クリエイター5人に聞く―2021年、なに買った?

クリエイター5人に聞く―2021年、なに買った?

高松直人さん

白と黒を基調にした、シュールレアリスムのような独特な世界観の絵を描くイラストレーターの高松直人さん。今回、「2021年、なに買った?」のタイトル画像を高松さんに描いていただきました。引っ越しを行い、作業環境も心機一転したという高松さんが2021年に購入して印象に残ったものとは?

日々表情が変わる、脇田あすかさんのポスター作品「Usual morning」

もともと住んでいた場所が少し閉鎖的な場所だったんですが、昨年、引っ越しをしてから気持ちよくイラストを描ける環境になりました。心なしか気持ちも前向きになった時に、「人の絵を買ったことがないな」と、ふと思ったんです。人の絵を買ったことがないのに、自分の絵を買ってくれというのはちょっと違うし、自分でも身銭を切ってその感覚を知ったほうがいいなと思いました。

それで、インスタでもともと好きだったグラフィックデザイナーの脇田あすかさんのポスター作品を購入しました。

脇田あすかさんの作品「Usual morning」。ポスターだけでなく、額や作家さんにインタビューしたZINEが一緒に付属されてくるそう。

「Postarte(ポスタルテ)」というクリエイターの描きおろしポスターを販売しているサイトで購入したもので、金箔が貼ってある部分と紙のままの部分、黒いところはマットのインクで、凹み加工が施されています。脇田さんはグラフィックデザイナーをされていますが、平面の表現であっても立体というか“もの”として扱っているなとすごく感じます。

今回の作品で言うと、反射する、凹凸をつくるなどの部分にあらわれているのかなと。ただ紙にグラフィックを印刷するということではなく、紙の上に物質を表現するということを実践されているなと感じて、そういう部分で刺激をもらっています。

窓辺に飾っているんですが、太陽に反射すると赤っぽくなったり青っぽくなったり、壁にも表情が生まれて、タイトルも「Usual morning」ですし、毎日見ていても表情が変わって楽しいです。サンキャッチャーとかに近いかもしれないですね。

基本、イラストはすべてデジタルで描いているそう。窓辺からの眺めがよくなったことでより集中しやすくなったと高松さん。

僕自身、図形にちょっと興味があるのですが、脇田さんの作品もけっこう抽象的な図形だったり、かわいらしい文字の表現が素敵だなと思います。絵を描く動機は、外からの刺激と内から湧き出るような表現があると思いますが、僕は内側からのほうが多いかもしれません。落ち込んだ時などに言葉にならないもやもやがあると思いますが、それを形にしたいというところからはじまっていて、高校生くらいからそれをずっと続けている感じです。最近は春に向けて、手刷りでカレンダーをつくってみようかなと思っています。

“買い物”について

最近はあまり余計なものを買わないようにしていますが、買うものとしては生活雑貨や家電が多いです。なるべく見た目がシンプルなものを買うようにしていて、色は白黒、素材は金属や木目のものを選んでいます。ワンポイントでも色が入っていたり、余計な飾りがついているものは避けています。それ自体が可愛い、かっこいいというよりは、家具だったら部屋に置いたときに素敵か、落ち着いているかを判断基準にしています。ただし「これはアクセント用!」と割り切るものについては、とことんヘンテコなものがほしいですね。

見つけたらつい買ってしまうものは、100円ショップの便利グッズです(笑)。100円ショップが大好きで、インスタグラマーの商品レビューをまめにチェックしては、仕事の帰りに買って帰ったりしています。最近は、冷蔵庫用のトレイをまとめ買いしました。冷蔵庫の中にトレイをズラッと並べ、中のものがすべて引き出して使えるようにしたらすごく快適になったのでおすすめです。

■高松直人
1988年神奈川県生まれ。2015年に木村創作教室を卒業。2018~2019年にHB塾に在籍。モノクロを基調としたイラストを主に手がけている。
https://www.takamatsunaoto.com/

松田洋和さん

CDジャケットやブックデザインを多く手がける、グラフィックデザイナーの松田洋和さん。ソニーミュージックや日本デザインセンターを経て、2020年にはフリーランスとして活動をスタートしました。最近ではNHKドラマ「恋せぬふたり」のキービジュアルやロゴをデザインし、反響があったという松田さんが2021年に印象に残った購買体験とは?

