クリエイター5人に聞く―2020年、なに買った?

クリエイター5人に聞く―2020年、なに買った?

関本明子さん

スキンケアブランド「草花木果」のリニューアルや、カンロ飴やピュレグミでおなじみのカンロが運営する「ヒトツブカンロ」のブランディングなどを手がける、アートディレクター/グラフィックデザイナーの関本明子さん。企業だけでなく、地方の伝統工芸のブランディングにも携わる関本さんが、2020年に購入した印象に残っているものとは?

意匠性の境界線を探る、品川亮さんの作品

2020年はアート作品を2つ購入したことが印象に残っています。ひとつは、画家の品川亮さんのアート作品です。購入したのは2年前くらいですが、昨年完成品が事務所に届きました。

品川亮さん作品

品川亮さんの作品 ©︎Ryo SHINAGAWA

制作に取り掛かるタイミングで金と銀のどちらのバージョンにするか選ばせていただいたんですが、ちょうど仕事のリサーチも兼ねて琳派の作品をいろいろな美術館や博物館に片っ端から観に行っていた時期で、酒井抱一の「夏秋草図屏風」を観た時に作品に使われている銀箔が美しく、品川さんの作品も銀箔でお願いした経緯があります。間近に見る琳派の作品からは緊張感だったり呼吸感が伝わってきたんですが、品川さんの作品も一緒で、飾っていると部屋に植物があることに近いような、息づいている感じがあるんですよね。

この作品は椿がとても抽象的に描かれている一方、葉っぱは琳派の流れを汲んだ技法で描かれています。品川さんはいわゆる琳派のような植物をたくさん描かれていますが、一部はデザイン的に処理されているんです。

琳派は、尾形光琳の光琳菊や光琳梅といった、当時の身近な動植物が抽象的というか意匠的に描かれていているんですが、品川さんの作品はその現代版のような感じがあって、日本画の技術も使いつつ、どこまでだったら椿に見えるかということに挑戦していて、日本画のアップデートに挑んでいる印象を受けます。燕子花(かきつばた)や藤など、ほかの植物も意匠性が高く描かれていますが、どこまで自分の表現に振り切れるかということを楽しんでいる感じもいいなぁと思います。

そういう意味ではデザインも通じるところがあり、省略するということは伝えるスピード感が上がるということだと思っていますが、省略しすぎると伝わらないし、どこまで省略・整理できるのかということは、私もデザインする際にいつも考えています。

歴史を吸い取って蘇らせる、永田哲也さんの作品

もうひとつは、お仕事がきっかけでご縁があった、美術作家の永田哲也さんの和紙を使った作品です。永田さんは日本の伝統的な和菓子の木型を和紙で型取り、新たな現代アートとして生まれ変わらせる作品を制作されている方です。

埼玉県の小川町に、ユネスコ無形文化遺産に登録された「細川紙」という手漉き和紙があり、この和紙を広く伝えたるための企画で永田さんにお声かけしました。和紙を使ったおみやげなども検討したんですが、結果、アートに振り切ったプロダクトをつくるプロジェクトになりました。細川紙と同じく、小川町の伝統工芸である鬼瓦の型を使って、永田さんにいくつか作品をつくっていただきました。

永田哲也さん作品

永田哲也さんの作品

事務所の壁に、鬼瓦を魔除けとして飾っています(笑)。まわりにある鯛や海老などは小川町にある和菓子屋さんが使っている木型から型を取っています。永田さんの作品はもともと型を取るというスタイルですが、和菓子の木型は昔から使われているもので、その歴史を和紙で吸い取って蘇らせるというコンセプトがあるんですよね。それも面白いなと思って、このプロジェクトでは小川町の記憶を蘇らせていただきました。

“買い物”について

昔にくらべると物欲は減りましたね。昔は持っていたいとかほしいということがあって買っていた時もあったんですが、最近は生涯を通して付き合っていけないものは身の回りに置いておきたくないなと考えています。

■関本明子
東京藝術大学大学院修了。株式会社ドラフトを経て、株式会社ヒダマリを設立。グラフィックデザインを用いて、ブランド・ショップ・商品などの立ち上げから育成のディレクションを行う。
https://www.akikosekimoto.com/

藤澤ゆきさん

ヴィンテージ素材に染色や箔を施すことで、単なる古着のリメイクではなく新しい価値を生み出すテキスタイルレーベル「YUKI FUJISAWA」を主宰する、テキスタイルデザイナーの藤澤ゆきさん。現在は3月と5月に都内で行われるホップアップショップに向けて準備中だという藤澤さんが、2020年のベストバイだったものとは?

