横手市増田まんが美術館

日本のマンガ文化を継承し、マンガの魅力を世界に発信する

2019年5月にリニューアルオープンした「横手市増田まんが美術館」は、秋田県横手市にある、世界一の原画(生原稿)収蔵数を誇る、マンガをテーマとした美術館です。原画の展示はもちろん保存にも力を入れ、日本が誇るマンガ文化の魅力を世界へ向けて発信しています。

リニューアルオープンのデザイン・設計を担当したのは、株式会社丹青社。中心となってプロジェクトを進めた、丹青社の小山将史さんに施設の背景やコンセプト、特徴などについてうかがいました。

常設展示室

常設展示室

■制作背景
「釣りキチ三平」の作者として知られる漫画家・⽮⼝⾼雄の偉業を記念し、1995年にオープンした同館。以来、⼿塚治⾍や⽯ノ森章太郎、⿃⼭明、あだち充、⻘⼭剛昌など著名な漫画家の展覧会を多数開催してきました。

世界に類を⾒ない⼤発展を遂げて来た⽇本のマンガ⽂化ですが、歳⽉が進む中で劣化してしまう原画の保存・管理という⼤きな問題があります。同館はこの問題を懸念し、リニューアルオープンを機に、「マンガ原画の収蔵」と、その「アーカイブ化」という事業に本格的に取り組むことになりました。

■コンセプト
同館がある秋田県横手市増田は、「内蔵(うちぐら)」を擁する趣ある街並みが続く場所です。もともと複合施設の一角にあった「まんが美術館」を、今回のリニューアルでは、館内全2フロアに拡張。原画の劣化と散逸を防ぐ現代の「蔵」として、マンガの原画を適正に保存・管理し、公開する「マンガの蔵展示室」を整備しました。

マンガの蔵

マンガの蔵

マンガの蔵は、“魅せる収蔵”を通して、アナログ原画のデジタルアーカイブ化や保管作業など、本ミュージアムの核となる活動の様子を公開し、来館者に原画保存の意義を伝えます。室内の高精細ディスプレイではタッチパネルでデジタル原画を閲覧でき、作家の熱と魂が宿った原画に遺された繊細なペンさばきや、さまざまな表現手法をつぶさに鑑賞できます。

マンガの蔵 アーカイブルーム

マンガの蔵 アーカイブルーム

■特徴
館内では、現実空間にあるリアルな「モノ」とマンガを構成するさまざまな要素やしくみ、決まりごとを組み合わせ、来館者がマンガの世界と現実の世界を行き来しながら「マンガ」というメディアを楽しめるデザインを施しました。マンガをモチーフにした仕掛けをいたるところに配した館内は、モノクロ原画のモノトーンをベースに、イエローを差し色として設定し、シンプルながらも印象に残るカラーデザインを試みています。

マンガ文化展示室

マンガ文化展示室

また、変化し続ける「完成形のない美術館」を目指し、100名を超える収蔵作家の原画が定期的に入れ替えできるほか、壁一面に作家の直筆サインやイラストが描かれる「マンガカフェ」など、来館するたびに新たな出会いや発見を生み出す工夫を取り入れています。

マンガカフェ

マンガカフェ

70万点を超える原画を収蔵できる環境を整備することで原画の保管基盤となり、原画という貴重な文化財を活用して日本のマンガ文化を継承し、マンガの魅力を発信する施設として、地元や日本はもちろん、世界中から愛される美術館になることを願っています。

株式会社丹青社
空間づくりのプロフェッショナルとして、商業施設やホテル、空港、イベント・展示の内装を中心にさまざまな空間の企画、デザイン・設計、制作・施工を手がける。「こころを動かす空間」を目指し、年間6,000件超のプロジェクトを扱っている。
https://www.tanseisha.co.jp/
事業主 横手市
所在地 秋田県横手市増田町増田新町285
デザイン・設計 小山将史、佐藤明日香/丹青社
プロジェクトマネジメント 幸雅文、曽我明宏/丹青社
グラフィックディレクション 高橋賢治/丹青社
グラフィックデザイン スピーチ・バルーン
企画協力 レインボーバード
制作・施工 澤畠寿成/丹青社
デジタル演出 河村徹/丹青社
収蔵庫設計 小林宜文/丹青研究所
撮影 土田有里子