日本の可能性はデザインとともに
2024年のサローネの業界関係来場者内訳は、中国が13.8%と圧倒的な1位。2位ドイツの5.1%を大きく引き離し、景気減速と言われてもその存在感は巨大だ。3位以下は欧米各国とブラジル、ロシア、トルコ、インドなどが並ぶ。日本は14位で、人口が半分以下の韓国に次いでいる。
20年前、業界関係来場者のアジアにおけるトップは日本で、中国はその3分の1程度だった。当時と比べ、日本からの来場者数はそれほど変わっていないが、他国からの来場者が増加し、相対的な存在感が下がっている。
一方で、日本のデザインやモノづくりは変わらぬ存在感を示している。海外ブランドにおける日本人デザイナーによる新作発表は今年も豊作で、深澤直人氏とInoda+Sveje designのMinottoi、柴田文江氏のflexform、nendoのPaola Lenti、伊藤節・志信氏のDésirée、オミタハラ氏のDePadova、福定良佑氏のFIAM Italia、北川大輔氏のcappelliniなどがあった。改めて日本がグローバル社会の中で生き残る可能性をこれらに感じた。

北川大輔氏、ミラノ市内のcappelliniショールームにて、新作のテーブル「Floe(氷原、薄氷という意味)」を前に
北川氏はサテリテ出展2回目の2016年に家具ブランドの「cappellini」の創設者であるジュリオ・カッペリーニに声をかけられたという。その後、粘り強くコミュニケーションを取り続け、2017年のサテリテで発表したテーブル「Floe(氷原、薄氷という意味)」が、7年経ってついにcappelliniから新商品として発表された。ショールームで「Floe」と共にコーディネートされるのは、パトリシア・ウルキオラ、エルワン・ブルレック、ディモーレスタジオなどのトップデザイナーたちの家具だ。

柴田氏はFlexformから新作「ERI」を発表、日本でも今年10月頃に紹介される予定だ(©FLEXFORM)
デザイナーたちの活躍と同様に、フオーリでも例年のように日本関連の展示が多くあった。そのなかから一部を紹介する。
■ADI Design Museum 企画展「ORIGIN of SIMPLICITY 20 Visions of Japanese Design」
サローネ期間を含む、3月23日から6月9日まで開催されている企画展「ORIGIN of SIMPLICITY 20 Visions of Japanese Design」。展示には原研哉氏も加わっており、柳宗理や倉俣史朗による日本を代表する定番デザインから、この1~2年に発表されたばかりの若手や中堅による新作も数多く紹介されている。こうした組み合わせは日本でも見たことがなく、とても新鮮な展示だった。
■nendo「whispers of nature」
nendoにとってミラノ20年目の個展「whispers of nature」は、屋外家具のPaola Lentiの新しいショールームに隣接する場所で開かれた。本展では、雲がもつ曖昧さや光と影の関係性など、タイトルにあるように「自然のささやき」たちに耳を傾け、そこから新たな表現のヒントを紡ぎ出すようにして生まれた5つのコレクションを展示。発想の源は古典的な手法で、それらの突き詰め方がnendoらしい。
■Time & Style
ミラノ市内にショールームを構える日本の家具ブランド「Time&Style」。旭川に工場を持ち、東京では南青山や東京ミッドタウンにショップを構える。畳や組子を用いたコーディネート、日本の高度な木工技術があってこそできるカンチレバーの椅子などを展示した。
■小関隆一
AlcovaとNilfer depoという2つの尖鋭的な会場にて、Alcovaでは照明のコンセプトモデルを、Nilfer depoでは照明「Diag」を展示した小関隆一氏。写真はAlcovaにて、卵のカラをくだき、台座と頭部が残ったようなイメージの照明。
■YOY「SNOW by YOY」
展示タイトル「SNOW by YOY」にあるように、雪の結晶に着目した新作シリーズを披露したYOY。雪の結晶をモチーフにした微細なパーツをプロダクトとして大量につくり、それらを使って皿や花瓶などがクラフト的に制作された。
■島津製作所「WONDER POWDER」
島津製作所は、we+とコラボレーションした粉末の可能性を模索するリサーチプロジェクト「WONDER POWDER(ワンダーパウダー)」を発表。水中という単一な環境の中で、鉱物、炭、樹脂などの粉末がさまざまな色と動きを見せていた。

