「描くことは瞬発力」。面相筆をコントロールしてバリエーションある線を描き出す、岡村優太の表現

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「描くことは瞬発力」。面相筆をコントロールしてバリエーションある線を描き出す、岡村優太の表現
シンプルで親しみやすい人物画から、細部まで描き込まれた植物をはじめとする緻密画まで、穂先の細長い面相筆を自在に操り作品を描く岡村優太さん。多くの人が目にする「東京メトロ」のポスター、東京都が発行する防災ブック『東京防災』、『POPEYE』などのファッション誌まで、その活躍ぶりは実にボーダーレス。最近のお仕事のひとつ、アパレルブランド「merlot(メルロー)」とのコラボレーションによる春夏アイテムは、「laiterie(レトリー)」という聞きなれないテーマを岡村さんなりの感性で動物や人物、植物など、さまざまなモチーフに落とし込んだ。デジタルとアナログ感が絶妙なバランスで同居する岡村さんの絵は、どのような下地や創作環境、姿勢があって生まれているのか。お話をうかがった。

学生時代から一貫する面相筆へのこだわり

——岡村さんの描く絵は、シンプルな印象のものと細部まで緻密に描き込まれたものと大きく2パターンあると思うのですが、いまの作風にいたった経緯は?

高校~大学時代にかけて、特に興味があったのがグラフィティでした。京都にある京都精華大学でグラフィックデザインを学んだのですが、同じクラスに現在はそれぞれグラフィックデザイナーと看板屋として活躍している三重野龍と廣田碧がいて、3人で「うわん」というライブペイントユニットを組んで活動していました。当時はいまより本能的に描くのが好きで、使いどころのないような色んなスタイルの絵を描いていました。表には出していませんが、現在もイラストとは別に常に色々な絵を描いています。

岡村優太さん

岡村優太さん

——「うわん」として活動するなかで、自分の線のようなものが見つかっていった感じですか。

そうですね。線についてはバリー・マッギーがすごく好きで影響を受けています。彼の作風の一部に面相筆のような細い筆で描くスタイルがあるのですが、それがめちゃくちゃカッコよくて、学生時代にあのラインを出したいと思いました。一方で子どもの頃から図鑑が好きで、図鑑に描かれている植物の生々しさとか、人の目というフィルターを通してリアルに描き込まれた感じが魅力的で、いまの緻密画のラインは図鑑の影響ですね。

――ふだん、描きはじめるときは鉛筆ですか。

精密なものは鉛筆で下絵を描いて、それを筆で清書します。もちろんシンプルなスタイルのものを筆で描くこともあります。最近はタブレットでラフを仕上げて、出力してから筆で清書する場合もありますし、タブレットだけで納品まで進めることもあります。案件によってさまざまですが、根本は生で絵を描くことが好きなので、筆は使い続けたいと思っています。ちなみに筆で線画を描くときは墨汁しか使いません。墨汁は時間がたつと固まってしまうので、固まらないように水をさしながら描いています。

――面相筆はずっと同じものを使っているんですか。

大きい方は京都の職人さんの筆なんですが、同じ製品を買い替えながら10年くらい使い続けています。色々使ってみた結果、この筆が一番コントロールしやすくて、描きたい線が出せるんです。小さい方は学生時代にレタリングの授業で使っていたゴシック面相筆です。それぞれ作風やイラストサイズによって使い分けていますが、どちらも面相筆なので出せるラインは同じです。

――タッチや色についてのこだわりは。

タッチについては「自分はこう」とあまりこだわりたくないので、一つひとつの仕事によって毎回どういうタッチでいくかを考えるタイプです。そういう意味ではこの仕事をはじめた頃に比べると、緩やかにですがどんどん変化しているように感じます。色については基本的にはモノクロで描いています。モノクロってデザインとして決まりやすいですし、流行的に求められている傾向があると思うんですが、作風としてこだわることはしたくなくて。緻密画はモノクロの線画で見せることも多いですが、そうでないものはできるだけいろんな色を使って描きたいと思っています。

――最初に「出していないものも含め色々描いている」とおっしゃっていましたが、仕事以外でも描く時間は大切にしていますか。

そうですね。絵を描くって“瞬発力”なので、常に描いていないと「描いてください」って言われた時に描けないんです。その甲斐があっていまは心配なくイラストが描けるのですが、そもそも瞬発力って少しずつ落ちていく気がしているので、仕事以外でも自発的に描くという根っこの部分は怠ってはいけないし、大事にしたいですね。

「ワンポイント」と「世界観」を軸に柔軟な発想でアイデアを

人気クリエイターがアパレルブランド「メルロー」のシーズンテーマを解釈して商品化する、コラボレーションシリーズも第4弾。フランス語で「酪農」という意味の「laiterie(レトリー)」というテーマを、岡村さんはどのように解釈していったのか?

岡村優太×メルロー

岡村優太×メルロー

全8アイテムを展開

――今回のテーマはあまり聞きなれない言葉だと思いますが、「酪農」というイメージをどのようにイラストに落とし込みましたか?

