平年より寒い気温が続く今冬ですが、今週末頃からそろそろと春の訪れを感じそうな気配がしています。
今月は、暗闇の中で楽しむ芸術祭や、「書体」にまつわる企画展、コロナ禍のアーティスト6組のいまが知れる企画展など、編集部おすすめの5つをご紹介します。
Sense Island -感覚の島- 暗闇の美術島 2021
2019年秋、神奈川県・横須賀の「猿島」で開催された「Sense Island – 感覚の島-」。携帯を封印し、暗闇の中で自分の感覚を研ぎ澄ませて猿島の自然と作品に対峙する同芸術祭は、人との対峙ではなく、自然と時間と感覚に向かい合う唯一無二の芸術祭として実施されました。
2回目の開催となる今回のテーマは「音」。テクノロジーや時間の概念を取り払い、猿島にある自然の文脈を感じ自分自身と向き合うような作品を通し、もともと私たちが持っていたであろう“感覚”をもう一度取り戻すような体験になりそうです。
同芸術祭のプロデューサーは、初回と同じく、株式会社アブストラクトエンジンの齋藤精一さんが担当。参加アーティストは、井村一登さん、小野澤峻さん、筧康明さん、忽那光一郎さん、後藤映則さん、齋藤精一さん、中﨑透さん、幅允孝さん、細井美裕さん、mamoruさん、毛利悠子さん。公式サイトでは、前回開催時のアーカイブ動画も公開されているので、少しでも気になった方はお早めに!
2121年 Futures In-Sight展
東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTで開催されている「2121年 Futures In-Sight」展は、タイトル通り、未来に思いを巡らせるような企画展です。展覧会ディレクターは、テクノロジーが人類の文化やライフスタイルをいかに変えるのか、その未来を見据えた数多くの書籍や雑誌を手がける編集者の松島倫明さん。
本展では「Future Compass」(未来の羅針盤)というツールをきっかけに、未来を思い描くだけでなく、現在を生きる私たちの所作やつくり出すものに内在する未来への視座を、デザイナーやアーティスト、思想家、エンジニア、研究者など、多様な参加者たちとともに可視化していくことを試みます。
本展で肝となる「Future Compass」は、3層の円盤から構成されているツールで、21のキーワードを自由に組み合わせることで、自身のオリジナルの「問い」を導き出すことができるようになっています。会場では、参加作家がその「Future Compass」から選んだ「言葉」、導き出した「問い」と、各々が自身の専門領域や生活哲学に基づきながら形にした「インサイト(視座・洞察)」を展示。
500万年前から1000万年前という時間を包括する自然物を集めた展示や、100年という時間軸を高さに置き換え、モノの変化を可視化する四角柱など、来館者は多彩な視座に出会うことができるでしょう。
場所:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー 1
http://www.2121designsight.jp/program/2121/
鳥海修「もじのうみ:水のような、空気のような活字」
「日本人にとって文字は水であり、米である」というタイポグラファー・小塚昌彦さんの言葉をきっかけに、これまで100以上もの書体を生み出してきた書体設計士の鳥海修さん。本展は、鳥海さんが文字に携わる人生を歩むことになった山形県遊佐町から望む鳥海山の景色を起点に、私たちの日常生活において欠かせない書体がいかに制作され、普段目にするインフラとしての活字になっていくのか、デザインする過程で生まれたスケッチや試行錯誤の痕跡、下書き、仕上がった原字、実社会での使用例などを通して、これまでの仕事の展覧を試みるものです。
また、書体設計士として数多くの書体制作に関わる一方、これまで大学や私塾にて活字デザインに関する教育や指導に当たってきた鳥海さん。本展では、その教え子でもある岡村優太さん、廣田碧さん、三重野龍さんの3名がアートディレクションを担当し、より感覚的かつ身体的に書体設計のことがわかるような空間となっています。
タイトルの通り、ギャラリー内に所狭しと並べられた「もじ」の「うみ」に溺れることによって、「水」や「空気」といった、普段は意識することのない私たちが必要としている日本固有の文字について、改めて考える機会となる展示です。
場所:京都dddギャラリー
https://www.dnpfcp.jp/CGI/gallery/schedule/detail.cgi?l=1&t=2&seq=00000784
ミロ展―日本を夢みて
スペインのバルセロナで生まれた芸術家、ジュアン・ミロ。ピカソと並ぶ現代スペインの巨匠として日本でも広くその名は知られていますが、ミロの創作活動の裏側には日本文化への深い造詣があったことはあまり知られていません。一方、日本では1930年代からミロの作品が紹介され、世界に先駆けて1940年にモノグラフ(単行書)が出版されるなど、早くからその活動に注目されてきました。そして現在も日本各地の美術館が数々のミロの名品を収蔵しています。
本展では、若き日の日本への憧れを象徴する初期作品から代表作、そして日本で初めて展示されたミロの作品を通し、画家と日本の関係に迫ります。
さらに、本人のアトリエにあった日本の民芸品や批評家の瀧口修造との交流を示す多彩な資料を通し、ミロと日本の深いつながりを紐解きます。約130点の作品と資料をもとに、新たな角度からミロについて知ることができる展覧会です。
場所:Bunkamura ザ・ミュージアム
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/22_miro/
コロナ禍とアマビエ 6人の現代アーティストが「今」を考える
2020年11月、その年の春から世界を襲った新型コロナウイルス感染拡大の中、不安を抱える多くの人たちに向けて、「コロナ時代のアマビエ・プロジェクト」をスタートさせた角川武蔵野ミュージアム。
コロナ禍で起こった現象のひとつに、プロアマ問わず「アマビエ」を表現するブームがありました。それは、美術が持つイメージの力が、人々に希望をもたらす可能性を問いかける現象でした。過去の焼き直しではなく、今を生きる現代のアーティストに、それぞれのアマビエを生み出してほしい、「コロナ時代のアマビエ・プロジェクト」は、そんな想いから生まれました。
本プロジェクトでは、会田誠さん、鴻池朋子さん、川島秀明さん、大岩オスカールさん、荒神明香さん、大小島真木さんという6人の現代アーティストが、角川武蔵野ミュージアムで1年を通してそれぞれのアマビエを生み出しました。会田誠さんは1番手として、あえて流行していたアマビエ像を描き、ほかのアーティストたちは旧来のアマビエ像にしばられず、コロナ禍と向き合い、不安や鎮魂、普遍的な存在、生命の連鎖といったそれぞれのイメージを表現しました。
まだ感染症が収束したとは言えないものの、コロナ禍の中でさまざまな経験を経たいま、このプロジェクトを振り返り、ここから生まれた作品や参加したアーティストたちの新作を通して、「今」をいかに生きるのかを考える機会となる展示です。
以上、今月もジャンルがちがう5つのイベントをご紹介しました。まだまだコロナ禍は続きますが、大小さまざまなギャラリーや美術館で展覧会やイベントは絶えず開催されています。気になるイベントがあれば、思い立ったが吉日と、どうぞ忘れずに足をお運びください。
タイトルデザイン:いえだゆきな 構成:石田織座(JDN)