Team Living House

家全体がリビングのように感じられる空間

デザインコンセプト
担当:平井政俊建築設計事務所

ごく当たり前のことだが、人間は物理的にも社会制度的にも、「個人」という単体だと認識されている。けれど生態学的には人間は環境から影響を受け、環境は人間から影響を受けており、実はいつも「Team」として生きているのではないだろうか。

たとえば、子どもの様子を気にしながらあたたかい光が広がる部屋でアイロンをかけたり、乾いた風を感じながら気分よく歌っている友人に合わせて口ずさんだり。このように、ある行為の周辺につながって存在する自分以外の他者や、熱、光、風、音といった微細な環境を含んだ出来事としてのまとまりを「Team」と呼ぶこととした。

「Team」の中にいる際、自分の身体が単体のものだと捉えるよりも少し拡張されて知覚されるようになる。自分だけではない他者や環境を、その一員として迎え入れることで浮かび上がるいろんなかたちの「Team」を、単体の人間に代わる新しい主体として空間を設計することで、拡がりのある少し新しい日常をつくれると考えた。

ある家族が、より自分たちらしい暮らしを求めて、高層マンションを離れ中古マンションをリノベーションすることになった。大きなリビングをめいっぱい確保し、それをひと繋がりでありながら、同時にいろんな居場所がある空間にすることで家族が互いの気配を感じつつ、思い思いに過ごせるようにした。家全体がリビングのようにみんなの場所であり、誰か一人のための個室はない。

外部からの光が、家の北と南をつなぐ3連のアーチを描く天井と、場所によって上下する床に反射して部屋の奥にも引き込まれる。どこにいても吹き抜ける風を感じられる、明るくやわらかい空間。もともとは一様に低かった天井高を多様な断面形状の空間に転換することで、広いリビングを連続させつつ分節し、身体感覚のスケールに近づけた。すべての場所に複数の入口があって、平面は雁行し、回遊性があり、場がいろんな向きに展開する。

人だけでなく周辺や外部環境の振る舞いも「Team」に迎え入れ、行為と関連させて空間の方から再定義し直すことで、マンションの1室だけではなく、そこから都市までが連続する有機的な関係性の中に展開されるリノベーションを目指した。ここでは人間が周囲と繋がりながら「Team」の中で日々の生活を送り、これから何年もかけて改めて自分自身という固有性をより感じられるものになっていくのだと思っている。

所在地 東京都
設計 平井政俊建築設計事務所
延床面積 94.28m2
構造 鉄骨鉄筋コンクリート構造
階数 地上12階建て、うち改修住戸は5階
築年数 44年
撮影 太田拓実