魔法のように感じた、修理のテクニック

企画の趣旨と少し離れてしまうかもしれませんが、昨年、ギターの修理を依頼したことが体験としてすごく印象に残っています。ギターのネック部分を修理したんですが、手元に戻ってきた時に新品みたいになっていて本当にびっくりしました。魔法のように跡が消えていて感動して、買った時よりうれしかったかもしれません(笑)。

修理前。ネックの部分にうっすらとヒビが入っているのがわかります。

修理後。新品のように見えるクオリティ。

もともとこの手のギターはネックが折れやすいそうなんですが、このギターも最初うっすら線が入っていたところから徐々に割れて、チューニングが狂ってきてしまって、「どうしようもないな~」と放置していたんです。でも、去年オアシスのドキュメンタリー映画『オアシス:ネブワース1996』を観たあと、すぐに「このギター弾きたい、直さなきゃ!」って修理の予約をしました(笑)。このギターは、オアシスのノエル・ギャラガーが弾いているものと同じ種類なんです。

修理を依頼したのは沖田ギター工房さんという修理工房です。そこが出しているリペア動画がすごく良くて、動画で修理されているギターがたまたま同じ種類だったり、美大の時を思い出すようなクラフト感にグッと来てしまったんですよね。正直、このギター自体そんなに高価なものではないから、新しいものを買うという選択もありますが、愛着もあるし、綺麗になって戻ってきたからうれしくてたくさん弾いちゃうんですよね。

沖田ギター工房のリぺア動画

ギターは小学6年生の時にお年玉で買ったのが最初で、高校1年生から30歳くらいまではずっと何かしらバンドを組んでました。いまもとことん弾きたいときは2時間とか続けて弾きますが、仕事中に音楽を流していて、弾ける曲が流れてきたら「あっ!懐かしいあの曲!」と思って、1曲分とか熱中しすぎない程度に弾いたりしています。

もともとデザイナーになりたいと思ったのも、CDジャケットとか音楽きっかけなんです。いろんなアーティストのCDのクレジットを見て、はじめて「デザイン」という存在をを知り、そこから音楽に携われるんだとわかったんです。

オアシスとかアッシュのCDジャケットは、マイクロドットというデザイン事務所がやっていたり、ブラーはスタイロルージュってところがデザインしていたり。ほかにも、デザイナーズ・リパブリックやイントロ、ピーター・サヴィル、グルーヴィジョンズなど、自分より20歳くらい上の世代のジャケットデザインをやっていた人たちに憧れてデザイナーになりました。

“買い物”について

買い物の際は、直感で「いいな」と思ったらすぐに買います。あまり迷ったりすることはないかもしれません。そんな中でもつい買ってしまうものは本です。美術書や文芸、学術書でも、何か1冊「いいな」と思ったら、その作家が書いたもので手に入るものは、まとめて全部買ったりしています。

■松田洋和
1985年生まれ。2008年武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒業。2011年より、イラストレーター田渕正敏と「へきち」としても活動中。ソニーミュージックコミュニケーションズ、イイノメディアプロ、日本デザインセンターを経て2020年に独立。
https://matsudahirokazu.com/

以上、5名の方に2021年に買ったものをご紹介いただきました。前回は2020年でコロナ過がはじまったタイミングでおうち時間が増えたこともあり、自身の癒しになったり、快適にするものが多かった印象ですが、今回は自分の好きなものや趣味、愛着がわくものについてのお話が多かったように思います。

長期にわたるコロナ禍で自分と向き合う時間も増えているかなと思いますが、これまで以上に自分をご機嫌にさせるものだったりテンションを上げるものなど、「自分の好きなものって何だろう?」と考えることも大事かなと感じます。今年は「さいきん、なに買った?」の連載も不定期に更新していきますので、どうぞお楽しみに!

タイトルイラスト:高松直人 取材・編集:石田織座(JDN)