マイホームがほしいと思ったら、まずは住宅展示場に足を運び、モデルハウスを見学する。そんな一般的な常識を覆し、2016年に日本初となるマイホームづくりのECサイトを始めた株式会社ジブンハウス。AR、VRなどの技術を駆使した新しいサービスで、スマートフォンでバーチャル住宅展示場を見学し、自分の好みに合わせたカスタマイズから見積もり、購入までできてしまうのだ。
サービスを開発したジブンハウスの取締役兼デザイン事業部長の滝本学さん、専務取締役の内堀雄平さんに、ジブンハウスが生まれたきっかけや3年で急成長を遂げた背景、今後の展開などを伺った。この記事を読めば、「家を買うこと」への意識が変わりそうだ。
“家を買うこと”のハードルを下げる
——「ジブンハウス」のサービス内容を改めて聞かせてください。
内堀雄平さん(以下、内堀):簡単に言うと、ジブンハウスはスマートフォンで家が買えるサービスです。当社のサイトにはタイプ別に家の選択肢があり、外壁や間取り、壁紙、キッチンやバスルームなどを自分好みにカスタマイズして、ARやVRで完成イメージまで確認できるんです。高精細なCGなのでお客様は住宅展示場にいるような感覚で、パソコンやスマートフォンから24時間いつでも家を選び、購入価格をシミュレーションした上で住宅メーカーに相談できます。
——これまで家を買うことはハードルが高いイメージだったのですが、ジブンハウスのサイトを見て少し意識が変わりました。こうした仕組みづくりを始めたきっかけは何だったのですか?
内堀:新築は高いから買えない、購入までが面倒くさそう……とはなから諦めている人はとても多いです。そういった方々に向けて、テクノロジーの力で具体的なイメージを提示することと見積もりのシミュレーションで金額を出すことで、「これなら新築ほしいかも…!」「手が届くかもしれない」、そう感じてもらえるのではないかと考えました。
滝本学さん(以下、滝本):まず、日本の住宅業界はこれまでマンパワーで日本の土木を支えてきた過去があり、エネルギッシュな業界とも言えますが、裏を返せば旧態依然とした業界でもあります。
家がほしいと思ったらまずはハウスメーカーに足を運びますが、初めてのことなので営業マンにすすめられるままいろいろなことを決めて、本当に自分たちはこの家がほしいのか、希望条件に合っているのかさえも不安で、ローンのことまで考えると楽しいというよりプレッシャーになってしまう…。一生に一度の買い物がそれでは寂しいですよね。そこで、コンシューマ側に立ったらどうすれば家を建てやすくなるだろうと考えたのが入り口でした。
——ノープランの人でも、家のタイプをじっくりシミュレーションできるので暮らしが想像しやすくなるなと感じました。
滝本:家を買うことはあくまで“生活を手に入れる手段”で、お客様はプロダクトとしての家がほしいわけではないと思うんです。家を買ったあとにその家でどんな人生を過ごすか、つまり僕らの商品は買ったあとから始まるので、この家に住むことでこんな暮らし方ができるという「体験」を商品として見せられればと思っています。
——実際にその場にいるような自然でクリアなVRの制作には苦労されましたか?
滝本:世の中にはVRといってもさまざまなレベルがありますが、リアルな没入感を促すためにはグラフィックは高精細でなければいけません。だからこそその先に意識が向くのであって、逆に言うとユーザーの方にはあえてそこにフォーカスしてほしくないんです(笑)。VRはあくまでツールであり、あって当たり前。
内堀:ビジュアルが粗いと、どうしてもCGに意識がいってしまうと思うのですが、実際にお客様からは「この家かっこいいよね」とか「このインテリアいいよね」とか、ちゃんと僕らが見せたいライフスタイルの部分に目を向けてくれていて、「このVRすごいですね」と言う方はいないんです。
“自分らしい暮らし”を実現する家づくり
——ジブンハウスの具体的なペルソナ像はありますか?
