何度でも押したくなるスタンプ「INSTAMP」 – レクサスデザインアワード受賞者インタビュー(1)

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何度でも押したくなるスタンプ「INSTAMP」 – レクサスデザインアワード受賞者インタビュー(1)

2012年に創設された「LEXUS DESIGN AWARD」は、全世界の次世代を担うクリエイターを対象とした国際デザインコンペティションで、現在応募を受け付けている真っ最中だ(応募締切は10月18日まで)。豊かな社会とより良い未来をつくり上げる「DESIGN」と、アイデアを生み出す新進気鋭のクリエイターの育成・支援が目的だという。アワードの魅力は、なんといっても入賞者12名に与えられる、4月のミラノデザインウィークでの展示機会だろう。プロトタイプ展示とパネル展示があり、プロトタイプ展示に選ばれた入賞者には制作資金が補助され、世界中で活躍するメンターとともにプロトタイプの制作を進めることができる。

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第3回の「LEXUS DESIGN AWARD」で入賞し、商品化へ向けて奔走中のデザイナー・阿津侑三氏にお話を伺うことができた。昨年のテーマは「Senses(五感)」。72カ国から、1,171作品もの応募があったそうだ。

阿津氏の入賞作品である「INSTAMP」は、押し方で書体が幾重にも変化するスタンプ。そのほかの、どちらかというと近未来を連想させる入賞作品に比べ、どこか“ほっこり”。そんな印象を抱いた方も多いのではないだろうか。阿津氏はなぜ、「LEXUS DESIGN AWARD」の舞台にこの作品を選んだのか。「INSTAMP」に込められた想いや制作過程での試行錯誤、商品化へ向けた意気込みなどを語っていただいた。

押し方で書体が変化する「INSTAMP」とは

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阿津侑三氏

「INSTAMP」は、押す人や、押す力によって文字の形が変化するスタンプです。仕組みはいたって単純ですが、素材に特徴があります。スタンプ面が柔らかい素材だと、押したときに圧力でつぶれますよね。さらにその面に起伏を与えることで、紙に接触する部分が変化します。それにより、インクの付き具合も変化して文字の形が変わるというものです。

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インクをつけて、軽く置くように押すと細い文字に、少しずつ強く押すと接触する面が増えるのですが、同時にインクのかすれる部分や取れる部分ができてグラデーションのようにも見える。すべて同じスタンプで押しているのに、まるで違うスタンプで押しているかのようなバリエーションが生まれるんです。何も考えずに押しても予想できない文字や形になったりするので、その人にしかつくれない文字ができてすごく愛着がわくと思うんです。そうすると、押すのがだんだん楽しくなってきますよね。

何でもそうですが、使われ方が決まっているとつまらないと思います。押していくなかでいろいろな発見があったり、自分だけの文字のような感覚がもてるとそのぶん愛着もわく。何か、そういった仕組みをつくれないかなと考えてできたのが、この「INSTAMP」だったんです。

「INSTAMP」のルーツは書道にあった

実はこの「INSTAMP」は、卒業制作がもとになった作品です。僕は、もともと大学で建築を学んでから桑沢デザイン研究所に入りました。その専門学校時代の卒業制作を、「LEXUS DESIGN AWARD」に向けてブラッシュアップしていったものが「INSTAMP」です。

そのルーツをたどると、専門学校時代に受けた、浅葉克己先生の書道の授業が大きく関係していると思います。書道は小学校で習いましたが、改めてやってみるとまた違った視点で見ることができました。というのも、書道の筆の動きを真剣に考えるようになったんです。筆の動きと紙の間にはいったい何が起きているのだろう…と。よくよく観察してみると、筆のしなりで接触面が変化して美しい抑揚ができているとわかって、その構造をスタンプにも取り入れたらおもしろいんじゃないかと考えたんです。

あとは、自作でスタンプをつくるほどスタンプが好きだったことも大前提としてあります。学生時代に立ち寄ったギャラリーにアルファベットのスタンプを押せるところがあり、適当に押しているのに偶然できた組み合わせがおもしろくて、その感覚がずっと忘れられませんでした。その頃から単純な線や図形のゴム版をつくっては遊んでいたんです。

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学生の頃から作っていたという自作のスタンプ。単純な丸や線でも、インクの付き方や押し方で独特の味わいが出る。

「偶然にできるもの」って、計算ではつくれないですよね。だけど、計算では出せないもののほうがいいものになることって少なからずあると思うんです。「偶然にできるもの」がデザインをよりよくする要素の一つではないかと感じているので、自分が何かつくるときにも、常にその感覚を出せるように意識しています。

スタンプの楽しさやおもしろさをもっと発展させたいという思いと、専門学校で受けた書道の授業が自分のなかで自然につながったのです。

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