待つ時間が愛おしい、フルオーダーの自転車

2020年にいちばん買ってよかったものは自転車です。代々木公園のブルーラグでカスタムした一台で、店長の松本さんに組んでいただきました。デザインの中心となるフレームから、サドルやタイヤの色、細かいパーツまで全部自分で決めることができるんです。カリフォルニアの自転車ブランド「Rivendell Bicycle Works」のSam Hillborneというフレームを中心に組みました。もともと自転車好きではあったんですが、いちから組むのははじめての経験でした。

藤澤さんがフルオーダーでいちから組んだ自転車

以前は電車でアトリエに通っていましたが、コロナ禍ではリスクもあるので自転車通勤に変えてみたら、どこへでもいける自由さがとても心地よくて。毎日使うものだからこそ、長く愛せる一台を手にしたいなと思い、ブルーラグをのぞいたことがきっかけですね。

カスタムを考えるのも楽しいひと時でしたが、特に待っている時間が贅沢に感じました。何かの入荷を待つことはあれど、フルオーダーする機会はあまりなかったのでその体験も特別でしたね。仮組はその場でしてもらえるのですが、最終的なイメージは頭の中でふくらましながら1か月程待つので、毎日カレンダーと仮組みの写真を眺めていました。

私のブランドでもカスタムオーダー会を開催する機会があって、手仕事のためお客様には1か月程お待ちいただいています。今回自分も自転車が届くのを待つ体験をして、わたしたちのアイテムもこんな楽しい気持ちで待ってもらえていたら嬉しいなと改めて感じました。

ベルや細かいパーツは銅色でそろえられています

この自転車で特に気に入っているのは、フレームのセージ色に似合うよう、ペダルをはじめハンドルなどのパーツを銅色で揃えたところです。お店の方に聞いたら、買ってから追加でカスタムする方が多いそうで、私も次回はタイヤを黒にしたり模様替えしようかなとか考えています。今は通勤目的のためにシンプルに仕上げましたが、日常の中で使う機会が増えたら買い物に行きやすいようカゴを付けたり、生活の変化に合わせて育てていけるのが楽しみです。

〇“買い物”について

プライベートで買うものに関しては、新品もヴィンテージもどちらも好きですね。新品の工業製品のかっちりした耐久性にも魅力を感じるし、人の手じゃないと生み出せないいびつさや不安定な揺らぎがあるものにも美があるなと感じます。最近はコロナ禍で行けませんが、海外に買い付けに行く時は陶器の犬の置物をついつい買い集めてしまいます。あとはチェコのアンティークのガラスオーナメントも好きで集めているものです。

藤澤さんが集めているという陶器の犬の置物と、チェコのアンティークのガラスオーナメント

「scope」という北欧の雑貨を扱うオンラインショップが好きでよくのぞいてます。社長さんはじめスタッフさんのモノに対する熱量がすごくて、メルマガも熱心に更新されているので愛読してます。scopeには公式サイトから買うと豪華なおまけがついてくるシステムがあるんです。商品としては世に出ていないアイテムだったりして、ついコレクション欲をかき立てられます。ほかのネットショップにも出店されていますが、この人たちを応援したいというきもちで直接公式サイトから買っています。

あとは京都にある「歩粉」というお菓子屋さんの焼き菓子も、この機会に何度かお取り寄せしました。家族やスタッフの誕生日に贈ったりして喜ばれましたね。歩粉の人たちもすごく丁寧にものづくりをしている姿に以前から感動していて、いまは遠くにあってなかなか行けないけれど、少しでも応援になればと思い購入しました。外に出れない分、お家でゆっくりおいしいお菓子を食べて過ごそうというのは今だからこそのことですし、思い出深いですね。

■藤澤ゆき
YUKI FUJISAWA主宰。ヴィンテージのアップサイクルの一点物をはじめ、企業へのデザイン提供やブランドディレクション、舞台衣装を飾るなどテキスタイルを軸に幅広く活動を行う。
http://yuki-fujisawa.com/

以上、5人の方に2020年に買ったものをご紹介いただきました。みなさん共通しているなと感じたのは、長いおうち時間において、自分の癒しになったり気分を変えたり、快適にするものを自然に取り入れているなということでした。買い物において当たり前のことかもしれませんが、接する時間が多いものが素敵で気に入っていると単純にうれしいし、その積み重ねが気持ちに余裕を持たせたり豊かにしてくれるんじゃないかなと思います。

「さいきん、なに買った?」の取材でも同様ですが、今回も編集部側の購買意欲をそそられまくりの取材となりました(笑)。緊急事態宣言下ということもあり、すべてオンライン取材となりましたが、次回はぜひ直接取材で、ご紹介いただくものの質感や素材感を感じられたらうれしいなと思います。読者のみなさんにとって、ぜひご自分の生活を豊かにするようなものに出会える2021年になることを祈っています!

タイトルイラスト:大津萌乃 取材・編集:石田織座(JDN)

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