内堀:おもには初めて家を購入する20〜40代前半のミレニアル世代・スマホ世代と呼ばれる方々です。「自分はこんな暮らし方がしたい」という思いは漠然とあっても、初めてのことなので具体的なイメージをハウスメーカーに伝えることは難しいと思いますが、ジブンハウスなら選択肢の中から家族で同じものを見ながらの擦り合わせが可能です。
さらにジブンハウスを購入する方々の多くが共働き世代なので、通勤時間にサイトを見て、帰宅後にそれぞれのシミュレーション結果をスマホで見せ合い検討したりといった使い方もできます。これまでに僕が見た中では、小学校6年生の娘さんが「私この部屋がいい!」と家族間のミーティングに参加していました。これまでにない新しい家づくりの形が生まれているのかなと思います。
——家族みんなで参加できるっていいですね。家のタイプにもいくつかありますが、コンセプトを教えてください。
滝本:現在、「ANTICO(アンティコ)」「SCANDIA(スカンディア)」「JAPONE(ジャポネ)」という3つのタイプがありますが、ペルソナと同じような年齢・シチュエーションの人たちの行動パターンや考えを調査し、トライアンドエラーを繰り返して3つに絞りました。
アンティコはどちらかというとクラシカルなモデルで、時間とともに家が変化していくのを楽しむようなこだわりを大切にしたい人をイメージしました。スカンディアは北欧デザインをベースに、軽やかでコミュニティが集まりやすいオープンな家というリゾート的なイメージ。ジャポネはいわゆる純和風ではなく、日本人のもつ先進性など、海外から見た日本の良さをテーマにしました。とはいえ、多様性を重視しているのでこれに縛られる必要はないと思っています。
内堀:自分らしい暮らしをするって、価値観の多様性だと思うんです。その多様性を許容する意味で「こんな生き方、暮らし方はどうですか?」と視覚化して提案できればと思っていて、社会がこれだけ多様化する中で僕たちができることは、それに対応するだけの幅のある暮らしの「器」を提供することだと思っています。だから、50代や60代の方に買っていただくのももちろん大歓迎です。
滝本:だからこそアンティコ、スカンディア、ジャポネは実はあらゆるパーツや要素を取り入れたデザインになっています。無数の選択肢の中ではなく、この3つから順を追って選んでいくと必然的に自分スタイルの家が組み上がってくる。豪邸を建てなくても、自分にとって無理のない範囲でこだわったものにフォーカスできれば、それは十分満足だし楽しいことなんですよね。
内堀:感覚としてはお客様の隣に寄り添いながら家を建てていくイメージです。お客様にとっても、自分たちで決めたという心地いい満足感が得られるはずです。「ジブンハウス」という名前にも、家族を含めて自分らしい暮らし・生き方を実現してほしいという思いを込めています。
住むことをアミューズメントに。ホームテック企業のこれから
——創業3年ですでに109店舗を全国に展開されていますが、どのようなプロセスを経たのでしょうか?
滝本:ジブンハウスのビジネスコンセプトの一つに、「地方工務店に対するプラットフォームの構築」があります。いま地方工務店は、価格競争の波の中で利益率に伸び悩み、消耗してしまっているのが現状です。そこをなんとか救済できないかという思いもあり、腕のいい営業マンがいなくてもこんな商品とやり方があるということを、全国の工務店に説いて回ったんです。商品を導入する工務店の方々に我々の思いを理解していただかないと始まらないので、お客様を大事にしたいという思いをもった工務店が必然的に集まったんじゃないかなと思います。
——現在どのくらいの方がジブンハウスで暮らしているのでしょうか?
内堀:つい先日、創業から3年4か月で300棟を越えました。従来のやり方ではない新しいテクノロジーを活用して家づくりを実現された方が300組いると考えると、僕たちのサービスの必要性はやはりあったんだという自信につながります。
——お客様からはどういった反応が寄せられていますか?
内堀:ありがたいことにとても満足しているという声が多いです。これはお客様に取材してわかったことですが、小物の置き方や玄関スペースの使い方など、コーディネートの参考にするために家を買ったあともジブンハウスのVRを見ているそうなんです。住宅ってリピート産業じゃないので購入後にその会社のサイトを見ることはないと思っていたのですが、そういう使い方もあるんだと逆にお客様に教えてもらいました。
内堀:暮らしがスタートするのは買ったあとなので、むしろそこから自分たちの好みに家をアップデートしていってほしいと思っています。売って終わりではなく、お客様と長くつながっていけたらいいですね。
——バーチャルであっても人とのつながりをちゃんと感じられる素敵なサービスですね。今後の展開を教えてください。
内堀:体験の質をより向上させることでサイトからそのまま買えるところまでもっていきたいと考えています。今後5Gになれば、例えば特殊なスーツを着ることで、素材感だったり雨の日や雪の日の体感温度までわかるようになるかもしれません。そうすれば現地に行かなくてもそこにいるような感覚で買ってもらえる可能性があります。
あとは、今年の10月にサンフランシスコのテックイベントに参加する予定なのですが、今後は海外店舗の拡大も視野に入れています。ノマド的な働き方ができる時代に、例えば今週は東京だけど来週は地方に、来月は海外に住もうというように、住むこと自体をアミューズメント感覚でもっと身軽にできたら楽しいと思いませんか? そのために、家賃や住宅ローンに縛られない仕組みも本気で考えています。
滝本:我々はホームテックの企業でもあります。自分たちの表現したいものを自分たちで技術開発して、まだ見たことのない体験をユーザーに提供することで建てる前に納得いくまでシミュレーションをしてもらう。ジブンハウスの価値はそこにありますから、今後も常に最新の技術開発に力を入れていきたいと思っています。とはいえ、純粋に楽しい生き方をしたいだけなんですよね。家づくりや暮らしって、やっぱりワクワクしたいじゃないですか。仕組みとアイデア次第でできないことはないと思っているので、これからもみんなで楽しいことを考えていければいいですね。
取材・文:開洋美 撮影:中川良輔 編集:石田織座(JDN)
ジブンハウス
https://jibunhouse.jp/