普段はクライアントやデザイナーの意見を踏まえながらイラストに落とし込む機会が多く、今回は「酪農」という自由度が高いお題を与えられて「自由に描いてください」という、久しぶりの感じでした。

アパレルのイラストを描く機会も久々でしたので初めは心の中で「何描こうかな……」と少し悩んでいましたが、以前から試してみたかったアイデアや打ち合わせを進めていくなかでぱっと思いついたアイデアがいくつかあったので持ち帰って冷めないうちに絵にしていきました。

ニット

ワンピース

「お任せします」と言われつつも、ワンポイント的なものが欲しいというリクエストはいただいたので、それをキーワードにして考えました。ワンポイントになって、かつ女性向けなので可愛らしさもあり、定番アイテム的に使いやすいもの。テーマが「laiterie」なので、羊など酪農から連想される動物での展開を考えましたが、人物も加えたほうが世界観が出ると思ったので、さらにトマトを持った男の子と牛乳を持った女の子も加えて。背景に物語があるわけではないですが、パッと浮かんだものをあまり考えすぎないように、でもでき上がりのイメージは想像しながらアイデアにしていきました。

あと、「FARM」というロゴが入った植物や虫をモチーフにしたイラストですが、組み上がったものをいったん分解して、あるパターンに再構築するということをやってみたかったので、今回は植物の総柄として落とし込みました。

――でき上がったものを見ての感想はいかがですか?

透け感のある素材に落とし込まれるとデータ上で見るイラストとはまた印象が変わりますね。全てのイラストをテーマに寄せて土かぶったような少しくすんだ色合いで着色していて、それを活かしてアイテムとしてつくってくれたのがいいなあと思いました。

――植物を描かれるときは実際に見て描かれるんですか?

写真を見て描きます。自宅の敷地内にもたくさん木が生えていて、植物から得るものって色々あるんですよね。絵をよく見ると、必ずしもこの「FARM」という意味にまつわるものでもないのですが、でもなんとなく「自然」という世界観のなかで、モチーフを限定しながら考えていきました。

「大人の可愛らしさを自分なりに楽しむ女性へ」。ユニークな北欧テイストのオリジナルテキスタイル製品や、ディティール、形にもこだわったアイテムで、お洒落の中にユーモアを提案しているレディスファッションブランド「merlot」

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アトリエサーカス

「merlot」が主催するコンペサイト「アトリエサーカス」。同サイトでは定期的に複数のコンペを行い、作品を募集し入賞した作品はmerlotで商品化・販売される。画像は実際に同サイトのコンペ「laiterie(レトリー)」にて採用された4作品

――アイデアを書き出すときはA4用紙が多いんですか?

はい。A4って完璧だと思うんですよね、どこに行ってもありますし。ペンタブレットもA4サイズに近いものを使用しています。スケッチブックを使っていた時期もありましたが、A4用紙はファイリングしてアーカイブしておきやすいので好きです。これを棚に積んでいくんですが、いまかなりの量になっています。でも捨てずに取っておきたい(笑)。

仕事、生活、よいバランスを保ちながら貪欲に描き続ける

――いわゆるクライアントワーク以外だと、最近はどんな活動をされていますか?

京都に「VOU(ボウ)」という、学生時代からの友達が店長をしているギャラリー兼ショップがあって、そこのオリジナルグッズをつくっています。デザインしているのが三重野龍で、僕がイラストを描いています。京都に昔からあるお土産文化にのっとったようなグッズをつくることが多くて、例えば提灯や銀バッジ、キーホルダーなど。ほかにはキャップや、この時期なので「おでん」をテーマにしたストリートっぽい雰囲気の「おでんスウェット」なんかも現在つくってる最中です。VOUグッズの雰囲気はシティーボーイな感じですが最近人気があるらしく女の子からの受けもいいらしいです。VOUでの作業はクライアントワークとはまた違って仲間内で遊びながらつくるおもしろさがあり、いいバランスでやれています。

岡村さんのイラストによる、VOUの「防GIRL ピンバッジ」と「坊さん PIN BADGE」

岡村さんのイラストによる、VOUの「防GIRL ピンバッジ」と「坊さん PIN BADGE」

――ちなみに、ここ最近の岡村さんの興味の対象になっているものは何かありますか?

古道具や植物です。一年前に、東京都内から栃木県に引っ越したのですが、大谷石造りの蔵がある古い家で、蔵の雰囲気や居心地がすごく良いのでアトリエにしようと改装中です。また敷地が広く植物もたくさん生えていて、以前から植物を見るのは好きだったのですが、より日常的に成長や変化などを観察できるようになったのが嬉しいです。

これまでも何度か栃木県には行ったことはありましたが、東京から近すぎず遠すぎず車でちょうどいい距離だと思ったんです。基本的に仕事のベースは東京なので、打ち合わせなど必要なタイミングで足を運ぶくらいの感覚が好きですね。もちろんそれができるのは、これだけインターネットが充実しているからなのですが。実は栃木県に引っ越したことをあまり人に伝えてなくて。そういうのが苦手で、そもそも京都から東京に引っ越してたことすらあまり言っていないんです(笑)

――そうだったんですね(笑)。最後に、今後取り組んでいきたいことを聞かせてください。

図鑑や絵本など、昔からあるものでプロダクトとして残っていくようなものを手がけられたらいいですね。あとはイラストとは関係の無い創作活動にもっと力を注がないといけないと思っているので、これからも無理なく貪欲に描き続けていたいです。

取材・文:開洋美 撮影:寺島由里佳 編集:瀬尾陽(JDN)

岡村優太
http://okamurayuta.com/