老舗製紙会社の新しい挑戦、「crep」が生まれるまで
——山陽製紙はどのような会社ですか?
山陽製紙・原田千秋さん(以下、原田):当社は2017年の10月に61期を迎える製紙会社です。古紙を再生して、鉄鋼や電線などを包む産業用の包装紙などをつくってきました。50期を迎えたときに、50年後も生き残っていける会社にしていくために、自社の存在価値は何かということを改めて見つめ直しました。「環境に配慮した循環型社会に貢献する」という経営理念を制定し、環境に配慮した紙製品をつくっていこうと決めたのが10年前のことです。
当社の強みは、紙に伸縮性をもたらす「しわ」を付ける技術です。鉄鋼や電線を包装するために紙の伸縮性が求められます。その伸縮性をもたらす「しわ」の入った紙は、クレープ紙と呼ばれていて、実はトイレットペーパーもクレープ紙の一種です。当社がつくっているのは、1次クレープ紙と呼ばれる業務用のものですが、鉄鋼や電線の包装用途で紙をつくる段階から「しわ」を付けていけるのは当社以外ほとんどありません。いい紙をつくることに誇りを持っている職人さんが多いのも当社の強みです。
——AZUCHIと一緒に商品開発するようになったきっかけは?
原田:同じ紙業界で、和紙卸商のオオウエさんが新しい取り組みをされていることは、以前から拝見していました。オオウエさんが出展されていた展示会で、「off」(和紙卸商オオウエ・船木印刷・KENJI FUKUSHIMA DESIGNによる和紙ブランド)のことを知り、すぐAZUCHIさんに連絡しました。
福嶋賢二さん(以下、福嶋):ご依頼の電話がかかってきたその場で、1時間以上色々なお話をさせてもらい、なにかおもしろくなりそうだなと感じました。ただ、クレープ紙自体の知識もなかったですし、どういうことができるのかわからなかったので、まずは社長と専務にお会いすることになったのが最初です。そして、「開発会議に参加させてください」というところからスタートしました。
原田:当社はBtoBのメーカーですので、BtoCの事業をはじめるにしても、何がなんだかわからず模索していました。2011年に「おおさか地域創造ファンド」の助成金を3年間いただくことができたので、当社のクレープ紙の端材を使って、環境やエコを意識した商品開発をはじめました。アウトドアがブームになりはじめていたので、クレープ紙のテントや、「ござシート」というレジャーシートをつくっていました。
「おおさか地域創造ファンド」のコンサルティングの先生から、商品をリリースする時は消費者からのモニタリングが必要だと言われ、2016年の「インテリア ライフスタイル / Interior Lifestyle Tokyo(以下、ILT)」に出展する1か月前にモニター会を開いたのですが、そこでボロボロに言われてしまいました(笑)。「こんなものはテントとして使えない」とか、厳しい意見ばかりで絶体絶命になっていたわけです。あと1か月もしないうちに出展するのに、酷評された製品を出すわけにもいかない……。そんな時に、AZUCHIさんとのご縁ができて、開発会議にも入ってくださって、見事に商品を立て直してくださいました。
「ココに入ったら強い」というポイントを見つける
——おふたりがまず着手したことは?
福嶋:もともと開発した製品があるなかで、僕たちにできることはなにか……ということが目下の課題でした。僕たちが開発会議に入った時は、「おおさか地域創造ファンド」の助成金が終わったタイミングで、まずは継続してきた内容やコンセプトが、本当に市場性がないのかをきちんと考える必要がありました。モニタリングでは、「買わない!」とか「使わない!」という厳しい意見ばかりでしたし……。
グランピングやキャンプの方向でやりたいということは感じていたのですが、正直「ござシート」をかわいいとは思えませんでした。でも、可能性は十分にあると思っていました。クレープ紙の撥水性と耐水性、しわによる伸縮性は、この紙にしかない特徴です。ここにフォーカスして謳っていくレジャーシートは“アリ”だなと。
ILTへの出展までの商品開発にかけられた時間は……実質3週間ぐらいです(笑)。この3週間で帯からロゴから全てつくりました。さすがにカタログまではつくれませんでした。ほとんど時間がなかったので、丸一日山陽製紙さんに勤務するみたいな日がありました……(笑)。クラフト色への印刷は、刷ってみると発色に影響が出てくるので、徹底的に印刷結果のチェックを行ないました。その後、ようやく絵柄をおこす工程を経て、最終的に何百種類とある印刷結果の中から、色を選んでつくっていきました。
橋本崇秀さん(以下、橋本):大きな問題は、やはり紙なので最新技術の化学繊維などと比べてしまうと強度が弱いということ。なので、用途をどういうところに落とし込んでいくのか、そのバランスがすごく求められたポイントです。「crep」はエベレストなどに登る人向けのシートとしては使えないですが、気軽に公園で使うシートとしては、ブルーシートと布製のラグのちょうど間のマーケットに入り込めます。そうした程よいポジションを確立できる強みがあると思います。
「ココに入ったら絶対強い」というポイントを見つけるのが商品開発では難しい部分です。紙なのにこんな使い方もできる!という新しい提案をしながら、これまでの製品に引けを取らない使い方ができる、そういうポジションを探すことが大事だと考えていました。
——「crep」のネーミングの由来は?
福嶋:ネーミングはそのままクレープ紙からきているのですが、ロゴ自体も工業用のフォント(機械彫刻用標準書体)をベースにしながら、クレープという柔らかい語感も大切にして全体的に丸みをつけています。産業機器に使われているフォントがわかる人にはイメージしやすいように、それでいて柔らかくなるように小文字にして、親しみやすさも出したいと考えました。
あと、製品の名前はわかりやすさ、これは大事なことだと思います。そこで「PICNIC RUG(ピクニックラグ)」と直球なネーミングにしました。また、文字の並びを3段にしたことで韻を踏んでいるような感じに見せています。「PIC」「NIC」「RUG」と。普通だったら「PICNIC」「RUG」という区切りになるのですが、ちょっとしたかわいさを感じられるようにフォントも調整してデザインしました。
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