

磯貝:もともとリクルートはデザイン経営を大事にする会社で、1980年代にはグラフィックデザイナーの亀倉雄策さんが社外取締役として在籍されていました。経営ラインにデザイナーがいた事業会社としては、先駆けのような存在だったと思います。

ただ、当初のリクルートのプロダクトは紙媒体、つまりフリーペーパーがメインだったんですね。フリーペーパーって、表紙がかっこよかったり魅力的であることが重要視されます。つまり、クリエイティブの質の高さがビジネスに直結していたんです。そうした背景もあり、デザインへの意識がすごく強かったのだと思います。その後、紙媒体からデジタルプロダクトへ移り変わったことや、リクルートが2012年に主要会社を分社化したことなどを背景に、デザインのガバナンスが一時的におろそかになった時期がありました。

丸山:今は国内7社をひとつの会社に統合しましたが、分社化した当時は各会社ごとの采配に任されており、それぞれやり方が違っていた、という経緯もありますよね。

磯貝:そうなんです。でもそこから、デザイン面の負債が積み重なっていると感じていました。たとえば、同じようなボタンでも、Aの画面とBの画面では違う機能が割り当てられているなど、ユーザーにとって少し使い勝手が悪いデザインになっていたというか。また、デザイナーがそうした課題を認識しつつも、なかなか動けないという状況もありました。そこで僕のほうで、それらの課題を取りまとめて上層部に問題提起し、新しい組織が必要なのではないかと掛け合ったんです。

多様なデジタルプロダクトを横断的に統括する、デザインマネジメントユニット

──組織改編は会社にとっても大きな決断だったと思いますが、提言はすぐに受け入れられたのでしょうか。

磯貝:上司が理解ある人だったこともあり、問題提起はすんなり受け入れてもらいました。ただ、リクルートでは「なぜそれが必要なのか」というロジカルな説明を、必ず求められます。それに対して、どうストーリーを構築するかが課題でした。そこでまず、亀倉さんの時代からどういう変遷を経て今にいたったのかを、当時を知る社内外の人にヒアリングし、これまでの経緯をひもとき、問題点を解決できる可能性が高い形でストーリーに構築していきました。それによって納得してもらえたところはあったと思います。

そして2019年に、リクルートグループ内で横断的にデザインを統括する組織として、デザインマネジメントユニットを立ち上げました。当初のメンバーは10名にも満たなかったのですが、各部署に散っていたデザイン系の人を少しずつ統合し、かつ採用も進め、現在は約60名が在籍しています。

リクルート九段坂上KSビル オフィスの様子(撮影:ホソミタクヤ)

──そうした動きを、丸山さんはどのように見ていらしたのでしょうか。

丸山:実はニジボックスという外部からも、同じような課題は見えていました。着目したのはデザイナーの定着率です。その頃のリクルートは、人材の入れ替わりがあり、プロダクトの品質管理が難しくなっていました。

そこで当時、グループ会社のひとつに話を持ちかけて、実験的にニジボックスのデザイナーが案件を手がけ、グループ内でデザインをインハウス化することにしました。それと同時に、デザイナーにもリクルートで仕事をする目的意識を持ってもらえるよう働きかけたんです。すると定着率がどんどん上がっていきました。

磯貝:僕らが点的に改善を進めていたときに、ニジボックスさんも同じような問題意識で動いて、リクルートの案件に関わるようになっていました。それで組織を立ち上げたとき、改めて協働することになったんです。現在もリクルートのプロダクトデザイン業務をニジボックスさんと協働でやっているケースは多く、連携して組織運営の改善のために動いたりもしています。

丸山:実際、僕もリクルートのデザインマネジメントユニットも兼務していますしね。

磯貝:僕も、ニジボックスのクリエイティブ室を兼務していて、ニジボックスさんのデザイナーの採用などにも関わらせてもらっています。

──デザインマネジメントユニットの組織構成はどのようになっているのですか。

磯貝:プロダクトデザイン室という組織の中に、「リクナビ」「タウンワーク」などのヒューマンリソース系、「SUUMO」などの住宅系、「ホットペッパー」「じゃらん」などのライフスタイル系など、事業領域ごとのユニットがあって、各ユニット内にそれぞれの領域のデザインを担当するデザインマネジメントグループがあります。それらのグループを機能組織として束ねているのがデザインマネジメントユニットです。

つまりこの組織には、事業という縦軸と機能という横軸の両軸があり、それぞれの事業にコミットしながら機能としての強みもあることで、いわゆる社内受託にならない組織になっています。

──少人数だったところから現在は60名が所属されていますが、組織内でスキル共有のためにされていることはありますか?

磯貝:月に一度集まって、各事業のトピックスを発表したり、困っていることを相談する共有会を開催しています。

月1で開催される、オンライン共有会の様子

丸山:この共有会には、ニジボックスのメンバーも参加しています。これまでは拠点がみんな散らばっていたので、集まるのが難しかったんですが、今はオンラインで開催できるので反対に集まりやすくなりました。

──リクルートのデザイン組織ならではの特徴や、カルチャーについても教えてください。

磯貝:リクルートは、筋さえ通っていれば、新入社員でも誰でも声を上げられるということがひとつありますね。キャリアを問わずどんな社員の挑戦も後押しするという、フラットな企業風土は特徴かなと。

丸山:「この職種の仕事の範囲はここまで」と定義されていないから、「やりたい!」と声を上げればなんでもやらせてもらえますよね。

磯貝:そうなんですよね。「デザイナーは、こういう仕事しかできません」みたいなことはまったくないです。いわゆるつくる仕事って「How(どうつくるか)」を提示するものですが、リクルートでは「Why(なぜ)」や「What(何を)」というところに、デザインレイヤーから関与することができます。

また、リクルートにはいろんな領域のプロダクトが大小合わせて200くらいあるため、普通だったら転職しないと関与できないような多様な領域でも、社内を異動するだけで関われる点も魅力だなと思います。

丸山:本当にいろいろありますよね。住宅、HR、結婚、旅行、美容、車もあれば、最近は「Airレジ」を中心としたSaaS(Softwear as a Service)もありますし。しかもどのプロダクトも、国内で高いシェア率を誇ります。そこは、リクルートならではのおもしろいところだと思います。

磯貝:それは社内にたくさんのナレッジがある、とも言い換えられると思っていて。普通だったら、社外に取りに行かないと得られないナレッジが内部にあり、誰かに聞けば誰かが答えてくれる。そういう環境もほかにはないものです。

また、いろんなフェーズのプロダクトがあるということは、いろんな価値の出し方があるとも言えます。同じデザイン系でも、専門性の高いスペシャリストやコンサル寄りの人など、いろんな人材がスキルを発揮できるポストがあるので、多様なキャリアパスを許容できるという良さもあると思います。

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