© Hiroki Tegma
■LEXUS
2005年からミラノでブランディングを続ける「LEXUS」、今回は「Time」をテーマに、LEXUS DESIGN AWARD第1回受賞者の吉本英樹氏などを起用した。吉本氏率いるデザインエンジニアリングスタジオTangentは、ソフトウェアによって無限に進化し続ける次世代モビリティの世界を表現した「BEYOND THE HORIZON」を発表した。
■日本たばこ産業「Red Experience by Ploom X Ora Ito」
加熱式たばこ用デバイス「Ploom(プルーム)」の世界観を体感させる展示「Red Experience by Ploom X Ora Ito」は、フオーリの中心的な地域の一つである、トルトーナ地区のメインストリートに会場を設け、赤いファサードで注目を集めた。今回は最新加熱式たばこ用デバイスの数量限定カラーバリエーション「SPECIAL EDITION RED BY ORA ITO」のグローバル発売を記念して開催された。

会場のデザインは、グローバルブランドのデザインを手がけるデザイナーのOra Itoと共同で設計された
■川島織物セルコン「百の黒- A Hundred Black -」
2019年から4回目の出展となった、京都の織物メーカーの川島織物セルコン。昨年に引き続き岡安泉氏をアートディレクターに迎え、展示「百の黒- A Hundred Black -」を開催。さまざまな色や太さの材料を多く使い、鮮やかで豪華な柄を繊細に表現することが特徴の西陣織を、あえて黒のみにしぼり、100種類のパターンを披露。多様な黒を見せるべく特別な照明デザインがなされた。
■エイベックス・アライアンス&パートナーズ「majotae」
エイベックス・アライアンス&パートナーズによるヘンプ(大麻布)を使うテキスタイルブランド「majotae(マヨタエ)」。柳原照弘が率いるTERUHIRO YANAGIHARA STUDIOがデザインを手がけた、グローバルマーケット向けの「majotae 9490」を発表。

© Guglielmo G C Profeti
■ダントー「A.a.Danto」
淡路島の老舗工業タイルメーカーであるダントーの新ブランド「Alternative Artefacts Danto」。クリエイティブ・ディレクションはTERUHIRO YANAGIHARA STUDIO。陶土の研究開発力と精緻な製造技術に裏付けられたさまざまな表情を持つタイルを、18世紀の建築を会場に展示した。

© Felix Speller
以上、膨大なミラノサローネ・ミラノデザインウィークのごく一部を切り取って紹介した。5年ぶりの訪問だったが、市場としての中国の巨大さは成長が鈍化したとはいえ変わっていない。そして空間の中に身を置いて体験し、人とコミュニケーションすることによる情報量の多さと深さは、デジタルでは代替できていない。
一方で、3Dプリンティングを活用した造形技術、サステナビリティ配慮は当たり前のこととなった。AIを利用したデザインは以前からあったが、今後どのように定着し一般化していくのか注意が必要だ。
そして、イベント運営をスムーズにするためのデジタル活用が進化している。見本市というリアルイベントにもデジタルプラットフォームの併用、デジタルツインが当たり前になり、事前申込や資料配布の案内はQRコード一つだけになった。20年前の報道資料はポジフィルムと分厚いカタログだったので、数社回ると非常に重くかさばるものだった。それがCD-ROMを経てUSBメモリになり、ついに物質でなくなった。
これから何がデジタルやAIに置き換えられ、何がアナログのままなのか。これから人間がやるべき大事なことは何なのか。ミラノサローネ・ミラノデザインウィークの膨大な情報を咀嚼するのは大変だが、そこにはデザインや日本の可能性を考える種が確実にあるように思う。
取材・編集:山崎泰(JDN)
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